第8話 鷹鬼と鷹型魔獣
狼鬼を討伐した翌日、朝食を食べた後、フェネとパシファが部屋の中に入ると5才くらいの髪はおかっぱで赤い振袖を着た少女がいた。2人は部屋を間違えたかと、1回外に出て確認したが、やはり自分たちの部屋だ。パシファが尋ねる。
「この部屋は私たちの部屋ですよね? あなたは誰ですか?」
少女はニッコリして答える。
「ビックリした? 私は座敷童子のハナコ。サユリに友達ができたみたいだから会いに来たの?」
2人は首を捻る。座敷童子が何なのか分からなかったからだ。フェネが座敷童子とは何者かを尋ねると座敷童子のハナコは答える。
「座敷童子は人ではないわ。自分が気に入った家に住み着いて、その家に幸運をもたらすわ。私は百年以上オンラク神宮の奥座敷にいるの。サユリのことは彼女が生まれた時から知っているわ」
フェネはノルデンランド王国のサウナ風呂の妖精のことを思い出して言う。
「あなたは妖精なのかしら?」
「そうね。妖精みたいなものね。妖精とは親戚みたいなものよ。人間に悪さはしないわ」
その答えに2人は安心する。そして、フェネが尋ねる。
「ハナコさん、私たちに会いに来た理由は何でしょうか?」
「さっきも言ったけど、サユリの新しい友達を見に来たの。それから、サユリと仲良くしてねってお願いに来たの。私はあの子が大好きなのよ」
「もちろんです。私たちもサユリのことは好きですから」
フェネが答えると、座敷童子のハナコは微笑みながらスーと消えた。
それからしばらくして、サユリがやって来る。最初は、もじもじして言いにくそうだったが、やっと口を開く。
「あの~、私、神宮ではしょうやりゅうてき、びわ、そう、かっこのような倭国の古い楽器と一緒に歌っているの。だから、フェネたちの楽器の演奏で歌ってみたいの。いいかな?」
「もちろんよ。サユリの歌声はとってもきれいだからね」
ということになり、神殿付属の音楽練習室に、サユリとフェネ、アニマ、トルリがいる。アニマが尋ねる。
「それでサユリはどんな歌を歌いたいの?」
「花の歌よ。最初は歌詞にすみれが入っている曲で、『春の小川』でどうかしら?」
「「「いいわよ」」」
♪はーるのおがわは さらさらいくよー きーしのすみれやれんげのはなにー
サユリは楽しそうに歌う。演奏が終わると満面の笑顔で言う。
「すごくいいわ。とっても気持ちよく歌えるわ。次はばらの曲よ」
♪わーらべーはみーたり あーれののばーら
「わ~、最高よ。次は菜の花ね」
♪なのはーなばたけに いーりひうすれー みわたーすやまのーは かーすみかし
「パシファさん、見ていないで一緒に歌いましょう。卯の花の歌は歌えますよね?」
♪うーのはなーの におうかきねに ホートトギース はやもきなきて
「わ~、パシファさんも歌がとっても上手なのね。嬉しいわ」
「いえいえ、サユリさんほどでは」
そんな感じで時間はあっという間に過ぎて、昼食の時間になる。
*
侍女さんが説明する。
「本日のお昼は倭国の夏の定番、ソーメンです。タレはかつお節と昆布を使っています。この倭国南部はかつお節の生産量が倭国で一番なのです。室内ですので簡易版のソーメン流しでお楽しみください」
それに続くテーブルの上に置かれたものを見ながらの説明によると、ソーメン流しとは、青竹を縦に半分に切り、それを繋げて水路にしたものが少し傾けてある。そこを水と一緒に流れて来るソーメンを箸ですくって食べるものらしい。
アースとアイーダ、バービレ、レジェラで1つのテーブル、ヴェーヌとプレヤ、セルク、レアで1つのテーブル、フェネとアニマ、トルリ、パシファで1つのテーブルとなり、食事が始まる。騒々しいのはフェネたちのテーブルだ。
「わあー、トルリ、上流でソーメンを止めないでよ。1人でそんなに食べられないでしょ」
「いいじゃない、アニマ。キープしているのよ。キープよ。こうしないとソーメンが流れて行ってしまうでしょう」
「2人ともケンカしないで。仲良くたべましょう」
「だってトルリが」
「ほらトルリさん、早くソーメンを取らないと、ソーメンにせき止められた水が竹からこぼれてしまいますよ。あっ、こぼれてしまいました」
テーブルの上は水浸しになって大騒ぎになる。当然、トルリはアイーダにキッチリと叱られる。そんなことがありながら、昼食は終わる。
*
「今回は白鳥ではなく、ワシで行く。ホシフルミネには池がないからな。ワシは戦闘用だから、乗り心地は白鳥に比べて悪いが、馬よりはいい。そして、今回は乗る位置を指定する。
理由は、タカ型魔獣の攻撃手段は足の鋭いツメと嘴だけだが、飛ぶスピードが速く、急降下しての攻撃をするからだ。まず、俺が前に立つ。その後ろにアニマ、トルリ、レア、セルクがサユリさんを囲んで立つ。
この5人の右にアイーダ、左にバービレ、後ろにレジェラだ。アニマ、トルリ、レア、セルクはそれぞれ前後左右の上空を監視してくれ。フェネはアイーダとレジェラの間、パシファはアイーダとレジェラの間に立ってくれ。ヴェーヌとプレヤはワシに乗り、俺のワシの下を飛んで下から来るタカ型魔獣を迎撃してくれ。質問はあるか?」
