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第5話 声楽部族副巫女長 サユリ 

 アイーダたちが案内されたのは、大きな会議室。一行の人数が12人なので、それに合わせてのことだろう。すぐにバービレとセルクもやって来る。バービレが言う。


「ケガ人や倒れている人全員を回復したニャン」


席に座ると、侍女により薄い緑色のお茶が出される。倭国のお茶だ。それを一口飲んだパシファが呟く。


「香りが豊かで、上品な甘味のお茶です。玉露でしょうか」

「玉露ってなあに?」


アニマが不思議そうに尋ねると、パシファがニッコリして答える。


「お茶の種類の一つです。倭国のお茶の中で、最高級のお茶です」


それを聞いた『星とバラの妖精』たちは、一斉にお茶を口にして笑顔になる。子どもは甘い物が好きなのである。ドアからノックの音がして、青色の小袖、袴の巫女服を着た黒髪黒目の30代の女性と先ほどの可愛い女の子が入って来る。2人は似ているので母娘だろう。青色の巫女服を着た女性がイスに座ると挨拶をする。


「この度は危ない所を助けて頂き、ありがとうございます。私はこのオンラク神宮巫女長のアオイです。そして、こちらが娘の副巫女長のサユリです」


そう言うと、2人は深々と頭を下げる。次にアイーダたちが自己紹介をすると、アオイが口を開く。


「早速ですが、本題に入りたいと思います。アイーダさんは音楽魔法一族の管楽部族の巫女長ということですが、……」


「はい、その通りです。隣のフェネが管楽部族の副巫女長です。フェネの隣の2人、アニマとトルリは巫女服を着ていませんが、弦楽部族と打楽部族の副巫女長です。私とフェネの着ている巫女服の色が、お二人と同じ青色と赤色ですからお分かりと思いますが、あなた方も音楽魔法一族、おそらく声楽部族の方だと思います」


「私たち以外の音楽魔法一族は大昔に滅んだと伝えられていますが」

「いいえ、滅んでいません。私たちのご先祖様日巫女様は、一族を率いて聖なる響きの館と子神殿に乗り、はるか西のソーミュスタ王国に避難されました。子神殿とは、私たちが乗って来た建物です」


それを聞いて、アオイは目を閉じて考え込む。しばらくして、目を開けると言う。


「信じられない思いですが、枯れ木に花を咲かせたり、雪を降らせたりされたそうですから、信じざるをえません」

「信じて頂いてありがとうございます。私たちの祖先は他の星から来たそうです。その星を知るために天岩戸へ行くこともここに来た目的の1つですが、その前に先ほどの戦いについてお聞きしたいのです」


それに対するアオイの返答は次の内容だ。少し前から、倭国南部への鬼たちの襲撃が始まった。鬼とは西の大陸で魔獣や魔物と呼ばれている者のこと。ラクオン神宮から見て、北東と北西が戦場である。倭国南部の武士団、騎士団に相当する武人たちの集団はそちらに出かけていて、他の場所の守りが薄くなっている。


2日前、声楽部族の族長と副巫女長の1人である長女が、鬼を成敗するための神の武器を手にするために、オンラク山の山頂、ホシフルミネに登ろうとしたが途中で鬼に襲われて重傷を負った。そして、今日オンラク神宮が襲撃された。


それを聞いたバービレが言う。


「族長と長女さんの様子はどうなのニャン?」

「2人とも傷が大変深くて、意識が戻りません。このままでは……」


アオイは言うと下を向く。サユリも目に涙を浮かべている。バービレが言う。


「私とセルクが治療するニャン」

「いえ、見知らぬ方に回復魔法をお願いするなど、そんなことはできません」

「アイーダの一族なら、構わないニャ」

「そうです。私たちは同じ音楽魔法一族です。何の遠慮もいりません」


バービレとアイーダの言葉にアオイは頷き、サユリを見る。


「お母様、私がお2人をお父様とお姉様の所へ案内して参ります」


そう言うと、サユリはバービレとセルクを案内して部屋を出て行く。すると、アイーダが口を開く。


「鬼について詳しく説明してもらえませんか?」


それに対してアオイは返答する。倭国南部より北にある山中のどこかに鬼の首領がいる。首領は酒呑鬼、西の大陸では魔王と呼ばれるS級魔物。その配下は四天鬼で、杉の木の魔物の杉鬼、鷹の魔物の鷹鬼、狼の魔物の狼鬼、埴輪の魔物の埴輪鬼の4体。


いずれも西の大陸ではA級の魔物とされている。この中で杉鬼は先ほどアースにより討伐された。声楽部族長と長女を襲撃したのは鷹鬼。北西から攻めてきているのが狼鬼、北東から攻めてきているのが埴輪鬼。それがアオイによる説明の内容だ。


説明が終わった時、サユリとバービレ、セルクが帰って来た。サユリが笑顔で言う。


「お母様、お父様もお姉様も大ケガが治り、目を覚まされました。もう大丈夫です」


アオイはほっとした様子を見せるが、バービレが首を横に振って、それを否定する。


「ケガは治ったニャ。でも大量の失血で体が弱くなっているニャ。しばらくの間、安静にして寝ているニャン」


アオイは首を横に振った後、頭を下げて言う。


「それでも、ありがとうございます。もうダメかもと思っていましたから。お礼にもなりませんが、お好きなだけ長くこの土地に滞在してください。お客様用の建物もございますから。お疲れでしょうから、とりあえず昼食までそちらでお休みください。サユリ、案内をお願いね」

