閑話 星魔法使い父子と屋敷商会魔導具部
ソーミュスタ王国の軍務省の大臣室に、アースとアースの父である軍務大臣の姿がある。2人の他に人はいない。秘密会談なのであろう。軍務大臣が報告書を手に口を開く。
「騎馬民族の首都に潜入している諜報員から報告があった。騎馬民族の大族長の屋敷でコウモリ型魔物キュラドラの存在が確認されたようだ」
「本当ですか? やっと確認できたのですね。騎馬民族の大族長はキュラドラにコントロールされていると考えた方がよさそうですね。それで何か動きはありますか?」
アースが前のめり気味に尋ねると、軍務大臣はコクリと頷く。
「うむ、各地から軍勢を集めているようだ。現在一万ほど集まっているが、まだまだ集めるようだ。どうやら、こちらに攻め込む準備をしているらしい」
「攻めて来るのは、雪が解けて馬が草原を走れるようになってからでしょうね。それで、騎馬民族の国とこちら側の国境は南北に長いですが、どこから攻め込むつもりでしょうか?」
「それはまだ分からない。進軍が始まれば予想できるだろうが」
アースは少し考えてから言う。
「前回のプトーシェ帝国の場合は、海での戦いでした。障害物がなく戦い易かったのですが、今回はコウモリ型魔獣が森に入ると厄介ですね」
「打てる手は打っている。すでに屋敷商会にコウモリ型魔獣用の魔導具を発注している」
アースはコクコクと頷いて続ける。
「もう1つあります。前回は敵艦を沈めるたり航行不能にするだけですみましたが、今回は敵兵士を直接攻撃することになります。戦後の騎馬民族との関係を考えると、敵兵士の損害も最小限に抑えた方がいいでしょう。魔物キュラドラに操られているだけなのですから」
「ウム、その通りだ。ヴェーヌが大人であれば、あの星魔法が使えるのだが、ヴェーヌはまだ子どもだから無理だ。何か良い方法はないものか」
今度は長考する2人。どうやら戦いの勝利は当然として、最良の勝ち方を考えているらしい。やがて、アースが口を開く。
「アイーダの音楽魔法とバービレの回復魔法を同時に発動して、より高い効果を得たことがありました。それと同様に、ヴェーヌの星魔法と音楽魔法の力を合わせれば可能かもしれません。音楽魔法には、他の者の力や魔法を強化する魔法もあるようですから」
「そうなのか。それは是非検討してみてくれ」
「はい、アイーダとも相談してみます」
「それからもう1つある。騎馬民族の国全域で魔獣の数が増えているようだ。原因は不明だ」
「コウモリ型魔物魔物キュラドラには、人間とコウモリ型魔獣以外を支配する力はないはず。他の魔獣を支配できるのはS級魔物だけです。まさか、S級魔物が現れたのでしょうか?」
軍務大臣はニヤリとして言う。
「そうであれば、S級魔物を討伐できるチャンスだ。S級魔物は討伐するよりも出会うことの方が難しいからな。なあアース、お前は軍務大臣になる気はないか? 私もそろそろ引退する年齢だと思うのだが」
「冗談は止めてください。父上はまだまだ引退する年齢ではありません。S級魔物を討伐したいだけでしょう。軍務大臣だと前線に出られませんからね。S級魔物の討伐は私にお任せください」
アースが言うと、軍務大臣は大笑いをしてから尋ねる。
「ハハハ、その件は棚上げしよう。ところで、子どもはまだか? モントが早く孫の顔を見たいと言っていたぞ。もちろん私もだが」
意表を突かれた質問に、アースは頭をかきながら答える。
「そうですか、母上がですか。毎夜頑張って、いやアイーダたちが組んだローテーションに沿って頑張らされているのですが。こればかりは、天からの授かりものですから。まあ、気長にお待ちください。しかし、父上のように夫人は1人だけで愛人は1人もいないというのは羨ましいです」
