第3話 フロン辺境伯家
『星とバラの妖精』が転移陣から出るとフロン辺境伯屋敷の門前だった。門前に立つ兵士にプレヤが話しかける。
「僕たちはフロン辺境伯に面談したいのですが」
兵士は胡散臭そうな目でメンバーを見回すと言う。
「子どもが何の用だ。イタズラならさっさと帰れ」
ヴェーヌがプレヤの肩をトントンと叩き、小声でアドバイスsる。
「プレヤ、冒険者ギルドからの紹介状をみせるのよ」
プレヤがコクコクして、ポシェットから紹介状を取り出して兵士に見せると、兵士は目を丸くして言う。
「お前たちのような子どもがC級冒険者だと。信じられない」
プレヤが冒険者カードを見せると、やっと信じてくれて門を通してくれる。花の少ない庭を見ながら歩く。庭を眺めながらフェネが呟く。
「花が少ないわ。どうしてかしら?」
「どこの国でも辺境伯は武門の家で質実剛健の家風なのよ。だから、こんな感じの庭なのだと思うわ」
レアがフェネの呟きを拾って答える。5分ほどで玄関に着くと、すぐに広い応接室に案内され、お茶とお菓子が出される。お菓子は中心に穴があり、年輪のような模様があるお菓子だ。アニマが言う。
「見たことのないお菓子だわ。美味しいのかしら?」
「食べてみればいいのよ。さあ、食べよう」
トルリは言うが早いか、パクリと口に入れて叫ぶ。
「美味し~い。なにこのお菓子、シンプルだけど美味しい~」
それを聞いて、他のメンバーもパクパク食べ始める。食べ終わったら、丁度ノックされたので全員立ち上がると、入って来たのは初老の男性。その男性が一礼して自己紹介する。
「初めまして。私は当家の執事のアルバンと申します。どうぞお座りください。早速ですが、冒険者ギルドの紹介状を拝見できるでしょうか?」
プレヤが手渡した紹介状に目を通したアルバンが言う。
「その年齢でC級冒険とは素晴らしい。早速ですが、本題の依頼に入ります。依頼の横笛はフルートやピッコロのことではありません。それらの先祖である横笛のことです。これまでに紹介された方々は、その横笛が演奏できなかった、いや音を出すことすらできなかったのですが、大丈夫でしょうか?」
メンバーがフェネを見ると、フェネが答える。
「大丈夫だと思います。私はいつも横笛を吹いていますから」
「そうですか。今その横笛をお持ちでしょうか?」
アルバンの問いかけにフェネが詠唱する。
「シルバーコローフル アウト」
銀色に輝く横笛が現れると、アルバンは驚いて固まる。しかし、すぐに立ち直ると口を開く。
「たしかに、当家の横笛とその横笛は同じ種類の横笛のようです。当家の主を呼んできますので、しばらくお待ちください」
そう言い残して10分後、40代に見える黒髪青目、筋骨隆々で身長180センチほどの男性が応接室に現れる。その後ろには執事アルバンが紫の布に包まれたものを持っている。その男が自己紹介する。
「よくぞ当家に参られた。私はフロン辺境伯だ。アルバンによると横笛が吹けるそうだな。良かったら、神殿で演奏される曲を1曲吹いてくれないか?」
アルバンが紫の布包みをフェネの前に置き包みを開くと、とても古い木製の横笛が現れる。フェネはその横笛を手に取って立ち上がり、口に当てるとハッと何かに気づいた表情をしたが、すぐに演奏を始める。『主よ、人の望みの喜びよ』、神殿で演奏される曲の中でも有名な曲の1つだ。
『コラール』の薫陶を受けて、フェネは神殿で演奏される曲に詳しくなったのである。聴きやすいメロディーだが、神聖な雰囲気を醸し出す曲だ。演奏が終わると辺境伯は首を縦に振りながら言う。
「見事な演奏だ。これまで誰も演奏どころか、音を鳴らすことさえできなかったのに素晴らしい。いや失礼した、すまぬ。これから我が家の秘密に関わってもらうのだから念には念をいれたのだ」
「これまで面談した者たちが、音さえ出せなかったのは当然でしょう。口に当てて感じたのですけど、これは音楽魔法一族の横笛です。この横笛を演奏できるのは音楽魔法一族の者だけですから」
フェネの返答にフロン辺境伯は驚く。しかし、冷静さを取り戻して言う。
