第4話 サウナ風呂の妖精
『星とバラの妖精』がヴェーヌの部屋でお菓子を食べている頃、アイーダはアースの部屋にいた。アイーダが微笑みながら尋ねる。
「アース様、私とバービレ、レジェラ、『星とバラの妖精』たちとノルデンランド王国に行くことにしました。目的は旅の一座との商談やオーロラを見ることなどですが、同行されますか?」
アースは少し考えてから答える。
「お前たちと一緒に旅行か、それは是非一緒に行きたいが、星魔法軍団の仕事がなあ。商談に俺は不要だろう。オーロラは確実に見ることはできないだろう。出現するかしないか運まかせになる。天気にもよるし。さて、どうしたものか」
ここでアイーダは、切り札を切る。
「北の海でクジラ型魔獣が大量発生しているらしいのです。『星とバラの妖精』はそれを討伐するのだと張り切っていますが」
それを聞いたアースは、勢いよくイスから立ち上がって言う。
「それは本当か。クジラ型魔獣が大量発生しているなら、クジラ型魔物もいるかもしれない。俺も行く」
魔獣討伐ならアースも必ず同行する、と知っているアイーダの手のひらの上で踊らされたアースである。その後、アースやアイーダ、バービレ、レジェラの仕事のスケジュールを調整して、1週間後に3日間、ノルデンランド王国に行くことになった。
*
1週間後の午前9時頃、赤いバラの屋敷の転移陣前に全員が揃っていた。宿の予約を取ったノルデンランド王国のオセシンキの日の出時刻に合わせたのである。『コラール』のヴィーヴロ、リエーロ、ドルチラ、アレグラの4人は別件の調査のためにすでに他の場所へ出発していて、夜に現地で落ち合う予定である。この4人はふだんから、旅の一座などの調査にいろいろな場所に飛び回っているのである。
「全員揃っているな。では出発だ」
アースの掛け声で転移陣に入る。その後何いくつかの転移陣を経由してオセシンキの転移陣に到着した。オセシンキは漁業を主な産業とする小さな村で、夜に灯される魔導具の数も少なく、オーロラを見るのに適している場所である。
「わぁー、雲1つない晴れだ。夜も晴れるかな~」
転移陣を出るなりプレヤが叫ぶと、全員が空を見上げる。
「本当に雲が1つも無いわ。オーロラもきっと現れるわ」
ヴェーヌも嬉しそうに同意する。他の者も明るい表情である。一行は予約している宿に向かう。五階建てでこの村で一番豪華な宿で、すぐに見つけることができた。受付でチェックインをすると、通されたのは最上階の貴族用フロア。広いリビングが1室と大きな部屋が1室、2人部屋が6室ある。
大きな部屋は、アースとアイーダ、バービレ、レジェラが入り、2人部屋にはヴェーヌとプレヤ、セルクとレア、フェネとパシファ、アニマとトルリのペアが入った。残り2部屋は『コラール』の4人の部屋である。その後すぐにリビングに全員が集まる。リビングに入るなリ、アニマはすぐに窓に駆け寄る。そして、窓の外を眺めて叫ぶ。
「うわー、すごく眺めがいいわ。すごい遠くまで見える」
その声に『星とバラの妖精』のメンバーも窓に駆け寄り、外を見て騒ぐ。
「そうね、ずーと遠くまで見えるよ」
「ここの海はとても細長いのですね」
「そうですね。それに手前の方の海は赤い色をしています」
そこにお茶とお菓子を出しに来た宿の女性従業員が入って来て説明する。
「ここの海も以前は青い色だったのですが、川から赤い水が流れ込んできて赤い色になってしまったのです。そのせいで、魚が獲れなくなって漁師たちは遠くまで船を出さなくてはいけなくなっているのです」
女性従業員の声はどこか悲しそうである。それだけ言うと彼女は部屋を辞した。テーブルの上に置かれたお菓子はジャムクッキー、それを見た『星とバラの妖精』はテーブルに集まり、手を伸ばそうとする。しかし、レジェラから注意を受ける。
「ダメです。ちゃんとソファに座って、お行儀よく食べないといけません」
「「「はーい」」」
行儀作法に厳しいレジェラに言われて、おとなしく従う『星とバラの妖精』のメンバーたちである。子どもたちがジャムクッキーをパクパク食べているのを見ながら、アイーダがアースに尋ねる。
「アース様、あの細長い海は川ではないのですか?」
「ああ、川ではなく海だ。海が陸に入り込んだ地形を湾という。あの細長い海は湾だ。湾の入口から奥まで幅がほぼ同じのこの国で見られる特色ある地形だ」
アースの説明に、アイーダはもう1つ尋ねる。
「では、海の色が赤いのもこの国の特色ですか?」
「いいや、そうではない。俺も話に聞いたことがあるだけだが、他の国でも海の色が赤くなることがあるらしい。そうなると、魚や貝が死んでしまうそうだ」
「そうですか。ではこの村の人たちは困っているのでしょうね」
「ああ、今の所海岸近くだけが赤くなっているが、ずっと沖まで赤くなると魚が獲れなくなって困るだろう。用事が終わったら解決できるか考えてみよう」
