第11話 黄金のリンゴ
宿屋に帰った『星とバラの妖精』は着替えた後、1階の食堂に集合する。その中からフェネとパシファはポチに水とご飯をあげるために馬小屋へ向かう。テーブルに座っているメンバーにサリーが尋ねる。
「海は十分に楽しめましたか?」
「うん、水はきれいで透明だったから、魚も見えて一緒で泳いでいる気分になれて楽しかったよ。でも砂浜は人がたくさんいて、遊べなかったわ。ビーチバレーとかやりたかったのだけど」
トルリが答えると、サリーはうんうんと頷いて口を開く。
「いつもは空いているのですが、今日混んでいたのは、明日の昼から音楽大会がありますからです。音楽大会が目当てで昨日から多くの人が来ているのです」
「音楽大会ってなあに? 面白そうね」
「歌でも楽器の演奏でも、誰でも参加できる大会です。参加申し込みの受付はその場で行われます。毎年いろいろな人たちが参加するので聴いていると楽しいです」
その時、厨房の方から姉のスザンナの声がする。
「サリー、食事の用意ができたわ。食堂に運んで頂戴」
はーい、と返事をして厨房に向かったサリーがワゴンを押して帰って来る。馬小屋から帰ってきたフェネとパシファがイスに座ると、各自の前にカレーライスとサラダが配膳される。
「「「いただきまーす」」」
サラダを一口食べたレアが言う。
「このサラダのドレッシングはオリーブオイルがベースですね。美味しいです」
カレーライスを口にしたヴェーヌが言う。
「このカレーライスもとても美味しいわ。どんな香辛料が使われているのかしら?」
「お姉ちゃーん、こっちに来て。お客さんがカレーに使われている香辛料について訊きたいことがあるみたい」
サリーが呼ぶとスザンナが出て来て、説明を始める。
「スコリントには世界中から香辛料が集まって来ます。その中から選んでこの宿屋のカレーを作っています。少し甘めに作ってありますが、お口にあいましたか?」
ヴェーヌはコクコクするが、アニマが言う。
「これも美味しいけど、私はもっと甘い方がいいわ」
「えっ、私はもう少し辛い方が好きだわ」
トルリが自分の好みを口にすると、他のメンバーも私は、私はとそれぞれの好みを口にする。それを聞いてスザンナは考え込む。カレーライスの味を甘口にするか、辛口にすべきかと。すると、ヴェーヌが提案する。
「カレーライスの種類を3種類、甘口と普通、辛口の3種類を用意すればいいと思うわ。どれを選ぶかは、お客に選んでもらうのよ」
「なるほど。3種類くらいなら用意するのもなんとかなりますから」
スザンナが両手を打ち合わせて言うと、これで話は終わりと、全員がカレーライスをパクパクし始める。しかし、プレヤが言う。
「お肉も一緒に食べたいな」
すると、他のメンバーも同意する。そして、トンカツ、 ハンバーグ ウインナソーセージ、鶏肉のから揚げ、いろいろな名前を口にする。肉以外にもコロッケ、オムレツ、ゆで卵、スコッチエッグなどの卵料理や海老と帆立貝の揚げ物なども話題に出て上がる。すると、スザンナが困った顔をする。
「確かにそれらを一緒に食べると美味しいと思います。でも、そんなにたくさん作れません。ソースもそれぞれ用に必要ですし」
「そうよね、大変よね。だったら、好き嫌いもあるから、1食で2,3種類用意すればいいわ。ソースは、そうね、カレーはソースにもなるから、カレーライスの上に乗せて出せばいいわ。トッピングと言ったかしら?」
コクコクと頷くスザンナにパシファが手を上げる。
「朝食には普通にパンとサラダ、スープの普通の朝食を用意した方がいいです。朝からカレーライスは、カロリーの取りすぎになる人たちもいますから」
元気一杯の若者なら、朝からカレーライスでもいいのだが、摂取カロリーを気にする女性や年配の人には、朝からカレーライスはきついのだ。その意見にもスザンナは頷く。
「みなさんの意見はとても参考になります。よく考えてみます」
これで食事の話が終わったと思ったセルクが遠慮がちにスザンナに尋ねる。
「スザンナさん、お母様が病気と聞きましたが、……」
スザンナは一瞬目を伏せるが、すぐに困った表情で説明をする。
「はい。この島特有の原因不明の病気になって、ベッドで寝ています。治療方法は森の奥に生えている黄金のリンゴをすり下ろして食べさせることです。。でも、最近森にオウシ型魔物が出ているので、黄金のリンゴを採りに行けないのです」
それを聞いてセルクは肩を落とす。セルクの回復魔法のレベルはバービレの指導もあり、冒険者のレベルで言えばB級。だから、できればサリーの母親を回復魔法で治癒したいと思っていたのだ。しかし、その病気に関して知っている病気しか治癒できないのだ。セルクが無言でいると、プレヤが言う。
「僕たちはC級冒険者だ。オウシ型魔物なんて討伐できるよ」
