第8話 首都テネア②
甲冑騎士400メートル競走が行われる競技場は、円形で壁は明るい緑色の大きい建物だった。中に入ると観客が9割ほど入っていたが、2万人ほどはいるだろう。走る所は一周が400メートル楕円形。甲冑騎士400メートル競走はこれを一周するのだ。
『星とバラの妖精』が席で競争開始を待っていると、場内アナウンスが流れた。
「甲冑騎士競走は、騎士の体重1キロ当たりの甲冑の重さが0.3キロになるように、騎士の体に直接重りをつけて行われます。それでは決勝に参加する選手の入場です。盛大な拍手をお願いします」
場内アナウンスが終わると、『トルコ行進曲』が流れる。1人の選手の名前が呼ばれると、その選手の応援団から大きな歓声が沸き起こり、選手が入場して来る。7人の入場が終わり、最後の8人目の名前が呼ばれる。
「ナターシャ選手 センプロ帝国代表」
出て来た選手は小柄で子どものような身長だ。その選手は応援団の方へ手を振り応援に答える。元気いっぱいな様子だ。それを見て、プレヤが言う。
「やっぱりナターシャだ。頑張れナターシャ」
それに全員がコクコクする。しかし、首を傾げてレアが疑問を口にする。
「あの甲冑を触った時にかなり重そうな感じがしたのです。身体強化の魔法を使ったとしても、ナターシャは甲冑の重さを感じていないように見えるのは何故でしょうか?」
少しの沈黙の後、ヴェーヌが口を開く。
「たぶんだけど、あの甲冑には魔法がかけてあるのじゃないかしら。人が身につけると、重さを感じなくなる魔法がね」
レアがしばらく考えてから、頷いて言う。
「そう考えると納得できますね。あっ、スターターが動き始めました」
見ると、選手たちはスタートラインに並んでいて、スターターが定位置に着いて右手をあげた。その手をさっと振り下ろすと太鼓がドーンと打ち鳴らされる。選手たちは一斉に飛び出す。それと同時に場内に軽快なBGMが流れる。『クシコスポスト』だ。BGMに乗るように8人の選手が走る。
100メートル、200メートルと8人の選手たちは一団となり進む。
ナターシャは最後方から走っている。他の選手に比べて体が圧倒的に小さいので、集団の中で走って位置取り争いをして、押し合いをして転ぶのを避けたかったのかもしれない。走り方を見ると、他の選手たちがガシャガシャと音を立てて、苦しそうに走っているのに対して、ナターシャは足を高く上げて軽やかに走っている。余裕たっぷりの走りだ。
残り100メートルくらいになった時、ナターシャが順位を上げ始める。集団の外側をスーと上がり、残り50メートルでトップに立つと、そのままトップでゴールした。そして、そのまま余裕たっぷりに手を振りながら走って一周する。ウイニングランだ。応援団の前では大歓声が上がる。
『星とバラの妖精』の前に来た時、プレヤが叫ぶと残りのメンバーも続く。
「ナターシャーーー、金メダルおめでとうーーー」
「「「おめでとうーーー」」」
それを聞いてナターシャは走るのを止めて、『星とバラの妖精』の方を見てキョロキョロする。そして『星とバラの妖精』を発見したのか、両腕を上に上げて振り、ピョンピョン跳ねる。声を出したのが誰なのかわかったようだ。
『星とバラの妖精』も両手を上に上げて、大きく振る。その後、ナターシャがゴール地点に戻るとすぐに表彰式が実施される。表彰台の中央、一番高い場所にナターシャが上がると、ここでもたくさんの拍手と褒めたたえる声が送られた。
*
甲冑騎士400メートル競走の会場を出ると、プレヤが言う。
「この後はどこに行こうか?」
アニマとトルリが声を揃えて答えると、プレヤもすぐに同意する。
「「お腹が空いたーーー」」
「そうだね、屋台を探して何かたべようか」
育ち盛りの年頃なので、運動をしていなくても、すぐにお腹が空くのかもしれない。ひょっとすると、単なる食いしん坊かもしれないが。屋台を探してあちこち歩き回り、屋台が集まっている広場を見つけた『星とバラの妖精』は串焼きの屋台が集まっている場所に突撃する。まるで肉食系女の子の集団のようだ。
串焼きの屋台の肉には鶏肉、豚肉、牛肉の3種類がある。プレヤとヴェーヌは牛肉の串焼き、レアとフェネ、セルクは豚肉の串焼き、トルリとアニマは鶏肉の串焼きを買いパクパク食べている。しかし、パシファは地面に降ろしたポチに持参してきた食べ物を与えている。
「パシファさん、ポチにも串焼きを食べさせてあげたらいいのでは?」
