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第6話 こうもり序曲

 階段を登った先には、フロン辺境伯が待っていた。娘が心配だったのだろう。胸に白鳥の紋章がある黄金色の甲冑が登ってくるのを見て、目を丸くしていたが、声を出さなかったのはさすが辺境伯、武門の家の当主である。


「ナターシャなのか?」


全員が階段を登りきったところで、辺境伯が質問すると、ナターシャが答える。


「はい、お父様。『星とバラの妖精』のご助力もあり、無事に白鳥の騎士の甲冑を手に入れることができました」

「そうか、よくやった。これでお前が次期フロン辺境伯だ。疲れただろう。さあ、屋敷に戻ろう。『星とバラの妖精』も一緒に来てくれ。依頼達成の報酬の支払いもあるし、夕食もご馳走しよう」


それを聞いてナターシャが遠慮がちに頼む。


「お父様、明日『星とバラの妖精』と森に狩りに行きたいのです。今夜お屋敷に泊まってもらっていいでしょうか?」

「もちろん、泊まってもらっていいぞ。『星とバラの妖精』も遠慮せずにゆっくりしていってくれ」


そして、一行は屋敷に帰る。『星とバラの妖精』は2人ずつ4部屋に案内される。辺境伯とナターシャは執務室に入る。


「ナターシャ、その甲冑はどこに置く?」

「この甲冑は古文書に書いてあるように、保管場所がどこであろうと呼び出してできます。だから、たとえ盗まれたとしても、取り返すことができます。私の部屋でいいと思います」

「そうだな。私も白鳥の騎士の甲冑の装着と取り外しを見てみたい。お前の部屋に行こう」


そして、ナターシャは装着と取り外しを何回もやらされるのであった。



夕食には豪華な食事が提供された。その中で『星とバラの妖精』の興味を引いたのは、サラダと一緒にだされた黄色のソースだ。パシファが尋ねる。


「この黄色のソースは何でしょうか?」

「マヨネーズよ。ペインス公国沖に浮かぶ島で使われていたソースが、この国に伝わったの。卵黄と酢、オリーブオイルを混ぜるのが大変だったけど、魔導具のミキサーが発明されて楽に作れるようになったの。今ではこの国風にアレンジして、この国で一番使われているソースよ。サラダがとっても美味しく頂けるわよ」


それを聞いて、パシファが恐る恐るマヨネーズをつけてサラダを口に入れる。次の瞬間、パシファの目が大きく開かれる。そして、パシファはパクパクと無言で口に入れ始める。食べ終わると、フゥーと息を出して言う。


「とっても美味しいソースです。野菜だけでもお腹が一杯になるまで食べられそうです」


すると、他の『星とバラの妖精』のメンバーもサラダをパクパクし始める。


それを見て、ナターシャが微笑み、説明をする。


「卵黄を使った後の卵も有効に利用できますの。卵白はクッキーやケーキの材料に使えます。殻は潰して粉にして、水、小麦粉を混ぜてた後、固めてチョークにしますわ」

「チョーク? チョークって何ですか」


首を捻りながらレアが質問すると、ナターシャが答える。


「石板に文字を書く道具よ。布で拭くと書いた文字は消えます。個人で勉強する時でも学園で一斉に学習する時でも使用できるわ。もちろんお値段もとても安価でしてよ、材料費が安いですから」

「うわー、それは素晴らしい。紙や羊皮紙は値段が高いですから、平民が文字を学ぶのに障害になるのです。平民も文字や計算を学びやすくなります」


レアは嬉しそうに言う。読書が好きなレアは、平民にも本をたくさん読んでもらいたいのだ。本は高価であるが、図書館に行けば無料で、いくらでも本を読めるのである。そこにトルリも口を開く。


「マヨネーズもチョークもお土産店に売っていなかったよね?」

「ああ、チョークを売っているのは文房具店ですからね。マヨネーズは日持ちがしませんから、お土産店では売っていませんわ。良かったらマヨネーズを作るレシピを教えてあげましょうか?」


それを聞いたパシファが驚いて言う。


「えっ、いいのですか?」


料理のレシピは結構高い値段で売買されるからだ。ナターシャがニコニコしてコクコクする。


「もちろんですわ。この国では、みんなが知っているのですから」

「ありがとうございます」


パシファはもちろん、『星とバラの妖精』全員が頭を下げる。その後、この国の名物料理、小エビなどを使ったシーフードや豚すね肉の塩茹で、ミートローフなどの肉料理、キャベツを塩と乳酸菌で発酵させた漬物をお腹いっぱいになるまで楽しんだのである。


翌朝、『星とバラの妖精』はナターシャと共に狩りに出かけた。城壁の中は雪がなかったが、転移陣を出た森の前の野原には雪が積もっている。その様子に驚いた『星とバラの妖精』にナターシャが説明する。


