第5話 塩の村
湖への道はダラダラとした上り坂だった。みんなは少し疲れ気味だ。それを見てフェネが提案する。
「みなさん、ポチもいることですし、『口笛吹きと犬』の曲を口笛で拭きながら歩きませんか?」
「『口笛吹きと犬』って聞いたことのある曲だけど、何の曲だっけ?」
プレヤが尋ねると、あきれたようにヴェーヌが教える。
「ミュージカル歌姫公爵令嬢の中の曲でしょう、忘れたの?」
「あっ、そうだった。覚えているよ。吹けるよ」
プレヤが口笛を吹き始めると、みんなも吹き始めて足取りも軽くなる。曲の最後の方では、ポチもワンワン、ワンと吠える。そんな感じで元気よく歩き続けて坂の頂上に到着すると視界が開けた。
街道横の左にはきれいで、とても大きい湖が見え、右には坂の頂上から続いている森が見える。湖の畔には村があり、村の前には白い土地が広がっている。村から離れた場所には大きな建物が見える。するとセルクがお願いする。
「森にシオシオ草が生えているかもしれません。森に入って探してみたいのですが」
「わかった。みんなで森に入ろう。危ない魔獣がいるかもしれないから」
プレヤの一言で、アニマ、セルク、フェネを先頭に森に入る。しばらくすると、セルクが足を止めて横に歩き出す。そして、しゃがみこんで草をじっと見つめる。
そして、フェネを呼んで2人で話し合いをした結果、シオシオ草だと判断したようだ。
他のメンバーが周囲を警戒する中、30分ほどシオシオ草の採集をする。
「ありがとうございます。これくらいあれば、赤いバラの屋敷で働く人たちに必要な分十分でしょう」
「森の中は涼しいから、いい休憩になったよ。もう少し休んだら湖の畔に行こう。きれいな湖だから、見物したいから」
プレヤが言うと、全員が立ち上がり歩き始める。途中でフェネがセルクに話しかける。
「ねえ、セルク、シオシオ草って海辺の地方に生えている薬草じゃなかったかしら?」
「言われてみれば、そうです。気がつきませんでした。でも何故こんなに海から離れた土地に生えているのでしょう?」
「さあ、何故でしょう。不思議よね」
そんな会話をしていると、街道に出る。そこから湖の方へ進むと、大きな建物とその前に並ぶ荷馬車の列が見えて来る。大きな建物から袋を担いだ人たちが出てきて荷馬車に積んでいる。
「あの大きな建物は倉庫かしら? あの袋の中には何が入っているのでしょうか?」
ヴェーヌが言うと、プレヤも同意する
「そうだね。何だろうね。行ってみよう」
『星とバラの妖精』が近づくと、大きな建物の前にいた人たちの中から1人の青髪青目の小柄な老人が出て来た。そして、その男は自己紹介をする。
「私はこの村の村長のタスクですが、お嬢さんたちはこの村に御用がおありですか?」
「僕たちは冒険者パーティです。モグラ型魔獣の討伐が終わって、テネアの町へ行く途中です」
村長の追いかけにプレヤが答えると、村長は驚いて言う。
「それは本当ですか? この国の冒険者は誰も討伐できなかったのですが」
「本当ですよ。ポチが大活躍したから討伐できたのです」
そして、ポチがワンワンと吠えると、村長はポチを見てニッコリする。
「昔から、犬は嘘をつかないといいますから、本当のようですね。隣の村の衆も大喜びでしょう。ありがとうございます」
話が一区切りついたと思ったレアが口を開く。
「あの袋の中に入っているのは何でしょうか?」
「ああ、あれは塩です。他国ではリチウム塩と呼ばれている塩です。この湖で作られた塩をあちらの商人に売っているのです。最近、国の魔導具研究所が使い切った魔石でも魔力を注ぎ込めば、再び利用できるようになる人工魔石の開発に必要らしくて、売り上げが増えているのです」
村長は荷馬車の方へ目を向ける。レアは荷馬車をチラッと見て続ける。
「そんな魔石が実用化されたら凄い発明ですね。それで、リチウム塩って花火に入れると赤色になる塩ですよね。赤色の塩なのですか?」
村長は笑いながら首を横に振って答える。
「いいえ、白ですよ。普通の塩と同じです。ここの塩の大部分は普通の塩で、リチウム塩はごく微量しか含まれていません。花火の色を赤色にすることが分かったのは、ある冒険者パーティが野営の時にスープを作ろうとした時のことです。鍋からこぼれたスープが焚火に落ちたのです。すると、焚火の炎が赤色になったのです」
「そうなんですか。不思議なこともあるのですね。教えて頂きありがとうございます」
お礼を言われて村長は言う。
「すぐそこからリチウム塩を作る場所を見ることができますが、ご覧になりますか?」
