第9話 赤龍の神殿
転移陣を出ると、そこは山の頂上近くだった。頂上には神殿がある。赤龍の神殿だろう。南を見ると、遠くに時計台のある町並みとが見える。あれは王都だ。東には森、西には平原が続いている。
北を見ると、大小の岩が転がっている荒地が広がり、遥か遠くには溶岩を流し出している山並みがある。通常、火山は1つの山である。噴火口があり、そこから、噴煙を上げ、溶岩が流れ出てくる。
今、見えているのは、どこまでも長く伸びる大地の裂け目だ。そこから流れ出た溶岩が炎の絨毯のように見える。この溶岩はやがて冷えて岩になり、岩が砕かれて石や土になる。ここで大地が生み出されているかのようだ。この裂け目に住んでいる赤龍を祭っているのが、赤龍の神殿ということだろう。
「凄い景色ね。圧倒されてしまうわ」
ヴェーヌの呟きに全員がコクコクする。この景色を前にして、声を出すことができないのだ。
「さあ、赤龍の神殿へ行きましょう」
『星とバラの妖精』一行が壮大な景色に呆然としていると、ジュリアが声をかけてくる。我に返ったプレヤが返事を返す。
「そうだね。聖剣火の鳥を赤龍の神殿に持って行き、聖剣火の鳥の能力が目覚まさせるために、ここに来たんだった」
一行が赤龍の神殿に行くと、赤いワンピースを着た一人の少女が、神殿前で掃き掃除をしている。ジュリアはその少女に近づき話しかける。
「聖剣火の鳥の能力を覚醒させるために来ました。巫女様に取り次いでもらえますか?」
「聖剣火の鳥を持ってこられたのですか?」
驚いて問う少女にエリーゼは、聖剣火の鳥を高く掲げる。すると、少女は目を大きく見開き言う。
「どうぞ神殿の中でお待ちください。すぐに巫女様にお伝えします」
少女の案内で神殿に入ると、正面に祭壇があり、その前に多数のイスが並べてある。少女は最前列のイスに座るように言って、祭壇横のドアの奥へ消えた。ジュリアが説明してくれる。
「赤龍は我が国の守護聖獣なのです。そして、火の鳥は赤龍の使いの鳥と伝えられています。この神殿は赤龍と火の鳥を祭る神殿なのです」
しばらく待っていると、さきほどの赤いワンピースを着た少女と真紅のワンピースを着た女性が入室して来た。少女は4つのハンドベルの乗せたワゴンを押し、真紅のワンピースの女性は古びた本を持っている。
「巫女のコミュです。聖剣火の鳥をお持ちになったとか?」
「はい。これです」
エリーゼが聖剣火の鳥を差し出す。それをじっくりとみた巫女は、古びた本をめくり、あるページを読む。そして、聖剣火の鳥をじっくりと見て言う。
「たしかに聖剣火の鳥のようです。その剣を祭壇に置いてください」
エリーゼが聖剣火の鳥を祭壇に置くと、赤いワンピースを着た少女が4つのハンドベルの乗せたワゴンを、祭壇の前に押して来る。そして、巫女が説明する。
「神殿に伝わるこの古文書によると、祝福の鐘を鳴らせば、聖剣火の鳥の能力は覚醒するそうです。この4つのハンドベルが祝福の鐘です。ただし、祝福の鐘の鳴らし方までは書いてありません。また何百年間も行われていない儀式ですから、誰も鳴らし方を知りません」
説明を聞いて、エリーゼはどうしたらいいのかわからなくて困惑した。他の者も同様だ。しばらくして、ヴェーヌが提案する。
「失敗したらダメってこともないだろうから、試してみたらどう?」
「そうね、ダメで元々だから、やってみるわ」
そう答えたエリーゼは、並んでいる順番にハンドベルを鳴らしたが、聖剣火の鳥には何の変化も起こらない。順番を変えたり、2つ同時に鳴らしたりしたが、変化は起こらない。それを見ていたトルリがフェネに尋ねる。
「ねえ、フェネ。あのハンドベルの4つの音の高さは、時計台のチャイムの音の高さと同じよね?」
「私もそう思うわ。ということは……」
「うん、時計台のチャイムのメロディが、聖剣火の鳥を覚醒させる可能性があるわ」
トルリはエリーゼに話しかける。
「私にやらせてもらえないかな? 試してみたいことがあるの」
「いいわよ。私じゃダメみたいだから」
エリーゼの代わりに4つのハンドベルの前に立つと、トルリはハンドベルを音の高さの順に横一列に並べる。そして、鳴らし始める。
キン コン カン コーン キン コン カン コーンン
チャイムのメロディが鳴り終わると、聖剣火の鳥は真紅の光に包まれる。1分後、光が消えると、聖剣火の鳥全体が真紅色になり、ガードは鳥の翼の形に変わっている。聖剣火の鳥の能力が覚醒したのだ。そして、真紅の鞘も横に現れている。
「まさか、時計台のチャイムのメロディで覚醒するなんて」
「そうよ。誰もそんなことを考えないわ」
エリーゼとレアが呟く。ヴェーヌも言う。
「うん。だからこそ、時計台のチャイムのメロディに使われているのかもしれないわ。聖剣火の鳥の能力が覚醒するためのメロディを後の世に残すために」
祭壇の鞘を取り、聖剣火の鳥を鞘に納めて、エリーゼは巫女に感謝する。
