第7話 妖精の森
妖精の森の木は大部分がマツやモミの針葉樹で、キノコも種類は少ないが、たくさん生えている。森の入口付近で一番多いのは、鮮やかな黄色いキノコ。それを見て、マーシャが教えてくれる。
「ス-プにしたり、キノコ鍋にしたり、焼いて食べたり、いろいろと美味しい食べ方があるわ。でも青色が入っているキノコは毒があるから食べないけど」
それを聞いて、『星とバラの妖精』がキノコ狩りをしないわけがない。周囲を警戒するプレヤとヴェーヌ、レア以外は一心不乱にキノコを採集している。そんな中、フェネが声を上げる。
「ヒエヒエ草が生えているわ。この薬草は煎じて飲むと冷え性の薬になるの」
パシファも何か見つけたようで、嬉しそうに言う。
「これはハーブよね。初めて見るけど、なんかドキドキするわ」
そして、フェネとパシファはヒエヒエ草とハーブらしき草の採集に切り替える。
セルクとアニマは、キノコとヒエヒエ草の両方を採集している。30分ほどで、再び歩き出すと、直径20メートルほどの池の近くにハーブの群生地があった。、ここでも採集をしていると、マーシャが池を眺めながら呟いた。
「この池の水は赤くないわね」
それを聞いたヴェーヌが尋ねる。
「池の水が赤いなんてことあるの?」
「ふつうは無いよね。でもオセシンキの村の湾の海水は赤くて、魚や貝がいなくなったわ。そして、その湾の先の外洋にはクジラ型魔獣が集まっていて、被害が出ているの。湾の水が赤いのは、そこに流れ込む川の水が赤いから。川の水は、この地域の湖や池から流れ出ているの」
「なるほど。それは大変な問題ね。王国は何か対策をしているの?」
「今は水が赤くなった湖や池を探しているわ。私たちの探している人もその調査でこの妖精の森に来ているの」
「そうなの。その人が早く見つかるといいわね」
そこから歩き始めて30分ほどで、先頭を行くアニマが小声で言う。
「この先にシロクマ型魔獣が1体いるわ。こちらには気がついていないみたい」
「その魔獣は私に討伐させて。いいかしら?」
マーシャが小声で尋ねると、プレヤがコクコクする。マーシャは1人でシロクマ型魔獣に近づき、無言で槍を投げる。マーシャの接近に気が付かなかったシロクマ型魔獣に槍は命中して煙となり、魔石を落とす。それをプレヤが誉める。
「凄いよ、マーシャ。一撃でシロクマ型魔獣を討伐するなんて」
「1体だけだったから、槍を投げることができたわ。2体以上いたら槍を手に持って討伐しなきゃいけなかったから、簡単ではなかったわ。それに投げた槍が当たらなかったら、剣で討伐しなくちゃいけないから、大変だったわ。神話のような槍が欲しい」
「神話の槍ってどんな槍?」
「投げれば必ず命中して、その後は自動的に手元に戻る槍よ。凄い槍でしょう?」
「そうだね。そんな槍を持てば無敵だよ」
「トォーーー」
その時ヴェーヌの掛け声がする。声のした方を見ると、ヴェーヌが1体の大型ヤマネコ型魔獣を一太刀で煙に変えていた。魔石を拾ったヴェーヌが提案する。
「ねえ、あの子たちは無事にバナナを持って帰って来ていて、危なかったとか怖かったとは言ってなかったわ。だから、妖精からバナナをもらったのは、魔獣がいない森の浅い場所だと思うの。どうかしら?」
「そうだね。引き返して、もっと森の浅い場所に行こうか? みんなどう?」
「「「さんせ~い」」」
引き返すことになったので、プレヤはマーシャに尋ねる」
「聞いた通り、僕たちは森の浅い場所に行くけど、『雪の花』はどうする?」
マーシャはメンバー3人で相談した後で返事をした。
「私たちも一緒に行くわ。目的地があるわけでもないし、妖精とかバナナとか面白そうだし、美味しそうだしね」
「じゃあ、一緒に行こう」
こうして、『星とバラの妖精』と『雪の花』は、森の浅い場所に引き返すことになった。
*
来た時とは違うルートで、森の浅い方へ引き返してから10分ほど経った頃、先頭を行くアニマが、歩くのを止めて深く深呼吸を始める。不思議に思ったプレヤが声をかける。
「アニマ、どうしたんんだい? 体調でも悪いのか?」
「ううん、体調は悪くないわ。この場所の空気が、清々しいというか、神々しいというか、サウナ風呂の妖精サウナトントゥの周りと同じ感じがするの」
「そう、じゃあ1回ここで『眠りの精』を歌ってみようか?」
「ちょっと待って、私は『眠りの精』の歌詞を知らないわ」
アニマが言うと、トルリとパシファ、セルクもコクコクする。それを見たフェネが提案する。
「じゃあ、私が横笛でメロディを演奏するから、みんなはラララで歌って」
「わかった。そうしよう。みんなもいいね」
全員がコクコクする。なぜか『雪の花』のメンバーもコクコクしている。フェネが詠唱する。
「シルバーコローフル アウト」
そして、現れた横笛を口に当てて、演奏を始める。音色はチェレスタの音色だ。
♪ ラ~ラ~ラ ラララ~ラ ララララララ~ラ~
横笛の奏でるメロディに乗せて。全員が『眠りの精』を歌う。歌い終わって、何か起こらないかとワクワクしていると、ドサドサドサと大きなバナナが地面に落ちて来る。
他のメンバーが喜んでいる中、フェネが呼びかける。
「ねえ、フルーツの妖精さん、サウナ風呂の妖精サウナトントゥさんにあなたのことを聞いて、ここに来たのだけど姿を見せてくれないかしら?」
