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第12話 魔法 金星 (第六章 最終話)

 応接室のドアが開き、入って来たのはフロン辺境伯とナターシャ、その後に赤髪、緑目で筋骨隆々の、身長が2メートルほどはある大男だ。フロン辺境伯がその大男を紹介する。


「アース殿、こちらは帝国中央騎士団の団長クリント殿です」


その後、定型の挨拶が手短に交わされて、すぐに森の中の騎馬民族に対する作戦会議に入る。フロン辺境伯が最初に口を開く。


「中央騎士団が合流して、騎士と兵士の数が合計千人になりました。騎馬民族の数と同数と思われますから勝利は確実でしょう。問題はコウモリ型魔獣ですな。強い魔獣ではありませんが、上空をチョロチョロされると鬱陶しいですから」


「コウモリ型魔獣の大半はすでに討伐しました。若干の生き残りはいるかもしれませんが、これがあれば大丈夫です」


アースはそう言って箱を指さす。そして続ける。


「この中にはコウモリ型魔獣用の魔導具が百個入っています。ボタンを押せば半径10メートル以内のコウモリ型魔獣は、空を飛べなくなり地に落ちます」

「おおー、本当ですか? 素晴らしい」


辺境伯とクリント騎士団長は喜び賞賛する。それを制してアースが言葉を続ける。


「森の中の騎馬民族や馬は殺さずに、捕虜にしてください。コウモリ型魔獣は遠慮なく討伐してかまいませんが」


クリント騎士団長が驚いて尋ねる。


「それは何故ですか? 生かして捕虜にするためには手間がかかりますし、こちらの犠牲も増えますが」

「まず、手間も犠牲もほとんどかからないはずです。理由は、森の中の騎馬民族に魔法をかけるからです。その魔法は人間を争い嫌いにして、平和を愛するようにする魔法です」


「信じられない話だが、アース殿の言う事だ、信じよう。しかし、なぜそのようなことをするのですか?」

「今回の侵攻は、騎馬民族の大族長が、ウサス海の向こうの南大陸のプトーシェ帝国のコンビア皇帝のように、ブラックキュラドラに操られてのことです。だから、ブラックキュラドラを討伐すれば、騎馬民族は撤退するでしょう。


そして、ここから先は推測にすぎませんが、ブラックキュラドラはS級魔物の指示を受けていると思われます。ならば、いずれ魔獣、魔物による人間の国への侵攻がある可能性があります。その時に騎馬民族を味方の戦力にしたいのです」


「なるほど、了解しました。それで作戦はいつ開始するのですか?」

「森の中の騎馬民族に対する作戦は準備が整い次第始めます。騎馬民族本隊に対する作戦は明日実施します。それに関しては今夜相談ですね」


「我々の準備、森への突入準備は2時間後に整います」

「では、2時間後に作戦を開始しましょう」

「了解しました」


その後、作戦の詳細を取り決める相談に入った。



1時間後、森の中の池から白鳥が飛び立つ。護衛のワシ4羽、ヴェーヌ以外のブルーイスカが続く。森の上を飛びコウモリ型魔獣を警戒するが、襲ってくるコウモリ型魔獣は1体もいなかった。ある程度森の南へ飛んだ所で白鳥を止めて、アースが指示を出す。


「準備はいいな。作戦開始だ」


それにフェネが頷いて、携帯魔法で横笛とヴァイオリン、ピアノを取り出してアニマ、トルリに渡す。そして、3人が詠唱する。


「「「音楽魔法 金星」」」


この曲は「組曲 惑星」の中の1曲で、金星は「平和をもたらす者」と副題が付いている。これは占星術に基づく名付けである。安らぎをもたらすような静かな曲が始まると、ヴェーヌは両膝をつき、両手を胸の前で組んで、空を見上げて詠唱する。


