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第6話 カラの国から来た少女 

 テーブルの傍らを通り過ぎる時、テーブルの上に置かれている板にフェネが気づく。


「あら、この板には線が引かれているわ。何かしら? リバーシの板にしては升目が多いようだけど」

「ああ、それは囲碁で使う板ね。正方形を作っている一番外側の4本の線を含めて、縦と横に19本の線は引かれているからね」


フェネの問いに、板を見てヴェーヌが答えると、トルリが更に質問する。


「囲碁ってなあに? リバーシのようなボードゲームなの?」

「そう、ボードゲームよ。発祥はカラの国で、昔は占星術に使われていたらしいわ。それがボードゲームになったと言われているの」


占星術という言葉に星魔法一族のセルクが質問を重ねる。


「占星術としてどのように使うのですか?」

「この板を宇宙と考えるの。2人がそれぞれ白い石と黒い石を交互に、線の交点に置いて出来上がった模様で占ったと伝わっているらしいけど、本当のことはわかたないわ。中央を含めて9つの交点に小さい黒丸があるけど、その交点を星と呼ぶのよ」


ヴェーヌが説明をしていると、後ろから声がする。


「あら、囲碁のことを知っている人がいるなんて、嬉しいわ」


後ろを見ると、黒い目、黒い髪をポニーテールに纏めている10代前半の少女がいた。少女は全員の視線を集めたからか、驚き口を開く。


「突然声をかけるなんて失礼しました、すいません。こんな遠い国で囲碁のことを知っている人がいて、ビックリするやら、嬉しいやらでしたので」


その後の自己紹介によると、彼女の名前はマオニャン、リチウム塩を買いに来たカラの国の商人の娘ということである。そして、父親たちが仕事をしている間、1人で囲碁の勉強をしていたのだと言う。少女が、体をくねくねさせながらもじもじしてヴェーヌにお願いする。


「良かったら、私と囲碁を1局打ってらえませんか? 旅に出てから人と対局することがありませんでしたし、違う国の人と囲碁を打ってみたいのです」

「いいわよ。でも1局だけね。もうすぐ夕食らしいから」


ヴェーヌが申し出を受けて囲碁の勝負が始まる。最初は2人とも隅の星付近に石を置く。その後マオニャンが白い石の近くに黒い石を置き戦いが始まる。その後、数手進んだところでヴェーヌがプレヤに言う。


「この子は強いわ。この勝負は長引きそうよ。先に家に行って休んでいて」


プレヤは頷き、『星とバラの妖精』の残りのメンバーは指定された家に向かう。1時間ほどして、プレヤとフェネとトルリが帰って来る。2人の対戦が行われているテーブルの傍らに来ると、マオニャンがヴェーヌに頭を下げて言う。


「負けました。あなたは強いですね。私は自信があったのですが、完敗です」

「いいえ、あなたは強いです。長くて難解な大ナダレ定石を間違いなく使えるのですから。カラの国の人はみんな強いのですか?」


「ありがとう。私はカラの国の子どもの中では、強い方だと思います。これまで私より強い子どもに会ったことはありませんから」


プレヤが口を開く。


「ねえ、囲碁って得た領土の広い方の勝ちだったよね。見た目、マオニャンの得た領土の方が広いようだけど?」


ヴェーヌがコクコクして答える。


「確かに、マオニャンの得た領土の方が広いけど、よく見て。取られている石もマオニャンの方が多いでしょう? 広い領土を得ても犠牲が多ければ負けなのよ。囲碁の勝負は得た領土の広さと払った犠牲を合わせて決まるの。どんなに犠牲を出しても敵の王様を取れば勝ちの将棋とは違うのよ」


そこにフェネが割り込み、全然違う話題を口にする。


「カラの国はどこにあるのですか? 良かったら教えてください」

「この大陸の東の端にあります。船で4ヶ月くらいでしょうか? 父が商売のためにあちこち寄り道しながら来ましたから、直接行けばもっと短い日数で行けると思いますけど」


マオニャンは一瞬キョトンとしたが答える。フェネは続けて問う。


「カラの国ではどんな曲が流行っているのですか?」

「私の国には昔から民謡や童謡しかありません。音楽を楽しみたい人は、船に乗って東隣の倭国に行っています。倭国の国民は音楽が好きで、南部にはオペラの劇場もありましから」


