第7話 狼鬼と狼型魔獣
オンラク神宮の応接室に声楽部族の巫女長アオイ、副巫女長サユリとアイーダたちが集まっている。アイーダは話始める。
「お忙しい中時間を取って頂きありがとうございます。魔物、酒呑鬼と四天鬼の討伐に参加させて頂きたいとお願いに来ました。ご迷惑ではないでしょうか?」
アオイは首を横に振り答える。
「迷惑だなんてとんでもありません。大変ありかたいことです。実は、先日部族長と長女がオンラク山の山頂、ホシフルミネに登って神の武器を手にしようとしたのも、理由があるのです」
「その理由を聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」
「はい。今夜は満月なのです。満月の夜には狼鬼の魔力が最大になり、配下の狼型魔獣の数が増え、力も増すのです。その襲撃に間に合うようにホシフルミネに登ったのです。このままでは、北西部の防衛線を守る武士団に大きな被害が出るのです」
それを聞いたアイーダは即答する。自分たちが戦いに助力しようと。しかし、アオイは残念そうに言う。北西部の防衛線はここから100キロほど離れているから、今からでは間に合わないと。その諦めを含む言葉に対して、アイーダは答える。星魔法の白鳥に乗れば1時間ほどで防衛線に行けると。それを聞いたサユリが意を決して口を開く。
「お母様、アイーダ様、私も狼鬼との闘いに行きます。現地への道案内や武士団との連絡役が必要ですから」
「わかりました。サユリ、立派にお役目を果たすのですよ。アイーダさん、構わないかしら?」
アオイが承諾すると、首を1回縦に振り言う。
「案内をよろしくお願いしますね。サユリさん」
こうして、夕食を早めに取り、狼鬼との闘いに出発することになる。
*
食堂で侍女さんが夕食の説明をする。
「本日の夕食のメインデッシュには黒豚のトンカツを用意させて頂きました。黒豚は、倭国南部が倭国で一番の生産量を誇る、イモをエサに与えて育てている豚です。この料理は、戦いに勝つとトンカツのカツをかけた縁起物です」
説明が終わると、いただきまーす、と声を出すと同時に箸を伸ばして、トンカツを口に入れたトルリが目を丸くして言う。
「甘くて柔らかいわ。こんなブタのお肉は初めてよ」
「そうね、噛めば噛むほど濃厚な旨味が広がるわ」
アニマも同意するが、すぐに食べることに専念する。そして、すぐにトンカツをおかわりする。肉の味にはうるさい2人の口に合ったようだ。それを羨ましそうに見ている女の子が4人。星魔法一族の女の子たちである。彼女たちは貴族令嬢なので、教え込まれた食事マナーが邪魔をしておかわりができないのだ。
それを見かねたレジェラのおかわりをお願いしたら、の一言があり彼女たちもやっとトンカツのおかわりができた。マナーに五月蠅いレジェラの目にも、よほど食べたそうに見えたらしい。
そんな食事が終わり、お茶を飲んでいるとサユリたちが来る。侍女たちの「ご武運を」の声に送られて宿舎を出る。防御壁の西門でアオイたちに見送られて草原を歩き池の畔に来ると、アースが詠唱する。
「星魔法 はくちょう座」
池の水面が光り、白鳥が現れる。白鳥は翼を広げて池の畔に翼の橋がかかる。アースを先頭に一行が白鳥に乗り込むと、白鳥は水面を泳ぎ空へ舞い上がる。高度が高くなってから東の水平線を見ると、満月が登ろうとしている。その後、サユリの案内により北西に飛ぶこと1時間、広い平原が見えて来る。
近づくと、ガウーという狼のうなり声やチェストーという声が聞こえて来る。更に近づくと、明るい満月の光で戦場の様子が明らかになる。防御壁はなく、平原での野戦が行われている。
狼型魔獣の数は1万体ほど、武士団の数は5千人ほどだろうか。数的劣勢にもかかわらず、武士団は奮戦しているようだ。もっとも、狼型魔獣に戦術はなく、ただただ突っ込んで来るだけ、というのにも助けられているようだが。戦場を見渡してアースは魔法が使われていないと判断したが、用心してたて座20体を白鳥も下部に配置する。そして、アイーダに尋ねる。
「魔物はいないようだ。狼型魔獣だけだが、音楽魔法でどうにかなるか?」
「はい。今回はフェネとアニマ、トルリに任せましょう。フェネ、狼型魔獣だけど大丈夫かしら?」
アイーダはフェネたち3人を見る。フェネがアニマとトルリを見ると2人ともコクコクするので、フェネもニッコリ笑って答える。
「大丈夫です。アイーダお姉様。私たちにお任せください」
そして、横笛とヴァイオリン、大太鼓を携帯魔法で出す。フェネが横笛を口元に当て、アニマがヴァイオリンを肩に乗せ、トルリがバチを構えると3人同時に詠唱する。
「「「音楽魔法 ピーターと狼」」」
