第2話 旅のみやげ話
それから1週間後のお昼、ヴェーヌの部屋に『星とバラの妖精』たちが集まっている。フェネが発表する。
「みんな、『イルカ亭前のビーチで恋をしよう』が完成したわ。この曲のイントロは竪琴と呼ばれる小型のハープを使いたいのだけど、アニマ、大丈夫?」
「もちろん。弦楽器だったらまかせて。私は弦楽部族の巫女よ」
アニマは、まだ膨らみの小さい胸を張って答える。次にプレヤが言う。
「じゃあ、ダンスの振り付けは僕とヴェーヌで考えるよ。それで、パシファさんは背中の絵柄を決めた?」
「はい。みなさんが宜しければですが、お茶の葉にしたいです。地味な絵柄ですけど、私はお茶が大好きですから。わがままを言ってすみません」
パシファの言葉に、ヴェーヌが笑顔で手を横に小さく振って言う。
「謝らないで。みんな自分の好きな絵柄を選んだのだから。それにお茶の葉の絵柄は地味だけど、お茶は美味しい飲み物よ。見た目より中身ってことでしょう?」
他のメンバーもコクコクしている。それを見て、パシファはほっとする。その後話題は舞台衣装に移る。袴の色はピンク色で揃えて小袖の色は各自で、とまでは決まっていたが、小袖の色は各自の髪の色となる。
ただ、セルクの髪の色はピンクで、小袖と袴の色が同じピンクになるのだが、セルクは構わない、とのことですんなり小袖の色も決まる。
「それでは、この案で舞台衣装の巫女服の作成をガリレさんにお願いしておきます」
パシファがそう言った時、そこにノックの音がして、お付メイドのヒマリアが入って来る。
「みなさん、アース様、アイーダ様、バービレ様、レジェラ様がお帰りになりました。ティルームにいらっしゃいます」
その言葉を聞くや否や、『星とバラの妖精』全員はイスから立ち上がり、ダッシュで部屋を出て行く。
*
ティルームで、アース、アイーダ、バービレ、レジェラがお茶を楽しんでいる。そこへ『星とバラの妖精』たちがやって来る。
「「「お帰りなさーい」」」
みんなで挨拶をしてから、プレヤがワクワクした様子で尋ねる。
「S級魔物は討伐できましたか?」
アースは首を横に振り答える。
「いや、残念ながら、S級魔物は発見できなかった。初めて見るA級魔物2体を討伐したけどな」
「えっ、アース様が初めて見る魔物ってどんな魔物ですか?」
それに答えたのはバービレ。
「砂漠にいるアリジゴク型魔物ニャ。土魔法を使う魔物ニャン」
「土魔法を使う魔物ですか? 詳しく教えてください」
土魔法を得意とするレアがその話に喰い付く。それを受けてのバービレの説明によると、騎馬民族の国の東は草や木の生えない砂漠が広がっているらしい。その砂漠にすり鉢状のくぼみを作り、その底に潜み住むのがアリジゴク型魔。その魔物は土魔法を使い、砂を動かして獲物をくぼみの底に引きずり込む、とのことだ。
そして、最初に火魔法で討伐しようとしたが、土魔法で壁を作られて上手くいかなかった。だから、風魔法を使って砂が集まれないようにしてから、水魔法の氷槍で突き刺して討伐に成功したらしい。それを聞いてレアが言う。
「土魔法で砂を動かすのですか、面白いですね。魔獣や魔物の足元の土を動かして転倒させたり、あっ、それなら足元に穴を掘って埋めた方がいいか。まあ、いろいろと工夫ができそうです。教えてくださってありがとうございます」
レアがお辞儀をして感謝すると、次に話を始めたのはレジェラ。
「南の大陸には、ゾウ型魔物がいましたわ。体高が3メートル、体長が5メートルの巨体の魔物ですの。皮が厚くて、なかなか剣が通らないし、魔法を命中させても効果が小さいのです。それに長い鼻から水球や水流などの水魔法で攻撃してくるのですわ。なかなかの強敵でしたの」
フムフムと話を聞いていたトルリが尋ねる。
「そんな強敵をどうやって討伐したのですか?」
その質問にレジェラが答えた内容は次のようなものである。アイーダが水魔法でゾウ型魔物の身体の周りに氷を集めて冷やした。すると、鼻の中の水が冷やされて氷になり、体積が増えて鼻の皮がビリビリと敗れてしまった。その結果ゾウ型魔物は水魔法が放てなくなった。
その後、火魔法を体に当てた後に水魔法で急冷して皮を脆くしてから、剣を打ち込むとゾウ型魔物は煙になった。それを聞いたトルリが右手を上げる。
「水が氷になると体積が増えるのですね。ということは、水魔法で作った矢を氷にすると、同じ重さで少し大きな矢ができるのですね」
「そうよ。それがどうしたのかしら?」
「大きい矢の方が当たる確率が上がるし、当たった時の傷口が大きいと思うのです」
トルリの考えに、レジェラは頷いた。次に口を開いたのはアイーダである。
「南大陸には魔獣や魔物以外に珍しい動物もいるわ。例えば、首がとても長いキリンや体が白黒の縞模様のシマウマとかね。その白黒の縞模様の白と黒、どちらが地毛だと思う? それとも地毛が白黒の縞模様だと思う?」