「星魔法 金星」


ヴェーヌの体全体が淡く金色に輝き始め、だんだん輝きが強くなっていく。やがて、ヴェーヌの服が透明になり、美しい全裸の姿が薄っすらぼんやりと見えるほど輝きが強くなると、金色の光が周囲を照らし始める。神話で「ヴェーヌ」は金星のことであり、金星は愛と美と平和の星とされている。


だから、この光に照らされた人々の心は愛で満たされ、美と平和を愛するようになる。ただ、15才にならないと使えないのだが、音楽魔法との同時使用により使用可能になった。しかもそれだけでなく。音楽魔法と星魔法の共鳴効果なのか、効果が増大している。


ヴェーヌの輝きを確認したアースは、ゆっくりと北へ白鳥を進める。1時間ほど飛行して、アースが火球3球を打ち上げる。それを合図に騎士と兵士の森へ突入が始まる。



夜、アースとフロン辺境伯、クリント中央騎士団長の会議が行われた。クリント中央騎士団長が森の中での状況説明を始める。


「森へ突入した私たちは、騎馬民族を発見することができませんでした。不思議に思いながら進むと、森の東端付近に騎馬民族が集まっていました。我々を見ても警戒態勢することもなく、いや、友好的な態度でした。


私が近づいて行くと、相手からも1人の男が出てきました。彼は騎馬民族の族長の1人だと自己紹介しました。彼が言うには、騎馬民族の大族長は温厚な人柄で他国への侵略など考える人物ではなかった。


それが、ある時から人が変わったように他国への侵略を口にするようになった。それを諫めようと、大族長の下へ赴いた者たちも他国への侵略に賛成するようになった。そして、時間をかけて軍勢を集めて今回の侵攻に至った。


彼は族長として、一族を率いて先陣として森に入った。しばらくすると、空から音楽が聴こえ、同行したコウモリ型魔獣多数が魔石となって落ちて来た。朝を待って町に侵攻する予定だったが、不思議な光が森に降り注ぐと霧が晴れるように自分を取り戻した。侵略はすべきではないと思い、故郷へ帰ろうとしていたところで私たちと出会ったと。


それを聞いた私は、現在国境の小川は幅の広い川になっていて、騎馬民族の国へ帰るのは無理なこと。および、しばらくすれば元の小川に戻るから、ここで待つように言って、見張りを残して帰って来ました」


それで騎士団長の説明が終わると、アースは少し考えて話し出す。


「明日はブラックキュラドラの討伐です。騎馬民族の本隊は国境の川沿いに細長く布陣しているでしょう。人や馬には、特に馬には大量の水が必要ですから。ブラックキュラドラが人間を自由に操る魔法の有効範囲は百メートルですから、ブラックキュラドラも大族長の傍ら、川の近くにいるでしょう。


ですから、明日の朝私たちが急襲してブラックキュラドラを討伐します。そして、森中の騎馬人族にかけた魔法と同じ魔法を大族長にかけて、正気に戻ってもらいます。それから、国境の川を元に戻して、森中の騎馬民族にも合流してもらい撤退してもらいます。これでどうでしょうか?」


熱心に耳を傾けていたフロン辺境伯とクリント中央騎士団長は、頷く。そして、中央騎士団長が言う。


「了解しました。それから、先ほど連絡があったのですが、帝宮から許可が出たので明日の朝、星魔法軍団航空軍が到着するそうです。では本日はこれで失礼します」


フロン辺境伯とも挨拶を交わして、その日は終わった。



翌朝朝食が終わった後、星魔法軍団航空軍が到着する。驚いたのはその中にアイーダとバービレ、レジェラがいたことだ。アイーダがアースに近づいて来て、笑顔で挨拶をする。


「おはようございます、アース様。ブラックキュラドラの討伐ならば、ドッミ島沖海戦の続きです。私たちが参戦するのは当然でしょう。よろしいですね?」


横に立つバービレとレジェラもコクコクしている。その笑顔の裏に隠された何かを感じたアースも笑顔で返す。


「そうだな。一緒に行こう」


その後、森の中の池へ移動してアースは航空軍に作戦のブリーヒングを行う。


「作戦の第一の目的はブラックキュラドラだ。ブラックキュラドラは国境の川の向こう岸にいるはずだ。川のこちら側はブラックキュラドラの有効範囲外だから、発見される確率を下げるために、その手前までは高速低空飛行で行く。

