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第10話 タクレ島

  翌朝、『星とバラの妖精』はテネアの冒険者ギルドで、ブタ型魔獣と大イノシシ型魔獣の討伐報告をしてから冒険者ギルド間転移陣を使い、スコリントの冒険者ギルドへ転移する。


スコリントは港町で、この大陸の商業と交易の中心地である。東から、西から、南から商売のための商品を積満載した船がやって来る。広大な港には大商店が軒を連ね、巨大な倉庫群が立ち並んでいる。街にはいろいろな民族衣装を着た人たちが歩いている。


『星とバラの妖精』は、港とその先に広がる海の風景を小高い丘から眺めている。フェネが感嘆の声を上げる。


「とってもきれいな海ね。それに島がたくさんあるのもいいわ。見ていて飽きないわ」

「そうね。それに太陽の光を反射して海面がキラキラしているわ。夏ね」


ヴェーヌも同意すると、トルリが提案する。


「私はこの海で泳ぎたいわ。どう、みんな?」

「泳ぐのは無理よ。水着を持ってきていないわよ」

「大丈夫よ。水着はこの街のお店で買えばいいのよ」


「水着を買うってお金がかかるわよ」

「昨日手に入れた魔石を売ったお金があるじゃない。大イノシシ型魔獣の魔石はとっても高く売れたよね」


アニマが反対するが、トルリに押し切られる。他のメンバーも賛成したので、水着を買いに街にいくことになった。



水着を売っている店は、かなり大きい店だ。世界各国の民族衣装や髪飾り、腕飾りなどを売っているコーナーの横に水着のコーナーがある。そのコーナーで『星とバラの妖精』は、ワイワイと仲良く水着を選んでいる。アニマが大声を出す。


「これ水着なの? 胸の部分と腰の部分に分かれていて、お腹の部分がないわ」

「えっ、おへそが見えちゃうじゃない、恥ずかしいわ。そんな水着誰が着るのよ」

「そうよ、誰がこんな水着を着るのよ。誰も着ないわよ」

「この水着を着てビーチを歩くって、全裸で歩くのと一緒よ」


他のメンバーも口々に同意する。すると、そこに店員がやって来る。


「お嬢様方、この水着は大人用です。体型や胸が発展途上のみなさんが着るには早すぎます。あっ、失礼しました。お1人様だけにはお似合いの水着です」


店員はそう言うと、パシファの大きな胸をジーと見る。パシファは両手で胸を隠して、恥ずかしそうに言う。


「そ、それは私が大人ですからです。それに胸が大きいと人から、特に男の人からジロジロ見られて嫌です。走ったりする時も邪魔です」

「えっ、大きな胸は走る時に魔になるの? だったら私の胸はほどほどの大きさになればいいや」


アニマは活発に動き回るのが好きなのだ。他のメンバーは、将来の自分の胸の大きさについて考え込んでいるようだ。しばらくして、ハッと我に返った『星とバラの妖精』たちは普通の水着を購入することに決定する。そして、店員にプレヤが尋ねる。


「どこか泳ぐのにいい場所はあるかな?」


店員はパシファをチラッと見てから答える。


「タクレ島の海岸に観光客用の泳ぐ場所があります。そこは男性と女性で泳ぐ場所が別々に決められている区域もあります。宿もその前に何軒もあります。それから、海岸沿いには夏限定の食べ物店もあります」


パシファがすぐに反応する。


「そこに決めましょう。そこに行きましょう」


誰も反対しなかったので、プレヤが店員に尋ねる。


「じゃあ、そこに行こう。それでタクレ島に行くにはどうしたらいいですか?」

「北桟橋の8番乗り場から、30分毎にタクレ島行きの船が出ています。その船に乗れば20分くらいで島に到着します」


その説明を聞き、支払いを済ませて出口に向かう途中でフェネの足が止まる。見ているのは、倭国の民族衣装の売り場に展示されている、白い小袖に赤い袴の巫女服である。


「この巫女服はアルタイルの森の巫女服と違うわ。私たちの巫女服は小袖と袴は同じ色だし、デザインも少し違う。アニマ、トルリ、私たちは音楽魔法一族の巫女だよね。倭国の巫女服を着てみたいと思わない?」