すると、空中に黄色のワンピースを着た黄髪、身長50cmくらいの人型で背中に1対の羽があり、黄色の三角帽子を頭に被った者が現れる。フェネが尋ねる。
「あなたはフルーツの妖精さん?」
それはフェネの持つ横笛をチラッと見て答える。
「そうよ。私はフルーツの妖精のバナナナ。いつもはバナナを置くだけなんだけど、あなたの横笛がとっても上手だったから姿を現してもいいかな? って思ったの。あなたの名前を教えてくれるかしら?」
「私の名前はフェネよ。よろしくね。それからバナナをありがとう、とっても嬉しいわ。このバナナはとっても美味しいのよね」
すると、フルーツの妖精のバナナナは胸を張って返事をする。
「そうでしょう、そうでしょうとも。私の魔法で育てているバナナですもの。私たちフルーツの妖精の育てるフルーツはとっても美味しいのよ」
「えっ、私たちということは他にもフルーツの妖精がいるの?」
「いるわよ。この森にはあと2人フルーツの妖精がいるの。そうだわ、フェネ、その子たちにもあなたの横笛を聴かせてあげたいから、一緒に来てくれない?」
「いいわよ。他のメンバーも一緒でいいのなら」
「もちろんいいわよ。さあ、行きましょう」
大きなバナナ3本はヴェーヌの携帯魔法に入れて、フェネを先頭にルーツの妖精のバナナナの後に歩いて行く。途中で水中を歩くような奇妙な感じがしたが、
そこを通り過ぎると、大きなバナナがなっている木がたくさんある農園の前だった。空気はきれいで、モンシロチョウやアゲハチョウ、クロアゲハチョウ、いろいろなチョウチョウがひらひら飛び回っている。ホーホケキョとホトトギスが鳴き、ピーピーピーピピピとヒバリが歌っている。
「うわー、凄い。大きなバナナがたくさん!」
「えっへん。これが私のバナナ農園よ。1年中美味しいバナナが食べられるのよ」
プレヤとフルーツの妖精のバナナナが話をしていると、バナナナと同じ大きさで赤色のワンピースを着た、赤髪の人型で背中に1対の羽があり、赤色の三角帽子を頭に被った者と青色のワンピースを着た、青髪の人型で背中に1対の羽があり、青色の三角帽子を頭に被った者がふわふわと飛んで来た。赤いワンピースの者が尋ねる。
「バナナナ、その子たちはあなたが連れてきたの?」
「そうよ、この子たちは歌が上手なの。特にフェネは横笛がとっても上手よ」
青いワンピースの者も尋ねる
「わぁ~、本当なの? 私もその曲を聴きたいわ」
バナナナがフェネに言う。
「フェネ、赤いワンピースを着ているのが、イチゴの妖精のストロナで青いワンピースを着ているのが、ブドウの妖精のグレーナよ。妖精の曲を演奏してくれるかしら?」
「いいわよ。でも今度は別の曲『妖精の踊り』をトルリのピアノと合奏するわ。それでもいいかな?」
「いいけど、ピアノはどこにも無いよ?」
フェネが携帯魔法でピアノを出すと、バナナナは驚いて言う。
「わぁ~、携帯魔法が使えるのね。ビックリしたわ。じゃあ、お願いね」
フェネが横笛を構え、トルリがピアノの前に座り、演奏が始まると、3人の妖精は目を閉じて、うっとりとした表情で聴き入る。演奏が終わると、しばらくは目を閉じたままだったが、ハッとして3人はパチパチパチパチと拍手をする。そして、ストロナが言う。
「素晴らしい演奏だわ。とっても感動しちゃった。お礼に私の育てたイチゴを3個あげるわ」
「うん、うん。私もジーンとしたわ。私の育てたブドウを3個あげるわ」
その後、ストロナの農園で長さが1メートルくらいのイチゴを3個とグレーナの農園で直径が1メートルくらいのブドウの粒を3粒もらった。バナナは巡回市で食べたので、イチゴ1個とブドウ1粒を小さく切って、みんなで美味しい、美味しいと大騒ぎで食べていると、大声が聞こえてきた。
「お~い、人間が来ているのか? 人間が来ているのならこちらに来てくれ」
「あっ、巨人アトランが呼んでいるわ。あなたたち行ってみる?」
バナナナが尋ねる。それにプレヤが首を傾げながら問い返す。
「巨人アトランって誰?」
「遠い昔、神様と戦った巨人よ。今は宝箱の番人をしているの。誰かが宝箱の中に入っている宝物を持って行くまで、番人を続けなければいけないの。巨人アトランは決して人間を傷つけることはないから、近づいても大丈夫よ」
その返事に『星とバラの妖精』と『雪の花』は全員で話し合い、すぐに全員一致で結論を出す。そしてプレヤがバナナナに結論を話す。
「巨人アトランを自由にするために、僕たちは行くことにする。できるかどうかわからないけど」
「わかったわ。じゃあ、すぐ近くだから私たちが案内するわ。私たちについて来て」
フルーツの妖精3人に案内されて5分ほど歩くと、奥行きが3メートルくらいの洞窟の中に細長いキラキラと装飾された箱が置いてあり、その前に身長20メートルほどの巨人が立っていた。
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参考
「投げれば必ず命中して、その後は自動的に手元に戻る槍」は北欧神話の主神オーディンが持つ槍「グングニル」を参考にしました。
「眠りの精」 作曲 ブラームス 作詞 ドイツ民謡 訳詞 小川 友吉
「妖精の踊り」 作曲 C.W.グルック バッジーニ