「城壁の中は暖房の魔導具で温めて、雪が積もらないようになっているのよ。だけど、ここの雪はそう深くないから、大丈夫よ」


でも、フェネは首を横に振って言う。


「大丈夫よ。みんなで歩くくらいの幅なら雪を解かせるわ。ナターシャも音楽魔法一族の血が流れているのだから、一緒に歌ってね」

「わかったわ。知っている歌だから大丈夫よ」


フェネは横笛を携帯魔法で取り出して『春が来た』の演奏を始める。『星とバラの妖精』とナターシャは、それに合わせて歌う。


♪はーるがきーた はーるがきーた どこにーきたー 

やーまにきーた さーとにきーた のにもーきーたー


すると、3人ほどが並んで通れるほどの幅で、森への道ができる。その道を『星とバラの妖精』とナターシャ、護衛の兵士5人が森へと進む。歩きながらフェネがナターシャに話しかける。


「ナターシャ、パイプオルガンも上手だったけど、歌も上手なのね」

「パイプオルガンは小さい頃から親戚の神殿で練習していたからよ。歌は特に練習していないけど、上手だったのかしら? 音楽魔法一族の血が流れているのが理由かもね。そうそう、有名な音楽家を出している家は、我が家の遠い親戚なのよ。ひょっとして、彼らにも音楽魔法一族の血が流れているのかもしれないわね」


森に入ってしばらくするとセルクがぽつりと言う。


「雪が積もっているから薬草は見えないですね。残念です」

「もっと広い範囲で雪を解かせるけど、今回は諦めて。白鳥の騎士の甲冑の性能を確認するのが主な目的だから」


フェネの言葉にセルクはコクコクする。そこにアニマの声がした。


「静かにして。あそこの木に鳥がいるわ。あれは私の獲物よ。手を出さないで」


アニマが弓を構えて矢を放つと、矢はビューと飛んで行き命中する。ナターシャがホウと小声で呟く。そして言う。


「なかなかやるわね。次の獲物は私に任せて」


しばらく歩くと、遠くに銀狐が歩いているのを発見する。すると、ナターシャは『+』の紋章が刻まれた指輪をはめた人差し指を立てた右手を上に上げて詠唱する。


「プット オン」


すると、ナターシャの身体は光に包まれる。そして、光が消えるとナターシャが立っていた位置に甲冑を装着したナターシャが立っていた。そして、ナターシャは銀狐の方へ凄い速さで走って行ったが、すぐに銀狐を手に帰って来る。そして、興奮して言う。


「凄い速さで走れるの。銀狐に簡単に追いつけたわ。それにパンチ一発で倒せたのよ。凄いわ、この甲冑」


その後も狩りをしながら森の中を進むと、雪の積もった草原に出る。草原の先を指さしてナターシャが説明する。


「30キロほど先に騎馬民族の国との国境があるわ。今日はここまでにしましょう」


白い草原を眺めていたアニマが叫ぶ。


「あっ、何かが走ってくるわ。その後ろの空にも黒いのが飛んでいるわ」


全員がその方向を見る。しばらくして、それがはっきり見えるようになると、トルリが叫ぶ。


「走って来るのはヒグマ型魔獣一体、空を飛んでいるのはコウモリ型魔獣数十体よ」

「ヒグマ型魔獣だったら火魔法で討伐できるよ」


プレヤが言うと、ナターシャが首を横に振る。


「ヒグマ型魔獣は私に討伐させて。この甲冑を試すチャンスよ」


そして、ナターシはビューンと駆け出す。それを見てフェネも言う。


「私たちもコウモリ型魔獣・魔物用の音楽魔法を試しましょう」


フェネは携帯魔法で横笛とヴァイオリン、コンサートチャイムを取り出す。フェネ、アニマ、トルリの3人は演奏準備が整うと詠唱する。


「「「音楽魔法 こうもり序曲」」」


華やかな曲が始まる。フェネの横笛からオーボエの音色が流れ、アニマとトルリのヴァイオリン、コンサートチャイムの音が響くと、コウモリ型魔獣数十体は次々と煙に変わり、魔石を落とす。一方、ナターシャはパンチ一発でヒグマ型魔獣を討伐してしまった。


魔石を手に帰ってきたナターシャは言う。


「あの程度の魔獣では、甲冑の性能の性能がわからないわ。それにしても音楽魔法は凄い魔法ね」



お読みいただきありがとうございます。

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参考 

「春が来た」 童謡 作曲 岡野 貞一 作詞 髙野 辰之

「歌劇 こうもり序曲」 作曲 ヨハンシュトラウス2世

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