アイーダの問いに『星とバラの妖精』たちが考え込む。レアがポツリと言う。
「馬には黒色の馬と白色の馬がいるわ、でも、白色の馬は若い頃は灰色の毛で、成長すると真っ白になるのよね。う~ん、黒色が地毛かしら? あっ、とても少ないけど、生まれた時から白い毛の馬もいるらしいわ。う~ん、よく分からないわ」
しばらく待っても誰も手を上げないので、アイーダは答えを口にする。
「シマウマのお腹は白色だから、地毛は白色という説もあるわ。でも、捕らえたシマウマの毛を短くカットした人がいたらしいの。その結果、地毛は黒色だったらしいわ。でも、1頭だけしか調べていないから、絶対正しいとは言えないけどね」
そう言って、アイーダはフフフと微笑む。すると、アニマがポンと手を打って言う。
「ネコにも縞模様のネコがいるわ。ネコだったら街中にたくさんいるから、捕まえて毛を短くカットして調べることができるわ」
その意見に全員がオーと驚き、同意する。早速、調べてみることになった。余談だが、後日10匹の縞模様のネコを調べたら、10匹全部が地毛から縞毛様だったらしい。アイーダの話が終わると、アースが口を開く。
「そういうことで、この国の西の方にも、南の方にもS級魔物の気配はなかった。西のペインス公国、北のノルデンランド王国付近にもS級魔物の気配はなかった。つまり、この国周辺にはS級魔物はいないことになる。残念なことだ。それで、お前たちのリチウム公国の旅はどうだった? 何か面白いことはあったか?」
その問いにプレヤが胸を張って答える。
「はい、面白かったです。いろいろな魔獣や魔物を討伐しました。モグラ型魔獣、クラゲ型魔獣、テッポウウオ型魔物、ブタ型魔獣、大イノシシ型魔獣、シカ型魔獣、オウシ型魔物を討伐しました」
「ほう、頑張ったな。魔物を2種類も討伐できたのか。その調子で行けばB級冒険者に昇級する日も近いだろう」
アースに褒められて、『星とバラの妖精』たちは嬉しそうな表情になる。特にプレヤは拳を握った右手を上に着き上げている。そのプレヤは言う。
「ありがとうございます。これからもたくさんの魔獣や魔物の討伐を頑張ります」
他の『星とバラの妖精』のメンバーもコクコクしている。それが落ち着いた後、フェネが一歩前に進み出る。
「アイーダお姉様、倭国から来た修学旅行の生徒と引率の先生が言っていました。倭国では、音楽魔法一族は滅んだとされている。しかし、声楽部族だけが生き残っていると」
それを聞いたアイーダは目を大きく開き言う。
「何ですって! その話を詳しく聞かせてちょうだい」
「はい、お姉様。まず、音楽魔法一族は倭国南部にあるオンラク山の山頂、ホシフルミネに空から降りて来た、という天孫降臨神話があるそうです。そして火山の大爆発で音楽魔法一族は滅んだけれども、旅に出ていた声楽部族は生き残ったそうです。
引率の先生は、声楽部族の一族とのことでしたが、彼女の歌声にはほんの少しでしたけど、音楽魔法の魔力を感じました。そして、その先生から声楽部族の巫女様の居場所を教えてもらいました」
フェネの話を聞いたアイーダは少し考えてから、携帯魔法から聖音の宝珠を取り出して、聖音の宝珠の上に手をかざして、魔力を注ぎ込む。すると、球は虹色の光を発して輝いた。そして、アイーダは問う。
「聖音の宝珠よ、音楽魔法一族に声楽部族はいたのかしら?」
すると、球は虹色の光を発して輝き答える。
「はい。声楽部族は存在しました。しかし、日巫女様が倭国を出発した時は旅に出ていました。そして、現在まで行方不明です。」
それを聞いて、アイーダは口を開く。
「どうやら、倭国に行く必要がありそうね」
その時アースが言う。
「アイーダ、俺も知りたいことがあるのだが、尋ねてもらえるか?」
「何でしょうか?」
「アルタイルの森と弦楽部族の住んでいたアンカアの森、打楽部族の住んでいたピーコックの森、倭国南部は同じ直線上にある。倭国からアルタイルの森までどうやって来たのか? を訪ねて欲しい」
その質問に対する聖音の宝珠の返答は、答える権限がない。知りたいのなら、聖なる響きの館の大納言に尋ねて欲しい、とのことだった。それを聞いてアイーダは長考してから言う。
「この件は音楽魔法一族全体の問題だわ。トルリ、あなたは打楽部族の部族長と巫女長様に、アニマ、あなたは弦楽部族の部族長と巫女長様に、この件を話して今日の午後3時に聖なる響きの館前に来ることができるか、聞いて来て。フェネ、あなたは私と一緒にお父様とお母様の所へ行きましょう」
参考
「聖音の宝珠」についてはシリーズ2作目「音楽魔法使いの少女は第一夫人の座を目指す」第6話ステラ家②を参照してください。
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