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第4話 フロン辺境伯家の古神殿 

 「これは随分古いチェンバロだわ。チェンバロはピアノが使われるようになるまでは良く使われていた鍵盤楽器よね。ひょっとすると、ピアノが使われるようになる前のチェンバロかもしれない」


トルリが言うと、アニマも続く。


「このヴァイオリンはずいぶん古い型式ね。基本は今と同じだけど」

「この扉は数百年の間、開かれていなかったから、チェンバロもヴァイオリンもダメになってしまったようだ。だが、大丈夫、横笛だけの演奏でも内扉は開くそうだ。演奏する曲の楽譜はこれだ」



そう言うと、辺境伯は懐から厚い紙束を取り出して、フェネに渡す。フェネが楽譜を見ていると、辺境伯が心配そうに尋ねる。


「演奏できるか?」


楽譜を見終わったフェネが自信満々に答える。


「大丈夫です。どうせなら、ピアノとヴァイオリンとの三重奏で演奏しましょう。フーガ、追いかけっこの曲ですから」


そして、携帯魔法でピアノとヴァイオリン取り出して、アニマとトルリに言う。


「曲はバッハの『小フーガ ト短調』よ。準備はいい?」


アニマとトルリがコクコクすると、フェネは横笛を口に当てて息を吸う。


3人はいつも一緒に演奏しているので、出だしの音はピッタリ揃う。流れた曲は神殿でよく演奏されている曲。部屋の中が神聖な雰囲気で満たされる。5分ほどで、横笛、ヴァイオリンとピアノの演奏が終わると、白い扉が音もなく大きく開く。それを確認して辺境伯が話す。


「3人とも素晴らしい演奏だった。それにしても携帯魔法も使えるとは驚いた」

「ありがとうございます。携帯魔法が使えると、狩りの時に便利ですよ。食事の時のテーブルやイス、お弁当を取り出したり、大きな獲物を収納できますから。では、この横笛はお返しします。私には同じ横笛がありますから」


フェネがお礼を言って、横笛を辺境伯に返す。それを受け取った辺境伯は大事そうに懐にしまって言う。


「さあ、神殿の中に入ろう」


神殿の中は薄暗かった。照明のためのロウソク立てはあるのだが、ロウソクが無い。照明の魔導具があったとしても、魔石がダメになっていただろう。幸いなことに両横のステンドガラスが大きいので、そこからの光が差し込んで来るからなんとか内部を見ることができる。


辺境伯を先頭に歩みを進めると、前方に背の高い金属の円柱が何本も見えてくる。白銀色にピカピカ光っているのはミスリルの色かもしれない。辺境伯が呟く。


「ふむ、あのパイプオルガンか。時間停止の魔法がかけられているらしいが、壊れていなければ良いのだが」


更に近づくと、パイプオルガンには3段の鍵盤があり、足元にも鍵盤らしき木の棒が突き出ていることがわかる。


「さあ、ナターシャ。お前の出番だ」

「はい、お父様。この日のために親戚の土地の神殿で厳しい練習をしてきたのです。全力で演奏しますわ」


辺境伯の言葉に、ナターシャは決意を込めて答える。そして、パイプオルガンの前に置かれたイスに座る。しばらく目を閉じていたが、やがて両手を鍵盤の上に置いて演奏を始める。予想できないことが起こることを予感させるメロディーで曲は始まる。足元の鍵盤を踏むと重厚な低音が鳴り響く。


荘厳な音が鳴り響く。『トッカータとフーガ ニ短調』だ。遠い先祖に音楽魔法一族の者がいるためか、上手な演奏である。曲の途中から右隅の床がゆっくりと動き始め、そこから光が差してくる。演奏が終わると、床の動きは止まり、広い穴がポッカリと開き、そこから明るい光が神殿内を照らし出す。


穴に近づいて中を見ると、1枚1枚が広い石板が作る階段が下へ続いている。辺境伯がナターシャに言う。


「ナターシャ、私はここまでだ。ここから先はお前と同行者だけで下に行き、白鳥の騎士の甲冑を手に入れるのだ。それが先祖の決めた定めだ。」

「はい、お父様。必ず白鳥の騎士の甲冑を手に入れてみせますわ」


辺境伯は『星とバラの妖精』を向いて依頼する。


「娘をよろしく頼む」

「はい、お任せください」


プレヤが胸を張って答える。そして、ナターシャと『星とバラの妖精』は階段を下へ降りて行く。



「ほら、あそこのとても大き湖の中央に島が見えるでしょう? あの島が目的地よ」


階段の途中でナターシャが言う。いつの間にかナターシャの隣にいるアニマが、コクコクして答える。


「うん、見えるわ。湖の中の島だけど、かなり大きな島ね。湖まで少し距離があるみたいだけど、草原が続いているから安心して行けそう」


後ろからフェネが、声をかける。


「この階段は長いわ。300段くらいは降りたけど、まだ半分くらいよ。少し疲れたわ。降りたら一休みしましょう」

「そうだね。僕は疲れていないけど階段を降りるのに飽きて来たよ」


それからも階段を降り続け、下に到着したところで、休憩となる。レアが土魔法で四阿を作り、フェネが携帯魔法でテーブルとイスを出し、パシファがケトルとコップで全員にお茶を配る。