「ありがとうございます。でも魔物を討伐するだけではダメなのです。黄金のリンゴを手に入れるには、黄金のリンゴが自分で木から落ちたくなるような曲を歌うか演奏しなければならないのです。強引に採った黄金のリンゴには何の効果もありません」
困ったプレヤがフェネを見ると、フェネはニッコリしてコクコクする。どうやらフェネはそのような曲を知っているようだ。ほっとしたプレヤは胸を張って言う。
「なんとかするよ。明日の朝、黄金のリンゴを採りに行くよ」
スザンナが感謝すべきか、止めるべきか分からずに無言でいると、サリーが言う。
「じゃあ、黄金のリンゴの生えている場所まで私が案内するわ」
*
翌日の朝食後、『星とバラの妖精』は森の中を星魔法の羊に乗って、2列縦隊進んでいる。先頭はアニマと道案内のサリーが一緒に乗った羊とプレヤ、その後にヴェーヌとフェネ、トルリとレア、セルクとポチを抱いたパシファと続く。
「わあ、羊さんってモフモフ-。とっても気持ちいいわ」
羊に乗ったサリーは羊のモフモフが気に入ったようである。途中までピクニック気分で順調に進んでいたが、突然、ポチが右を向いてワンワンと吠える。そちらを見たパシファが叫ぶ。
「右からシカ型魔獣が2体来ます」
プレヤとヴェーヌが水魔法を放って、シカ型魔獣2体を煙に変える。
「魔石の回収は帰りにしよう。まずは黄金のリンゴを採るのが先だから」
プレヤが言うとサリーが驚いて言う。
「お姉さんたち凄い! シカ型魔獣を簡単に討伐するなんて」
「僕たちはC級冒険者だからね。D級魔獣のシカ型魔獣なんて敵ではないよ。魔獣が出たってことは、オウシ型魔物が出てもおかしくないよ。」
プレヤの言葉にフェネが応じる。
「魔物は魔法を使うから用心して結界を張った方がいいかしら?」
「そうだね、バリヤより結界の方がいいね。不意打ちは物理攻撃より魔法攻撃の方が防ぎにくいから」
フェネはコウコクすると詠唱する。
「結界 オン」
すると、8体の羊を包み込むように輝く結界が張られる。サリーの道案内で10分ほど進むと、再びポチが左を向いてワンワンと吠えたので、一行は歩みを止める。
すると、左の方から木々の間を水球が飛んで来るが、水球は結界に衝突して弾かれる。弾かれた水球は大きな木に当たり、木はバキバキッと音を立てて倒れる。水球の飛んで来る先を見ると、1体のオウシ型魔物の角の先から水球が放たれている。
それを見たプレヤとヴェーヌはすぐに羊から降りる。そして、プレヤは右手をヴェーヌの左手とつなぎ、左手にロータスワンドを持つ。ヴェーヌは右手にスターワンドを持つ。そして、同時に詠唱する。
「「星魔法 ヘルクレス座」」
すると、腰に布を巻いただけで、右手にこん棒を持った身長5メートルの巨人がオウシ型魔物の前に現れる。巨人を見たオウシ型魔物が角で巨人を突き刺そうと突進するが、巨人がこん棒をオウシ型魔物の頭に振り下ろすと、オウシ型魔物は煙となり魔石を落とす。
「すっごーい。凄いわ、お姉さんたち。今まで誰もオウシ型魔物を倒せなかったのよ。みんな喜ぶわ。さあ、ここまで来ると黄金のリンゴの木まですぐよ」
オウシ型魔物の魔石は大きいので、素早拾ってから進む。サリーの言う通り、そこから5分とかからないで黄金のリンゴの木の生えている場所に到着する。そこは他の木が生えていない、50メートル四方の草原だ。
陽の光を浴びてピカピカ光るたくさんの黄金のリンゴの果実をつけている、黄金のリンゴの木が1本だけ立っている場所だった。黄金のリンゴの木を見てサリーが叫ぶ。
「わあー、黄金のリンゴがたくさん成っているわ。オウシ型魔物がいたから、最近誰も採りに来なかったからね」
そして、サリーはトコトコと黄金のリンゴの下に歩き、お願いする。
「黄金のリンゴの木さん、お母さんが病気なの。黄金のリンゴを1個ちょうだい。お願いします」
そして、ペコリと頭を下げるとフェネを見る。フェネは携帯魔法で横笛を出すと演奏を始める。『ロンドンデリーの歌』、素朴で穏やかなメロディの曲だ。いろいろな歌詞がついているが、その中の1つに、好きな男性にもぎ取られたい、とリンゴの実の気持ちを歌うものがある。曲が終わると、黄金のリンか1個サリーの手に落ちて来た。
*
宿屋に帰ると、すぐにスザンナが黄金のリンゴをすりおろし、寝ている母親の口にスプーンで運び食べさせる。一口ごとに顔色が良くなり、すべての黄金のリンゴを食べさせ終えると、母親は体を起こして言う。
「すっかり調子が良くなったわ。スザンナ、サリー、ありがとう。心配をかけたわね。もう大丈夫よ」
それを聞いて、スザンナとサリーはベッドの母親に抱きついて、涙を流して喜んだ。
ギリシャ神話の「ヘルクレスの12の試練」から「クレタ島の牡牛捕縛」と「ヘスペリデスの黄金のリンゴ入手」を参考にしました。
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参考
「ロンドンデリーの歌」 作曲 アイルランド民謡 作詞 アイルランド民謡




