第8話 聖剣火の鳥
赤いライオンに驚いた一行が立ち直るまで待ってから、ジュリアが説明を続ける。
「ストーンサークルの中心に、祭壇石と呼ばれる赤い石があります。その祭壇石に聖剣火の鳥が突き刺さ立てられています。聖剣火の鳥を引き抜くには、太陽の位置から登って祭壇石に近づかなくてはいけません。
その後のことは詳しく知らないのですが、聖剣火の鳥を赤龍の神殿に持って行き、祝福の鐘を鳴らすと、聖剣火の鳥の能力が目覚めるそうです」
それを聞いて、ヴェーヌが問う。
「聖剣火の鳥を祭壇石から引き抜くためには、ストーンサークルに入らないといけないけど、これ以上先へ行こうとすると赤いライオンが襲ってくるの?」
ジュリアがコクコクして答える。
「はい、赤いライオンは聖剣火の鳥を守っているのです。これ以上ストーンサークルに近づくのは危険です」
「倒して煙にしてしまえばダメなの?」
「赤いライオンは魔獣ではありません。剣で切っても、魔法を放っても消えません。だからと言って、普通の動物でもないのです。特別な生き物なのです」
考え込む一行であったが、トルリが手を上げる。
「転移すればいいんじゃない?」
「
しかし、ジュリアの答えはノーだった。
「聖剣火の鳥を祭壇石から引き抜くためには、時間がかかるそうです。その間に赤いライオンに襲われるでしょう」
ストーンサークルに近づき、入るための方法を考えていた一行だが、なかなか妙案が出ない。時間だけが過ぎて言ったが、フェネが口を開いた。
「アニマ、トルリ、ちょっと集まって」
その後、3人で話し合っていたが、結論が出たようだ。フェネとアニマ、トルリがそれぞれの楽器を手にして詠唱した。
「「「音楽魔法 獅子王の行進曲」」」
演奏が流れると、赤いライオンたちが2本の石柱の間に道を作るように座った。まるで、そこからストーンサークルの中に入るように誘導しているみたいである。それを見た一行は楽器を演奏するフェネとアニマ、トルリを先頭に、赤いライオンの作る道を恐る恐るゆっくりと進む。
その間赤いライオンたちは全く動かない。時間をかけて、一行はストーンサークルの中に入る。ストーンサークルの中央には、厚さ20センチくらいの、円盤状の石板が5枚積み重ねられている。一番下の石板の直径は3メートルほどで、一番上の石板の直径は1メートルほど。一番上の石板だけが赤い色をしていて、他の4つの石板の色は黒色をしている。
一番上の赤い石板には、赤く輝く剣が突き立てられている。赤い石が祭壇石で、赤く輝く剣が、聖剣火の鳥だろう。
「エリーゼ様、お待ちください」
ジュリアが止めるが、エリーゼは積み重ねられた石板を駆け上がる。祭壇石の前に立ち、赤く輝く剣を引き抜こうとする。
「う~ん、う~ん、う~ん、ダメよ、引き抜けないわ」
エリーゼが懸命に力を込めるけど、聖剣火の鳥は微動もしない。ジュリアは、ハァとため息をつくと、言う。
「エリーゼ様、聖剣火の鳥を引き抜くには、太陽の位置から祭壇石に近づいて、
聖剣火の鳥を引き抜かなければなりません。しかも、これは先ほど説明しなかったのですが、3回失敗すると、1年間は正しい方法をとっても聖剣は引き抜けなくなるのです」
エリーゼはガックリと肩を落として謝る。
「ごめんなさい。聖剣を近くで見たら嬉しくなって、無意識のうちに走り出してしまったの」
「チャンスはまだ2回あるから、頑張ろうよ」
プレヤが励ますと、エリーゼはすぐに立ち直った。
「そうよね。え~と、太陽の位置から祭壇石に近づくのよね。太陽はあそこね」
エリーゼは太陽のある方に歩いていく。そして、太陽と祭壇石を交互に見て立つ位置を決めようとする。それを見てジュリアがアドバイスをする。
「エリーゼ様、自分の影を見てください。影が祭壇石の方向に伸びる位置から近づけば良いのです」
「なるほど、ジュリアって頭がいい。太陽は影の真後ろにあるのね」
エリーゼは、言われた通りに、自分の影を祭壇石に刺さっている剣の方向に合わせて歩き始める。祭壇石に辿り着くと、聖剣を掴み引き抜こうとする。しかし、聖剣は抜けない。
「グヌヌ、ダメよ、どうしても引き抜けないわ」
その言葉に全員がガッカリする。しばらくして、プレヤが口を開く。
「正解だと思ったけど、ダメだったね。正解はあるのかな~」
腕を組んで目を瞑ったり、空を見上げたりして、全員が考え込む。そんな中レアが手を上げる。
「推理小説では、太陽を表す記号がどこかに描かれていることが、よくあるのです。みんなで太陽を連想させる記号を探してみませんか?」
「それが正解かもしれない。よし、みんなで探そう」
プレヤの号令で、全員がキョロキョロと探し始める。しかし、ヴェーヌだけは周囲の石柱の高さ5メートルあたりをジーと見つめている。そして、他の石柱も見て回り出す。一周して12本すべての石柱を見終わる。そして、赤いライオンたちに導かれて入ってきた地点に立つと、スーと息を吸い込み大声を出す。
「みんな、集まって」
全員が集まると、自分の考えの説明を始める。
