第9話 埴輪鬼討伐
「あいうえお いうえおあ うえおあい えおあいう おあいうえ」
鷹鬼討伐の翌日の朝、オンラク神宮防御壁の西側の草原にフェネとアニマ、トルリ、パシファの大きな声が響く。サユリの歌を聴いて、自分たちも歌がもっと上手になりたい、と思った女の子たちが発声練習をしている。
離れた場所では、ヴェーヌとプレヤ、セルク、ノアが剣の鍛錬をしている。工兵の家系であるノアだが、最低限の剣の鍛錬は必要なのだ。他の3人に比べて、動きや剣捌きが劣るが仕方がない。それでも必死に頑張っている。
そこにサユリがフェネたちの所へやって来る。鷹鬼討伐と金色のタクトを手に入れたことで元気一杯、ニコニコ笑顔である。サユリに気づいたフェネが挨拶をする。
「おはよう。今日もいい天気だね。サユリ、いい笑顔をしているわ。何か良いことがあったの?」
「おはよう、フェネ、アニマ、トルリ、パシファさん。昨日、金色のタクトを手に入れたことをお母様に褒められたの。それに酒呑鬼の四天鬼も埴輪鬼だけになったし」
それを聞いたアニマが、首をひねって疑問を口にする。
「埴輪ってなあに?」
「大昔のお人形よ。粘土で形を作って焼いただけの人形よ。とても割れやすいのだけれども、大昔に作られた埴輪はとっても丈夫なの。魔法がかかっているらしいわ」
「それって可愛いの? どんな姿をしているの?」
「可愛いかどうかは人によるわね。そうだわ。あなたたちの泊っている宿舎にもお土産の見本としていくつか置いてあるから、見に行きましょう」
*
プレヤたちにも声をかけて、『星とバラの妖精』全員で宿舎に帰る。応接室で待っていると、侍女さんが高さ10センチくらいの2つの埴輪を持ってくる。1つは頭に防具の帽子を被り、腰に刀を帯びているから、兵士の埴輪だとわかる。
もう1つは、口を開けて左手を頭近くまで上げて、右手お腹に当てている。それを見て、全員の頭の上に?が浮かぶ。何をしている姿なのかわからないのだ。最初に口を開いたのはプレヤだ。
「これは体術の型だと思うよ。防御をしている姿で口を開けているのは、掛け声を出しているんじゃないかな?」
「歌いながら踊っている姿だと思うわ。きっと昔もアイドルグループがいたんじゃない?」
「馬の手綱を持っている姿だと思うわ」
「何かに驚いているポーズじゃないかしら? ビックリして思わずとったポーズよ、きっと。口が開いているのは、何か驚きの言葉を発しているのよ」
トルリからも、アニマからも意見が出る。それからもいろいろと意見が出たが、結論は出ない。レアが手を上げる。
「埴輪は大昔のお人形とのことですが、どこで見つかったのですか?」
それに対しては侍女さんが答える。現在戦場になっている北東の戦線近くに隣の領地の領主一族のお墓が多数ある。そのお墓は前方後円墳と呼ばれるお墓。前方後円墳の丸い丘の部分は埋葬のための墳丘で、長方形の平らの部分とお墓の周囲にたくさんの埴輪が並んでいる。
埴輪には、弓や剣を持った兵士の姿や馬の姿、家の形などいろいろな種類がある。これらの埴輪はとても丈夫で簡単には壊れない。何故埴輪が並んでいるか、その理由は不明。それが侍女さんの説明だ。
「それじゃあ、埴輪ってお墓の中で眠っている人が寂しくないように、一緒に眠ってあげているのが埴輪なのかしら?」
「そうなのかもしれませんし、お墓を守っているのかもしれません」
トルリの言葉に、侍女さんが答える。そこにドアからノックの音がする。ドアを開けると、5才くらいの黄色の巫女服姿の女の子がいる。その女の子はサユリの前にトコトコと進むと言う。
「サユリ様、北東部の戦線から伝令が着ました。これまで北東部では、小競り合いしか起こっていませんでした。しかし、どうやら埴輪鬼の準備が整ったようで、敵の総攻撃の気配があるそうです」
「わかったわ。ありがとう、チイコ」
サユリは言うと、その小さな女の子は部屋の外へ出て行く。何かを考えながら、それを見送ったサユリが、フェネたちに言う。
「これまで、酒呑鬼の四天鬼のうち3鬼を、杉鬼、狼鬼、鷹鬼をあなた方に倒してもらいました。これ以上はダメです。残りの埴輪鬼と酒呑鬼は私が討伐します。大丈夫です。音楽魔法が使えるようになりましたし、金色のタクトもありますから」
その姿は凛として美しい。それを見てフェネたちはコクコクするしかない。しかし、フェネはやっとの思いで言う。
「わかったわ。でも戦場までは一緒に行くわね。サユリの戦う姿を見守りたいから」
「そうね。空を飛んで行った方が速く戦場にいけるし。一緒に行きましょう、あら、違うわね。私が連れて行ってもらうのよね、フフフ」
「そうよ。私たちもね。フフフ」
サユリとフェネが笑い出すと、他のメンバーも笑い出す。ひとしきり笑った後、プレヤが言う。
「さあ、ワシに乗せてもらえるように、アース様にお願いに行こう」
ゾロゾロとみんなでティルームに行くと、アースたち4人がいる。フェネがアイーダに言う。
「アイーダお姉様、サユリが自分で埴輪鬼を討伐したいそうです」
その隣でヴェーヌがアースにお願いする。
