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第6話 お茶畑

 アイーダたちが食堂に入ると、野菜サラダと小さな箱がテーブルの上に置いてある。箱は黒く塗ってあり、蓋にきれいな花の模様が描かれている。全員が、これはなんだろうと首を捻りながらイスに座ると、侍女さんが説明を始める。


「ここ倭国南部はうなぎの生産量が倭国で一番多いのです。今日はうな重を用意しました。料理方法はまず、うなぎの骨を取り除き、串をさして焼きます。次に醤油や砂糖、酒などで造ったタレをつけて焼く料理です。


本日のタレは当家秘伝のタレを使ってあります。スープはこれからお出ししますが、肝吸いです。肝吸いはうなぎの肝を使用した美味しいスープです。箸とフォークを用意しました。お好きな方をご利用ください」


侍女さんの説明が終わると、肝吸いが配られる。うな重の蓋を開けると、香ばしい、美味しそうな香りがする。白く光っているご飯粒の上に、濃い茶色のタレが塗られたうなぎが乗っている。箸を手にしたアニマが一口食べて叫ぶ。


「美味し~い。ふんわりして柔らか~い。タレの染み込んだご飯も美味しいわ」


他のみんなも無言で箸を口に運んでいる。音楽魔法一族のアイーダ、フェネ、アニマ、トルリ、パシファは小さい頃から箸を使っているから当然である。アースとバービレ、レジェラも赤いバラの屋敷で暮らすようになってから、箸を積極的に使っているので、箸の使い方にぎこちなさはない。


昼食後、ティルームでお茶を飲んでいるとサユリがやって来た。フェネとパシファと一緒にお茶畑を見に行くためだ。フェネが一緒にどうかと誘うと、アイーダとアース、バービレ、レジェラは相談することがあるからと同行せず、『星とバラの妖精』のメンバーは一緒に行くことになった。


神殿の東側の防御壁の門から外に出ると、一面の茶畑が広がっている。パシファがお茶の木に近寄り葉を手に取り、じっくり観察して呟く。


「これが倭国のお茶の葉ですか。ソーミュスタ王国のお茶の葉と似ていますが、少し違いますね」


倭国の緑茶と西の大陸の紅茶は、製法以外にも原料の茶葉にも少しだけ違いがあるのだ。それぞれの風土で育ちやすいお茶の木があり、それぞれの土地に住む人たちの好みにあったお茶の木の葉が選ばれるのだろう。


見つめていたお茶の葉から一面のお茶畑に視線を移し、幸せそうに眺めているパシファの目に、防御壁横に建つ大きな建物が映る。その中では、数人の人が忙しそうに動いている。パシファはサユリに尋ねる。


「あの建物は何でしょうか? お茶と関係があるのですか?」

「ああ、あれはお茶を炒って荒茶を作っている建物です。行ってみましょうか?」


パシファの問いにサユリが答えると、さらにトルリが首を傾げて尋ねる。


「荒茶ってなあに? 荒いお茶って意味がわからないわ。味が荒い?」

「大雑把に言うと、摘み取ったお茶の葉を加熱して長期保存できるように

したお茶の葉のことよ。お店で売っているお茶の葉は、それから更に手間をかけてあるの。さあ、行ってみましょう」


行ってみると、建物では大きくて底の浅い鉄鍋の中に入っているお茶の葉を、加熱しながら大きな木のヘラでかき混ぜている。サユリが言う。


「摘み取ったお茶の葉は、すぐにああして炒って加熱するの。倭国の他の土地では、蒸して加熱するのですが、炒った方が手間もかからないし、時間も短くて済むのです。そして、味も悪くないですから、そのままお茶の葉として利用できます。もっと美味しくするためには、更に手間をかけるのですけど」


「ソーミュスタ王国では、摘み取ってから時間が経ってから蒸すのです。それが緑茶と紅茶の違いになるのですね。もう1つ、玉露や抹茶の畑も見たいのですが、近くには見当たらないようですけど」


パシファがサユリの言葉を受けて言うと、サユリは困った顔をする。


「玉露や抹茶の畑は遠い場所にあるの。東へ歩いて30分くらいの場所なの」

「それくらいの距離なら、なんてことはないよ。行ってみようよ」


プレヤが話に割り込む。不思議そうな顔をするサユリを放置して、プレヤはヴェーヌに近寄る。そして、右手をヴェーヌの左手とつなぎ、左手にロータスワンドを持つ。ヴェーヌは右手にスターワンドを持つ。そして、同時に詠唱する。


「「星魔法 ペガスス座」」


すると、翼を持つ巨大な馬が現れる。プレヤは呆然としているサユリに言う。


「これは星魔法のペガススさ。僕とヴェーヌ、セルク、レアは星魔法一族なんだ。これに乗って飛んで行けば、すぐに行けるよ」


そう言うと、プレヤはサユリの手を取り、ペガススに乗る。『星とバラの妖精』も続いて乗ると、ペガススは翼を羽ばたかせて空に舞い上がる。空を飛ぶのが初めてのサユリは、キョロキョロと景色を眺めていたが、すぐに指さして言う。


