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第7話 首都テネア①

 翌朝、村長に見送られて『星とバラの妖精』は出発した。しばらく歩いて周囲に人の姿がなくなった場所でプレヤが提案する。


「この辺りでいいかな。ここからテネア近くまで飛ぶよ」

「「「えっ、飛ぶの?」」」


それにヴェーヌ以外のメンバーが驚く。プレヤがニッコリして説明する。


「僕とヴェーヌの2人の魔力量が増えたし、練習もたくさんして、ここからテネアくらいまでなら、みんなを乗せて飛べるようになったんだ。風も当たらないし乗り心地もいいよ」


そして、プレヤは右手をヴェーヌの左手とつなぎ、左手にロータスワンドを持つ。ヴェーヌは右手にスターワンドを持つ。そして、同時に詠唱する。


「「星魔法 ペガスス座」」


現れたのは翼のある巨大な馬。子どもなら20人くらいは乗れそうな大きさだ。驚いているメンバーを見て、プレヤが胸を張る。ヴェーニは静かに微笑んでいる。ペガススが座って乗りやすい態勢をとると、アニマがピョンピョンと跳ねて乗り込む。


「みんな早く乗ってよ。フワフワで気持ちいいよー」


アニマが叫ぶと、みんなは顔を見合わせてからペガススに乗り込む。ポチはパシファが抱かれている。乗り込みが終わると、プレヤが上げた右手を前に振り下ろして声を上げる。


「ペガスス、発進」


ペガススはゆっくりと走り出して、徐々にスピードを上げる。翼を羽ばたかせるとふわりと空に舞い上がり、メンバーたちからキャーキャー、ワァーワァーと歓声が上がる。テネアへの飛行中もワイワイガヤガヤ、キャーキャーと騒いでいたが、テネアが見えて来た時、レアが指をさして声を上げる。


「みんな、あそこがテネアよ。あの直角三角形の城壁が有名なピタゴラスの城壁よ。3つの辺の比が3対4対5になっている城壁なの」


レアの言葉にトルリが首を傾げて尋ねる。


「ピタゴラスってなあに? 魔獣の名前?」

「違います。大昔のとっても頭のいい人の名前です。直角三角形の3つの辺に関するピタゴラスの定理という有名な定理があるのです」

「ふうん、有名な定理ってよく分からないけど、あの珍しい城壁の形は偉い人の名前から付けられているのは分かったわ」


そんな会話が交わされている中、ペガススは城壁近くの草原に着陸する。ペガススから下りた『星とバラの妖精』は城壁の門に向けて歩き出す。門に近づくと長い行列ができている。並んでいる人たちの服装は様々で、初めて見る衣装を着ている人も多い。顔をベールで覆っている女の人もいる。そんな人たちに競技会のプログラムを売っている商売人がいる。プレヤはプログラムを一部購入する。


門の衛兵に尋ねると、各国対抗戦を見物する観光客がいろいろな国から来ているとのことである。そして、何か事件が起こらないように、門での検査も厳重なことも重なって長い行列になっているらしい。無事に中に入ると、アニマが案内板を発見したので全員で案内板の前に立つ。


「みんな、どの競技を見にいこうか?」


どうやら、各国対抗戦を見物することは決定事項らしい。プレヤが尋ねるとトルリが希望を言う。


「私、水泳の競争を見たことがないわ。だから、水泳の50メートル自由形が見たい」

「私は槍投げが見たいかな。槍がどれくらい飛ぶのか香味があるの」


アニマもすぐに続くが、他の者からは希望が出ない。一人ひとりの顔を見てプレヤは決めた。


「僕は甲冑騎士400メートル競走を見たい。この3つの種目を見て回ろう。ここから近い順で、最初は水泳の50メートル自由形、次は槍投げ、最後は甲冑騎士400メートル競走だね」

「試合開始の時間は大丈夫なの?」


ヴェーヌが疑問を口にする。プレヤは慌てて購入したプログラムを見て確認して、安心した様子で答える。


「大丈夫だよ。さあ、行こう。あっちの方だ」


『星とバラの妖精』はゾロゾロと水泳会場に向かう。水泳会場は屋根が波型で、壁が水色の建物だった。中に入ると、プールは50メーロルプールで8つのコースがある。


観客席はほぼ満員で、いくつかのグループがあるようだ。あるグループは国旗の描いてある小旗を全員が手にし、あるグループは国旗の描いてあるハチマキをしている、別のグループは1つの大きな国旗を中心に集まっているようだ。


その中にソーミュスタ王国の旗がないので、適当に空いている席に座る。やがて、場内に曲が流れて8人の選手が入場して来る。


「この曲は『鱒』ね。水泳だから魚の曲なのかしら?」

「そうね。それより女の選手が1人いるよ。決勝に残るくらいだから泳ぐのが速いのだろうけど、男の人に勝てるのかな?」


フェネの呟きにトルリが答え、疑問を口にする。確かに男子選手は筋肉モリモリの体つきだが、女子選手は細い体つきで筋肉は目立たない。そんな中、選手の紹介が始まり、1人の選手の紹介ごとに会場の異なる場所から声援が飛ぶ。自分の国の代表選手を応援しているのだろう。


