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第10話 ビートルの森

 ビートルの森の転移陣は小高い丘の上に設置されていた。転移陣を出ると、眼下に平原が広がり、5キロメートルほど先からは、森が始まっている。丘から2キロメートルの位置で、騎士団と冒険者の連合軍がカブトムシ型魔獣と戦っている。


カブトムシ型魔獣は体長1メートルくらいで、頭から生えている角の長さは2メートルで、その先は槍のように鋭い。50体ほどが横一列になり、森から続々と進軍して来る。騎士団と冒険者たちは、止めようと必死に戦っているが、苦戦している様子だ。


カブトムシ型魔獣の隊列の横から攻撃しようとすると、側面のカブトムシ型魔獣が向きを変えて応戦している。戦いの前線はジリジリとこちら側に押されている。エリーゼはキョロキョロと周囲を見回していたが、捜していたものを発見した。ある方向を指さして言う。


「指揮所を見つけたわ。行きましょう」


エリーゼの後に続いて、テンブリ王国の国旗が掲げてあるテントに一行は向かう。テントに近づき、指揮官らしき人物を見つけるとエリーゼは駆け寄った。


「お父様、苦戦している様子ですが、大丈夫ですか?」

「おお、エリーゼか。よく来てくれた、昨日までは50センチほどの大きさのカブトムシ型魔獣が、バラバラに森から出てきていたのだ。だから、冒険者だけで討伐できていたのだ。しかし、今朝から、もっと大きいカブトムシ型魔獣が隊列を組んで出てくるようになって、苦戦している。優秀な指揮官が指示を出しているような動きだ。お前にも討伐に参加して欲しいが大丈夫か」


「もちろん大丈夫です。私もC級冒険者です。それに頼りになる仲間たちも一緒ですから戦力になれると思います」


そう言って、エリーゼは『星とバラの妖精』を見る。それを受けて、プレヤが代表して挨拶をする。


「私たちはC級冒険者パーティで、エリーゼの友人です」

「私はエリーゼの父親で、騎士団長のブラウ フィン ロゼリアンだ。助力に感謝する」


ここは戦場なので、挨拶は簡単である。C級冒険者パーティは一人前とみなされているから、戦力になると考えてくれたらしい。エリーゼが質問する。


「お父様、お手伝いできることは何でしょうか?」

「たくさんある。一番深刻なのは重傷者の治療だ。回復魔法の使い手が魔力切れになってしまった。魔力回復ポーションも使い切ってしまったのだ。騎士団の本部に行って魔力回復ポーションを持ってきてもらえないか?」


それを聞いてセルクが手を上げる。


「私は回復魔法が使えます。重傷者はどこにいるのでしょうか?」


回復魔法が使える者はとても少ない。それなのに、少女が回復魔法を使えると言うのに騎士団長は驚いたが、すぐに返事をする。


「それは有難い。腕に赤い布を巻いている者が、一刻も速く治療が必要な重症者だ。その者たちを優先して、いや、その者たちだけでも治療をお願いしたい。誰か病院テントに案内してさしあげろ」


一人の騎士が進み出て、セルクを誘導して走り出す。セルクも走って続く。途中に30人くらいの騎士や冒険者が座り込んで下を向いている集団がいた。回復魔法の使い手だけでなく、火魔法などの他の魔法の使い手で魔力切れになった者たちだろう。


戦場に火球や水球が飛んでいないということから、そのように推測できる。セルクを見送ったエリーゼが、再び質問する。


「他に困っていることは何でしょうか?」

「今戦っている騎士や冒険者は、ずっと戦い続けている。体力回復ポーションを飲む時間もなかった。だから、かなり疲れきっているはずだから、負傷者がますます増える恐れがある」


それを聞いたヴェーヌは平原を見ながら考え込む。ヴェーヌは軍師や参謀の勉強もしていたから、戦況を好転させるための戦術を考えているのだ。少ししてから、エリーゼに話しかける。


「ねえ、エリーゼ。カブトムシ型魔獣の先頭から森までの半分くらいの場所に土壁を作るわ。カブトムシ型魔獣を2つに分断するの。長い時間は無理だけど、騎士や冒険者が、一旦退いて体力回復ポーションを飲む時間くらいは稼げると思うの。カブトムシ型魔獣は進むのが遅いから可能性は高いわ」


エリーゼは父親である騎士団長の方を向くと確認する。


「お父様、お聞きになりました? 私はいい案だと思いますが、いかがでしょうか?」

「うむ、やってみる価値はある。その作戦、お願いできるだろうか?」


ヴェーヌはニッコリして、答える。


「お任せください。期待以上の結果を出しますわ」


そして、レアに頼む。


「レア、厚さは10センチくらいでいいわ。高さ1メートル、幅150メートルくらいの土壁を、カブトムシ型魔獣の隊列の中央辺りに作ってくれる?」


レアはコクコクして、サターンワンド、土星の飾りの付いた杖を手に持って詠唱する。


「土魔法 土壁」


カブトムシ型魔獣の隊列の真ん中に土壁が盛り上がる。森側のカブトムシ型魔獣は、土壁に阻まれて前に進むことができない。それを見た騎士団長が、近くの騎士に命令を発する。


