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1話 ドラゴンさん、褒美を貰う

 穏やかな風が吹き、暖かな日差しが照り付ける平和な朝。巨大な存在が眼を開いて顔を上げた。

 その眼差しの先に映るは、人の街。


 どれだけ離れていようとも、その瞳には鮮明にその街の様子が窺い知れた。

 明るい街並み。賑やかな風景。人々の表情には笑顔が溢れている。


「…人の子らは、もう大丈夫かの」


 そう独り言ちる彼女の名はレギノルカ。この世界が創世されたと同時に存在していた、始祖龍と呼ばれる存在である。


 彼女は永く。それはもう永く世界を見続けてきた。


 時に人に知恵を与え。

 時に人に試練を与え。

 時に人と過ごし。

 時に人と闘った。


 そのどれもが、レギノルカにとって大切な記憶であり、思い出だ。


「…妾の役目(・・)も、終わりかの」


 レギノルカは何の目的も無く生きていた訳では無い。レギノルカを創った存在からこの世界を託され、それを見守る事を命じられていたのだ。


 最初は何も無い場所だった。それをレギノルカが時間を掛けて整え、生物が生きる基盤を創った。

 そうして整えた世界はもう、レギノルカの手を離れようとしていた。


 これ以上、この世界に居てはならない。世界を作り替える程の力を持つレギノルカが存在し続けてしまえば、この世界の“歪み”へと繋がってしまう。

 故にレギノルカは、今日をもってこの世界と別れを告げる事にした。


「さて…行くかの」


 身体と世界に渦巻くマナと呼ばれる存在を操り、本来の彼女の居場所へと通ずる門を開く。


「またの」


 ただそれだけ。今更言葉を重ねる必要も無い。



 そうしてその日。世界を見守り続けた始祖龍が姿を消したのだった。




 ◆ ◆ ◆



(……む)


 レギノルカの意識が戻ってきたのは、門を潜って暫くしてからであった。

 眠るという事をしないレギノルカにとって、意識を失うという感覚はそう得られるものでは無い。


「ふふっ。おかえりなさい、ルカ」


 高く、柔らかな優しい声が響き、山をも超える巨体を持つレギノルカを何かが包み込む。


「母君よ。久しいの」


 レギノルカを包み込んだ存在。それこそがレギノルカの生みの親にして、全ての世界の創造主であった。


「どうだった?」


「とても満ち足りた時間であったよ。人の子らはとても可愛らしいのじゃ」


「ええそうね。健気で私も好きだわ。勿論ルカも大好きよ?」


 そう言って彼女はレギノルカを強く抱き締めた。そこから感じられる慈愛の感情は、レギノルカにとってとても心地好いものだ。


「だからね、頑張ったルカにご褒美をあげようと思って」


「ご褒美…?」


 レギノルカにとって母に抱擁して貰えることこそが褒美ではあったが、それ以外を尋ねられて少し思案する。


「……ならば、一つ」


「ええ。なんでも」


「……妾も、人として生きてみたいのじゃ」


 永く人を見てきたレギノルカは、何時からか彼らと同じ目線で世界を見てみたいという感情が芽生えていた。しかしそれは世界の守護という役目を放棄するに等しい。

 故にそれは、レギノルカにとって心の奥底へと仕舞われた。だがもし、赦されるのであれば───


「そう…そうね。私もそう思うことがあるもの」


「母君も?」


「ええ。流石に私は無理だけれど…ずっと気になっていたわ。私達が見守る人の子達は、どんな景色が見えているのかなってね?」


「そうじゃの。妾も同じ気持ちじゃ」


「なら私にも後で教えてね?」


「無論じゃ」


「ふふっ。また寂しくなるけれど…ルカは、ルカのしたいように生きなさいね。私からはそれだけよ」


「……相分かった」


 再び、ルカの意思が薄くなる。幾ら始祖龍として破格の力を持つレギノルカであっても、世界を渡るのはそれ相応の負荷がかかる。その為に彼女が意識を沈ませるのだ。


「行ってらっしゃい」


 その言葉を最後に、レギノルカの意識は完全に暗転した。





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