「あなたたちと一緒に狩りに行くと、楽しい狩りになりそうだだね。屋敷に帰ったら一緒に近くの森に狩りに行かない?」

「行きましょう、是非行きましょう」


ナターシャのお誘いにプレヤがすぐに応じると、全員ニコニコ顔である。この国でも狩りに行くつもりだったし、森のことをよく知る人と一緒の方が狩りが楽になるからだ。


「ここには危険な魔獣はいないのですか?」

「ああ、古文書によると、湖を含めて危険は一切ないらしい。ただ、湖の畔に着いてから難問があるそうだ」


ヴェーヌの問いかけにナターシャが答えると、ほっとした空気になる。続いてヴェーヌが尋ねる。


「ところで、あの島はとても大きい島のようだけど、白鳥の騎士の甲冑はどうやって見つけるの?」


その質問にナターシャは右手を伸ばす。その人差し指には『+』の紋章が刻まれた指輪がある。


「この『+』の紋章を手掛かりにして探すらしいわ。古文書にはそれだけしか書かれていないわ」


どうやら、後は島に着いてから何とかするしかない、ということが分かりヴェーヌはため息をつく。その後はこの国ではどんなお肉が美味しい、とかお薦めのお菓子の話で盛り上がり、やっと湖に向けて出発する。


草原を20分ほど歩くと湖の畔に到着する。湖岸に大人が10人ほど乗れる大きさのボートが置いてあり、ボートの先にロープがついている。ロープの先端には『+』の紋章が刻まれた木札が括り付けてある。


「さて「、中央の島にどうやって行くかだが」


ナターシャが言うとアニマが提案する。


「あの島へ転移しましょうか?」

「えっ、転移魔法が使えるの? それは凄いわ。でも、ボートで行くように指示されているのよ。でも、オールは無いようだし」


ナターシャはアニマの提案を断ると、困った顔で考え始める。『星とバラの妖精』のメンバーも考え始める。しばらくして、セルクがおずおずと右手を上げる。


「あの~、私も幼い頃に白鳥の騎士の絵本を読んだことがあります。その絵本の中で白鳥の騎士は、白鳥に引かれた船に乗って登場したと思うのですが」


それを聞いて、パシファも続く。


「その絵本でしたら、私も読んだことがあります。白鳥の騎士だから、空を飛ぶ白鳥に乗って来ると思っていたから、ちょっとガッカリした記憶があります」


どうやら白鳥の騎士は、白鳥に引かれた船に乗って登場することは確かなようである。ヴェーヌがハッとした表情で言う。


「あの木札の『+』の紋章の意味が分かったわ。あの記号は白鳥を表しているの。理由はね、はくちょう座は北十字星とも呼ばれているからよ」


すると、ナターシャがため息をつく。


「まさか白鳥が必要になるとはおもわなかったわ。屋敷に帰って白鳥を連れてこないと。まったく手間がかかるわね」


しかし、プレヤがフムフムと頷いて言う。


「白鳥を連れてこなくても大丈夫。ここで白鳥を出せばいいのだから」

「えっ、どういうこと? 訳がわからないわ。説明してちょうだい」

「星魔法を使えばいいんだよ」


プレヤはヴェーヌに言う。


「あのボートは大きいから、大きい白鳥が必要だと思う。ヴェーヌ、2人で力を合わせよう」


ヴェーヌがコクコクして、スターワンドを取り出す。プレヤもロータスワンドを取り出す。そして、プレヤは右手をヴェーヌの左手とつなぎ、左手にロータスワンドを持つ。ヴェーヌは右手にスターワンドを持つ。そして、同時に詠唱する。


「星魔法 はくちょう座」


大きな白鳥が湖に現れて、『+』の記号が書いてある木札を口に咥える。


「さあ、ボートに乗ろう」


プレヤの掛け声で全員がボートに乗り組むと、白鳥はボートを曳いて湖中央の島に向けて泳ぎ始めた。


お読みいただきありがとうございます。

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参考

「小フーガ ト短調」 作曲 J. S. バッハ

「トッカータとフーガ ニ短調」 作曲 J. S. バッハ

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