第3話 タスパルの町
リチウム公国へ出発の日の朝遅く、ヴェーヌの部屋。フェネとトルリ、アニマがまったりとお茶を飲んでいるところに、パシファが子犬を抱えてやって来た。その子犬を見てアニマが目を大きく開いた。
「その赤い首輪は何。とっても可愛いわ」
その一言にフェネとトルリも子犬を凝視する。そして、フェネが言う。
「うん、とっても可愛いわ。白い毛色に赤い首輪は映えるわね」
トルリは子犬に近づき、首輪をしげしげと見る。そして首を傾げて言う。
「この子は女の子よね。だから赤い首輪なのね。たしかに可愛い首輪だけど、ここに書いてあるポチってなあに?」
トルリに答えたのはパシファだ。
「この子犬の名前だそうです。牧場長さんが言うには、名づけたのは、子犬が産まれてからしばらくしてで、名づけたのはフェネさんということです」
「そうなのね。でもポチってどうなの。女の子の犬だったら、メリーとかアンとか女の子っぽい名前をつけるんじゃない? ポチって女の子らしくない名前だわ。そう思わない?」
トルリの意見に、フェネはニコニコしているが、アニマは首を横に振って言う。
「いいえ、私は女の子らしい名前だと思うわ。そうよね、ポチ」
そう言ってアニマが子犬の頭を撫でると、子犬は嬉しそうにシッポを振って吠えた。
「ワンワン」
「ほらね、本人も気に入っているみたいよ。もうこの話は終わりにしよう」
アニマが満足そうに言うと、全員がコクコクする。仲の良いことである。ようは本人が良ければ良いということだろう。そうこうしていると、ヴェーニとプレヤ、セルク、レアがやって来る。ポチを見るなり4人とも可愛いーと騒いでいたが、レアが質問する。
「どうして首輪をしているのですか? 一昨日は首輪をしていませんでしたよ
「可愛いからよ。それに街中でもしも迷子になった時のためよ。首輪があると飼い主がいるとわかるでしょう? 野良犬と間違えられることもないし。それに名前も書いてあると探す時や引き取る時に役に立つでしょう?」
それから、再びポチという名前について議論があったが、ポチという名前で落ち着いた。そして、プレヤが言う。
「全員揃っているようだね。少し早いけど、出発しよう。ヴェーヌ、どうやって行く?」
「冒険者ギルドに行って、冒険者ギルド間転移陣網を使って、リチウム公国北部のタスパルの冒険者ギルドに転移するわよ。そこでいろいろ情報を集めるの」
そして、『星とバラの妖精』は赤いバラの屋敷から出発した。コウモリ型魔物キュラドラが討伐されたし、『星とバラの妖精』の実力も上がったので、今回護衛は同行していない。
*
タスパルの冒険者ギルドの転移陣から出た『星とバラの妖精』はギルドの中へ入る。向かった先は周辺の地図のある場所である。地図をざっと見たプレヤが言う。
「大丈夫そうだね。モグラ型魔獣の出る場所にはB級以上の魔獣や魔物はいないみたいだね」
狩りに行く時にまずやるべきこと、狩場の危険度の確認である。みんながコクコクするのを見て、プレヤは続ける。
「ここから歩いて20分くらいだから、歩いて行こう。それで、みんなは他に行きたい場所はある?」
「この湖に行きたいです。夏にだるさを感じたり、食欲がなくなったり 筋肉のひきつけがある時に煎じて飲むと良く聞く薬草、シオシオ草が湖の近くに生えているそうなのです」
一番に答えたのはセルク。地図の一点を指さして言う。ちゃんと下調べをしてきたようだ。それにプレヤは答える。
「その湖は狩場のすぐ南だね。よし、行こう」
二番手はフェネだ。フェネも地図の一点を指さして言う。それは湖よりかなり離れた南の場所だ。
「リチウム公国に来たら首都のテネアに行くべきです。この国で最も栄えている町ですから。それに行ってみたい場所があるのです」
「港のあるスコリントにも行きましょう。東方の国々からいろいろな人や物が集まっているようですから、珍しい物がたくさんあるかもしれません」
フェネに続いてレアが言う。スコリントは、好奇心の強いレアの興味を引く町なのだろう。
「わかった。ちょうどいい、狩場から、湖、テネア、スコリントと南へ進むことになるね。」
全員がコクコクすると、アニマが手を上げる。
「討伐に行く前にお昼を食べに行こうよ。私、もうお腹が空いたわ。この国の名物料理とか食べられれば最高なのだけど」
それに全員が激しくコクコクする。。しかし、プレヤが首を横に振る。