アニマとトルリは顔を見合わせてウンウンと頷く。


「そうね。少しアレンジして舞台で着る衣装の一着にいいわね」


トルリが言うとアニマも続く。


「そうね、アルタイルの森のシルクで作った方がいいわ。ガリレさんに見本として1着だけ買って帰ろうよ」


その意見にフェネとトルリが同意して、巫女服を1着買って店を出ようとした。しかし、今度はトルリが足を止める。お土産売り場のコーナーだ。


「いっけない、お土産を買うのを忘れていたわ。お菓子を買って帰らないと妹が泣いてしまうわ。悪いけどみんな少し待っていて」


そう言うと、トルリはお菓子を選び始める。他のメンバーもお土産を選び始める。こうやって、女の子の買い物は時間が長くなっていくのである。結局、お土産を買うのに30分くらいかけて店を出た。10分ほど歩いて北桟橋の8番乗り場に着いて船に乗ると、すぐに船は出航する。運が良かったようである。


出航後、『星とバラの妖精』は船縁から景色を眺めている。その中で海中を見ていたセルクが言う。


「とてもきれいな海です。テンブリ王国やノルデンランド王国の海とは全然ちがいます。透明度がかなり高いです。かなり深い所まで見えるようです」

「そうね。テンブリ王国やノルデンランド王国の海を見たのは冬で、今は夏。それを差し引いてもきれいだわ」


ヴェーヌが応じると、カモメの群れが海面に着水する。それを見てフェネが提案する。


「みんなで『かもめの水兵さん』を歌いましょう」


その提案に残りのメンバー全員が賛成して、楽し気に歌い出す。


♪かもめーのすいへいさん ならんーだすいへいさん しろいぼうし

しろいシャツ しろいふくー なみにチャップ チャップ うかんでるー


歌い終わるとカメが海面に姿を現す。すると、フェネが再び提案する。


「次は海のカメさんが出て来る歌よ」

「海のカメさんが出て来る歌? そんな歌あった? 『うさぎとかめ』は陸のカメさんの歌よね?」

「あるわよ。『浦島太郎』よ。さあ、歌いましょう


♪むかしむかし うらしまはー 


最初はフェネだけが歌い出したが、他のメンバーもどの歌かが分かると一緒に歌い出す。



♪たすけたかめに つれられてー りゅうぐうじょうへ きてみればー 

えーにもかけないうつしさー 


歌が終わると、ちょうど船がタクレ島の港に着いた。船から下りると、宿の名前が書かれている小旗を持った人たちが待っていて、口々に大声を上げている。


「「「今夜の宿はうちの宿へどうぞ。どの部屋も広くてきれいですし、食事も美味しくて、ベッドもフカフカですよ~」」」


そんなことを叫んでいる大人の男の横で、イルカ亭と文字が入っている小旗を持って、俯いている小さい女の子がいる。青髪をポニーテイルしている青目の6才くらいの女の子だ。他の人は小旗を高く上げているのに、その女の子は小旗を下向きに持っていて、体全体が暗い雰囲気に包まれている。


始めて見る客引きの風景に、『星とバラの妖精』は戸惑っている。その中で小さい女の子に気づいたセルクが、その女の子に近づき話しかける。


「どうしたの? 元気がないわね」


俯いていたので、セルクが近づくのに気が付かなかった女の子はハッとして顔を上げる。そして恐る恐る口を開く。


「あ、あのー、ひょっとして、私の宿に泊まってもらえるのですか? 料理を作る担当のお母さんが病気で、食事は朝と夜の2回ともお姉ちゃんの作るカレーライスだけなのですけど」


セルク1人だけで決められないので、他のメンバーの方を見る。しかし、彼女たちは、いつの間にかすぐ後ろにいて一緒に話を聞いていた。そして、プレヤが口を開く。


「いいじゃないか。カレーライスは大好物だよ。みんないいよね?」


全員がコクコクするのを見て、セルクは女の子に言う。


「私たちは8人と犬1匹だけどいいかしら?」

「はい。犬は馬小屋になりますけど。あっ、宿屋の名前はイルカ亭で、私の名前はサリーです。よろしくお願いします」


ポチがワンと嬉しそうに吠えたので、セルクは大丈夫だと答える。そして、女の子を先頭に『星とバラの妖精』は歩き、10分ほどで宿に到着する。宿は3階建てで、大きさは他の宿と同じくらいだ。大きさだけなら、他の宿屋に負けていないし、外側もきれいだ。