「そうだろう、そうだろう。私の場合は第1夫人のモントが許可しなかっただけだが、今ではモントに感謝しているぞ。お前は星魔法一族、音楽魔法一族、王族、高位貴族の子孫を残す責任があるから、精一杯頑張るのだな。ハハハハハ」
軍務大臣、いや父親の言葉に頷くしかないアースであった。
*
同じ頃、屋敷商会の魔導具部長室。
「ロバート、星魔法軍団から注文のあったコウモリ型魔獣用の魔導具の生産はどうなっている?」
「はい、部長。順調です。既存の魔法陣を利用できましたから。それも魔石から魔力を引き出す魔法陣、音を記憶させる魔法陣、そこから音を引き出す魔法陣、音を増幅する魔法陣、音を外に放出する魔法陣の5つの魔法陣だけでしたから」
魔法陣研究者のロバートの説明に、魔導具部長は感心して言う。
「ほう、携帯できるように小型化する方法はどうしたのだ」
「それは縮小転写する魔法陣を新規に開発しましたが、簡単でした」
「すると、肝は記憶させる音か?」
ロバートはコクコクして説明を続ける。
「はい。そこに一番時間がかかりました。鳥類学者に相談したところ、『コウモリは飛ぶ時に、人間には聴こえない高い音を出して周囲の様子を知る』とのことでした。だから、その高さの音を出してコウモリ型魔獣の飛行を妨害すれば良いと考えました」
魔導具部長が話を続けるようにコクコクするので、ロバートは話を続ける。
「次に、その高さの音を特定する作業ですが、人間の耳に聞こえない音が対象ですから困っていました。ですが、研究者の中にピアノ演奏を趣味とする者が閃いたのです。ピアノの鍵盤を弾いた時に、その音だけでなく、整数次倍音といって周波数が2倍、3倍、……と整数倍の高い音も発生しているらしいのです」
ここでロバートはお茶を口にする。すると魔導具部長が言う。
「しかし、どの音がコウモリ型魔獣に有効なのかは、どうやって決めたのだ?」
ロバートは、頭を搔きながら説明する。
「手あたり次第に実験しました。星魔法軍団に依頼して、コウモリ型魔獣10体を捕獲してもらいました。それで実験を繰り返して、3つの音を決定したのです」
「そうか、さぞかし大変な作業だっただろう。ご苦労」
ロバートは、ニッコリして手を横に振り言う。
「いえいえ、仕事ですから。それより、2つの魔法陣の謎の解明に戻れるのが嬉しいです」
「転移陣の魔法陣と屋敷シリーズの魔法陣の謎か。あれは難解というより不可能ではないのか? あの2つの魔法陣の利用方法はマニュアルが残されているから利用できるが、原理の理解や応用は不可能だろう」
「はい。普通の魔法陣は魔法語で書かれていますから、機能の解析ができます。しかし、あの2つの魔法陣は0から9までの10個の数字と♯や♭、♮など78個の記号、合計88個の数字と記号が並んでいるだけです。まるで人間でない者が使う言語、非生物系言語ともいうべき言語で書かれているようなのです。全く意味がわかりません。意味が分からないから、我々にできるのは」、魔法陣をコピーして利用することだけです。
その言語さえ解析できれば、転移陣の魔法陣と屋敷シリーズの魔法陣の解析ができるのですけど。おそらく、2つも魔法陣は異空間を利用しているのでしょう。転移陣は離れた2地点を異空間で繋ぐことで、瞬間移動を可能にしているはず。屋敷シリーズの魔法陣は異空間内に山や海を作り出し、動物や植物、魔獣を生み出しているはずです」
ロバートの意見に魔導具部長はコクコクしてから言った。
「ウム、そうかもしれないな。それに音楽魔法一族の巫女様方だけが携帯魔法のアイテムと対物理攻撃用のバリア、対魔法攻撃用の結界のアイテム、黄金色や銀色の横笛が与えられるのも不思議なことだ。ただ1つ確かなことは、我々音楽魔法一族のご先祖様は非常に高度な魔法文明を持っていたことだ」
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