第11話 エリーゼのために(第四章最終話)
『星とバラの妖精』たちとエリーゼが、カブトムシの魔物クレスヘラ討伐で沸き立っている所へセルクが帰って来た。みんなが興奮している理由が分からず質問する。
「みなさん何を騒いでいるのですか?」
「エリーゼが聖剣火の鳥の力でカブトムシの魔物を討伐したんだ。凄いよ」
プレヤが興奮して答えるとセルクが残念そうに言う。
「それは私も見たかったです、残念です。それで、私の方も回復魔法を使っての治療が終わりました。竜王丸を1粒飲みましたけど、重傷者全員の治療は完了しました」
他の『星とバラの妖精』のメンバー同様、厳しい修行と食事管理のおかげで、セルクも保有魔力量が大幅に増えているのだ。ヴェーヌがセルクを誉める。
「凄いわ、セルク。重傷者を何人も治療できるなんて。普通の回復魔法の使い手は重傷者は1人か2人の治療がやっとなのに」
「いいえ、バービレ様に比べればまだまだです。薬草を使った治療なら、まだ可能ですが、他の負傷者はどこでしょうか?」
その言葉にフェネとアニマがハッとする。フェネが言う。
「私とアニマも薬草を使った治療ができるわ。一緒に行きましょう」
しかし、トルリが待ったをかける。
「あれを見て。あれをなんとかするのが先よ」
トルリが指さす方向を見ると、ビートルの森が激しく燃えているカブトムシの魔物の火球による火事が大きく燃え広がったのだ。それを見たアニマが言う。
「『雨だれ』で消火できるかしら?」
「『雨だれ』はしとしと降る雨だから難しいかもしれないわ」
トルリが疑問を口にすると、フェネが少し考えて同意する。
「そうね。ここは『テンペスト』、暴風雨の曲の方がいいわ。ピアノの曲だから、トルリにお願いするわ」
トルリがコクコクすると、フェネは詠唱する。
「ピアノ アウト」
携帯魔法で鍵盤数88のピアノが現れると、トルリがそのピアノの前に座り詠唱する。
「音楽魔法 テンペスト」
トルリが演奏を始めると、ビートルの森の上空に黒い雲が沸き起こる。演奏が進むと、雨が降り出し、その勢いがだんだん激しくなる。まるで嵐のような雨がビートルの森に降り注ぐと、燃え盛っていた火は徐々に小さくなり、ついに消えた。それを確認して、フェネが言う。
「トルリ、よくやったわ、ご苦労様。火事は無事に消えたわ」
トルリは、疲れた様子でコクコクすると立ち上がり、ピアノの前から離れる。フェネはピアノを携帯魔法で収納すると、エリーゼに尋ねる。
「負傷者はどこにいるのかしら?」
「ビートルの森の火事を消してくれてありがとう。あの森には、かわいいカブトムシがたくさん住んでいるの。騎士団の負傷者は騎士団の治療班がするから、冒険者たちを治療してあげて。あの辺りに座り込んでいる冒険者たちが負傷者だと思うわ」
それを聞いたフェネとセルク、アニマ、イスリがその方向に駆け出す。
「土魔法 土壁崩壊」
詠唱して土壁を崩したレアがプレヤに尋ねる。
「私たちはどうします? フェネたちが終わったら帰りますか?」
「そうだね。みんな疲れているし、帰って休もうか」
それを聞いたエリーゼが、待ったをかける。
「ダメよ。まだ王女殿下に紹介していないわ。あなたたちのお陰で聖剣火の鳥を手にすることができたのだから、王女殿下に紹介しないわけにはいかないわ」
エリーゼの父親である騎士団長も続く。
「重傷者の治療やカブトムシ型魔獣討伐のお礼も受け取ってもらわないといけませんな」
「ちょっと待ってください。みんなで相談しますから」
困ったプレヤは、みんなで相談することにした。そろそろ赤いバラの屋敷に帰らないと、アイーダやアースが心配するだろうからだ。でも、王女殿下に会わないと不敬になるかもしれないし、お礼を受け取らないと相手の面目を失わせることになるかもしれないからだ。
「ねえ、どうする? 誰かいい考えはないかな?」
「王女殿下に会わないといけないわね。だから、なるべく時間を短くする方法を考えるのがいいわ」
ヴェーヌが意見を言うと、アニマも意見を出す。
「王族と会う時の礼儀作法なんて私は知らないわ。無礼なことをして、罰を与えられないか心配。どうにかならないの?」
「それだわ。私たちは礼儀作法を知らないから、遠くで立っているだけにしてもらいましょう。王女殿下に一言声をかけてもらって、それで終わり。はい、さようなら、そんな作戦でどう?」
ヴェーヌが提案すると、全員が声を揃えた。
「「「さんせーい」」」
「じゃあ、この問題は解決だね。もう1つのお礼のことはどうする?」