「お兄様、ワシで北東戦線へ飛んでもらえませんか?」
アースがアイーダたちを見ると、3人全員がコクコクする。
「わかった。それで、いつ行くのだ」
「できれば今すぐにお願いしたいのですが。埴輪鬼の総攻撃が始まるようですから」
「よし、準備出来次第すぐに飛ぶぞ」
サユリがお願いすると、アースは快諾する。
*
サユリの案内で、アースのワシに乗って北東部の戦線に近づく。小高い丘の上に布で囲った区域がある。そこを指さしてサユリが言う。
「あそこが本陣、司令部です。あの近くに降りてください」
ワシから降りて本陣の方へ歩いて行く途中で、ドドドドドと騒がしい音が聞こえて来る。音のする方を見ると、防御陣地へ土の剣や槍を持った土人形が突撃している。
それを迎え撃つ武士団の兵士が、チェストーと声を発して剣を振り下ろすと、土人形はバラバラの土になり地面に落ちる。ただ、土人形の数は多い。ざっと見て、1キロメートルほどの防衛線に、数千の土人形が次から次へと突撃して来る。兵士たちにも疲労の色が隠せないようだ。
本陣の前には、2人の警備の兵士が立っている。先頭を歩くサユリが立ち止まり名乗る。
「オンラク神宮の巫女、サユリです。オオゴウ大将に会いたいのですが」
すると、2人の兵士は片膝をつき、頭を下げる。1人の兵士が言う。
「はっ、少々お待ちください」
その兵士が本陣に入ると、すぐにその兵士と筋骨隆々の大男が出て来る。その大男はサユリの前で片膝をつき、頭を下げて言う。
「巫女様、お待ちしておりました。北東方面軍侍大将のオオゴウです。埴輪鬼が土魔法で作り出した土人形が、昨日から休みなく攻撃して来ます。我が武士団も兵士1万人を交代で休ませつつ、応戦しておりますが、そろそろ限界です」
「オオゴウ大将、お立ちください。遅くなりました。できるだけのことはします」
サユリが答える。その時、1人の兵士が駆け込んで来る。
「伝令―、伝令―です。隣領の領主一族の霊園から、多数の兵士の埴輪が出てきています」
それを聞いたオオゴウ大将は顔をしかめて言う。
「あの兵士は頑丈で倒すのが難しいから、厄介なことになるな。とりあえず弓を放て」
伝令の兵士は一礼すると、走り去る。すぐに、迫って来る埴輪の兵士に向けて矢の雨が降る。しかし、埴輪の兵士に矢が当たっても弾き返されて、埴輪の兵士の進軍は止まらない。それを見て、サユリが言う。
「墓で眠っていたものたちを利用するなんて許せない」
そして、丘の端に歩いて行き立ち止まると、背筋を伸ばして息を深く吸い込んで詠唱する。
「音楽魔法 子守歌」
そして、声量豊かな美しいソプラノの歌声で歌い出す。
♪ねーむれー ねーむれー ねーぐし わーらーべ
はーはーぎーみにー いーだーかーれつー
こーこーちよーきー うーたごーえーにー
むーすーばーずやー うまーしーゆーめー
その歌声は戦場全体に響き渡る。すると、剣を振っていた土人形は動きを止め、ぼろぼろと崩れて地面に落ちる。埴輪の兵士たちは、向きをグルリと変えて、やって来た方向に帰って行く。それを見てサユリはフゥと息をつく。『星とバラの妖精』たちはサユリに駆け寄り、フェネが話しかける。
「サユリ、やったわね。凄い音楽魔法だったわ」
「大きな声を出したのに、きれいな声のままなのは凄いよ」「サユリ、偉い」
「魔法の威力が素晴らしいわ」「顔が美少女なのに、声まで美しいのは反則よ」
他のメンバーたちもサユリを誉めると、サユリは顔を赤くして言う。
「ありがとう。音楽魔法を教えてくれたみんなのお陰よ。それに私は美少女じゃないわよ。平凡な普通の女の子よ」
最後の「美少女じゃない」に『星とバラの妖精』たちが呆れていると、戦場の方から大きな音が聞こえて来る。そちらに視線を向けると、ゴゴゴゴゴとの音と共に地面の土が盛り上がっている。
音が止んだ時に姿を現したのは、高さが10メートルの兵士姿の埴輪だった。頭に茶色の角が1本あり、手には長さ5メートルの大剣を持っている。オオゴウ大将が呟く。
「埴輪鬼だ。ついに現れたか」
埴輪鬼が手に持つ大剣を一振りすると、兵士100人くらいが風に飛ばされる。兵士たちの放った矢が当たるが弾かれて傷はつかない。刀で切り付けても、傷はつかない。槍で突いても弾かれる。魔法の火球や水球が命中しても弾かれる。
サユリは表情を引き締めて埴輪鬼を睨むと、腰に差している黄金のタクトを右手に持つ。そして、黄金のタクトを埴輪鬼にピタリと向けて詠唱する。
「消滅せよ! 黄金のタクト」
黄金のタクトの先端から、赤く光る細い直線が埴輪鬼に向けて一瞬だけ走ると、埴輪鬼は煙となり魔石が落ちる。
「「「おーーーーーーーーーーー」」」
戦場の兵士たちから大歓声が上がった。
*埴輪の1つは「埴輪 踊る人々」です。
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参考
「シューベルトの子守歌」 作曲 シューベルト 訳詞 近藤 朔風
訳詞者の著作権は消滅していますから、使用させてもらいました。




