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第9話 赤色の狼煙

 妖精の森の入口に帰って来たら、6頭の馬はそのままだった。3頭は『雪の花』の3人の馬だ。残り3頭の持ち主はまだ妖精の森の中らしい。マーシャたちは、近くの池から水を汲んできて、馬の世話をしていたが、マーシャがポツリと言った。


「殿下たちはどうしているのかしら?」


それを聞いて不思議にプレヤが、尋ねる。


「殿下って誰? あの馬たちの持ち主の1人なの?」

「えっ、あっ、あなたたちには関係ないわ。それより、この後あなたたちはどうするの? 私たちはしばらくここで休むつもりだけど」


マーシャは慌てて話題を変える。問われたプレヤは『星とバラの妖精』のメンバーを集めて相談する。


「みんな、日没まであと4時間くらいあるけど、どうする?」

「2時間くらいここでゆっくりしてから、宿に帰るのはどうかしら?」


ヴェーヌが答えると、全員がコクコクする。


「じゃあ、そういうことにしよう」


プレヤの言葉に、フェネとアニマ、トルリ、レアが魔法を2人組で使う練習を始める。風魔法を使うフェネとアニマがトルリ、レアと組んでコンビネーションの練習をしている。それを見たセルクは1人離れて星魔法の練習を始める。ハートワンドを構えて詠唱する。


「星魔法 いて座」


ケイローンが現れて、弓から矢を放つ。矢は10メートルくらい飛んで落ちる。それを見たヴェーヌがセルクに近寄って話しかける。


「セルク、星魔法のいて座が使えるようになったのね。いつ練習していたの?」

「少しだけ朝早く起きて練習していました。まだまだ上手に使えません。どこが悪いのでしょうか?」


「射手座のケイローンのお仕事を知っているかしら?」

「知りませんけど、それが何か関係があるのですか?」


「魔法はイメージが大切なの。ケイローンはいくつかのお仕事をしていたけど、お医者様のお仕事もしていたのよ。セルクは回復魔法が使えて、怪我人や病気の人たちの治療をしているから、親近感が沸いて、強くイメージできるかな? と思ったの」

「言われてみれば。ケイローンが身近に思えて、強くイメージできる気がしてきました。もう一度やってみます」


セルクはハートワンドを構えて詠唱する。


「星魔法 いて座」


ケイローンが現れて、弓から矢を放つ。矢はビューンと80メートルほど飛んだ。セルクは信じられないという表情で呆然としている。ヴェーヌが喜んで話しかける。


「やったわね、セルク。凄いわ、私たちの年齢でこんなに矢を飛ばせる子どもは滅多にいないわ」

「信じられません。イメージの強さは、魔法にこんなにも大切なのですね。アドバイスありがとうございます」


ヴェーヌはコクコクして、にっこり微笑む。ほのぼのした雰囲気が2人を包む。しかし、その雰囲気を破るバシッ、バシッ、バサッという音が妖精の森からする。そちらを見ると、3人の冒険者風の男たちが、下草や枝をナタで払いながらやって来るのが見えた。


マーシャが急いで男たちへ駆け寄り、青髪緑目で顔立ちの整った16才くらいの男に話しかける。


「ご無事でしたか?」

「ああ、大丈夫だ。残念ながら赤くなっている池や湖は見つからなかったがな。それで何故お前たちがここにいるのだ?」

「あなた様のお役に立つようにと、主が指示されましたので」


そうかと呟いた男はマーシャの持つ穂先が3つある槍に気づき、驚いて尋ねる。


「マーシャ、その槍はもしかして、海神ポセイドンのトリアイナか?」

「はい、彼女たちが手に入れたのですが、譲ってくれました」


マーシャは『星とバラの妖精』へと視線を向ける。男も『星とバラの妖精』の方を見てから、再び口を開く。


「その槍に触っていいか?」

「はい、どうぞ」


マーシャが前に差し出した槍に男は手を触れるが、すぐに手を引っ込める。

顔をしかめた男が言う。


「この槍は疑いなく海神ポセイドンのトリアイナだ」

「どうしてわかるのですか?」

「今、槍に触れた瞬間手が痺れた。これは我が家の禁書庫の本に書かれている通りの海神ポセイドンのトリアイナの性質だからだ。この聖槍は選ばれた人間以外のものが触れると痺れるそうだ。だから、この聖槍の所有者はお前だ。それから禁書庫の本によると、その槍を投げる時にトリアイナと槍の名を叫ばないと、槍が能力を発揮しないそうだ」


