第12話 音楽大会
『星とバラの妖精』は宿屋の食堂のテーブルに座っている。本来、この宿屋は昼食の提供はしないのだが、黄金のリンゴを採って来たお礼に昼食をご馳走してもらうのだ。
テーブルにはいろいろな海産物の料理が並んでいる。サリーとスザンナの父親である漁師が日の出と同時に漁に出て、獲って来たものと魚市場で買って来たものが食材らしい。その父親は再び漁に出て、今は不在だ。今度はエビやカニを獲りに行ったとのことだ。
料理をしたのは、病気から回復したサリーとスザンナの母親。黄金のリンゴの効果は素晴らしく、すぐに料理ができるほどに回復したのだ。テーブルの上の料理で一番大きな皿には、オリーブオイルで味付けされたおおきな魚のオーブン焼きがある。それを一口食べたパシファが言う。
「この国の料理はオリーブオイルの味付けが多いですね。いや、オリーブオイルの味付けはとても美味しいですけど」
「そうね。この料理の味付けにもオリーブオイルが使われているわ」
パシファに同意するのは、オリーブオイルと塩、コショウで味付けされたタコの料理をパクパク食べているレアである。他のメンバーもイカやタコのから揚げを夢中で食べている。トルリが口一杯に頬張りながら言う。
「このタコ、モグモグ、ぷりぷりして、モグモグ、とっても美味しいわ」
それにサリーが胸を張って言う。
「そうでしょう、そうでしょう。そのタコはお父さんが今朝撮って来たばかりなのよ。たこつぼを100個ほど引き上げて、50匹獲れたって、お父さんが言っていたもの」
「えっ、タコを獲るのに100個もつぼを引き上げるの? それってすごい力仕事じゃないの」
アニマの言葉にスザンナが答える。
「そうよ。でもお父さんはお昼ごはんにトンカツをトッピングしたカレーライスを美味しそうに食べていたわ。力仕事をする男にはピッタリらしいわ」
母親が続いて言う。
「私も元気になりましたけど、カレーライスはこの宿の名物料理にしようと思います。この辺りの宿屋はどこも似たり寄ったりですから、特色を出したいのです。でも、他の宿屋が真似するのは簡単ですから、他にも考えないとダメですけど」
「そうですね。私も宿屋がたくさんある中に、有名な作家さんが宿泊した宿屋があれば、その宿屋を選びますから」
レアが頷きながら言う。その時、茹でたカニを食べていたアニマが言う。
「このカニ、とっても美味しい。私、『カニのカノン』を演奏したくなったわ」
フェネがヴァイオリンを出すと、アニマが演奏を始める。少し暗めの短い曲だ。海中でカニがゆっくりと横歩きをしたり、素早く走る様子を思わせる曲である。演奏が終わると、パチパチパチパチと拍手が起こる。アニマが一礼してから言う。
「今度は楽譜を後ろから演奏するわね」
アニマが再びヴァイオリンを演奏する。これもいい曲だ。また拍手が起こる。そして、レアが言う。
「面白というか、ビックリする曲ね。楽譜を前から演奏しても後ろから演奏してもちゃんと曲になるなんて」
しかし、アニマは右手の人差し指を立てて横に振って言う。
「まだよ。フェネ、横笛で普通に楽譜通り演奏して。私は後ろから演奏するから」
フェネの横笛とアニマのヴァイオリンの二重奏が始まる。2つのメロディがきれいに調和している曲が流れる。演奏が終わると三度拍手が起こる。
「すごい、すごいです。この曲を作曲した人は天才です」
セルクが興奮して言うとみんながコクコクする。
その後は全員がパクパクムシャヌシャ」と食べることに専念して昼食が終わる。
母親とスザンナが食器類を持って厨房へ行くと、外から大きな声が聞こえて来る。
「これから音楽大会を開始します。舞台に上がって歌や演奏を披露されたい方は舞台左手、街道側の受付にお越しください」
そして、すぐに演奏が始まる。打楽器だけの演奏だ。音の高さが違う金属の音、鍋のフタを叩くような音がメロディを奏で、太鼓や小さな鐘の音がメロディを装飾している。そして、人の声は歌うというよりは、話している感じだ。トルリが言う。
「初めて聴く曲だわ。ハンドベルや木琴で奏でる曲と比べると、原始的な曲ね」
次に聴こえてきたのは、哀しみに満ちた曲だ。アニマが言う。
「こんな曲調は初めてだわ。ちょっと待って。このメロディはほとんどが5つの高さの音しか使われていないわ。ドレミファソラシの中でレとラが使われていないよ」
『星とバラの妖精』たちには初めて聴く曲が2曲続いたようだ。首を捻る『星とバラの妖精』を見て、お茶を配っていたサリーが言う。
「この国にはいろいろな国から商人が集まります。商人の中には、食べ物や動植物以外に芸人を連れて来る者もいるのです。ですから、いろいろな国の音楽も集まって来るのです」
なるほどと『星とバラの妖精』のメンバーが思っていると、サリーが続ける。
「さっきのフェネさんとアニマさんが演奏した曲に、私は感動しました。フェネさんとアニマさんも音楽会に参加されたらどうですか?」