白鳥が戦線の上を飛び、アニマのヴァイオリンから軽快なメロディが流れると、狼型魔獣はコロッと倒れ始め、フェネの横笛からフルートの音色が流れると、どんどん倒れ、トルリの大太鼓がドーンと鳴った後には立っている狼型魔獣は1体もいなかった。倒れた狼型魔獣に武士団は刀や槍を突き刺し煙に変えていく。それを見たアイーダがフェネとアニマ、トルリの方を向き言う。
「よくやったわ。あなたたち随分と上達したのね。思っていた以上よ」
それを聞いた3人は、抱き合って喜ぶ。それをチラッと横に見ながらサユリが提案する。
「冬になると鶴が越冬のためにやって来る大きな池が、すぐそこにあります。そこに着水してくださいませんか?」
アースは頷いて白鳥を池に着水させる。白鳥が翼を池に畔への橋となるように広げると、サユリを先頭に畔へ渡る。待ち構えていたのは刀を抜いた武士と槍を構えた武士数人。彼らに赤色の巫女服を着たサユリが名乗る。
「ラクオン神宮の巫女サユリです」
すると、武士たちは片膝を地につき、頭を垂れて言う。
「失礼しました、巫女様」
その時、遠くから馬の蹄の音が聞こえて来る。見ると鎧、兜姿の巨漢ともう1人の鎧武者こちらへやって来る。その巨漢はそばまで来ると、ヒラリと馬から降りる。そして、武士たち同様に片膝を地につき、頭を垂れて言う。
「巫女様、お待ちしておりました。北西方面軍侍大将サイヤマです。あの白鳥と先ほど聴こえた音楽は何でしょうか?」
「頭を上げてください。音楽は音楽魔法です。私の遠縁にあたる方々が使いました。白鳥は星魔法です。遠縁にあたる方の友人が使いました。味方ですから安心してください」
サイヤマはが頭を上げると言う。
「では、後ろの方々が狼鬼の配下の討伐にご助力されたということですか?」
「そうです。ところで重症のケガ人の救護所はどこかしら?」
サユリが問うと、サイヤマの後ろに控えていた鎧武者が1歩進み出る。少しのやりとりの後、その鎧武者がバービレとセルクを救護所に案内して行くと、遠くから狼の遠吠えが聞こえて来る。
「狼鬼が怒っているようです。さて、もう一戦です。巫女様方は安全な場所にいてください」
「よろしければ、あの獲物、私に譲ってもらえないだろうか?」
アースが言うと、サイヤマは怪訝そうな顔でアースを見て、次にサユリの顔を見る。サユリがコクリと頷くと、サイヤマはアースに言う。
「いいでしょう。お手並み拝見といきましょう」
「感謝する。なあに、無様な戦いはお見せしません。ご安心を」
そう言うと、アースは詠唱する。
「星魔法 しし座」
現れた体長10メートルのライオンに、ヒラリと飛び乗ったアースは、背中に背負った剣に右手を触れて、もう1度詠唱する。
「星魔法 ペルセウス座の剣」
背中に背負った鞘から剣を引き抜き右手に持ち、草原の先を見る。そこには、こちらへ向けて疾走して来る黒毛の狼、狼鬼の姿がある。頭には1本の青い角がある。アースが乗るライオンが狼鬼に向かって走り出すと、狼鬼は口から火球を飛ばす。
アースも左手から火球を飛ばすと、2つの火球は衝突する。狼鬼の放った火球は霧散するが、アースの火球はそのまま狼鬼に向かう。狼鬼はその火球を飛んで避けると、そのままアースに向かう。両者の距離が10メートルになると、狼鬼もアースが乗るライオンもジャンプする。
衝突する寸前、アースが剣を一閃すると、狼鬼は煙になり魔石が落ちる。アースが乗るライオンは着地してしばらくすると、引き返して魔石を口に咥える。そして、サユリの所に帰って来て、魔石をサユリに渡す。ライオンから降りたアースが言う。
「狼鬼を討伐した証が必要でしょう」
「ありがとうございます。では、サイヤマ様、こちらを領主様に」
サユリはサイヤマに魔石を渡そうとするが、サイヤマは受け取らない。
「それは、私が討伐して得た魔石ではありません。巫女様から領主様へお渡しください。お願い致します」
サイヤマの固辞する姿勢にサユリは魔石を渡すことを諦める。そこに、バービレとセルクが帰って来る。重傷者の治癒は終わったようである。サイヤマが言う。
「音楽魔法に星魔法、回復魔法ですか。いやはや素晴らしい。狼鬼の討伐もお見事でした。機会があれば、ゆっくりとお話をしたいものです」
その後、北西方面軍は狼型魔獣の魔石の回収やら、戦場の後片付けやらで忙しそうなので、アイーダたちは失礼することにした。帰りの白鳥の上でアイーダがサユリに尋ねる。
「明日の午後、オンラク山の山頂、ホシフルミネに行けるかしら?」
「はい。お母さまが許せばですが、たぶん大丈夫だと思います」
こうして長い1日が終わった。
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参考
「ピーターと狼」 作曲 プロコフィエフ