「はい、お母様。お任せください。みなさん、こちらへどうぞ」


サユリはそう言うと、扉の前に立つ。それを見てアイーダたちはイスから立ち上がり、アイーダがアオイにお礼を言う。


「ありがとうございます。私たちにできることがあれば、何でもおっしゃってください。喜んで協力させていただきます」


そして、一行はお辞儀をすると部屋から退出する。神殿を出て5分ほど歩くと、平屋建ての大きな木造の建物に着く。その玄関でサユリは立ち止まり、説明をする。


「これはお客様用の宿舎です。4人用の部屋が和室1室と洋室1室、2人用の部屋が和室5室と洋室5室があります。全室に屋根付きの温泉露天風呂がついています。食堂とティルームもあります。ご希望の食事時間は、建物内の侍女に伝えてください」


説明を聞いて相談し、アースとアイーダ、バービレ、レジェラたちは4人用の洋室を使うことにする。『星とバラの妖精』は、ヴェーヌとプレヤ、セルクとレアが2人用の洋室を使い、フェネとパシファ、アニマとトルリが2人用の洋室を使うことにする。音楽魔法一族は和室を使い慣れているのだ。


一行が建物に入ろうとすると、サユリがフェネに遠慮がちに話しかける。


「あの~フェネさん、お願いがあるのです。音楽魔法を教えてもらえませんか? 私も音楽魔法一族ならば、音楽魔法が使えると思うのです。私はこれまで音楽魔法があることすら知らなかったので、音楽魔法について何も知らないのです」


「わかりました。部屋を確認したらすぐ戻ってきます。少し待っていてください」


建物に入ったフェネとパシファは、すぐにサユリの所へ帰って来て言う。


「サユリさん、お待たせしました」

「サユリでいいです。たぶん同じ年ですから。私は羊年の生まれですが、フェネさんは何年うまれですか?」

「私も羊年生まれです。では、私ことのもフェネと呼んでね、サユリ」

「わかったわ、フェネ。それで、音楽魔法はどうやって使うの?」


尋ねられたフェネは少し考えてから答える。


「こうなって欲しいということを強く願いながら演奏するの。サユリの場合は歌うのかな? そうね、今呼び寄せたい動物はいるかしら?」


サユリはしばらく悩んでから言う。


「いろいろといるけど、ウサギかな? ウサギは可愛いからね。でも、ここの敷地は防御壁に囲まれているから、ウサギは来ることができないわ。防御壁の外に出ましょう」


神殿の西側の防御壁の門から外に出ると、そこは草原だった。少し先には大きな池が見える。草原の中ほどまで歩き、そこでフェネがウサギが来るように強く願いながら歌うこと、と歌う前に音楽魔法と曲の名前を詠唱することをアドバイスする。すると、コクコクしてからサユリは詠唱する。


「音楽魔法 うさぎ」


そして、サユリは大きく息を吸い歌い出す。


♪うーさぎ うさぎ なに見てはねるー 

十五夜おー月さま 見てはーーねーるー


美しいソプラノの歌声が平原に響き渡る。すると、1羽のウサギがピョンピョン跳ねてこちらへやって来る。そして、1羽、また1羽とウサギがやって来て、歌が終わるとサユリの周りに30羽のウサギが集まっていた。


「凄いわ、凄いわ、サユリ。こんなにウサギが集まるなんて。やっぱりサユリは音楽魔法一族よ。音楽魔法が使えるのだから」

「これが音楽魔法なのね。30羽もウサギが来るなんて。とっても嬉しいわ」


満面の笑顔で喜ぶサユリにフェネが尋ねる。


「ねえねえ、他にはどんな魔法が使えるの? 私は水魔法と風魔法、携帯魔法が使えるわ」

「私は水魔法と風魔法が使えるわ。携帯魔法ってなあに?」


サユリの問いにフェネは携帯魔法でピアノを出したり収納したりすると、サユリはビックリする。次に水魔法で直径50センチほどの水球を出す。すると、サユリも直径40センチほどの水球を出す。次にフェネが風球を出すと、サユリは詠唱する。


「風魔法 風の刃」


ヒューンと音がしたかと思うと、草原にあった木が1本、スパンと切り倒される。その様子にフェネは驚いて言う。


「今の風魔法はなあに? 凄い風魔法だわ」

「風の刃よ。鬼を倒す時に使うの。フェネも練習すれば、すぐに使えるようになるはずよ」

「そうね。練習してみるわ」


そんな会話をしている2人にパシファが声をかける。


「そろそろお昼ご飯の時間だと思います。帰りませんか?」


コクコクした2人とパシファは帰路につく。その途中でパシファがサユリに話しかける。


「サユリさん、お茶の畑はどこにあるのでしょうか?」

「ここ倭国南部は倭国でも最大のお茶の産地ですから、あちらこちらにお茶畑はあります。神殿の東側にもありますわ。宜しかったら、お昼ご飯の後に案内しましょうか?」


パシファがフェネを見ると、フェネはコクコクしたので答える。


「ありがとうございます。是非お願いします」



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「うさぎ」 童謡 作曲・作詞 不詳

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