第2話 冒険者ギルドの受からずの依頼
翌朝、赤いバラの屋敷に帰るガリレを見送りに転移陣へ行くと、荷物を満載した荷馬車とお土産屋の店員が待っていた。携帯魔法の使えるフェネとヴェーヌはここに残るので、同行してもらうのだ。
「危ないことをしてはいけませんよ」
よほど心配なのか、ガリレが『星とバラの妖精』一人ひとりと目を合わせて言う。それに全員がコクコクして返事をする。
「「「は~い」」」
ガリレたちの姿が転移陣から消えると、プレヤが言う。
「さあ、冒険者ギルドへ行こう」
「「「お~」」」
歩いていると、周囲をキョロキョロ見ていたアニマが言う。
「石造りの建物ばかりね。珍しいわね」
森に住む音楽魔法一族は木造の家に住むので、不思議なのだろう。本好きのレアがコホンと咳払いをして、メガネをクィと指で上げて答える。
「ここは辺境伯領よね。辺境伯は国境を守る役割があるの。火矢で攻められても火事にならないように石造りなのよ。特にこの国の東は、騎馬民族の国だから万全の対策をしているのね」
「レアっていろいろなことを知っているのね、凄いわ」
アニマに褒められてレアは恥ずかしそうに言う。
「そうかな? 本を読むのが好きだからだと思うわ。本を読むとたくさんの知識が自然に身につくの。行ったことのない土地のことを知って、いろいろ想像することも楽しいし、実際にその土地に行って、ああやっぱり本に書いてある通りだって確認できるのも楽しいわ」
そんな話をしながら歩いていると、冒険者ギルドに着く。冒険者の姿は少なかった。冒険者の朝は早い。明るいうちにできるだけ多くの薬草や獲物を手に入れたいからだ。
冒険者の多くは狩りや討伐に出かけた後なのだろう。人の少ないギルドの中、『星とバラの妖精』は最初に狩場の地図の前に行く。危険な魔獣や魔物がいないことを確認するためだ。地図を見てヴェーヌが言う。
「危険な魔獣や魔物はいないみたいね。全部C級以下、安心だわ。依頼の方を見てみましょう」
ぞろぞろと依頼の張ってある掲示板前に移動する。
「討伐依頼は目新しいものはないわ」
「薬草採取も同じね。珍しい薬草は生えていないみたい。残念だわ」
トルリがため息混じりに言うと、アニマもガッカリして続く。しかし、フェネがアッと声を出す。そして、端に張ってある1枚の依頼書を指さして言う。
「あの依頼書、変わっているわ。詳しい内容を知りたいわ」
その依頼書に書かれていたのは奇妙な内容だ。
「求人 横笛の吹ける人。ただし、C級以上に限る。 詳細は窓口にて」
「確かに変な依頼だね。でも面白そうだ」
「謎の依頼ね。興味深いわ。窓口に行ってみましょうよ」
依頼書を見て、プレヤとレアが興味を示すが、パシファが待ったをかける。
「罠かもしれませんよ。甘いお菓子に群がる女の子を捕まえるような。慎重に考えた方がいいです」
その一言で、全員が首を傾げるが、少ししてヴェーヌが口を開く。
「情報不足です。とりあえず受付で詳しいことを訪ねてみましょう。結論はその後にしましょう」
結局、プレヤを先頭に受付へ向かう『星とバラの妖精』。受付に座っていたのは、茶髪の20才くらいの女性だった。その女性にプレヤが尋ねる。
「横笛を吹ける人の求人について知りたいのだけど、大丈夫?」
「ああ、受からずの依頼ですね」
「受からずの依頼? 何ですかそれ。詳しく教えてください」
「これまで20人ほど面談に行ったけど、みんな不合格で依頼を受けられずに帰って来たの。みんなが言っていたわ、あんなの無理って」
それを聞いてパシファが尋ねる。
「面談に行った人たちは無事に帰ってきたのですか?」
「ええ、面談するのは、平民に人気のあるフロン辺境伯ですから。安全安心ですよ。冒険者ギルドの保証付きです」
プレヤがメンバーを見回すと、全員がコクコクするので受付嬢に申し出る。
「横笛を吹けるメンバーがいるので、面談を受けたいのですが、いいでしょうか?」
「いいわよ。ちょっと待ってね」
受付嬢は後ろの引き出しから、1枚の紙を取り出しプレヤに渡して説明する。
