第10話 騎馬民族との遭遇
アースたちが森に入ってしばらくすると、3人の男たちが遠くに見えた。3人はそれぞれが鳥の羽で飾った帽子を被り、1頭の馬を曳いてキョロキョロしながらこちらへ向かっている。まだこちらを発見していないようだ。
アースは急いで大きな木の後ろに隠れるように、ヴェーヌとナターシャに合図をする。幸いこちらは発見されなかったようだ。1頭の馬がヒヒーンといななく。
それを聞いてナターシャが言う。
「あの鳥の羽で飾った帽子は騎馬民族特有の帽子です。それに森の中に馬を連れてくるなんて普通はしません。3人の男たちは、馬なしには生きられない騎馬民族に間違いありません」
「そうか。では生け捕りにして情報を引き出すことにするか。さて、作戦をどうするかな」
アースが思案すると、ナターシャが胸を張って提案する。
「馬に騎乗しない騎馬民族なんて、敵ではありません。馬に乗って逃げることもできませんから、突撃して生け捕りにしましょう。ここは我が領の土地ですから、私が先頭に立ちます」
アースがう~んと考え込むと、ヴェーヌがニッコリして賛成する。
「お兄様、白鳥の騎士の甲冑を身に着けたナターシャはとても速く走る事ができますし、強いから大丈夫ですよ」
「えっ、お兄様? まさかヴェーヌは公爵令嬢なの?」
ナターシャが驚いて尋ねると、ヴェーヌはいたずらっぽく微笑んで答える。
「ええ、そうよ。婚約破棄はされていないけどね、ふふふ」
アースはその会話を聞き流して言う。
「よし、ではその作戦でやってみるか。森の中を馬に乗って逃げることは、あの3人の男にはできないようだからな」
それを聞いてナターシャは、すぐに木の陰から飛び出して突撃する。アースとヴェーヌもあわてて後を追うが、ナターシャに追いつけない。あっと言う間に騎馬民族の男たちに襲い掛かり、それぞれパンチ1発で気絶させてしまう。追いついたアースとヴァーヌが縄で縛って馬に乗せて引き返した。
池の畔に帰って3人の男を馬から下ろして地面に横たえ、馬はナターシャの護衛に渡す。そして、ヴェーヌがセルクにお願いした。
「セルク、気付け薬をこの男たちに嗅がせてくれる?」
「はい。了解です」
セルクが腰につけた皮袋から薬ビンを取り出して、次々と3人の男の鼻先に近づけると男たちは目を覚ます。それを見てアースが尋問する。
「お前たちは騎馬民族の民か?」
「そうだ。俺たちは誇り高き騎馬民族だ」
「そうか。その誇り高い騎馬民族が何故この国の森にいるのだ?」
「大族長の命令だからだ。大族長はこの国を征服なさるつもりだ。俺たちは先陣を承った千人部隊の斥候。千人部隊はもうすぐこの森に入るだろう。大族長の
率いる本隊3万人も明日には国境を超えるだろう。この国はもうすぐ亡ぶのだ」
それを聞いたアースは、少し考えて再び尋ねる。
「騎馬民族はここ百年間他国を侵略したことが無かったはずが。どうして急に侵略をすることになったのだ?」
1人の男が胸を張って答える。
「たしかに大族長は平和を好まれる方だったが、急にこの国への侵略を口にされるようになった。その理由はわからない。半年前から大族長に近づけるのは限られた数人だけなのだ。
それに同じ時期からコウモリ型魔獣が増えたのだが、不思議なことにコウモリ型魔獣は我々には攻撃してこないのだ。今回も我々にコウモリ型魔獣が同行している。だから、この侵攻が失敗するはずがない」
アースは顎に手を当てて、フムフムと考えていたが、アニマに尋ねる。
「アニマ、ここからフロン辺境伯家の門まで、この3人の男と3頭の以外に何人転移させられる?」
「近いですから、ここにいる全員でも大丈夫です」
アニマが答えると、アースは言う。
「では、王女様は護衛をつれて帝都にお帰りください。ナターシャ嬢、あなたも家に帰り、辺境伯家にこの状況を報告してもらえませんか?」
「アース様と『星とバラの妖精』はどうなさるのですか?」
リリア第3王女が疑問を口にすると、アースは返答する。
「我々は国境に飛んで騎馬民族本隊の様子を確認するつもりです」