アースの言葉にアイーダは安心する。そのうちジャムクッキーもなくなり、アースとアイーダ、バービレ、レジェラは、旅の一座『銀色の星』との商談に王都ロホヘルムへ出発することにする。アイーダが『星とバラの妖精』に注意をする。
「夕方には帰ってくるから、あなたたちはいい子にしておきなさい」
「近くの森に行ってもいいが、強い魔獣や魔物には気をつけろ」
「危ないと思ったら、すぐに逃げるニャ」
「お菓子を食べ過ぎてはいけません」
「「「はーい」」」
他の3人も注意を与えて、4人は王都ロホヘルムへ出発した。4人を見送った後、プレヤが口を開く。
「さて、何をして遊ぼうか?」
「さっき窓から外を見た時、この宿の敷地にサウナ風呂が見えたわ。サウナ風呂の妖精サウナトントゥがいるかもしれないわ。行ってみたい?」
窓から外を見た時、海だけではなく全体を見ていたヴェーヌが答える。
「えっ、本当? 私は妖精を見てみたい」
「私もよ。今まで妖精なんて見たことがないもの」
アニマとトルリが、キラキラした目で言うと、他の者もコクコクする。
「よし、みんなでサウナ風呂に行こう」
プレヤがそう言うと、全員で宿の裏庭にあるサウナ風呂の建物に向かう。そして、ブナの木に囲まれたサウナ風呂の建物に到着すると、入口に案内の表示があった。
「利用可能時間 午後4時から午後10まで。時間外のご利用はできません」
それを見てアニマが言う。
「こっそりと中に入はいろうか?」
「ダメよ。いい子にしているように言われたでしょう」
ヴェーヌに諫められてガッカリするアニマ。しかし、ヴェーヌが励ます。
「サウナ風呂の妖精は建物の中にいるとは限らないわ。裏に行ってみましょう」
裏に行ってみたが、ここにも妖精の姿はなかった。全員が肩を落とす。しかし、フェネが立ち直った。
「私が妖精を呼んでみます」
そして、フェネは詠唱する。
「シルバーコローフル アウト」
そして、現れた横笛を口に当てて、詠唱する。
「音楽魔法 妖精の踊り」
横笛から流れる調べは、穏やかな森の中で妖精がゆっくりと舞う情景のようだ。演奏が始まってしばらくすると、白いワンピースを着た白髪、身長50cmくらいの人型で背中に1対の羽がある者が、サウナ風呂の建物の壁をスルリと抜けて飛んで来る。そして、フェネの頭上をクルクル飛び回る。それに気づいたセルクが、驚きながらも問いかける。
「ひょっとして、あなたはサウナ風呂の妖精サウナトントゥでしょうか?」
すると、それは目の高さに降りて答えた。
「そうよ、私は妖精サウナトントゥ。そこの青髪の少女の奏でる横笛があまりにも上手だったから、つい現れてしまったわ」
他のメンバーも妖精サウナトントゥに気づいて目を丸くしてポカーンと口を開けてしまう。立ち直ったレアが尋ねる。
「妖精は人の姿をしているのですか? 人の言葉がわかるのですか?」
「それは私を作った神様がそのように作ったから。妖精の姿形は神様が決めるの。他の国では光る球だったりするわね。人の言葉はだいたいわかるわよ」
次にパシファが尋ねる。
「どうしてサウナ風呂が好きなのでしょうか?」
「サウナ風呂は熱いから。特にここのサウナ風呂は岩がたくさん置いてあるから好き。身体の芯から暖まるのよ」
「どうして岩が置いてあると身体の芯から暖まるのでしょうか?」
「おイモを焼くのと同じ。焚火で焼くと、外側は真っ黒に焦げていても中心は焼けずに硬いままだったりするでしょう? だけど、熱い石の上で焼くと中心までホカホカに焼けているでしょう? それと同じことよ」
次にトルリが尋ねる。
「あなたの他にも妖精はいるの?」
「いるわよ。この辺りだと妖精の森の中にフルーツの妖精がいるわ。フルーツの妖精が育てているフルーツはとっても美味しいの。あっ、少し寒くなってきたわ。私サウナ風呂の中に帰るわね」
そう言うと妖精サウナトントゥは、サウナ風呂の建物の壁の中へ消えた。
「わぁーびっくりした。僕は妖精を始めてみたよ」
「私もです。感激です」
「私なんかお話してしまいました。信じられません」
皆が興奮気味に口々に言う。その興奮が収まった頃、プレヤが口を開く。
「僕たちのグループ名は『星とバラの妖精』だよね。僕たちの舞台衣装にも羽を付けよう。髪の色と同じ羽をね」
それにアニマが反応する。
「舞台衣装に羽が付いているとダンスが踊りにくくなるわ」
レアも同意する。
「舞台上で羽がとれたら大変だわ」
「そうか、なるほど」
舞台衣装に羽を付ける案を諦めたプレヤが言う。
「さて、次は何処へ行って遊ぼうか?」
「森に行ってフルーツの妖精を探しましょう。そして、美味しいフルーツを分けてもらいましょう」
ヴェーヌの意見に全員がコクコクする。それを見たプレヤが提案する。
「よし、森に行って妖精をさがそう!」
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参考
「妖精の踊り」 作曲 C.W.グルック バッジーニ




