第13話 音楽魔法一族の伝説(第七章 最終話)
笑顔でサリーと別れて、海を眺めながら港への街道をしばらく歩くと、倭国の女の子3人が街道横の木陰にいるのが見える。近づくと1人の女の子が寝かされていて、苦しそうにしている。その横には不安そうな顔をした2人が不安そうに立っている。心配になったプレヤが尋ねる。
「どうかしたのかな? ケガをした、それとも病気?」
「心配してくれてありがとう。たぶん太陽病だと思うわ。この子ったら水を飲まなかったからね」
女の子の1人が答えると、セルクが申し出る。
「良かったら治療しましょうか? 私は回復魔法が使えます。太陽病だったら治療できますから」
すると、相手の女の子は少し迷ってから口を開く。
「ありがたいけど、お礼のお金を持っていないの。回復魔法を使ってもらうのって高いお礼が必要なのでしょう?」
セルクは手を横にヒラヒラ振って答える。
「お礼はいらないです。私は修行中の身でして、たくさんの人を治療するのが修行なのです」
「そうなのね。じゃあ、お願いするわ」
女の子がほっとして言うと、セルクは寝かされている女の子の横に膝立ちして、手を抜けて詠唱する。
「回復の光」
すると、女の子の体が一瞬淡く光る。光が消えると、寝かされていた女の子が目をパチパチさせて言う。
「あれっ、どうして? 気分がよくなったわ」
そして、その女の子は立ち上がって言う。
「さあ、急がないと。船に乗り遅れて宿屋に帰る時間に遅刻すると、先生に叱られるわ」
「そうだったわ。あの先生のお説教は長いから嫌よね。あっ、ありがとう。私たち急いでいるの。歩きながら話しをしていいかしら?」
事情を察したプレヤが了解し、自分たちも船に乗るから、そこでゆっくり話をすることにする。急ぎ足で歩き、港に着いたのは船の出航直前だった。出航後、船の甲板に集合して会話が始まる。
「先ほどはどうもありがとう。すごく助かったわ」
そう言って頭を下げる倭国の女の子3人組。プレヤが手を横に振り言う。
「頭を上げて。当然のことをしただけだから。それより仲良くしようよ、同じくらいの年だから。まずは自己紹介からだね。僕はプレヤ、この冒険者パーティのリーダーだよ」
プレヤに続き、他のメンバーも自己紹介をする。そして、倭国の女の子3人組も自己紹介をする。
「私たちは歌劇学校の生徒なの。今日は学校の修学旅行の班別行動の日で、私はこの班の班長のマサミよ。」
「私はヨシコ。さっきはありがとう。私ったら水を飲むのを忘れていて太陽病になったみたい。回復魔法って凄いのね。私、初めて回復魔法をかけてもらったの、感激したわ」
「私はチエです。おかげで予定の船に乗れました。ありがとう」
一通りの自己紹介が終わったところで、フェネが尋ねる。
「あなたたち、歌が上手いのね。今日の舞台の歌もそうだけど、テネアの舞台の歌もしごく上手だったわ」
「えっ、テネアの舞台を見ていたの? あら、そうじゃないわね。ありがとう、歌を誉めてくれて」
倭国の女の子3人組はテネアの舞台を見られていたことにビックリしたが、その後いろいろと話をしてくれる。自分たちは倭国南部にある歌劇学校の生徒であること、この大陸で作られたオペラを理解する助けになるように、この大陸に観光旅行に来たこと、これからいろいろな国を見て回る予定であることなど。
それらの話を聞いた後で、フェネは気になっていた人物のことを尋ねる。歌声に微力ながら音楽魔法の魔力を感じた人物のことだ。
「テネアの舞台で『乾杯の歌』を歌った女性の先生はすごく上手だったけど、どういう先生なの?」
3人組は顔を見合わせてからクスクス笑った。そして、マサミが答える。