誰からも質問がなかったので、西の草原に移動する。
「「「星魔法 わし座」」」
アース、ヴェーヌ、プレヤが詠唱すると、体長20メートルのワシが1羽、体長3メートルのワシが2羽現れる。それぞれが乗り組み、ワシは雲一つない空に舞い上がりオンラク山の山頂、ホシフルミネを目指す。
ホシフルミネより少し高い高度に上がると、ホシフルミネの上空に黒いタカ型魔獣の群れが見える。更に下の山からタカ型魔獣が舞い上がって来ている。その数は、ざっと数千から1万といった所か。それを見たアースは背中に背負った剣に右手を触れて、詠唱する。
「星魔法 ペルセウス座の剣」
そして剣を引き抜き、再び詠唱する。
「星魔法 ステラビッグバーン」
剣をタカ型魔獣の群れに向けて一閃すると、空中のタカ型魔獣の群れは、光の洪水に巻き込まれて煙となる。それでも下の山から100体ほどのタカ型魔獣が舞い上がって来る。
「あの程度の数なら問題ない。行くぞ」
ワシたちがホシフルミネに向けて飛ぶと、タカ型魔獣は散開して襲撃して来る。
迎撃するのは、アイーダとフェネ、パシファの水魔法、アースとバービレ、レジェラ、ヴェーヌ、プレヤの火魔法。アニマが叫ぶ。
「敵上空から来ます!」
それに反応して、アイーダが水魔法水球乱舞を放つと、タカ型魔獣の群れは一瞬で煙になって魔石がバラバラと落ちる。レアが叫ぶ。
「魔獣、上から急降下!」
レジェラが火魔法火球連射を放つ。乱舞は多数の火球や水球を同時に、広範囲に放つ魔法だが、連射は多数の火球や水球をとても短い間隔で放つ魔法である。タカ型魔獣は次々と煙になり、魔石が落ちる。
10分ほどで戦闘は終わり、ワシの周囲の空を飛ぶタカ型魔獣はいなくなる。残るのはホシフルミネ上空に浮かんでいる1体だけだ。それは、体長が10メートルほどで頭には頭に赤い角1本がある。四天鬼の1体、鷹鬼だ。ヒャー、ヒャーと声を上げている。怒っている感じのする声だ。
鷹鬼は口を大きく開けると直径2メートルの風球を放つ。アースも詠唱する。
「風魔法 大風球」
鷹鬼の風球の2倍以上の大きさの風球が飛んで行く。2つの風球が衝突すると、
鷹鬼の風球は霧散する。アースの風球はそのまま飛び、鷹鬼はヒラリと飛んで避ける。すぐにアースが誘導火球4球を放つと、すべてがに鷹鬼に命中する。鷹鬼は煙となり魔石が落ちる。
魔獣・魔物のいなくなった空を飛び、3羽のワシはホシフルミネに舞い降りる。
ワシから降り立ったメンバーたちの見たものは朱色の鳥居に四方を囲まれた白く輝く立方体の石。その立方体の石の上面には黄金色のタクト、指揮棒が刺さっている。
「この石の周囲には、対魔法用の結界と対物理攻撃用の強力なバリアが張られているな」
アースが言うと、サユリも言う。
「なるほど。この黄金色のタクトは鬼を討伐できる神の武器なのです。鬼はこの黄金色のタクトを奪うか破壊したかった。だけど、結界とバリアがあるから、鷹鬼にはこの黄金色のタクトを奪えなかったし、壊せなかったのですね。残る手段は我々に黄金色のタクトを渡さないことだけだったのですね」
フェネが不思議そうに尋ねる。
「ねえサユリ。この黄金色のタクトをどうやって白い石から抜いて手にするの?」
「オンラク神宮の巫女だけが、手にすることができるの。『山の音楽家』って曲を知っている? フルートやヴァイオリン、ピアノが歌詞に出て来る曲だけど。その曲をここで歌うの」
サユリの返答にフェネが答え、アニマとトルリもコクコクする。
「もちろん知っているわ。良かったら私たちが伴奏しようか?」
「わあ、本当? 是非お願いするわ」
フェネが携帯魔法で横笛とヴァイオリン、ピアノを取り出して、3人は伴奏を始める。サユリが美しいソプラノで『山の音楽家』を歌い始める。サユリの歌がホシフルミネから周りの山々や空に響き渡る。その歌声はまるで天使の歌声のようだ。
歌声に聴き入っているのか、周囲に歌声以外の音はしない。フェネたちの演奏とサユリの歌声だけが流れる。歌が終わると、黄金色のタクトが光り輝き、次の瞬間白い石の上から消え、サユリの手に握られる。それを見てサユリは驚くが、しばらくして、叫ぶ。
「やったわー。神の武器、黄金のタクトが与えられたわー」
そして、フェネとアニマ、トルリがサユリに抱きついた。
*黄金色のタクトのモデルは、高千穂峰の天逆鉾(天魔反戈)です。
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参考
「春の小川」 作曲 岡野 貞一 作詞 髙野 辰之
「野ばら」 作曲 ヴェルナー 作詞 ゲーテ 訳詞 近藤 朔風
「おぼろづきよ」 作曲 岡野 貞一 作詞 髙野 辰之
「夏は来ぬ」 作曲 小山 作之助 作詞 佐々木 信綱
「山の音楽家」 作曲・作詞 ドイツ民謡