「みんな、2本の石柱の高さ5メートルくらいの所に獅子座の絵柄が見える?」
全員がコクコクすると、次の石柱と石柱の間に移動する。左右の柱を見て、プレヤが言う。
「あれは、かに座の絵柄だ。じゃあ、次はふたご座の絵柄だね」
次の2本の柱の間に立つと、確かに左右の柱にふたご座の絵柄が見えた。一周して、獅子座の絵柄を確認した地点に戻ると、ヴェーヌが再び説明する。
「このストーンサークルの12本の石柱の間の空間は12。それぞれが空間は横道12星座、おひつじ座・おうし座・ふたご座・かに座・しし座・おとめ座。てんびん座・さそり座・いて座・やぎ座・みずがめ座・うお座の支配する空間を表しているようね」
アニマが手を上げた。
「横道12星座って、星座占いで使うアレのこと? それと太陽の位置が関係あるの?」
アニマの質問にヴェーヌが答える。
「アニマは、星座占いで何座かしら?」
「私は、12月10日うまれだから、いて座よ」
「誕生日の夜にいて座を見たことがあるかしら?」
「そういえば見たことがないわ。いて座は夏の始まりくらいには見るけど」
「アニマの誕生日には、いて座は太陽の後ろにいるから見えないの。でも、空を回るスピードは太陽より射手座の方が少しだけ速いから、夏の始まりにいて座は夜見えるのよ」
ヴェーヌの説明を聞いて、考え込んでいたアニマが言う。
「よくわかったわ。星座占いの横道12星座は、自分が生まれた日の太陽の位置で自分の星座が決まるのね。あっ、今日は12月23日だから、……」
「そうよ、太陽の位置はやぎ座。さあエリーゼ、やぎ座の場所に移動しましょう」
こうして、全員でやぎ座の絵柄が描かれている2本の柱の間に移動した。エリーゼが不安そうな顔でジュリアに言う。
「本当にここからで良いの?」
「エリーゼ様、太陽を表す絵柄は見つかりませんでした。もうこれしかありません。ヴェーヌさんに頼るしかありません。ダメでも1年後また来ればいいのです」
「そうね、じゃあ行くわよ」
エリーゼは覚悟を決めて、ゆっくりと歩き出す。しっかりと一歩一歩踏みしめて祭壇石まで登る。聖剣火の鳥の横に立ち、聖剣を掴む。そして、引き抜こうと力を込めると、聖剣火の鳥は突き立てられた祭壇石から音もなく抜けた。
エリーゼは、目を大きく開いて驚いた。声を出すこともできなかった。ジュリアから、エリーゼ様、と声をかけられて、我に返ってみんなの方を向き、聖剣火の鳥を高々と持ち上げた。その手の甲には、炎に包まれて飛ぶ鳥の紋章が浮かび上がっている。
「「「おおー」」」 パチパチパチパチパチパチ
歓声と拍手が送られる。エリーゼは祭壇石から降りてきて、みんなの前に来ると深々と頭を下げてお礼を言う。
「ありがとう。聖剣火の鳥をこの手に持てたのは、みんなのおかげよ」
全員が再び拍手を送る。パチパチパチパチパチパチ。しかし、ジュリアが言う。
「エリーゼ様、赤龍の神殿へ行き、聖剣火の鳥を覚醒させる作業が残っています」
「そうだったわ。急いで赤龍の神殿へ行きましょう」
アニマが一歩前に出て、申し出る。
「私の転移魔法で途中まで行きましょう。みんな私の周りに集まって」
全員が集まるとアニマがヴァイオリンを肩に乗せて詠唱する。
「音楽魔法 Fly Me To Another Land」
転移先は、火の鳥の森の端を流れる川の岸辺だった。ここでアニマは竜王丸を1粒口に入れる。そして、もう一度転移する。今度の転移先は雪原と森の境界、ソリを置いた場所だ。アニマが竜王丸を1粒口にしようとすると、プレヤが止める。
「アニマ、竜王丸は1日1粒だよ。ここからはソリで行こう」
「そうだったわ。私も保有魔力量をもっと増やさないとね」
プレヤとヴェーヌがユニコーンを出して、ソリで進む。途中でアニマがヴェーヌの方をチラチラ見ている。好奇心の強いアニマはヴェーヌに訊きたいことがあるのだろう。それを察したヴェーヌがアニマに話しかける。
「どうしたのアニマ? 私の顔に何か付いている?」
「いいえ、そうじゃなくて。ヴェーヌに教えて欲しいことがあるけどいい?」
「いいわよ。遠慮しなくていいから、何でも訊いて」
「12星座占いでおとめ座と言ったり、おとめ座宮って言ったりするけど、何か違いあるの?」
「よく気づいたわね。黄道、太陽の通り道を12に分割したもの1つ1つを宮というの。おとめ座は星座そのもの。おとめ座宮はおとめ座の領域、そうね、おとめ座の国みたいな感じね。だから、『太陽はおとめ座にいる』は正確に言うと『太陽はおとめ座宮にいる』になるのよ」
「わかったわ。ありがとう、ヴェーヌ」
そうこうしていると、ソリは倉庫に到着した。転移陣の前へ移動してジュリアが
声を上げる。
「さあ、赤龍の神殿へ行きましょう」
「「「おーーー」」」
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参考
「序奏と獅子王の行進曲」 組曲「動物の謝肉祭」より 作曲 サン・サーンス