「あの近くに降りて。あそこが玉露や抹茶の畑よ」


ペガススから降りると、パシファはすぐにお茶畑に近寄る。お茶畑の上には棚が作ってあり、よしずを載せてある。パシファは、それをじっくりと見て言う。


「倭国ではこうやって日光を遮っているのですね。なるほど」


そんなパシファを眺めながら、プレヤはサユリに問う。


「ああやって日光を遮ると、どうして美味しいお茶になるのかな?」

「それは、苦味が少なくてうま味のあるお茶に育つからよ。なぜそうなるかは分からないけど。ところで、空を飛べるなんてすごいわ。ラクオン山の山頂、ホシフルミネまで飛べるかしら?」


サユリは周りで一番高い山を指さして尋ねる。


「飛べるけど、魔獣が出るなら、アース様の白鳥で行った方が安全だよ。アニマの転移魔法なら一瞬でいけるから、もっと安全かもしれないけど」


それを聞いたアニマが口を開く。


「行けるけど、山頂の地形がわからないから、危険だよ。ゴツゴツした岩ばかりかもしれないし」

「転移魔法? それなあに?」

「行ったことのある場所や見えている場所へ転移、一瞬で行ける魔法よ。私たち弦楽部族だけが使える弦楽部族の固有魔法なの。そうだ、帰りは転移で帰ろうよ」


そんな話になり、帰りは転移することになる。アニマは、ヴァイオリンを肩に乗せて詠唱する。


「音楽魔法 Fly Me To Another Land」


アニマがヴァイオリンの演奏を始めて5秒後、一行の姿は消えて神殿の東側の防御壁の門の近くに現れる。サユリは周りを見回して言う。


「信じられないわ。本当に音楽魔法って凄いのね。アニマ、凄いわ」


アニマが照れて顔を赤くしていると、口を尖らせてトルリが言う。


「私の打楽部族の固有魔法も凄いのよ。強い魔獣でも一撃で討伐できるんだから」

「えっ、本当? トルリも凄いのね。私の声楽部族も何か固有魔法が使えるのかしら?」


その問いにはフェネが答える。


「そのうち声楽部族の子神殿が降りて来るはずだから、その時に分かるわ。どんな固有魔法なのか楽しみね」



フェネたちがお茶畑に行くと、アイーダたちは相談を始める。


「アイーダ、どうするんだ? ここに来た目的は、天岩戸に行き音楽魔法一族の故郷の星を知ること、声楽部族の存在を確認することだったはずだが」


「ええ、その通りです。でも、魔物や魔獣がこの倭国南部、音楽魔法一族のご先祖様である日巫女様の暮らしていらした土地、弦楽部族の生活している土地を襲撃していることを知った以上、見過ごすことはできません。アース様こそS級魔物を討伐したくてうずうずしているのではありませんか?」


アースは苦笑いして、頭を掻きながら答える。


「ハハハ、アイーダにはお見通しのようだな。S級魔物は発見さえできれば、俺にとって討伐は難しくない。発見するのが難しいのだ。だから、討伐の絶好のチャンスなのだが……」


アースが言い淀むと、バービレが口を開く。


「倭国の人たち、声楽部族が討伐しようとしているS級魔物をアースが討伐することは、人の獲物をこと横取りすることニャン」


レジェラがニッコリ笑って続ける。


「だったら、S級魔物の討伐の手伝いに徹して、もしも声楽部族が討伐できない場合には、アース様が討伐すればいいのでは? それでストレスが溜まるなら、A級魔物の1,2体を討伐させてもらえれば、いいのではないかしら?」


アースは顎に右手を当てて、目を瞑り考えていたが、口を開く。


「そうだな。相手の顔を立て、魔物を討伐するにはその方法がいいだろう。それでいくか。では、早速だが、弦楽部族の巫女長様と話し合いに行くとするか」


その時、『星とバラの妖精』がティルームに入って来る。


「ただいま帰りました。すごいお茶畑でした」


プレヤが元気よく挨拶をすると、アイーダが口を開く。


「お帰りなさい。楽しかったようね。ところで、魔物討伐に行くことになったら、あなたたちも一緒に行くかしら?」

「もちろんです。僕たちも少しは強くなっていますから。お手伝いできると思いますから」


他のメンバーもコクコクしているのを見て、アイーダは笑顔で頷き続ける。


「そう、言う事をちゃんときいてね。フェネ、アニマ、トルリ、あなたたちの音楽魔法がどれくらい上達したか見せてもらうわね」

「「「はい」」」


フェネ、アニマ、トルリの3人は胸を張って答えた。


お読みいただきありがとうございます。

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