マーシャが男の言葉を理解できずに呆然としていると、男が続けて言う。


「海神ポセイドンのトリアイナを譲ってくれた恩人たちを紹介してくれないか?」

「プレヤ、あなたのパーティのメンバーを紹介してくれないかな?」

「わかった。お~い、全員集合だよ~。


プレヤの呼びかけにメンバーが集まると、男が自己紹介をする。


「私は冒険者パーティ『ホエールキラー』のリーダーのシャーチだ。マーシャたちが世話になったようだ。特に海神ポセイドンのトリアイナを譲ってもらったことには感謝する」


「いいえ、たいした事はしていません。僕たちは冒険者パーティ『星とバラの妖精』で、僕はリーダーのプレヤです。それで、シャーチさんがお礼を言われるってことは、シャーチさんはマーシャのお兄さんですか、それとも婚約者ですか?」


プレヤの言葉にマーシャが顔を引きつらせる。


「プレヤ! なんてことを言うの。とんでもないことを言わないで」

「ハハハ、いいではないか、マーシャ。プレヤさんがそう考えるのも無理はない」

「そう言われましても……」


マーシャは何かいいたげだったが、首を捻り出した。


「どうしたんだい? マーシャ」


プレヤの問いかけに、マーシャが首を捻りながら答える。


「『星とバラの妖精』って、どこかで聞いたことがある名前のだけど、思い出せなくて」

「妖精が入っている名前はよくあるからね。他のパーティじゃないかな?」


そんな雰囲気で初対面の挨拶も和やかに済んだが、アニマが町の方を指さして言う。


「町で赤色の狼煙が上がっているわ。何かあったのかしら?」


全員が町の方を見る。シャーチの表情がそれまでの穏やかなものから厳しいものへと変わる。そして、心配そうに言う。


「あれは冒険者緊急招集の狼煙だ。冒険者ギルドへ急がなくては」

「何があったのでしょう?」

「冒険者ギルドで説明があるだろう。『星とバラの妖精』のみなさん、悪いが我々は馬で行く。では、後で会おう」


『ホエールキラー』と『雪の花』の6人は、急いで町へ馬を走らせた。残された『星とバラの妖精』は困惑している。フェネが言う。


「冒険者は、それがどこの国の冒険者ギルドからの要請であろうと、応じる義務があるはずです」

「そうだった。じゃあ、僕たちも冒険者ギルドに行かないと。アニマ、転移できる?」

「魔力は十分あるから、大丈夫よ」

「じゃあ、宿のサウナ風呂の裏へ転移してくれるかな?」


アニマはコクコクすると、フェネから銀色のヴァイオリンを受け取り、肩に乗せて詠唱する。


「音楽魔法 Fly Me To Another Land」


演奏し始めて5秒後、『星とバラの妖精』の姿が消えて、宿のサウナ風呂の裏に現れる。


「冒険者ギルドってどこにあるのかな?」


プレヤの問いに、レアが答える。


「町の海側の門近くにあったはずよ」

「よし、みんな急いで行こう!」


『星とバラの妖精』は走って冒険者に着かう。冒険者ギルドに着くと、中にはたくさんの冒険者で込み合っている。みんな緊急招集された理由がわからいようで、ざわついている。そのざわめきも1人の体格の良い男がお立ち台の上に立つと鎮まる。


「冒険者諸君、緊急招集に応じてくれて感謝する。私はギルドマスターのエリックだ。緊急招集の理由は魔獣の襲撃。多数のアザラシ型魔獣が襲来してきた。一部はすでに上陸して、港の施設を破壊している。ここまでで何か質問はあるか?」


