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暗人

あんまり怖くはないと思いますが、人によっては怖いと感じる描写があります。残酷な描写はありません。

あらかじめご了承ください。

「これは今から二年前──自分がまだ十四歳だった頃のある夜の話。その頃の自分は勉強なんてどうでもいいと思ってたし、部活も入っていることにしただけだった」


 そこで、一旦言葉を切り、小さく息を吸ってから、大きく吐き出す。


「今の中学生に一つ忠告をしておく。家から何度も変な物音がしたら、すぐに寝てくれ」


 そう言って、右腕の袖をまくり、手首に目を遣って口をつぐむ。






 夜の十二時ちょうど。

 期末試験が一週間後にある、と言って今日は夜更かしする。最初は音量を下げてテレビを見ていた、お父さんとお母さんはもう寝た。リビングに残っていたのは、変なことをしないか見張る意味もあっただろう。


 念のために、教科書と問題集を広げ、勉強をしているフリをする。少し時間を置いて、お父さんたちが起きてこないことを確認してから、スマホを取り出す。パスワードを入力して、ゲームアプリを開く。


 今はまだ十二時十分。明日の準備をする時間を考えても、寝る時間の一時までは三十分以上もある。まだ、かなり遊べる。


 ゲームにログインすると友達がオンラインになっていた。一週間前にもなって、夜中にゲームをするような、似た者がいたことに思わず嬉しくなる。友達もこっちに気づいて、チャットが来る。


『一週間前にもなって何やってんの?』


 友達から来たチャットに思わず頬が緩む。声が出そうになるのを堪える。そして、友達が期待しているであろう言葉をチャットで送り返す。


『それはお互い様だろ。そっちだってやってるし』


『あはは。それはそうだね』


 文面から友達も笑っているのがわかる。今、オンラインの友達は一人だけなようだ。


 特に何もやることがなく、暇を持て余し、その場で技を連打し続ける。すると、友達が見かねたのか、またもチャットを送ってくる。


『今、何かやることある? ないなら一緒にやらない?』


 暇を持て余していたから、すぐにチャットに気がつく。その言葉を見て、すぐさま返事をする。


『いいよ。何する?』


 友達が指定してきたのはゲーム内でそこそこ強いとされるボスだ。何度でも挑戦して、アイテムがもらえる。

 二人でチームを組んでから、ボスの前まで行って、チャットを送る。


『どのレベルの難易度?』

『今ちょっとラグいから、ラグくても勝てる方がいい』


 友達にどのレベルに挑戦するのかを一応聞く。ほとんどのレベルは一人でも勝てるけど、上から四つのレベルの難易度は二人いても勝てない。


『まあ、勝てるやつじゃないとね』

『あと、ラグいのは仕方ないよ。もともとこのチーム機能は声が届く距離でやることを想定してるのに、離れてるんだから』


 結局、難易度は普通の時に二人で少し苦戦するものにした。二人で装備を少し調整して、挑戦を始める。


 三回目の挑戦を終えたところで、友達が挑戦するのをやめた。一緒にいる時なら、苦戦はしても、三回戦って勝てないなんていうことはあり得ない。

 今日は明らかにいつもよりラグがある。技をタップしても、使用した判定になってないし、キャラクターを操作できない。しかも、ボスが瞬間移動している。

 しばらく、操作が止まっていたかと思うと、友達がチャットを送ってきた。


『どうする? ラグすぎてこれ勝てないよ?』

『レベル下げる?』


『でも、このラグさだとレベル下げ──』


 カタンッ


 チャットを最後まで打つ前に、お父さんたちの部屋の方から、小さな物音が鳴る。

 その音を聞いて、思わず腰を少し浮かせる。心臓の音が聞こえるくらいバクバクと脈打つ。動揺している心を落ち着かせながら、急いでアプリを閉じて、スマホを教科書の下に置き、シャーペンを手に握る。


 シャーペンを手に握った流れで、少しだけ問題集を解く。お父さんたちが起きた時のために少し時間を空ける。

 十分くらい経ってから、確認のために、足音が出ないようにして、ゆっくりとお父さんたちの部屋の方に行く。お父さんの部屋の前の廊下から、中の様子を伺う。中から交互に呼吸する音と、いびきをかく音が聞こえる。