そして、アースは池の方を向いて詠唱する。
「星魔法 はくちょう座」
池の水面が一瞬光り大きな白鳥が現れる。白鳥が翼を広げると片方の翼が岸に届く。
「この白鳥に乗って飛んで行きますから、それほど時間はかかりません、その後、我々もすぐにフロン辺境伯屋敷に行く予定です」
白鳥を見てリリアの目がキラキラ輝く。白鳥に乗って空を飛びたいのだろう。しかし、そこは王女、口から出た言葉は違うものだった。
「父上に報告するのであれば、私自身の目で確認する必要があります。私も騎馬民族本隊の確認に行きます」
それを聞いたナターシャも続く。
「私も父の辺境伯への報告のために確認が必要ですから、同行させてください」
「わかった。では、アニマ、騎馬民族の男3人と馬3頭、ナターシャの護衛2人をフロン辺境伯家の門まで転移させて、すぐに帰って来てくれ」
フェネが携帯魔法でヴァイオリンを出してアニマに渡すと、アニマはヴァイオリン演奏の準備をして詠唱する。
「音楽魔法 Fly Me To Another Land」
ヴァイオリンの演奏が始まるとアニマたちの姿が消えた。
*
フロン辺境伯家の門前にアニマたちの姿が現れると、門の警備兵が驚く。しかし、その中にナターシャの護衛の姿があったので、なんとか自分の役割を忘れないことができた。
「なぜ急に現れたのだ?」
門の警備兵が問うと、護衛が答える。
「音楽魔法による転移らしい。この3人の男は騎馬民族だ。騎馬民族が我が国へ侵攻して来た。現在、森に千人ほどの騎馬民族が入り込んでいるらしい。至急
辺境伯閣下に報告しなければならない。門を通してくれ。馬は馬屋へ連れて行く」
その言葉を聞くと、門はすぐに開かれた。それを確認したアニマはすぐに転移して森に帰る。一方、門の警備兵が魔道具を使い黄色の信号弾を打ち上げる。騎士団への緊急事態通知だ。護衛の1人は門に残り、騎馬民族の男たちを騎士団に引き渡すためだ。もう1人は屋敷に走る。
屋敷にたどりつた護衛は、さらに辺境伯の執務室に走り部屋前の騎士に訴える。
「ナターシャ様の命令により、至急の報告に参りました。辺境伯閣下にお目通りをお願いします」
騎士の1人が執務室に入り、すぐに出てきて執務室に入室を許される。すぐに入室した護衛は報告する。
「騎馬民族が進行して来ました。すでに千人ほどが森に侵入している模様です。ナターシャ様たちが捕らえた3人の男を騎士団に引き渡してあります。騎士団が尋問すれば詳しい情報が得られると思います」
それを聞いた辺境伯は即座に命令を下す。
「騎士団に緊急出動準備を命じる。各地の騎士団にも伝えよ」
はっと返事をして、控えていた騎士の1人が部屋から出て行くと辺境伯は尋ねる。
「それでナターシャはどうした? 無事なのか?」
「はい、無事です。捕虜の言うには騎馬民族の本隊3万人が明日にも国境を越えるとのことで、それを確認に行かれました。第3王女殿下も同行されるそうです」
「なんと第3王女殿下もおられるのか。しかし、国境は遠いぞ。すぐには帰れぬであろう。護衛は付いているのか?」
「はっ、星魔法という魔法で出した白鳥に乗って行かれるようで、確認できたらすぐにこの屋敷に帰還されるそうです。同行の者たちもかなりの強者たちで心配はないと思われます」
「そうか。では白鳥には攻撃しないように騎士団に通達せよ」
1人の騎士が部屋から走り出すと、辺境伯は言う。
「第3王女殿下がおられるのであれば、皇帝陛下への報告は第3王女殿下にお願いすれば良いか。次は住民への警告か。文官、住民への警報を発令せよ」
1人の文官が部屋の外へ飛び出すと、辺境伯は呟いた。
「よし、とりあえずはこんなものか。早く帰ってこいナターシャ」
*
アニマが池の畔に帰ると、全員が池に浮かぶ白鳥に乗っていた。アニマが急いで翼の上を走り白鳥に乗ると、白鳥は東の空に向けて飛び立った。
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