「ああ、ミチコ先生ね。あの先生少し変わった所があるのよね」
そして、マサミが語ってくれる。その内容は、倭国には神様の孫、天孫が空から地上に降りて来たという天孫降臨神話があること。天孫が降り立った地は歌劇学校近くのオンラク山の山頂、ホシフルミネということ。
その山の近くに天孫の子孫だと名乗る日巫女をリーダーとする一族が住んでいたが、火山の大噴火で滅んだとされていること。日巫女の一族は音楽を奏でることで魔法を使ったと伝えられていること。
「ミチコ先生は、その滅んだ一族の子孫だとおっしゃるの。一族の中で火山の大噴火があった時に、偶然旅行に出かけていた集団がいて、その子孫だとおっしゃるの。面白いでしょう? もっとも、最近学校から少し離れた場所で発掘調査が行われて、大昔の集落の跡が発見されたのよ。それが滅びた一族の住居跡の可能性もあるらしいのよね」
最後にそのように締めくくって、マサミは話を終わる。フェネ以外のメンバーは神話や伝説の話と思って興味深く聞いていたが、フェネは心の中で叫ぶ。音楽魔法はあるわ。音楽魔法一族は滅んでいない。
日巫女様に導かれてアルタイルの森に来たのよ。しかし、口にしなかった。船がスコリントの港に入港しようとしていたからだ。ここは是非ともミチコ先生に会うための交渉を優先すべきと思ったからだ。
「ねえ、マサミ。私、ミチコ先生に会いたいのだけど、無理かな? あの先生の歌はとても素晴らしいと思ったの」
倭国の3人組は顔を寄せ合って相談していたが、ミチコがフェネに言う。
「いいわよ。でも取り次ぐことしかできないわ。会うか合わないかはミチコ先生が決めることだからね。それと、テネアまで行かなきゃいけないけど、大丈夫かしら?」
フェネがメンバーを見ると、コクコクしているので了承の返事をする。その後転移陣を利用してテネアに移動する。テネアの宿屋街に倭国の修学旅行生の宿屋があった。
ミチコたちの後ろを歩いて行くと、「先生控室」と書かれた紙が貼ってある部屋の前でミチコの足が止まり、ノックをすると入室許可の返事があったので、ゾロゾロと入室する。部屋の中には、会議用であろうか、長テーブルが置いてあり、その端に女性にしては大柄で黒髪黒目の20代の女性が座っている。ミチコ先生だと思われる。
「ミチコ先生、マサミ班ただいま帰りました。途中でミチコ先生にお会いしたいという人たちと出会いましたのでお連れしました」
ミチコ先生は、『星とバラの妖精』をしばらく見ていたが、口を開く。
「そうですか。まあここにいても生徒の帰宿報告を受けるだけだから、短時間ならお話しよう。マサミ班は部屋に戻って班行動報告書を書きなさい」
マサミたちが部屋を退出すると、ミチコ先生は『星とバラの妖精』にイスに座るように勧める。そして、ミチコ先生は尋ねる。
「私に会いたいとのことですが、理由は何でしょうか?」
フェネが背筋を伸ばして答える。
「1つは昨日の舞台で先生の美しい歌声を聴いたからです」
それを聞いてミチコ先生の顔に笑みが浮かぶ。それを見ながらフェネは続ける。
「もう1つはマサミたちに聞いたのですけど、ミチコ先生が日巫女様の一族の子孫だとか。その話を詳しくお聞きしたいのです」
ミチコ先生は一瞬驚くが、穏やかに話してくれる。
「その話を信じる者は、私の一族以外にはいないのですけどね。まあいいでしょう。私の一族に伝わる話では、一族の祖先は遠い昔に空から降りて来た。一族は音楽で魔法を使う一族で、管楽器、弦楽器、打楽器を演奏する部族と私たちの部族、声楽部族の4つの部族があった。