 お父さんたちの部屋からした音じゃないことに安心して、息をつく。そして、辺りを見回して、隣にある自分の部屋のド扉が開いていることに気がついた。

 開けっぱなしの部屋から風が吹いてくる。風で扉が閉まって音が出ないように扉を閉め、リビングに戻る。


 問題集の下からスマホを取り出しながら、大きく息を吐く。

 ゲームアプリを開くと、友達はまだオンラインになっていて、チャット欄に心配するような言葉が送られてきていた。


『突然消えたけど大丈夫?』

『親にバレた?』

『それとも落ちただけ?』


 それを見て、さっき打ち込んだ文字を消し、新しく打ち込む。


『お父さんたちの部屋で音がしたからそれで咄嗟にアプリ消した』

『今は確認したから、多分大丈夫』


『気をつけなよ?』

『別に親だけってわけじゃないんだから』


 友達に無事であることを報告して、再びチームを組んでボスを倒すことにする。友達の提案でさっきのよりもレベルを下げる。


 二体目のボスを倒したところで、友達が止まった。


『やっぱりラグくないね』

『どうする?』

『さっきの難易度にもう一回挑戦してみる?』


 少し顔を上げて時計を確認する。気が付けばもう十二時四十五分を過ぎていた。


『いや、今日はもうやめる』

『また明日』


 友達がチームを退出し、最後にチャットを送ってくる。


『じゃ、また明日』


 コトッ


 また、お父さんたちの部屋の方から物音がする。

 しかし、もうアプリは消したし、携帯もしまっているから、気にせずに明日の準備をし続ける。


 結局、準備を終えて、歯を磨くと、一時を過ぎた。

 今、お父さんたちと鉢合わせると、面倒くさいことになるから、足を忍ばせて、音が立たないようにして、廊下を通る。


 自分の部屋の扉をゆっくりとあける。

 電気はつけずに、真っ暗闇な中を手探りでベッドまで行き、寝ようとして、ベッドの上に腰を下ろした時だ。


 明らかに、マットレスではないものに当たった。人の体のようなものだ。柔らかくて、少し温かい。

 変なものが当たったことで、驚いて、ベッドから離れようとするが、それよりも先に、両手首を掴まれた。


 あまりの出来事に、抵抗できないまま、引っ張られて、ベッドの上に座らされる。相手はベッドの上で横たわっているのか、掴まれているままの手首に、息がかかる。


 体を少し捻って、相手の顔があると思われる方を向く。

 ベッドの頭の方には窓があるから、顔が見えるはずだ。

 しかし、顔があると思っていた場所には、人の顔はなく、顔のような形をした暗い影があるだけだった。顔にある二つの窪みを見る。影に目はないはずなのに、目が合った感じがした。


 そのままの状態で、時間が経って、手首には息がかかり続ける。あまりの恐怖に叫ぼうとしても声が出ない。掴んでいる手首から、抵抗しようとして前に引っ張ったり、自分の手首が掴まれている状態でベッドに打ちつける。

 ずっと引っ張り続けても、打ちつけ続けても、影はびくともしない。この世のものとは思えないほどの力で、手首を掴まれている。


 何にもできない状況に目から見える景色が霞んでくる。頬を何かがつたる。段々と影が手首を掴む力が強くなる。

 手首が鬱血しそうになる。骨が軋んでくるような気すらしてくるほどの力だ。ついに、痛みに耐えられずに、体が悲鳴を上げた。恐怖で声が出なかったのに、声が出た。


「ウワアアアア」


 その叫び声を聞いて、隣の部屋でバタバタと人が動く音がする。

 叫んでからすぐにお父さんとお母さんが部屋に入ってきた。すると、影がフッと消えて、手首が一気に自由になる。そして、前の方に力をかけていたせいで、床に倒れ込む。


 お父さんとお母さんから事情を聞かれたが、「暗い人だ! 暗い影だ!」としか答えることができなかった。






 この時に一番強く掴まれた右の手首は、なぜか他のところよりも日焼けしやすくなった。部活で外とかに行くと、すぐに真っ黒に日に焼ける。どんなに日焼け止めを塗っても、どんな日焼け止めを使っても、何も変わらなかった。

 そして、日に焼けると、手首に掴まれたのと同じ形ではっきりと手が浮かび上がる。


 その黒い手を見ると、今でも、その夜のことを思い出す。

ホラー(?)っぽいやつを書いてみました。

多分、あんまり怖くはないと思います。

ちなみに、何回か読むと何かに気づけるかもしれません。ところで、「暗人」って誰だと思いますか?

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