「この紙は冒険者ギルドの紹介状です。フロン辺境伯のお屋敷の転移陣アドレスは一番下にあります。面談可能時間は毎日午前10時から11時です。これから行けばちょうどいいでしょう」
「ありがとうございます。早速行きます」
プレヤが言って窓口を去ろうとすると、受付嬢が呼び止める。
「ちょっと待って。2人の男が玄関にいるでしょう。あの2人は男爵家の三男と子爵家の四男で、貴族であることをいいことに、女の子に悪いことをするから気を付けるのよ」
玄関を見ると、10代後半で茶髪の男と赤髪の男がこちらをジーと品定めをする目で見ている。プレヤは受付嬢にお礼を言う。
「忠告ありがとうございます。でも、僕たちは強いから大丈夫です」
そして、スタスタと玄関に向かう。すると、2人の男が玄関の前に立ち塞がり、茶髪の男が軽薄そうなしゃべり方で声をかけてくる。
「ねえ、君たち。みんな可愛いね。良かったら僕たちとお茶しないかい>」
「間に合っています。急いでいるので失礼します。外に出たいので、道を開けてくれませんか?」
プレヤが返事をすると、茶髪の男は顔を真っ赤にして言う。
「なんだとー。俺たちは貴族でB級冒険者だぞー。黙って言われた通りにしろ」
そして、プレヤの肩を掴もうと右腕を伸ばす。プレヤが男の腕を掴み、トウリャーと声を出して1本背負いで投げると、男は床に叩きつけられて気絶する。残った男は唖然としていたが、それに構わずプレヤは言い放つ。
「そこをどきなさい。それから、そこに倒れている男を連れて行きなさい」
赤髪の男はひきつった顔で、すぐに茶髪の男を引きずって外に出て行った。さて出発しようとしたら、パチパチと拍手をしながら3人が近づいて来る。冒険者の服装で、先頭は10才くらいで金髪緑目の少女、後ろの2人は20才くらいの女性、2人とも女性騎士のような体格、身のこなしをしている。先頭の少女が目をキラキラさせてプレヤに言う。
「お姉様、素敵です。是非お名前を教えてください」
プレヤは突然のことに一瞬ひるむが、冷静さを取り戻して尋ねる。
「あなたは誰かな? 自分から名乗るのが礼儀だよね?」
「失礼しましたわ。私はF級冒険者パーティー『百合の花』のリーダーのリリアです。私もお姉様のような強い少女になりたいのです。是非お名前を教えてください。それから、できればサインをください」
少女が言うと、後ろの女性がサイン用紙とペンを出して少女に差し出す。少女はそれを受け取ると、プレヤの方へ差し出した。これはもう、貴族令嬢と護衛騎士に違いない。
そう判断して断れないと考えたプレヤはサイン用紙とペンを受け取り、サラサラとサインをする。もちろんリリアさんへと書き添えることも忘れない。アイドル活動をしているのだから、慣れたものである。そして少女に渡す。
「僕の名前はプレヤ。こんなサインでいいかな?」
受け取ったサイン用紙を大きく目を開いて見た少女は喜色満面で答える。
「ありがとうございます。プレヤ様ですね。これは一生大事にします」
「そう、嬉しいよ。では僕たちは急ぎの用があるから、これで失礼させてもらう」
プレヤがそう言って、『星とバラの妖精』は冒険者ギルドを後にする。その姿が見えなくなると、リリアは後ろの2人に言う。
「やったわ。『星とバラの妖精』と会えて、プレヤ様の名前も知ることができたし、サインまでもらえたわ。これで他の王女たちに自慢できるわよ」
2人の女性もニコニコ顔だ。1人の女性が言う。
「予想が当たって良かったですね。王女殿下」
リリアは帝国の第3王女である。友好国の王女間ネットワークにより、テンブリ王国のサーシャ王女からアイドルグループ『星とバラの妖精』が冒険者活動もしていることは知らされていた。しかも小型の肖像画付で。
そして、王女専属の秘密情報機関により、ファッションショーを観に帝国を訪れていることが判明した。だから、冒険者ギルドに来ると予想して待ち構えていたのである。
王女ネットワークとは、本来他国へ嫁ぐこともある王女たちにとって、嫁ぎ先候補の情報を得るためのものであるが、それ以外の目的にも使用されることも多々あるのである。
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