お前たちはそこで止まれ。私たちはそこから急上昇してブラックキュラドラを討伐する。詳細は現地で指示する」


そして、アースとアイーダとバービレ、レジェラ、セルク、レア、フェネ、アニマ、トルリ、パシファを乗せた白鳥とブルーイスカの5羽のワシ、航空軍の60羽のワシが飛び立つ。森から草原に入ったところで草原スレスレの低空飛行で飛ぶ。川の向こう岸の様子がはっきりとわかるようになるとアースが言う。


「コウモリ型魔獣が多数飛んでいるあの場所にブラックキュラドラがいるに違いない」


そして、背中の剣に手を触れて詠唱する。


「星魔法 ペルセウス座の剣」


剣をスラリと抜いて再び詠唱する。


「星魔法 ステラビッグバーン」


アースがペルセウス座の剣を振り抜くと眩しい光が、飛んでいるコウモリ型魔獣の群れの上半分が煙になって消え魔石を落とす。下半分は騎馬民族を巻き込む恐れがあるから狙えなじゃったのだ。


「よし、航空軍はこの場でに留まり残ったコウモリ型魔獣を討伐せよ」


そう言い残すとアースは白鳥を急上昇させ、ブルーイスカだけが続く。その途中でアニマが指さして叫ぶ。


「アース様、あそこに黒くて大きいコウモリ型魔獣が飛んでいます。ブラックキュラドラではありませんか?」

「そうだ。よくやった、アニマ」


そちらを見てアース様は短く叫ぶと右手を上げて詠唱する。


「火魔法 高速誘導火球5球」


5つの火球が生じると、アースは右手を振り下ろす。すると5つの火球はブラックキュラドラに向かって高速度で飛び出す。ブラックキュラドラは慌てて逃げようと東に向けて飛ぶが、間に合わない。あっという間に5つの火球が命中し、ブラックキュラドラは煙に変わり、大きな魔石になって地に落ちる。


「よし、次は残敵掃討だ。残りのコウモリ型魔獣を討伐するぞ。全員、騎馬民族に当たらないように注意して魔法を放ってくれ」

「ブラックキュラドラの魔石を回収しないのですか?」


フェネの問いにアースはニッコリして答える。


「あの魔石は騎馬民族にくれてやるさ。騎馬民族も今回の侵攻で莫大な費用がかかっているはずだからな。騎士や兵士、馬の食料、矢や剣などの武器の予備品や魔導具だけでも多くの費用がかかるのだ。戦争は騎士や兵士の強さや魔法使いの能力だけで戦いの勝敗はきまらない。国の経済力や技術力も含めての総合的な国力で決まるのだ」


その返答に、フェネは理解したようなしないような微妙な笑みを返した。


その後、白鳥とブルーイスカから火魔法や水魔法が雨あられとコウモリ型魔獣に降り注ぐ。航空軍によって数を大幅に減じていたコウモリ型魔獣が壊滅するのにそれほど時間はかからなかった。


その後、音楽魔法と星魔法の金星をかけながら騎馬民族3万の上空を飛ぶと騎馬民族は東へと撤退を始めた。森から騎馬民族千人が慌ててやって来たのを見て、星魔法のエリダヌス座で生じた川を小川に戻した。その小川を渡り騎馬民族千人が帰途に着くのを見ながらアースが言う。


「これで終わったな」


お読みいただきありがとうございます。

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参考

Venus (ヴェーヌス、ドイツ語)=金星 (日本語)

「組曲 惑星」より第2曲金星  作曲 ホルスト


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