提案されたフェネは、少し考えてメンバーを見回す。すると、全員がコクコクするので、サリーに答える。
「参加するんだったら、私たち全員で参加するわ。少し相談させて」
サリーがニッコリして、食器洗いの手伝いに厨房に行くと、プレヤが言う。
「参加するとしても、歌う曲はどれにする?」
「私たちが魔音盤で出した曲は、妖精の白い恋―少女の淡い恋心―、恋のキューピットの矢、バラのお菓子の歌、ドキドキときめく学園、オーロラのような恋、の5曲よね」
アニマが言うとレアも口を開く。
「う~ん、夏の浜辺にピッタリの曲はないわね」
フェネも頷いて言う。
「お姉様たちのグループの曲、『赤いバラの夏』だったらピッタリだけど。私も夏の海の曲を作ろうかしら? そうね、タイトルは『イルカ亭前のビーチで恋をしよう』でどうかしら?」
「イルカ亭ってこの宿屋の名前よね。サリーちゃんが喜ぶわ。この宿屋のいい宣伝になるから」
トルリが賛成すると、全員がコクコクする。しかし、プレヤが話を戻す。
「それは名案だけど、今は音楽大会で歌う曲を決めないと」
その後の話し合いの結果、舞台で歌う曲は『バラのお菓子の歌』に決まった。夏にピッタリな曲ではないが、夏に合わない曲でもない無難な曲というのが理由だ。そして、サリーとスザンナ、母親にお礼を言って、イルカ亭をチェックアウトし、音楽大会の受付に向かう。
*
受付には5組ほどが並んでいる。3組前には白の小袖に赤紫色の袴を着ている女の子3人組がいる。それを見て、アニマが小声で言う。
「あの子たち、テネアの舞台で歌っていた子たちかな?」
「そうね、たしか倭国からの修学旅行生だったかしら?」
トルリも小声で答える。その女の子たちは、珍しそうに周囲を見回している。そんな中、フェネが日傘を人数分携帯魔法で取り出して配り、口を開く。
「今日は良く晴れて日差しも強いから、太陽病に注意が必要よ。みんなちゃんと日傘を使って。それから、ピアノは舞台に準備されているから、ヴァイオリンと横笛は舞台袖で待機中に出すわね。この日差しを直接楽器に当てるとダメだと思うから」
そんな間にも、後ろには次々と順番待のグループが増えて行き、倭国の女の子たちが舞台に立って歌い出した。曲は『夏は来ぬ』、歌詞は難しくて分からないが、夏が来た情景を歌っているらしい。そして、歌は上手い。これまでに舞台に上がったグループの中で断トツに1番上手だろう。
次が出番となった『星とバラの妖精』は舞台袖で円陣を組み、右手を重ねる。
「久しぶりの舞台だけど、頑張ろう!」
「「「オー」」」
舞台に上がると、パシファはポチを舞台の隅に座らせて話しかける。
「ポチ、舞台が終わるまで大人しく待っていてね」
ワンとポチが小さく吠えるとパシファは所定の位置につく。トルリがピアノの前に座り、アニマがヴァイオリンを、フェネが横笛を構えると、司会者が拡声の魔導具を使い紹介する。
「次はご覧の通り、可愛い女の子8人組で曲は『星とバラの妖精』の『バラのお菓子の歌』でーす。みなさん、温かい拍手を送ってあげてください」
盛大な拍手が鳴り響き、前にいる客が叫ぶ。
「楽器は本物と同じだな。頑張れー」
舞台を見た者しか『星とバラの妖精』の顔を知らないし、『星とバラの妖精』はしばらく舞台に立っていない。ましてや、ソーミュスタ王国以外の国では誰も顔は知らないだろう。知っているのは、魔音盤から分かる楽器の種類と歌声だけだ。それに今は舞台衣装ではなく、冒険者の服装だ。分かる訳がない。
トルリがピアノで前奏を弾き始め、アニマのヴァイオリンとフェネの横笛が加わる。そして、パシファが歌い始め、プレヤたちのダンスが始まると、歓声が上がり、掛け声が飛ぶ。
「上手いぞー、本物そっくりだぞー」
「ダンスもいいぞー。最高だー」
そして、大盛り上がりの中、舞台を終えた『星とバラの妖精』が街道に戻ると、サリーが2枚の色紙とペンを持ってイルカ亭から飛び出して来る。
「お姉さんたち、本物の『星とバラの妖精』ですよね。私、大ファンだから分かるんです。魔音盤を何百回も聴きましたから。サインをください。1枚はサリーちゃんへ、もう1枚はイルカ亭さんへでお願いします」
自分用以外にも、ちゃっかり宿屋の宣伝用にもサインをお願いされたメンバーは顔を見合わせて苦笑いをする。そして、みんなでサインをして、サリーに渡すとサリーがお礼を言う。
「ありがとうございます。一生大事にします。また来てくださいね」
そして、手を振るサリーと『星とバラの妖精』はサヨナラをした。
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参考
「蟹のカノン」 音楽の捧物より 作曲 J.S.バッハ
「夏は来ぬ」 作曲 小山 作之助 作詞 佐佐木 信綱