プレヤが再び意見を求めると、パシファが手を上げる。
「一番困るのは、後日に呼び出されることですね。できれば、今ここで受け取れるものがいいのですけど」
「今受け取れるもの? そうだ、カブトムシ型魔獣の落とした魔石はどう?」
パシファの意見を聞いたプレヤが提案すると、レアも意見を言う。
「でも、これまで戦ってきた、この国の冒険者たちの取り分を横取りすることになるんじゃない? それはマズイと思う」
レアのもっともな意見にヴェーヌが答える。
「その通りよ。土壁の向こう側のフェネとトルリが討伐したカブトムシ型魔獣の数は500体以上だったと思うわ。だから、その半分くらいの魔石をもらうことでどうぁしら?」
「そうだね。僕は賛成だ。魔石はB級昇格のポイントになるから、僕たちも欲しいからね」
プレヤが賛成すると全員がコクコクする。そこで、騎士団長の所へ行って、プレヤが申し出た。
「カブトムシ型魔獣討伐のご褒美として、土壁の向こう側の魔石を半分くらいください。それで十分です」
「そうか、魔石全部でもいいのだが、欲がないのですな。いいでしょう、好きなだけ魔石を持って行ってください」
「ありがとうございます。では」
プレヤたちは平原の向こうに走り出す。すると、エリーゼも後を追いかける。
「待ってよ~~~。魔物の魔石は私の物だからね~~~」
30分後、プレヤたちとエリーゼが丘の上に帰って来た。エリーゼは直径50センチほどの魔石1個だけだったのに一緒に帰ってきたのは、魔物の魔石が熱くて持てるようになるまで待ったからだ。丘の上ではフェネとセルク、アニマ、イスリが待っていた。プレヤが尋ねる。
「冒険者たちの治療は終わった?」
「たぶん。治療の途中で魔石を拾いに、彼らが行ってしまったから。国からお金をもらっているけど、もっと稼ぎたいらしいわ。新しい剣や防具が欲しいって」
エリーゼも騎士団長に話しかける。
「お父様、これがカブトムシ型魔物クレスヘラの魔石です。家に持ち帰る前に王女殿下に見て頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ、その方がいいだろう。我々騎士団の撤収にはもう少し時間がかかる。先に王女殿下の下に行きなさい」
「ありがとうございます。そうします」
エリーゼはプレヤたちの所へ来ると言う。
「さあ、王女殿下の下に行きましょう」
プレヤが待ったをかける。
「行くのはいいけど、王家の方に会う時の礼儀作法を知らないんだ。遠くから声をかけてもらうだけでいいかな?」
「そうなのね。王女殿下に相談してみるわ。さあ、行きましょう」
エリーゼに言われて、とりあえず王女殿下の下に行くことになった。
*
転移陣を出ると、王女宮の赤と白を基調とした色でデザインされた可愛い建物が目に入った。王女宮入口の衛兵がエリーゼに話しかける。
「お帰りなさ、エリーゼ様。サーシャ王女殿下がお待ちです」
「そう、お世話になった客人たちが一緒なのだけど、どうしたらいいかしら?」
「わかりました。訊いてきますのでおまちください」
王女宮に入って行った衛兵は、すぐに丸メガネをかけた赤髪青目の女性文官一人と帰ってきた。『星とバラの妖精』を見て驚いた表情をしたが、すぐに冷静さを取り繕って言う。
「エリーゼ様、とりあえず謁見控室に案内いたします。客人の皆様もこちらへどうぞ」
謁見控室へ案内される途中で、エリーゼが女性文官に話しかける。
「ポーラ、彼女たちのお陰で聖剣火の鳥を手にすることができたわ。それに彼女たちは、重傷者たちの治療を行い、ビートルの森でたくさんのカブトムシ型魔獣を討伐してくれた。だから、サーシャ王女殿下に謁見して頂きたいのだけど、礼儀を知らないから、遠くから一声かけて頂くだけでいいらしいの」
「承知しました。サーシャ王女殿下にお伝えします」
謁見控室に入って待っていると、たくさんのお菓子が運ばれてきて、テーブルに並べられる。そして、メイドがカップにお茶を入れて回る。
「王女宮のスペシャルブレンドティでございます。どうぞお菓子とお茶を楽しみながら、今しばらくお待ちください」
メイドが退室すると、アニマがすぐにお菓子を口に入れた。
「美味しいーーー。モグモグモグモグ」
「ちょうどお腹が空いていたのよねーーー。パクパクパクパク」
トルリも負けていない。もちろん他の者もだ。とても9人中5人が貴族令嬢とは思えない。もっともパシファだけは、お茶もしっかり味わっているが。それを見たエリーゼは、礼儀を知らないのは本当だと思う。テーブルの上にたくさんあったお菓子が無くなった頃、ドアがノックされた。
