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第1話 塩 

 赤いバラの屋敷の花壇に赤や青のアサガオ、オレンジのハイビスカス、青紫のラベンダーの花が咲いている。7月である。先月、星の輝く赤いバラとコラールの里では試行としてのファッションショーが行われ、目立たない小さなミスはあったが成功のうちに終了した。


モデルとして出演した『星とバラの妖精』やアルタイルの森の子どもたちも緊張していたが、猛練習の甲斐もあり無事に役目を立派に果たした。7月は年に2回の素人音楽大会が行われるので『星とバラの妖精』は忙しくはない。


星の輝く赤いバラとコラールの里の魔法訓練場では、フェネとトルリが音楽魔法雷神の練習をしている。フェネが横笛を口に当てて、トルリがシンバルを両手に持つ。そして、2人は同時に詠唱する。


「「音楽魔法 雷神」」


フェネが横笛で『行進曲 雷神』をトランペットの音色で演奏を始める。トルリがシンバルを1回鳴らすと、雲1つない空から稲妻が魔法練習場の地面に突き刺さる。稲妻が消えた後には大きくて深い穴が出来ていた。そおれを見たトルリが飛び上がり大声で叫ぶ。


「やったーーー、やったわーーー、大きい稲妻が出たわーーー」

「おめでとう! トルリ。これでもっと強い魔獣も討伐できるわね」


トルリは音楽魔法雷神が使えるようになってから1週間に一度練習していたのだ。これまではいつも大きい稲妻には失敗していたのだが、成功したことはなかったのだ。長い間の努力が報われたのだ。それはそれは嬉しかったのだろう。それに付き合ってきたフェネも同じように嬉しかったのである。


「そうね、もっと強い魔獣も討伐できるかも。でも残っている魔力が残り少ないわ。この魔法は1回が限界よ」


「そうなのね。でも1回だけでも使えるのはいいことだわ。一番強い魔物や魔獣を討伐できるだけでも、かなり楽になるわ」

「うん、使えないよりいいわね。もっと背が高くなって、胸が大きくなれば、パシファさんくらい胸が大きくなれば、何回も使えるようになるかもしれないわ」


トルリはパシファが強力な水魔法が使える理由を、大きな胸に魔力を貯めることができるからだと考えているらしいのだ。しかし、それを聞いたフェネはキョトンとするが、すぐに笑って言う。


「保有魔力量と胸の大きさは関係ないと思うわ。もしそれが本当なら男の人より女の人の方が保有魔力量が大きいはずだから」

「それもそうね。まあいいや。魔力を使い過ぎたせいか、お腹が空いたわ。お屋敷に帰っておやつを食べようよ」

「そういえば、そろそろおやつの時間ね。帰ろうか」


そして、2人は赤いバラの屋敷へ走る。2人は今日のおやつを知っていて、とても楽しみにしていたらしい。



その頃赤いバラの屋敷のヴェーヌの部屋にはアニマとレアがいた。赤いバラの屋敷に住まないで通っているヴェーヌの部屋は、『星とバラの妖精』のたまり場なのだ。かわら版を読み終えたアニマが、紙に何かを書いていてレアに話しかける。


「レア、何を書いているの? ずいぶん悩みながら書いているようだけど」


レアは顔を上げてアニマを見ると、フゥと一息ついて答える。


「ほら、5月のミュージカル歌姫公爵令嬢が好評でたくさんお客さんが入ったでしょう? またミュージカルをやって欲しいって要望も多いらしいの。だから新しいミュージカルのあらすじを考えているのよ」


「そうなのね。それで今度も公爵令嬢関係のお話なの?」

「うん、公爵令嬢のお話もいろいろあるけど、今回は騎士とお姫様の物語にしようかなって思っているの」


レアの公爵令嬢物語好きを知っているアニマは不思議そうに尋ねる。


「どうして騎士とお姫様の物語なの?」

「ほら、テンブリ王国のサーシャ王女と護衛騎士候補のエリーゼさんを覚えているかしら? あの2人の関係がいいな~と思って。女性騎士とお姫様の間の恋愛、いいえ違うわ、友情? これも違うわ、信頼関係? そう信頼と忠誠を書こうと思っているの」