しかし、声楽部族が旅行に出かけている時に火山の大爆発があり、声楽部億だけが生き残った。このような内容です。たしかに私の一族には歌の上手い者が多いのですけど、音楽の魔法を使える者はいません。
ただ、一族の巫女様たちの中には、鳥の歌を歌えば1羽の鳥が近寄り、魚の歌を歌えば魚1匹が近寄って来る者もいらっしゃいます。でもそれだけなのです。だから音楽を使う魔法はおとぎ話だ、と私はおもっているのです」
ミチコ先生の話が終わると、フェネはキリッとした顔つきで言う。
「音楽魔法はあります。管楽器、弦楽器、打楽器を演奏する部族も生き残っています。日巫女様に導かれてソーミュスタ王国へ避難したのです。こちらのトルリは打楽部族の巫女、その隣のアニマは弦楽部族の巫女、そして、私は管楽部族の巫女であり、音楽魔法一族族長の娘です」
ミチコ先生は目を大きく見開き、しばらくフェネを見つめていたが、微笑むと言葉を紡ぐ。
「まあ、それが本当なら素晴らしいことです。でも信じられません。証拠はあるのかしら?」
フェネは窓の外の庭を指さして言う。
「あそこに枯れ木があります。私たちが音楽魔法で、あの枯れ木に花を咲けせましょう。それでよろしいでしょうか?」
ミチコ先生が頷き、一同は庭に移動を開始する。その途中でトルリがフェネに尋ねる。
「フェネ、なぜあなたは大昔の音楽魔法一族のことを知っているの?」
「それはね、アイーダお姉様に教えてもらったのよ。お姉様はアース様の家の秘密の古文書で知ったらしいわ。詳しいことはアルタイルの森に帰ってから話すわ。それまで待って」
一同が枯れ木の前に到着すると、フェネが携帯魔法でピアノとヴァイオリン、横笛を出す。そして、メンバーに言う。
「パシファたちは5番の歌詞を歌ってね。それから、ポチ、あなたは静かにしていてね」
ポチがワンと吠えると、フェネ、アニマ、トルリが詠唱する。
「「「音楽魔法 花咲爺」」」
楽器の演奏、歌が始まる。
♪しょうじきじいさん はいまけばー はーなはさいた かれえだにー
すると枯れ木に蕾がつき、蕾は少しずつ膨らみ始め、そしてサクラの花が咲く。それを見たミチコ先生は、微動もせずに立ったままになった。しばらくして、ミチコ先生は震える声で言う。
「ハ、ハ、ハ、花が咲いたわ」
そして、再びサクラの花を見つめた後、キョロキョロと周囲を見回して言う。
「先生控室に戻りましょう。ここは騒がしくなりそうですから」
周囲を見ると、宿屋のたくさんの部屋の窓から生徒たちがサクラの木を目を丸くして見ている。先生控室に戻ると、ミチコ先生は紙に何かをサラサラと書いてフェネに渡して言う。
「音楽魔法があること、音楽魔法一族が生き残っていることを信じます。是非ともソーミュスタ王国を訪問したいのですが、修学旅行の引率中ですからできません。いつかは訪問するつもりですが。
今、私たちの一族、いや声楽部族の巫女様への紹介状と巫女様の住んでおられる場所の地図を書きました。機会があれば是非とも、声楽部族の巫女様にお会いになってください」
「もちろんです。紹介状と地図をありがとうございます。また、ミチコ先生がソーミュスタ王国のアルタイルの森を訪問されるのを心待ちにしています」
その後、マサミたちの乱入があったりして、宿屋での滞在時間が長くなったが、『星とバラの妖精』はリチウム公国を後にした。
ソーミュスタ王国の「日巫女の伝承」については、シリーズ2作目「音楽魔法使いの少女は第一夫人の座を目指す」第6話ステラ家②を参照してください。
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参考
「花咲爺」 作曲 石原 和三郎 作詞 田村 虎蔵