「サーシャ王女殿下がいらっしゃいました」
扉が開くと、最初に入ってきた丸メガネをかけた赤髪青目の女性文官が告げる。謁見控室にいた者全員が、慌てて立ち上がり、頭を下げる。その中をサーシャ王女殿下が、女性文官1人と侍女2人を従えて入室してきて言う。
「頭を上げて楽にしなさい」
全員が頭を上げると、エリーゼが口を開く。
「王女殿下、どうしてここへ?」
「あなたから報告のあったビートルの森での出来事について、同じ報告が騎士団からもありました。これだけでも勲章授与に値します。それに加えて、聖剣火の鳥の獲得にも大きく貢献したそうではないですか。これはもう、赤獅子勲章を授与するしかありません」
「赤獅子勲章は王女殿下が与えられる最高の勲章ではありませんか」
「そうです。彼女たちには、その価値があります。そんな彼女たちに、遠くから声をかけるだけなどとてもできません。だから、謁見室ではなく、この部屋にきたのです」
これを聞いて、『星とバラの妖精』たちはピキピキピキーンと固まってしまう。しかし、サーシャ王女殿下は、後ろに控える女性文官が持つトレイから赤獅子勲章を1つ取り上げて、エリーゼの前に立つ。エリーゼが頭を下げると、その首に赤獅子勲章をかける。
そして、『星とバラの妖精』たちの前に進む。いち早く驚きから立ち直ったヴェーヌが頭を下げると、それを見習って残りの者も頭を下げる。サーシャ王女殿下がその首に赤獅子勲章をかけていく。全員に赤獅子勲章の授与が終わると、サーシャ王女殿下が話しかける。
「みなさん、聖剣火の鳥の獲得とビートルの森での我が国へのご助力に感謝します。我が国はいつでも『星とバラの妖精』のみなさんを歓迎しますわ。また、来てくださいね」
それを退出許可の言葉と理解したヴェーヌが返事をする。
「赤獅子勲章も今のお言葉も身に余る光栄です。もう一度この国に来たいと思います。では、これで失礼います」
全員が一礼して、謁見控室を退出して、転移陣へ向かう。
*
お土産屋で、赤いライオンの置物をアースへのお土産に選んだプレヤがハッとして言う。
「ねえ、僕たちは『星とバラの妖精』って名乗ってないよね? どうして分かったんだろう?」
「あのポーラという名前の丸メガネをかけた赤髪青目の女性文官よ。お祭りの舞台袖で話したことを覚えていないの? 正体を隠してアイドル活動をしているのは、私たちだけではないのよ」
「あっ、あの丸メガネを外すと、『トルビー』のリーダーのポーラの顔だ」
*
一方、『星とバラの妖精』が退出した後の謁見控室で、エリーゼが叫ぶ。
「えーーー、『星とバラの妖精』ですって! サインをもらって、1曲歌ってもらうんだったーーー」
「フフフ。ポーラが教えてくれたのよ。どこの誰とも分からない者に赤獅子勲章を授与するわけがないでしょう? ところで、聖剣火の鳥を見せてくれるかしら?」
サーシャ王女殿下の言葉に、エリーゼは聖剣火の鳥を鞘から抜いて立てる。
「まあ、なんてきれいな真紅の剣でしょう。エリーゼ、この剣はあなたが持っていなさい。この剣で私を守るのよ、私の未来の女近衛騎士団長。それと、カブトムシ型魔物の魔石は持って来たの?」
後ろに控えていたジュリアが、カブトムシ型魔物の魔石を両手で差し出す。
「こんな大きな魔石は見たことがないわ。よく討伐できたわね、エリーゼ。ご褒美を2つあげましょう。1つは来年3月のアルタイルホールでの『赤いバラ』と『コラール』、『星とバラの妖精』のコンサートよ。ポーラ、貴賓席の予約はできるわよね?」
「お任せください。普通は予約を取るのは難しいのですけど、日時の指定をしなければ、『星とバラの妖精』がなんとかしてくれるでしょう」
「おーーー。必ず予約を取って、ポーラ」
「もちろんです。私もご一緒しますから」
「フフフ、私も一緒に行くわよ。貴賓席は私が行かないと取れないからね。もう1つのご褒美は、私のピアノ演奏よ。 エリーゼが他国に武者修行に行っている間に練習しておいたの」
そう言うと、サーシャ王女殿下は、ピアノの前に座り演奏を始める。曲は『エリーゼのために』。諸説ある中の1つの説によると、作曲者が密かに愛する人のために作曲したとされる曲であった。
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参考
「テンペスト」 ピアノ・ソナタ 第17番第3楽章 作曲 ベートーヴェン
「エリーゼのために」 作曲 ベートーヴェン