ギルド内は静かなままで、質問はでない。それを確認したギルドマスターが続ける。


「迎撃方法を説明する。アザラシ型魔獣はD級の魔獣だ。弱い魔獣だが、数が多いから油断はするな。パーティ単位で行動しろ。戦うのはD級以上のパーティに限定する。E級、F級のパーティは、後方で負傷者の治療や町への搬送、矢や折れた剣や槍の補充にあたれ。子どものパーティは城壁の上からの監視、警戒にあたれ。以上だ、現場に急げ」


冒険者たちは、すぐに冒険者ギルドから出て行く。


「僕たちはC級パーティだ。D級のアザラシ型魔獣は簡単に討伐できる。僕たちも戦おう」


プレヤの勇ましい言葉を、ただ1人の大人であるパシファが諫める。


「ダメです。アース様やアイーダ様に叱られますよ」

「あっ、それは……」

「さあ、城壁の上に行きましょう。監視、警戒も大切な仕事です」


『星とバラの妖精』は城壁の上に急ぐ。外を見ると、すでにアザラシ型魔獣と冒険者たちの戦いは始まっていた。冒険者たちは強い。剣で、槍で、弓矢で。魔法でアザラシ型魔獣を煙に変えていく。しかし、冒険者の数は100人ほど、アザラシ型魔獣の数は千体ほどだ。さらに、海には数千のアザラシ型魔獣がいて、次々と上陸して来ている。


突然、詠唱する大声が響く。


「火魔法 大火球」


声のした方を見ると、冒険者パーティ『ホエールキラー』のリーダー、シャーチが右手を上げている。その上には普通の火球の3倍くらいの大きさの火球が浮かんでいる。、シャーチが右手を振り下ろすと、大火球は海のアザラシ型魔獣の大群に向けて飛び、爆発する。


この爆発でアザラシ型魔獣の3分の1ほどが煙になって消える。胸壁の上の人たちから大歓声が上がる。


「おお~、凄い火魔法だ。誰だ、あの魔法使いは?」

「あの青髪緑目の男はみたことないな」

「いやよく見ろ、あれは第2王子のシャーチ様だ」

「「「おおー」」」


再び大歓声が上がる中、シャーチが詠唱して大火球を放つ。しかし、その大きさは1回目の半分ほど。その火球は海のアザラシ型魔獣の大群に命中するが、煙となって消えたのは、1回目の半分ほどだ。まだ、最初の半分くらいのアザラシ型魔獣が残っている。


あ~という声が聞こえて、そちらを見ると、斜めになったシャーチが『ホエールキラー』のメンバーに後ろから支えられている。魔力切れで倒れたのだろう。シャーチは町の方へ運ばれて行く。それを見たプレヤが言う。


「海にはアザラシ型魔獣が、まだたくさんいる。ここでなら、僕たちが魔法を使っても大丈夫だよね」

「そうよ、私とフェネの出番ね」


トルリが言うと、フェネは携帯から小太鼓と横笛を取り出す。準備が済むと2人はお互いの顔を見て頷き詠唱する。


「「音楽魔法 雷神」」


フェネが横笛で『行進曲 雷神』の演奏を始める。トルリが小太鼓をダダダダダダダダと連打すると何もない空間から稲妻がアザラシ型魔獣に突き刺さる。10分ほど演奏が続くと、海のアザラシ型魔獣のほとんどが煙になって消えた。


城壁の門からは、遅ればせながら騎士団が出撃して行く。上陸していたアザラシ型魔獣もみるみる数を減らしていく。すぐに討伐は終了する、そう思って見ていたプレヤに声がかけられる。


「あなたたち、凄い魔法を使うのね」


振り返ると、そこにはマーシャがいた。プレヤは胸を張って返事を返す。


「そうさ、僕たちはC級冒険者だからね」


それを聞いたマーシャは目を丸くしたが、次には笑い出した。


「アハハハ。そう、C級冒険者パーティだったの。知らなかったわ」


その時、海を見ていたアニマが叫んだ。


「沖の方から何か黒いのが来るわ」



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「行進曲 雷神」 作曲 ジョン・フィリップ・スーザ

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