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第11話 赤色の湖 

 2人の侍女が壁際に立ち、4人掛けの円卓の席にクララとアース、アイーダ、バービレ、レジェラが座ると、クララが口を開く。


「この店の自慢のメニューの1つに、この国の郷土料理のランチセットがあるのですが、それでよろしいでしょうか?」


自分以外の3人がコクコクするので、アイーダが返事をする。


「はい、それをお願いします」


返事を聞いたクララが侍女を見ると、侍女は部屋を出て行く。オーダーを伝えに行ったのだろう。それを確認して、クララが言う。


「改めて助けて頂いたお礼を申し上げます。いつもは槍の名手であるマーシャとその部下が護衛をしてくれるのですが、今は別の任務で港町オセシンキへ派遣しておりまして。襲撃してきた者たちの黒幕も心当たりがありますので、捕らえた者を調べれば、誰なのかを確定できるでしょう」

「黒幕に見当がついているのですか?」


アイーダは不躾だと思いながら、つい尋ねてしまう。


「ええ、私は婚約者の第3皇子シャーチ様と1ヶ月後に結婚する予定なのです。それを阻止しようとする貴族令嬢でしょう」


そこでドアがノックされて、食事が運ばれてくる。テーブルの上に並んだのは、魚や貝、エビなどを煮込んだフィッシュスープとサーモンのバターソテー、ラム肉を野菜と一緒に煮込んだ料理と白パン。クララが言う。


「我が国の伝統的な郷土料理ですの。美味しいので温かいうちにお召し上がりください」


身体を温めてくれる料理は、寒いこの国では人気なのだろう。長年研究された味付けは、とても美味しい。給仕が退室したので、クララが話を再開する。


「シャーチ様は、私と結婚後に臣籍降下されて公爵になり、港町オセシンキ周辺の王家直轄領を与えられる予定なのです。ところが、最近オセシンキの海が赤く染まり、魚や貝がいなくなったのです。海に注ぎ込む川の水が赤いのが原因であることまでは分かっています。


しかし、何故川の水が赤いのかはわかりません。ですから、その調査にシャーチ様は行かれたのですが、お供はたったの2人。私は心配になり、マーシャとその部下にシャーチ様のお手伝いをするように、オセシンキへ行かせたのです」


そこまで話すと、クララは暗い表情になり下を向いてしまう。アースが口を開く。


「ここから、オセシンキまでの距離と方向は?」


クララにはアースの質問の意図が分からないが、答える。


「真西へだいたい40キロでしょうか」

「ありがとうございます。我々はオセシンキに行く予定なので、シャーチ様のことは気に留めておきましょう」


アースの言葉にクララは驚く。しかし、すぐにお礼を言う。


「ありがとうございます。あなたのように強い方にご助力いただければ、心強いですわ」


その後、ランチを食べ終えてお茶を飲んでいると『行進曲』が聴こえて来る。


「あら、これはバレエ音楽の曲ですわね」


レジェラが言うと、クララがニッコリして答える。


「はい。我が家はバレエ団のパトロンもしておりますの。ですから、騎士団が行進する時のテーマ曲に使っていますわ。どうやら騎士団が迎えが来たようです。何か困りごとがあれば、我が家にお声がけください。必ず力になります」

「ありがとうございます。そのような時には、是非とも力をお貸しください」


こうして、クララとレストランの前で別れたアースたちは大通りを歩き始める。少し歩いたところで、レジェラが言う。


「転移陣とは違う方向へ歩いているようですわ」

「いいのさ。城壁の門へ向かっているから」


アイーダが言う。


「なるほど、空からの方が探しやすいから、白鳥に乗るのですね」

「そうさ。40キロならゆっくり飛んでも1時間か2時間だろうからな」



王都ロホヘルムの郊外の湖にアースの詠唱の声が響く。


「星魔法 はくちょう座」


現れた白鳥にアースとアイーダ、バ-ビレ、レジェラが乗り込むと、白鳥は飛び立つ。


「星魔法 ぼうえんきょう座」


現れた望遠鏡に、すぐにバービレが近づいて言う。


「前にも使ったことがあるから、私が担当するニャ。赤色の池や湖w見つければいいニャン?」

「その通りだ。頼むぞ」

「バービレだけずるいですわ。私たちにも望遠鏡を出してくださいまし」


レジェラに言われて、アースは2台の望遠鏡を出すし、アイーダとレジェラが担当する。バービレが前、アイーダが右、レジェラが左を見る。しばらく飛行してバービレが言う。


「白鳥の泳いでいる青い湖しかないニャ」

「そうですわね。まあ、きれいな風景ですから宜しいのですけど」

「白鳥の泳ぎについ見とれてしまうわ」


アイーダは自分の仕事がよく分かっていないようだ。さらに5分ほど飛んだ時、バービレが叫ぶ。


「前方1時方向、5キロ先に赤い湖を発見ニャン。黒い白鳥がたくさん泳いでいるニャ」


バービレの発見に残りの3人もそちらを見る。アースが言う。


「あれは黒鳥型魔獣だ。C級魔獣だが、数が多い。油断するな」

「魔獣ですか。腕が鳴りますわ。数は百体ほどですわね」


レジェラが言い、さらに近づくと、多数の黒鳥型魔獣が飛び上がってくる。それを見てバービレとレジェラが詠唱する。


「「火魔法 火球乱舞」」


バービレとレジェラの頭上から、小さい多数の火球が黒鳥型魔獣の群れに襲いかかる。多数の煙が生じて魔石が落ちる。後に残ったのは10体だけだ。それを見てレジェラが言う。