「そうなのか。音楽魔法一族とはソーミュスタ王国に住む一族のことか。なるほど、これまで誰も音すら出せなかったのはそのためか。それでは、依頼の内容を説明するが、秘密厳守で頼む。依頼が達成されたら報酬として金貨30枚を支払おう。どうだ、受けてくれるか?」
金貨30枚はC級冒険者にとっては破格の依頼である。通常の依頼達成報酬が銀貨10枚程度なので、300倍の報酬だ。プレヤがメンバーを見回すと、全員が激しくコクコクしている。プレヤは肯定の返事をする。
「依頼を受けます。もちろん秘密は厳守します。どうぞ説明してください」
それを受けて、フロン辺境伯はコホンと咳払いをして説明を始める。
「まず、この横笛だが、初代辺境伯第1夫人の横笛なのだ。数百年前世界が乱れていた頃、初代辺境伯は白鳥の騎士の甲冑に身を包んだ第1夫人と共に功績を上げ、辺境伯に叙せられた」
レアが右手を上げる。
「白鳥の騎士はローエングリンのことですよね。あれはおとぎ話ではないのですか?」
辺境伯は首を横に振り、話を続ける。
「いや、おとぎ話ではない。白鳥の騎士の甲冑は実在する。世の中が落ち着いたので、封印されたのだ。そして、辺境伯に男子が誕生せず、女子が次期当主となる時には、封印を解き次期当主が身に纏うよう伝えられている。
以来、男子が辺境伯を継いできたのだが、現在我が家には女子しかおらぬ。封印を解く時が来たのだ。封印を解く方法は伝えられているが、この横笛を吹ける者が必要なのだ。だから、横笛を吹ける者を探していた。娘のために封印を解く助力をお願いする」
『星とバラの妖精』全員がコクコクする中、プレヤが口を開く。
「わかりました。全力で助力しましょう」
「ありがたい。では紹介しよう、次期当主の長女ナターシャだ。ナターシャ、入ってきなさい」
呼ばれて入って来たのは、冒険者の服装をした緑目で黒髪をポニーテールにした15才くらいの女の子。
「驚いたかね。我が家では娘でも戦えるように冒険者として、戦闘訓練をしているのだ。さあ、ナターシャ挨拶をしなさい。彼女たちがお前の助けになってくれる冒険者パーティだ」
ナターシャは一礼をしてから、不思議そうな顔をして言う。
「フロン辺境伯家長女ナターシャよ。あなたたちはまだ子どものようだけど、大丈夫かしら。私はC級冒険者よ。あなたたちは何級かしら?」
プレヤがニッコリして答える。
「大丈夫です。僕たちもC級冒険者ですから。よろしくお願いします」
「えっ、本当なの? 私がC級に昇格したのは最近なのに、その若さで凄いのね。頼りにするわ。よろしくね」
そのやり取りを微笑ましく見ていた辺境伯が、声を発する。
「さあ、白鳥の騎士の甲冑にかけられた封印を解きに行くぞ」
それを合図に、辺境伯を先頭に一行は屋敷を出ると、門とは反対の方向に向かう。ポプラ並木を10分ほど歩くと、とても古そうに見える神殿が見えてくる。空高くそびえたつ高い尖塔を持つ大きな神殿だ。
「あの神殿は初代辺境伯が建てたものだ。数百年経って、外見は古びているが頑丈な建物で崩れる心配はない。白鳥の騎士の甲冑はあの神殿の中に封印されている」
神殿の扉は高さが10メートル、幅も5メートルほどある大きな扉だった。辺境伯が鍵を鍵穴に差し込み、グルッと回す。すると、ガチャリと音がする。辺境伯が鍵を引き抜き、扉を力を込めて押すと、扉はギギギと音を立てて開く。開いた先に風が吹き込むと、埃が舞って中は良く見えない。埃が落ち着くと最初に視界に入ったのは、奥にある白い扉だ。
白い扉の前の空間に入ると、左に埃が厚く積もったチェンバロがある。右には戸棚があり、その中には弦が切れたヴァイオリンが置いてある。トルリがチェンバロに近づき、埃を払ってから鍵盤を叩いて言う。
「全然ダメだわ。調律が必要よ。いや、それ以前に金属部分が錆びてしまっているし、木製の部分も崩れそうね」
アニマもヴァイオリンを見て言う。
「ネックも表板もボロボロね。弦を変えてもダメだわ」
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参考
「主よ、人の望みの喜びよ」カンタータ第147番 作曲 J. S. バッハ