「退却ラッパを吹き鳴らせ」


退却ラッパが戦場に響き渡ると、騎士や冒険者たちは一斉に丘の麓に向けて走り出す。そして、麓に辿り着くと座り込んだり、倒れたりする。そこへ、従者や兵士たちが体力回復ポーションを配って回る。看護兵も急いで駆け寄り傷の応急手当をする。


ヴェーヌは、騎士や冒険者が十分カブトムシ型魔獣から離れたのを確認すると、プレヤに告げる。


「2人で力を合わせて、アレをやるわよ。標的は土壁のこちら側のカブトムシ型魔獣よ」


プレヤはコクコクして、右手をヴェーヌの左手とつなぎ、左手にロータスワンドを持つ。ヴェーヌは右手にスターワンドを持つ。そして、同時に詠唱する。


「「星魔法 ふたご座流星群」」


2人ともふたご座の生まれなので、息がピッタリ合っている。カブトムシ型魔獣に上空から燃える岩石が降り注ぐと、大部分のカブトムシ型魔獣は煙となって消える。数百体いたカブトムシ型魔獣で残っているのは10体ほどだ。ヴェーヌがイスリにお願いする。


「イスリさん、残りのカブトムシ型魔獣をお願いします」


ふたご座流星群は広範囲魔法で、精密攻撃には向かないのだ。


「わかったわ。任せなさい」


イスリは答えると、詠唱する。


「火魔法 火球乱舞」


イスリの頭上から、直径10センチほどの小さな火球多数が飛び立ち、残りのカブトムシ型魔獣に襲い掛かり、土壁のこちら側のカブトムシ型魔獣はすべて煙になって消えた。騎士や冒険者たちはポカーンとして、その様子を眺めることしかできなかった。何が起こっているのか、わからない様子だ。


静まり返った中、トルリがフェネに要求する。


「フェネ、小太鼓を出して。土壁の向こう側のカブトムシ型魔獣は、私たちで討伐するわよ」


フェネはコクコクして、携帯魔法で小太鼓と横笛を出す。フェネが横笛を、トルリが小太鼓の準備をすませると、2人はお互いの顔を見て頷き詠唱する。


「「音楽魔法 雷神」」


フェネが横笛で『行進曲 雷神』を演奏を始める。トルリが小太鼓をトンと叩くと、何もない空間から稲妻がカブトムシ型魔獣に突き刺さる。トントンと叩くと稲妻が2回、ダダダダダダダダと連打すると8回稲妻がカブトムシ型魔獣に突き刺さる。


稲妻が突き刺さるたびにカブトムシ型魔獣が次々と煙になって消えていく。その数が残り20体ほどになった時、ビートルの森に火の手が上がる。そして、直径3メートルの火球が飛び出してきて、土壁に命中して土壁を破壊する。


燃える森から現れたのは体長10メートルほどのカブトムシ型魔獣だ。その角の先から火球が放たれ、土壁を破壊する。魔物だ。魔法を使う魔獣は魔物である。ジュリアが冷静に言う。


「あれはカブトムシ型魔物クレスヘラです。体の表面は固く、剣や槍では傷つけることすらできません」


トルリは小太鼓を叩き、稲妻で攻撃する。カブトムシ型魔獣はすべて煙になり消えるが、カブトムシ型魔物クレスヘラは平然と火魔法を放ち続ける。トルリが悔しそうに言う。


「ああ、もう。シンバルが使えれば討伐できるのに」


それまで大人しくしていたエリーゼが言う。


「私の出番のようね。あのカブトムシ型魔物クレスヘラは私が討伐するわ」


エリーゼは聖剣火の鳥を鞘から抜き、下段の構えをとる。そして、カブトムシ型魔物クレスヘラを見据えて、


「ファイヤーーー」


と詠唱しながら上段の構えに変化し、そこで一瞬静止すると、


「バーーーード」


と大声で叫びながら、振り下ろす。すると剣先から真紅の鳥が飛び出してカブトムシ型魔物クレスヘラに向かって行く。その鳥は、孔雀に似た姿をした真紅の炎だ。途中でカブトムシ型魔物クレスヘラの放った火球と衝突するが、それを霧散させて真っ直ぐに飛んでいく。


カブトムシ型魔物クレスヘラに衝突すると、真紅の炎が魔物を包み込み煙に変えた。


「やったーーー」


エリーゼが、手に持つ聖剣火の鳥を天に突きあげると、『星とバラの妖精』たちも拳を天に突きあげた。


「「「おーーー」」」



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「行進曲 雷神」 作曲 ジョン・フィリップ・スーザ

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