第1話 帝都ベロインのレストランにて
赤いバラの屋敷のヴェーヌの部屋にヴェーヌ、セルク、レア、アニマ、トルリ、パシファが集まっている。
「ねえ、赤バラの『オーロラの下で』とコラールの『オーロラのスキャット』は曲が完成したらしいけど、私たちの『オーロラのような恋』はできたの?」
「はい。私の作詞は終わって、作曲のフェネさんに渡してありますからもう出来上がっているはずです」
アニマの問いかけに、パシファがニッコリして答える。ノルデンランド王国で見たオーロラの美しさに、『赤バラ』と『コラール』、『星とバラの妖精』の3グループで、曲名にオーロラを含む曲を発売することにしたのである。
それを聞いたトルリが目をキラキラさせて言う。
「ねえねえ、どんな歌詞? 教えてよ」
「それは」
それにパシファが答えようとした時、フェネとプレヤが入室してくる。入室するとすぐにプレヤが満面の笑みを浮かべて言う。
「アースクイン会議が終わったよ~。ビッグニュースがあるよ~」
「えっ、なになに、ビッグニュースってなに?」
プレヤの言葉にアニマが飛びつくと、フェネが答える。
「センプロ帝国に行くことになったの」
予想外のことに部屋にいた全員がビックリするが、レアが尋ねる。
「理由は何でしょうか? さっぱり見当がつきません」
「ファッションショーの見学だよ。ほら、ノルデンランド王国でリエーロさんたちが報告していたけど、不十分だったらしい。そこで、メイドスキルのクロスの芸術持ちのガリレさんが見学に行くことになったんだ」
「それは分かりますが、なぜ私たちも行くのでしょうか?」
「子ども用の服を着るモデルに立候補したら、1回はファッションショーを見ておくべきってことで、センプロ帝国で行われているファッションショーを見学に行くことになったの。そして、見学が終わったら、狩りに行く許可ももらったわ。条件付きだけどね」
フェネが続きの説明をすると、全員が納得したようである。しかし、パシファが手を上げる。
「条件付きとは何でしょうか?」
「ああ、それはね、センプロ帝国は友好国の中で一番東にある国でしょう? そして、コウモリ型魔物が東に逃げた後は行方不明だから、それに対する準備をすることよ」
「準備とは、具体的に何をするのでsとうか?」
「2つあるの。1つはコウモリ型魔獣用の携帯型魔導具を持って行くことよ。これは効果範囲が狭いのだけど」
コウモリ型魔獣用の魔導具という言葉に全員が首を傾げる。そのような魔導具はこれまでなかったからだ。コウモリは飛ぶ時に、人間には聴こえない高い音を出して周囲の様子を知る。だから、その高さの音を出して妨害する魔導具が新開発されたのだ。全員の様子を見てフェネが続ける。
「開発した屋敷商会の魔導具技師さんの説明だと、その魔導具はスイッチボタンを押すだけだから、使い方は簡単らしいよ。もう1つは、コウモリ型魔獣を煙に変える音楽魔法を練習することよ。お母さま方が見つけてくださったの。これは効果がかなり広範囲に及ぶのらしいよ」
フェネの説明にトルリが尋ねる。
「その音楽魔法は難しいの?」
「お姉様が言うには、習得するのに1時間もかからないらしいわ。だから、明日は私とアニマとトルリはアルタイルの森に行って、その音楽魔法を教えてもらうのよ。いいかしら?」
フェネの問いかけにアニマとトルリがコクコクすると、プレヤが言う。
「じゃあ、週発は明後日の午前中でいいかな? 次のファッションショーは明後日の午後に開かれるらしいから。ガリレさんの都合もあるけど」
全員がコクコクすると、パシファはガリレの部屋に向かう。ガリレの都合を聞きに行ったのであろう。
「ガリレさんも明後日午前中の出発でいいそうです」
帰って来たパシファの言葉で、出発は明後日の午前中に決まった。
*
センプロ帝国の帝都ベロインにあるレストラン。BGMに『コーヒーカンタータ』が流れている。「おしゃべりはやめて、お静かに」という別名もある曲だ。この街ではコーヒーが大流行しているらしい。コーヒーは南の大陸から豆が輸入されている飲み物である。
噂だが、コーヒーを飲むと人はやさしい気持ちになるらしい。噂が本当なら、みんながコーヒーを飲めば、世界はもっとやさしい気持ちに溢れた世界になるだろう。ファッションショーの見学を終えた『星とバラの妖精』とガリレは夕食を食べに来たのである。
給仕が一行を席に案内してメニュー表を置いて下がると、メニュー表を見て、レアが提案する。
「この国の名物はビールと酢漬け野菜、肉、ハム、ソーセージ、ジャガイモの料理です。ビールは大人の飲み物ですから止めておきましょう。スープはマウルタッシェンでどうでしょうか? パスタ生地の中にひき肉と野菜を詰めたものをスープに浮かべたものです」
ここでレアが口を閉じて見回すと、全員がコクコクするので話を続ける。