「巫女様、ありがとうございます。おかげ様で、聖剣火の鳥の能力を覚醒できました」
「おめでとうございます。では聖剣の使い方を説明します」
巫女は、神殿に伝わる古文書を見ながら説明する。
「聖剣火の鳥を下段に構えて、ファイヤーと詠唱しながら、上段に構えてください。そして、バードと叫びながら標的を切るように振り下ろすと、強力な火魔法が放たれると書いてあります。よろしいでしょうか?」
「わかりました。重ね重ねありがとうございます。では、報告に行かなくてはいけないので、これで失礼します」
「赤龍様のご加護がありますように、お祈りします」
巫女様と少女に見送られて神殿を出ると、ジュリアが祝福する。
「エリーゼ様、おめでとうございます。お父上や王女殿下もお喜びでしょう」
「ありがとう、さっそく父上に報告に行きましょう。それから」
エリーゼは『星とバラの妖精』一行の方を向きお願いする。
「あなたたちには、とても助けられました。是非一緒に来て、騎士団長であるお父様や王女殿下に紹介させて」
それを受けて、『星とバラの妖精』一行は相談する。
「どうしようか? 会うだけですむかな?」
「ちょうどお昼だから、食事くらいは出してくれるかもよ」
「そうね。お腹がペコペコよ」
「じゃあ、お昼ご飯をご馳走になるくらいということで」
結論が出たところで、プレヤが言う。
「お昼ご飯を出してくれるなら行くよ」
「もちろんよ。さあ行きましょう。まずはお父様の所よ」
こうして、一行は転移陣へ向かった。
*
騎士団駐屯地の転移陣を出ると、騎士団本部の正面だった。本部入口に立つ騎士にエリーゼが尋ねる。
「お父様はいらっしゃるかしら?」
「エリーゼ様、いらっしゃいませ。あいにくと団長は騎士団のほとんどを引き連れて、さきほど出陣されました」
「そう、残念だわ。それで食堂はやっているかしら? 友人たちと一緒にお昼を食べたいのだけど」
「やっていますよ。騎士団が急に出陣したので、お昼のランチがかなり余っていると思いますから、歓迎されるはずです」
「ありがとう。早速食べに行くわ」
エリーゼは、『星とバラの妖精』一行の方を向いて自慢する。
「ここの食堂のランチは美味しいのよ。さあ、行きましょう」
食堂は100人くらい入りそうな広さだったが、食事中の騎士は数人しかいない。エリーゼを先頭に、トレイを持ってランチを受け取る。最初はビーフシチュー、次に野菜サラダ、パン。そして、最後の代金の支払いでエリーゼは係りの者に言う。
「代金はお父様に請求してね」
すると、係りの者が困ったように返事をした。
「いえ、代金は不要です。突然の騎士団の出陣で、この料理は無駄になるところだったのですから。今日は遠慮なくお代わりをしてください」
「そうなの、ありがとう。じゃあ、遠慮しないでお代わりをいただくわ」
テーブルで食べ始める。ビーフシチューを一口食べると、全員ガツガツと食べる。お腹が空いていたのもあるだろうが、ビーフシチューがとても美味しかったのだろう。あっという間に完食して、全員がお代わりをした。イスリなどは2回もお代わりをした。食事が終わると、パシファが全員分のお茶を入れる。
「この国の茶葉でお茶をいれるのは初めてですから、自信がないのですけど」
そのお茶を一口飲んだジュリアがニッコリして感想を口にする。
「いい香りもしますし、とても美味しいです」
それを聞いてパシファはホッとする。そして、そのお茶を飲みながらプレヤがエリーゼに言う。
「とっても美味しかった。お礼はこれで十分だよ。聖剣火の鳥を見ることもできたし、僕たちはこれで失礼するよ」
みんながコクコクする。しかし、エリーゼは譲らない。
「いいえ、これでみなさんを帰したら、私が叱られます。お父様はあいにくと不在でしたが、王女殿下には会っていただきます」
その時、一人も騎士が食堂に走りこんで来て、そこにいた数人の騎士に告げる。
「おいお前たち、緊急出動だ。ビートルの森で、カブトムシ型魔獣相手に苦戦しているらしい。残っている者にも全員出陣の命令が出た」
騎士たちが、走って食堂を出て行くとプレヤが尋ねる。
「ビートルの森ってどんな森?」
「カブトムシの成虫が好む樹液を出す木、クヌギ、コナラなどがたくさん生えているから、昔からカブトムシが多くいるのです。でも1ヵ月くらい前から、カブトムシ型魔獣が異常に大量発生しているらしいのです」
それを聞いたプレヤはみんなに言う。
「僕はカブトムシ型魔獣を見たことがないから、是非見てみたい。みんなはどう? 一緒に見に行こうよ」
全員コクコクして、同意する。エリーゼがハァとため息をついてから了解する。
「わかりました。ビートルの森に案内しましょう」
そして、一行はトレイと食器を返却して、転移陣へ向かった。
お読みいただきありがとうございます。
いいなと思ったら、評価等お願いします。