「お先に失礼しましたわ。アイーダ」


アイーダは悔しそうな表情を浮かべて詠唱する。


「水魔法 高速誘導水球」


アイーダの頭上に10個の水球が生じると、すぐに10体の黒鳥型魔獣に向かって凄い速さで飛び命中して煙に変える。


「新しい魔法かニャ?」

「そうよ、いい女は常に進化するように努力するものよ」


アイーダがニッコリ笑って言うと、バービレは悔しそうな表情をする。仲がいいのか悪いのか、良く分からない2人である。


「もう黒鳥型魔獣はいないようだな。着水するぞ」


そんなアイーダとバービレに苦笑いをして、アースが言う。白鳥は周回しながら徐々に高度を下げて着水し、湖岸に泳ぎ着く。白鳥から降りたアースが詠唱する。


「星魔法 けんびきょう座」


現れた顕微鏡からガラス板を外して湖水を垂らし、再び顕微鏡にセットする。それを覗いたアースが驚いて言う。


「たくさんの小さい赤い物がうごいている。お前たちも見ろ」


アイーダとバービレ、レジェラが順番に顕微鏡を覗く。


「これは何でしょうか?」

「気持ち悪いニャン。なんかムズムズするニャ」

「初めて見ますわ。これは生き物でしょうか」


それぞれが感想を述べる。レジェラの言葉にアースが答える。


「生物らしい動きをしているから、おそらく生物だろう。そして、赤くなった海から魚や貝がいなくなっていることから考えて、魔獣の一種かもしれない。そして、他の魔獣の餌の可能性もある。まあ、すべて可能性の話だが」


「では、この小さい赤い魔獣は討伐すべきですわ」


レジェラが言うと、バービレが尋ねる。


「どうやって討伐するニャン? 水の中にいるから、火魔法はあまり効果がないニャン」

「そうですわね。水魔法も風魔法も土魔法も効果がなさそうですわ」

「ああ、普通の魔法ではダメだろう。星魔法で湖の水ごとを消滅させれば討伐可能だが、それは最後の手段にしたい。湖の水が赤くなっていのを病気になっていると考えれば、回復魔法が効果的かもしれない」


「本当ニャン? 試してみるニャ」

「いいえ、それには及ばないわ。音楽魔法で討伐できるわよ」


やる気を見せるバービレを制して、アイーダは詠唱する。


「黄金のクラーフル アウト」


そして、現れた横笛を口に当てて、詠唱する。


「音楽魔法 白鳥の湖・情景」


横笛からオーボエの音色で奏でられるメロディが湖面に広がると、湖水の赤色が消え、本来の青色に戻っていく。3分もすると、広い湖面全体が青一色になる。それを確認してアイーダが横笛を下ろすと、アースが言う。


「知ってはいたが、凄いな音楽魔法は」

「白鳥の泳ぐきれいな湖をイメージしたのよ。次は川の水だわ。この湖から流れ出ている川の水も青色に戻さなくては。川に沿ってゆっくりと白鳥を飛ばしてくれるかしら?」

「わかった。頼むぞ」


4人が再び白鳥に乗ると、アイーダが詠唱する。


「音楽魔法 青き美しきドナウ」


ホルンの音色が響いで演奏が始まると、川の水の色が赤から青へと変化していく。そのまま白鳥は川の下流へと飛ぶ。すると白鳥が過ぎ去った川の水が青くなる。まるで白鳥が川の水を塗り替えているかのようだ。


やがて、港町オセシンキのすぐ近くまで来た時、『行進曲 雷神』が聴こえてきて、魔獣が討伐される時の煙が見えた。


「あれはフェネとトルリの魔法ね。魔獣が出たのかしら?」


レジェラが呟くと、横笛の演奏を止めたアイーダがその呟きを拾う。


「あれだけ煙が上がっているということは、多数の魔獣がいるってことね。私たちもフェネたちの方へ行った方がいいかしら?」

「そうだな。フェネの結界もあるし、アニマの転移魔法もあるから大丈夫だろうだが。残りの赤い川の水はすぐに海へ流れ込むから、問題ないだろう。フェネたちの所へ行くか」


アースは白鳥の進路を港町オセシンキへ向ける。すぐに水柱が上がるのが目に入り、しばらくすると、水魔法の水球が町へ向かうのが見えた。これは思った以上に状況は悪いかもしれない。そう思ったアースは詠唱した。



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「行進曲」 バレエ音楽「くるみ割り人形」 作曲 チャイコフスキー より

「白鳥の湖・情景」 バレエ音楽「白鳥の湖」より 作曲 チャイコフスキー 

「青き美しきドナウ」 作曲 ヨハン・シュトラウス2世

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