それを見たセルクが尋ねると、パシファは答える。
「人が食べる物でも犬にとっては身体に良くない物があるそうです。だから、ポチには持って来た物しか食べさせないように言われています」
「なるほど、じゃあポチは私がお世話はしますから、パシファさんも串焼きを買ってきてください」
「ありがとう。じゃあお願いね」
パシファはいそいそと串焼きを買いに行く。しばらくして帰って来たパシファの手には鶏肉の串焼きと野菜の串焼きがある。そして、肉ばかりをパクパク食べているメンバーに忠告する。
「肉ばかり食べていないで、野菜も食べないと魔力量が増えませんよ」
それを聞いてあわてて野菜の串焼きを買いに行くメンバー。魔力量を増やしたい欲求が肉を食べたい欲求を抑えたようだ。ひとしきり食べて満足したメンバーを見回してプレヤが口を開く。
「お腹も満足したね。次はどうしようか?」
今度はフェネが手を上げる。
「私、鍛冶屋さんに行ってみたいわ」
「「「えっ、鍛冶屋さん?」」」
予想外のフェネの希望にメンバーは驚く。そして、プレヤが尋ねる。
「どうして鍛冶屋さんに行きたいの?」
それに対する返答も普段のフェネらしくないものだ。フェネはニッコリして言う。
「それは鍛冶屋さんの所で答えるわ」
滅多に我が儘を言わないフェネの希望に『星とバラの妖精』は行くことに
すんなり決める。そして、屋台の店主に鍛冶屋の場所を教えてもらい、鍛冶屋に向かう。
*
鍛冶屋の前に到着したフェネは、しばらく鍛冶屋から聞こえる複数の鉄を叩くハンマーの音に耳を傾ける。そして、首を横に振って口を開く。
「伝説通りじゃないわね。やはり作り話だったのかしら?」
フェネの言葉が理解不能なトルリが詳しい説明を求めると、フェネが言う。
「ここで立ち止まって話をすると迷惑になるから、他の場所で話をしましょう」
そして、近くに小さな公園を見つけて、フェネが説明を始める。それによると、
大昔ピタゴラスが、この町の鍛冶屋から聞こえる複数のハンマーの音の中できれいに響き合うものがあった。
それをきっかけに、弦を使って音の研究をして、弦の長さが3対2のような整数比のときにきれいに響きあうことがわかったらしい。
「それだけなの? 音楽と整数の比って関係あるの?」
トルリが言うと、弦楽部族のアニマが割り込む。
「そう言えば、弦の長さが半分、2対1になると、1オクターブ上の音がでるわね。これもピタゴラスの研究と関係があるのかな? フェネ、ギターを出して」
フェネが携帯魔法で出したギターをアニマは受け取る。そして、一番太い弦のどこも押さえずに弦を弾く。次に弦の長さの半分の場所を押さえて弦を弾く。すると最初に出した音の1オクターブ上の音が響く。
「ねっ、弦の長さが半分、2対1になると、1オクターブ上の音が出たでしょう?」
他のメンバーがコクコクすると、アニマは弦の長さが3分の2になる場所を押さえて弦を弾く。すると、最初の音ときれいに調和する音が出る。その音と最初の音を10回ほど繰り返して出すと、それを聴いてパシファが感心して言う。
「本当に2つの音がきれいに響く感じがします。弦の長さが3分の2ということは、整数比にすると3対2ということですね」
パシファの言うことにコクコクしてから、フェネはトルリに質問をする。
「トルリ、ドからシまでピアノの鍵盤の数はいくつかしら?」
「黒鍵が5つと白鍵が7つで合計12だけど?」
「その数を決める大元になったのが、ピタゴラスたちの研究なの。もちろんピタゴラスたちの研究を発展させたものが、現在の基準になっているのだけど」
トルリはビックリして言う。
「鍵盤の数なんて気にしたことが無かったわ。それに音楽と数字が関係あるなんて、信じられないわ」
「フフフ、私も先週お母様に教えてもらったばかりなの。私もすごく驚いたわ」
「じゃあ、私も数字のことをもっとちゃんと勉強しよ~と」
トルリが算術を勉強する気になったようである。ピタゴラスの定理を勉強するかどうかはわからないが。話が一段落したと判断したプレヤが言う。
「誰か他に行きたい場所はあるかな?」
全員が無言でいると、遠くから合唱の歌声が聴こえて来る。
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参考
「トルコ行進曲」 作曲 ベートーヴェン
「クシコスポスト」 作曲 ヘルマン・ネッケ