来る途中でサリーが言うには、父親は漁師で宿屋は母親と姉、サリーの3人でやっていて、1ヵ月前に母親が病気で倒れるまでは順調だった。しかし、料理担当の母親の代わりの料理人がおらず、姉はカレーライスしか作れない。


だから、だんだん客足が遠のき、ここ2週間ほどは宿泊客がいない状況らしい。だから、もう宿屋を止めようかと話し合っている状況らしい。宿に到着すると、サリーがドアを開けて元気よく声を出す。


「お姉ちゃんただいまー。お客さん連れて来たよー。8人と犬1匹だよー」


パタパタと慌てて走る足音が聞こえて、12才くらいの青髪緑目の少女がやって来る。『星とバラの妖精』を見るとビックリして言う。


「わあ、本当にお客さんだ。あっ、失礼しました。いらっしゃいませ。8名様ですね。2階に2人部屋が8つあります。お好きな部屋を4つお選びください。それから」

「スザンナお姉ちゃん、詳しい説明は途中で済んでいるからいらないわ」

「そうなの。じゃあ、2階の部屋と馬小屋にお客様をご案内して」


その後、8人は海側の部屋を4つ、プレヤとヴェーヌ、レアとセルク、フェネとパシファ、アニマとトルリの組み合わせで選ぶ。パシファに抱かれたポチは馬小屋の空いている馬房に通された。その後、水着に着替えて『星とバラの妖精』の8人は宿屋から少し離れた女性専用泳ぎ場に向かった。ポチはお留守番である。


女性専用泳ぎ場の砂浜は人が多くて、混雑しているのを見たプレヤが言う。


「まだお昼ご飯がまだだったよね。屋台で何か、軽く食べようか?」


海岸沿いに並んでいる屋台を眺めて、アニマが言う。


「たこ焼き屋に焼きそば屋、ホットドッグ屋、ハンバーグ屋があるわ。どれにしようかな。やっぱり焼きそばかな?」

「私はたこ焼き屋一択だわ。獲りたてのタコが使っているようだし」


トルリはたこ焼きがいいようだ。結局意見が一致せず、各自好きなものを選ぶことになった。食後、砂浜で遊ぶことは諦めて泳いでいたが、浮き輪につかまっていたアニマがトルリに羨ましそうに言う。


「トルリはいいわね、水魔法で泳げて。私も水魔法が使えたらな~」

「そうね、水魔法で泳ぐと楽よ。でもアニマも風魔法で泳げばいいんじゃない? 後ろに放出するのが水か風かが違うだけでしょう?」

「あっ、そうか。やってみるわ」


アニマが両手を水中に入れて風魔法を使うと、浮き輪が動き出す。


「やったわ。これで私も速く泳げるわ。そうだ、アニマ。魔法を使ってどちらが速く泳げるか競争しようよ」


アニマが嬉しそうに言った。そして、トルリが勝負を受けたので、競争が始まる。アニマの風魔法とトルリの水魔法と対決だ。2人とも浮き輪の中に入り、両手を後ろに向かて魔法を放つ。2人の進むスピードは同じくらいで、いい勝負だ。


一方その頃、パシファとレアは浮き輪でプカプカ浮きながら会話をしている。


「パシファさん、どうして麦わら帽子を被っているのですか?」

「あまり日焼けしないためよ。私は肌が弱いの。日焼けしすぎると、肌がヒリヒリするの。海岸の貸麦わら帽子屋で借りたのよ」

「そうなんですね。私も借りてこようかな?」


そこへ浮き輪に入ったアニマとトルリが突進して来る。


「わあー、どいてどいて。私止まれないし、曲がれないのよーーー」


アニマが叫ぶが、間に合わずレアとパシファに衝突する。衝突のショックで弾き飛ばされたレアはフェネに、パシファはセルクに衝突する。そして、6人全員が笑い出す。全員浮き輪に入っているので、ケガはない。


「ねえ、あなたたち、魔法を使うのはいいけど、止まり方と曲がり方ができるようになってね」  


近くで見ていたヴェーヌが呆れて言う。そんな感じで遊んでいた『星とバラの妖精』だったが、夕方になったので宿屋に帰ることにした。



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「うさぎとかめ」 文部省唱歌 作曲 納所 弁次郎  作詞 石原 和三郎

「かもめの水兵さん」 作曲 河村 光陽  作詞 武内 俊子

「浦島太郎」   文部省唱歌  作曲 田村 虎蔵 作詞 石原 和三郎


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