「僕もお腹が空いているけど、その前にモグラ型魔獣討伐の依頼の受付を済ましてからだよ」
その後、受付を完了して町に出る。町を歩く人の身長は高い者や低い者様々だが、男も女も全員鍛え上げた員筋骨隆々で戦闘力が高そうである。
「みんな強そうね。モグラ型魔獣なんて簡単に討伐できそうなのに、どうして、冒険者に依頼するのかな?」
トルリが疑問を口にすると、ヴェーヌが笑って答える。
「モグラ型魔獣が目の前にいれば、簡単でしょうね。でも、モグラ型魔獣は地下に潜んでいるからね」
「なるほど。姿の見えない敵には攻撃しようがないってことね。あっ、あそこに郷土料理の店って看板を出している店があるわ。お昼はあの店で食べようよ」
その一言でお昼を食べる店が決まる。
店に入ると流れているBGMが耳に入る。『ルーマニア民俗舞曲』だ。最後にパシファが入ると店員が声をかけてくる。
「お客様、申し訳ございません。当店ではペットはフロントでお預かりすることになっておりますが、よろしいでしょうか?」
スロントの後ろを見ると、柔らかそうな布が敷かれた小さな檻があった。パシファがコクコクしてポチを店員に預けるとテーブルに案内され、店員がメニュー表を持って来る。すると、トルリが手を上げる。
「私はこの国の料理のことを調べたの、選ぶのはまかせて」
全員がコクコクすると、トルリはパンとスープと1つの料理を注文する。スープは野菜やオリーブオイル、乳製品を使ったスープ。料理はトルリの説明によると、スブラキという名前の料理。豚肉や鶏肉を小さく切り、オリーブオイル、レモン汁などで味付けして串に刺して焼き上げた料理である。
それらの料理が運ばれてくると、みんながパクパクと食べ始める。大盛の串焼き料理もすぐになくなった。笑顔でお腹をさすっているメンバーを見てプレヤが元気よく言う。
「美味しかったし、お腹も一杯になったし、モグラ型魔獣の討伐に行こう。あっ、その前にポチのご飯を買いに行ってからだね」
ポチのご飯を買って、少し歩くと道沿いの空き地で5,6才くらいの子どもたちが、木の枝を持って剣術ゴッコをしている。男の子5人と女の子5人だ。女の子たちは男の子たちに負けていないようだ。それを見てプレヤが言う。
「さすがに武の町と言われている町だね。平民の子どもたちも小さい頃から剣術の稽古を頑張っているのか」
「いやいや、あれは稽古じゃなくて、遊びでしょう。でも、普通の町の女の子は剣術ゴッコはしませんよね」
セルクが苦笑いしながら言った時、1本の枝が飛んでくる。そして、1人の女の子が走って来て、枝を拾って謝る。
「ごめんなさい。私、弱くて持っていた枝を弾き飛ばされちゃったの。ほんとイヤになっちゃう。魔法が使えればいいのだけど」
「気にしなくていいのよ。それであなたには魔力がある?」
女の子が悲しそうに言うので、ヴェーヌが尋ねると、女の子はコクコクする。
「魔力はあるわ。でも魔法は使えないの。お母さんはイメージすればいいのよって言うけど、イメージってなあに? イメージって分からないの」
自分が無意識に、簡単にやっていることを他の人に説明することは難しい。相手が子どもの場合、それはとても難しくなる。ヴェーヌは少し考えて言う。
「私のすることをよく見ていてね」
ヴェーヌは右手のひらを上に向けて詠唱する。
「水魔法 ウォーターボール」
ヴェーヌの右手のひらの上に水球が浮かぶのを見て、女の子は目を大きく開けている。ヴェーヌが言う。
「さあ、今見たことを思い浮かべながら、手のひらに魔力を集めて、同じように詠唱して」
女の子は目を閉じて、右手のひらを上に向けてしばらくしてから詠唱する。
「水魔法 ウォーターボール」
すると、とても小さな水球が右手のひらの上に浮かぶ。女の子は叫ぶ。
「やったわー。私にも魔法が使えたー。とっても小さいけど水球ができたわ」
ヴェーヌが笑顔で言う。
「おめでとう、よくできたわね。大きくなって大人になれば、もっと大きな水球ができるわ。これからは、自分の周りのことをよく見て覚えておくのよ」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん。私、頑張るわ」
女の子はお礼を言い、ペコリと頭を下げると、剣術ゴッコで遊ぶ子どもたちの方へ走り去った。
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参考
「ルーマニア民俗舞曲」 作曲 バルトーク