選手紹介が終わると、すぐに競技がスタートする。選手たちはきれいに揃って水に飛び込む。水から浮かび上がった選手たちはクロールで泳ぎ出す。いや、女子選手だけは両手を真っ直ぐに後ろに向けている。


25メートル付近までは横一線だったが、そこから女子選手が先頭に立ち、徐々にリードを広げてそのままトップでゴールした。国旗が描かれたハチマキをした観客のグループは大騒ぎである。


「ねえ、あの女子選手は泳いでいなかったよね。どうして進んでいたのかな?」


アニマの問いにヴェーヌが答える。


「アイーダお義姉様と同じよ。水魔法を使ったのよ」


タイリア伯爵領で、アイーダはバービレとの水泳対決で水魔法を使った。水泳に魔法を使うのはズルイというバービレの抗議に、自由形だから魔法を使うのも自由と、アイーダは主張したのだ。どうやらこの大会でも魔法の使用は許されているらしい、ヴェーヌはそのように考えたのだ。それにプレヤも同意する。


「そうだね。そうじゃないと女子選手は優勝できないよ。魔力勝負なら女子も男子と互角に戦えるからね」


他のメンバーもコクコクして同意する。しかし、セルクが手を上げる。


「魔法の使用が認められるなら、身体強化の魔法でも使用可能でしょうか?」


最近セルクは身体強化の魔法の研究を始めている。セルクの使う回復魔法は身体のケガを治療できる。それをきっかけに身体の運動能力を向上させる身体強化の魔法に興味を持ったのである。セルクの質問にヴェーヌが答える。


「身体強化の魔法も使用できると思うわ。魔法を使うという意味では同じだから。さっきの水泳の男子選手も使っていたかもしれないわ」

「さあ、槍投げの会場に急ごう。競技が始まるまであまり時間がないよ」


少しあせったようなプレヤの言葉で『星とバラの妖精』は水泳の会場を急いで出る。町中に設置されている会場案内地図を頼りに槍投げの会場に急ぎ、なんとか競技開始に間に合う。槍投げの会場は屋根のある長方形である。屋根付きなのは風の影響をなくすためだろう。


会場内は、水泳会場と同じでほぼ満員で8種類の国旗があちこちにある。空いている席を確保したところで『春風』の曲が流れて8人の選手が入場して来る。男子選手が6人と女子選手が2人だ。7人は大人で1人の女子選手だけは身長が低く女の子のようだ。その女の子選手を見てアニマが言う。


「ねえ、あの女の子はノルデンランド王国のマーシャじゃない?」


それを聞いて全員が女の子に注目する。そして、トルリが答える。


「うん、あの金髪赤目の女の子はマーシャに間違いないよ。槍投げにマーシャが参加するのは不思議じゃない、って言うか当然だよね」

「そうだね、マーシャだよ。よし、みんなでマーシャを応援しよう。ただ見ているより応援する選手がいる方が楽しいからね」


プレヤが言うと全員がコクコクして同意する。場内のアナウンスによると、この槍投げ決勝戦は1人3回槍を投げることができて、一番遠くへ投げた距離がその選手の記録となる。


投げる順番は予選の通過順位の低い選手から槍を投げるルールらしい。1回目の槍投げが始まるとマーシャは6番目に登場した。つまり、予選を3位で通過したことになる。


『星とバラの妖精』が大声で声援を送る中、マーシャは右手に槍を持ち、助走をして槍を投げる。投げるとすぐに体を起こして、右手を槍の方へ突き出して口を動かす。すると、槍はスピードを上げてグングン上昇する。槍が落下すると係員が計測して結果が発表された。


その結果は、その時点でトップだ。会場全体からどよめきが起こる。当然だろう、女の子が男子を含む大人の選手より遠くに槍を投げたのだから。


「ひょっとして、マーシャは風魔法を使ったのかな?」


アニマが疑問を口にすると、ヴェーヌが答える。


「そうよ、風魔法を使ったのよ。マーシャの持つ海神ポセイドンのトリアイナの欠点は、槍の届く範囲しか攻撃できないことだからね。でも、マーシャがここまで風魔法を使えるとは思わなかったわ」


「きっと猛練習したのだと思うよ。クジラ型魔獣との闘いでは、トリアイナを遠くまで投げられなくて悔しい思いをしただろうから。そして、猛練習ができる子、努力ができる子だからこそ、海神ポセイドンのトリアイナを手にすることができたと思うよ」


プレヤも同意する。そこにフェネが口を開く。


「なるほど。入場曲が『春風』だった理由がわかりました。風魔法を使うから風。があまり強すぎると屋根に当たったり、制御不能になって観客席に飛び込んでしまうかもしれないから、適度の強さって意味で『春風』なのですね」


その後、3回目まで槍投げは終わり、マーシャは3位、銅メダルを獲得した。

表彰式で嬉しそうにしているマーシャに拍手を送りながら、プレヤが言う。


「マーシャにお祝いを贈りたいけど、連絡先が分からないよ」


それにヴェーヌが答える。


「ノルデンランド王国オセシンキの冒険者ギルド宛て送れば届くと思うわ」

「そうか、そうだね。そうしよう」


そして、『星とバラの妖精』は大満足で槍投げ会場を後にした。



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「鱒」  作曲 シューベルト 第4楽章

「春風」 作曲 フォスター (訳詞 加藤義清)

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