「えっ、岩塩から採っているのでは?」
「いいえ、湖の水から採っています。こちらへどうぞ」
そう言うと村長は歩き出し、『星とバラの妖精』も後に続くが、村長はすぐに立ち止まる。これまでは倉庫と思われる大きな建物で見えなかったが、そこからは湖の全景が見えた。
湖はとても大きくて、対岸は見えない。左は少し高い丘が続いているが、右は湖だけが続いている。村長が近くの湖岸を指さして説明する。
「この湖は塩湖でして、海と同じくらいしょっぱいのです。ですから、魔導具のポンプを使って、あの場所、塩田に湖の水を汲み上げています。この土地は雨が少ないので、水が蒸発して塩が残るのです」
村長の指さす場所には、白いものが広がっている。あの白いものが塩だろうとレアは思ったが、確認する。
「あれがリチウム塩ですか?」
「そうです。あと1週間ほどで採取できる予定です」
驚きながら村長の説明を聞いているアニマ、その視界の端に湖岸で動く青い半透明のものが映った
アニマはそれを凝視するが、これまでに見たことのないものだった。青い半透明のものはブヨブヨしていて、その10体ほどが、ゆっくりと湖から上陸して村の方へ移動している。アニマは指さして叫ぶ。
「何か変なものが村に行こうとしているわ」
アニマの声に、みんながそちらを見るが答えたのは村長だ。
「あれはクラゲ型魔獣です。30センチくらいの大きさのF級の魔獣でして、大人は簡単に討伐できます。でも子どもが指で触れたりすると、体がしびれてしまいます」
「じゃあ、子どもが触る前に討伐しておきましょう」
そう言うと、プレヤはクラゲ型魔獣を火球で10体すべて討伐いてしまう。全員がホッとしていると、ヴェーヌが言う。
「クラゲ型魔獣は海の魔獣だと思うけど、何故ここにいるの?」
この疑問にも村長が答えてくれる。
「偉い学者先生によると、この湖は取り残された海だそうです。大昔、海の形が小さくなっていく時に陸地の中に取り残されたらしいです。ですから、海の魔獣がいるのですが、これまではあまり姿を見せなかったのです。けれど、最近はよく姿を見かけるようになりました」
村長の説明を信じられない思いで聞いていると、湖の沖の方からシュポと音がする。そちらを見ると、大きな水球が空を飛ぶ鳥に向けて飛んで行く。水球は鳥に命中して、鳥は湖に落ちる。
「あの水球は何?」
驚いたプレヤが村長に尋ねる。
「あれはテッポウウオ型魔獣が放った水球ですな。しかし、大きい。我々の村に向けて放たられると危険です」
村長の答えにヴェーヌが詠唱する。
「星魔法 かじき座」
湖の湖面にかじきが現れて、その口に鳥をくわえているテッポウウオ型魔獣に飛びかかり、口付近から伸びている長い突起物で串刺しにする。すると、テッポウウオ型魔獣は煙になって消える。
「星魔法ですか? 初めてみましたが、いやはや凄い魔法ですな。おかげ様で村の脅威が1つなくなりました。お礼をしたいのですが、……。おおそうだ、みなさん、これからテネアの町へ行かれるのでしたか?」
「はい。首都のテネアに行く予定ですが」
プレヤが答えると、村長はうんうんと頷き言う。
「やはりそうでしたか。もし、テネアの宿屋の予約がないのでしたら、今日はこの村にお泊りください。塩の買い付けに来た商隊用の家がいくつかありまして、その1つが空いていますので」
「日が沈むまでまだ数時間ありますから、テネアに行けると思いますが?」
プレヤが不思議そうに尋ねると、村長は答える。
「今日はこの後、この街道のテネア近くは通行止めになります。マラソン競技が行われますから。ですから今日中にテネアまで行けないでしょう。それにテネアの宿屋も満員でしょう」
話を聞いた『星とバラの妖精』が頭に「?」を浮かべているのを見た村長は話を続ける。
「今テネアでは2年に1回開催される各国対抗戦が行われているのです。今年は陸上競技と水泳が正式種目ですが、他にも各種イベントがありますので訪問客で込み合っています」
その説明に『星とバラの妖精』は一晩お世話になることにする。村長に案内され商隊用の家がいくつか建つ場所にやって来る。1つの家を指し示して、村長が言う。
「あの家をお使いください。食事の用意ができたらお伝えします」
みんなでその家に向かう途中、大木の下にテーブルと向かい合わせにイスが2脚置かれていた。
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参考
「口笛吹きと犬」 作曲 アーサー プライアー