「えっ、オペラ劇場があるのですか?」

「はい、倭国の人たちは歌が好きですし、上手な人も多いらしいです。オペラ、歌劇の学校もあるそうです」


マオニャンの言葉に、カラの国や倭国の遠さに驚いたのか、歌劇の学校があるのに驚いたのか、フェネは口をポカーンと開ける。その様子を見て、プレヤが商売に関する質問をする。


「そんな遠くの国から来るのは、リチウム塩がいい商売になるからかな?」

「はい。花火を赤く着色するリチウム塩は貴重なのです。特に今月と来月はどこの国でも花火大会のシーズンですから、飛ぶように売れるのです」


リチウム塩は、長い船旅をすう価値のある莫大な利益を生む商品らしい。船旅にかかる費用は、他の物を安く買える場所で買って、高く売れる場所で売ることで得られる利益で賄うことができるだろうし、ひょっとすると利益の上乗せになるかもしれない。そう考えたプレヤは、別の質問をする。


「船で来たってことはテネアでの各国対抗戦は見て来たのかな?」

「はい。私が見た時は予選しか行われていませんでしたが」


「面白そうな競技はあった?」


どうやらプレヤはテネアでの各国対抗戦を観戦するつもりらしい。姿勢が前のめりになっている。それに気押されながら、マオニャンは少し考えてから答える。


「そうね。明日決勝戦が行われる予定の種目だと、甲冑騎士400メートル競走と槍投げと水泳の50メートル自由形が面白いと思います」

「槍投げと水泳は分かるけど、甲冑騎士400メートル競走ってどのような競技?」


「甲冑を身に着けた騎士が50メートル走る競争です。もちろん、身体強化の魔法を使うのですが、1人だけ目立って速い騎士がいました。他の騎士よりもずっと背が低くて女の子のようでした」


それを聞いたプレヤには思い当たる人物がいたので、甲冑騎士400メートル競走は是非見に行こうと思うのだった。


そこへ腰に剣を下げた1人の男がやって来る。


「お嬢様、お食事の用意ができました」


男は一礼してから、言う。たぶん、商隊の護衛だろう。その男は3人を見て、トルリの腰の2本の剣で目を止めた。そして、口を開く。


「お嬢さん、あなたは2本の剣を使うのですか?」

「はい、ハチハチ流剣術を使います」


トルリが答えると、男は顎に手を当てて考えた後言う。


「ハチハチ流剣術とは初めて聞く名前です。良かったら基本の構えを見せてもらえませんか?」


トルリは承諾して、少し離れてから2本の剣を抜いて発声する。


「ハチハチ流剣術 壱の型 朱雀」


トルリは両手を水平に伸ばして構える。そして、再び発声する。


「ハチハチ流剣術 弐の型 玄武」


トルリは両手の剣を体の前で交差させる。そして、さらに発声する。


「ハチハチ流剣術 参の型 青龍」


トルリは剣を持つ両手をダラリと地面に向けて下げる。その時男が口を開く。


「おおー、古文書の通りの型だ」


そして、男は話を始める。内容は、カラの国に魏志倭国伝という大昔の古文書がある。その中に倭国の剣術についての項目があるが、文章はなく絵が1つだけ。その絵とトルリのハチハチ流剣術、参の型と同じということだ。


「ひょっとして、あなたの剣術は大昔の倭国の剣術の流れを汲む者ですか?」

「さあ、わかりません。そうかもしれませんし、偶然の一致かもしれません」


トルリは、そうだと答えたかったが、曖昧に答える。そうだと答えると面倒なことになりそうだからだ。その時他のメンバーも家から出て来て、食事に行くというので、話はそこで終わった。その後、村長の家で夕食をご馳走になる。出て来た料理の中に鯛の塩釜焼きがあった。鯛を塩と卵白を混ぜ合わせたもので包んで焼いた料理で、大好評であった。もっとも、誰が塩釜を割るかで大いに揉めたのだが。


お読みいただきありがとうございます。

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