「なるほど、いいかもね。それでどれくらい書けたの?」

「まだ最初と最後だけ。途中のエピソードがなかなか書けないの」

「そう、最後に騎士とお姫様はキスするの?」


「しないわよ。騎士は女性騎士だからね」

「そうか~。あっ、でもどうして物語の恋人同士はキスするのかな?」

「知らないわよ。そういうことになっているから、お約束ってことだと思うわ。それでレアはかわら版を読み終わった?」


話題が変な方に向かいそうだと危惧したレアは話題を変える。


「うん、読み終わったわ」


それを聞いて、無事に話題が変わったことに安心したレアが、うんうんと頷きながら言う。


「アニマ、もうかわら版がスラスラ読めるようになったのね?」


アニマはかわら版をチラッと見て得意そうに答える。


「うん、もう完璧よ。文字を書くのも大丈夫。私、頑張ったでしょう?」

「そう、偉いわ。計算はどうなの?」

「そちらも大丈夫。お母さんに言われて、ちゃんとお小遣い帳をつけているけど、間違いがないって誉められているわ」


アニマはアルタイルの森に住むようになってから、文字と計算の猛勉強をしてきたのだ。アンカアの森に住んでいた頃、弦楽器を売る時に文字が読めなかったり、計算ができなかったりして、商人にごまかされた経験があったのがその理由だ。


「だったら将来文官にもなれるわね」

「いやよ。文官なんて机に座って仕事するんだよね。そんなじっとしている仕事は無理よ。私は外を動き回る仕事がいいわ」


レアもそれに同意してコクコクする。


「そうね、アニマは活発に動く方が好きだものね。それでかわら版には何か面白いことが書いてあった?」

「太陽病にかかる人が増えているそうです。だから、水分と塩を適度にとるようにと書いてあったよ。でも、汗がいっぱい出るから水分は分かるけど、なぜ塩もとる必要があるのかしら? レアは知っている?」


アニマに聞かれたレアは首を横に振る。


「知らないわ。でも汗と一緒に塩も出ているからじゃないかな? 人の身体の中から出て来るってことは、人の身体の中にあって、人の身体必要なものじゃないかな?」


「なるほど、そうかもしれないわね。あれ、そういえば塩ってしょっぱいのにどうして人は時々塩味が欲しくなる時があるんだろう?」


その言葉にレアは考え込むが、ポンと手を叩く。


「そういえば、スープを飲むときに塩味が少し足りないって感じることがあるわね。逆に塩味が強すぎると飲めないものね。塩は人の身体に必要だけど多すぎてもダメってことかしら?」


「甘い物はいくらでも食べられるけどね。あっ、でもどうしても肉が食べたくる時もあるわ。」

「そうね。私は本を読んで考え込んだりした後には、お菓子がとっても食べたくなるわ。頭を使うと甘い物が足りなくなるのかな?」


「うん、私も計算の勉強をした後は特にお菓子がたべたくなるわ。でも、魔法を使った後はお腹が空いて、何でもたべたくなるわね」

「魔法を使った後なら、ピーマンでもニンジンでもたくさん食べられるよね」


話がどんどんずれていく。そこにフェネとトルリが部屋に入って来た。トルリが言う。


「おやつはまだー。お腹が空いたー。魔法の練習を頑張ったからお腹が空いたー。そうそう、シンバルで稲妻が出たわ。頑張ったでしょう、私」


それにアニマが答える。


「わあ、やったわね、おめでとう。今日のおやつはまだよ。ねえねえ、おやつにピーマンやニンジンがたくさん入っていても食べられる?」


トルリは即座に答える。


「うん、食べられるわ。何故かピーマンやニンジンも欲しい気がするわ。いつもはできるだけ食べたくないけどね」


それを聞いたレアは長考に沈む。トルリは驚いてレアの肩を揺さぶる。


「レア、レア、突然どうしたの? 何を考えているの>」


レアはハッとして、トルリに言う。


「あっ、ごめんね。ピーマンやニンジンは魔力を増やすために必要なのかな? と思ったの」

「どうしてそう思ったの。私にも分かるように説明してよ」


「人が何かを食べたいと思う時は、身体がそれを必要な時、と思ったの。正しいかどうかは分からないけどね。塩や肉、甘い物を食べたくなった時は身体がそれが必要としている時って感じね」


トルリは目をパチクリさせて聞いていたが、叫ぶ。


「やったー。お菓子をたくさん食べたい、って思うのは身体が必要としているからなのね。だから、お菓子はいくら食べてもいいのね」


レアはジト目でトルリを見て言う。


「必要な量というものがあるはずよ。それを超えた量は一時的に身体のどこかに保存される、あるいは身体にとって良くないものになるか排出される。だから、お菓子を食べ過ぎると身体がブクブク太ったり、病気になったりすると思うわ」


それを聞いてトルリが頭を抱えた時、ドアがノックされた。


お読みいただきありがとうございます。

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参考

「行進曲 雷神」 作曲 ジョン・フィリップ・スーザ


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