「メインはアイスバインでどうですか? 塩漬けにした骨つきの豚すね肉をじっくり煮込んだものです。デザートのお菓子は、シュトレンですね。バターや牛乳を用いた生地に、ドライフルーツが練りこまれたこの国の名物のお菓子です」
これにも全員がコクコクして、注文が決まった。それを待っていたのか、プレヤがガリレに尋ねる。
「ファッションショーはどうでしたか?」
「ドレスやワンピースをデザインする者としては、是非やってみやいですね」
即答したガリレだが、そこまで言うとため息をついてから続ける。
「でも、いきなりは無理ですね。まずは屋敷商会のデザイナーさんとの合同のショー、コレクションからですね。大人の服は屋敷商会のデザイナーさん、子どもの服は私が担当という形でしょうか。もちろん、共通のコンセプトに関しての十分な話し合いが必要ですけど」
「じゃあ、やろうよ。アルタイルホールでファッションショーを」
プレヤが前のめりに言うが、ガリレは不安そうに答える。
「乗り越えなければならない困難がいくつかあります。演出方法やBGM、髪のセットや服の着替えのお手伝いをする人をどうするかなどですが、特に大きな問題はモデルと会場ですね」
「子ども用のドレスやワンピースのモデルなら、僕たちも参加するよ。それを僕たちのコンサートの舞台衣装にすれば宣伝になるし。人数が足りなければ、ブルーイスカの3人やアルタイルの森の子どもたちにも声をかけるし、ねえ、みんな」
プレヤが『星とバラの妖精』のメンバーを見ると全員がコクコクする。ガリレの作った新しいデザインの可愛い服を一番早く着たいと思うのは、女の子として当然なのだ。パシファは大人であるが、空気を読んだのだろう。
「ありがとうございます。それならばモデルの問題はなんとかなるかもしれません。でも、ファッションショーの会場には、舞台から客席の中に突き出しているランウエイが必要です。アルタイルホールにランウエイを設置するのは無理だと思います」
それを聞いて考え込む『星とバラの妖精』だったが、ヴェーヌが手を上げる。
「新しいホールを作ればいいのよ。マーチングバンドや多人数のダンス、体術、剣術などの練習や大会の会場にも使えるホールをね。お義姉様たちならきっと賛成してくださるわ」
「そっ、そうでしょうか?」
「そうよ。ホールの完成お披露目でファッションショーをやればいいのよ。そうね、ホールの完成には時間がかかるかもしれないから、早くファッションショーをやりたいなら、仮設のホールを建てればいいのよ」
ヴェーヌの言葉にガリレの顔色が明るくなる。
「そうですね。レジェラ様方とじっくり話し合ってみます」
そこまで話をしたところで、注文した料理が運ばれて来る。どれも美味しい料理で、スープとアイスバインを全員無言で夢中で食べ終わる。次にザートのお菓子
がテーブルに並び、みんなが目をキラキラさせて食べ始めるとフェネが言う。
「ファッションショーでのモデルさんたちの歩き方が素敵だったのですが、私たちにもできるでしょうか?」
「そうそう、3秒くらいだったかしら、止まってポーズをとる時も服が良く見えるように意識しているみたいだったし」
「はい、それに上手にBGMに合わせて歩いていました」
アニマやトルリ、セルクも感想を口にすると、本好きのレアが言う。
「あの歩き方はモデルウォーキングです。ポーズをとることはポージングと言います。モデルウォーキングは腰を支点として、かかとに体重をかけないように重心を前へ移動させます。立っている脚の膝は曲げないようにします。かなり難しいので、ハードな練習が必要です」
それを聞いたプレヤが、何でもないことのように言う。
「頑張ればいいだけだよ。これまでコンサートの舞台でダンスを踊ってきたし、注目を集めることには慣れているから他の子どもたちより簡単さ」
「そうね、頑張るだけよね。じゃあ、BGMは私が作曲するわ。服のコンセプトが決まったら、それに合わせて曲を作曲するわ。だから皆も頑張ろうよ」
プレヤに続きフェネも前向きな姿勢を見せると、
「「「おー」」」
全員が同意する。そして、残りのお菓子、リッターチョコレートをパクパク食べて皿をきれいにするとプレヤが言う。
「とても美味しいお菓子だったね。さて、これから何をしようか?」
その問いかけにガリレが答える。
「日没まであと2時間くらいです。お土産を買いにいきませんか? アマルにこの国のお菓子を、調理長のテミストさんにはハムやソーセージを買ってくるように頼まれているのです」
「賛成~、お菓子をたくさ~ん買いた~い」
アニマが大きな声で同意すると他の者もコクコクしたので、お土産店に行き大量のお土産を買い、その後宿に向かい長い1日は終わった。
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参考
「コーヒーカンタータ」 作曲 J.S.バッハ 作詞 ピカンダー
リッター(ドイツ語 Ritter)=騎士(日本語)




