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第5話 カボチャのお菓子

 テンブリ王国の王都ロドンにあるロゼリアン伯爵家のタウンハウス。窓からは花火の音が響いてくる。白いドレスを着て、頭には赤、青、緑、オレンジ色の小さいロウソクで飾られた冠。その衣装で、伯爵家の一人娘、金髪青目のエリーゼが、サンタクロースの歌を歌いながら、家族にケーキを切り分けて配っている。


昔から冬至の日に行われるテンブリ王国の家庭行事である。


「エリーゼが冬至のお祭りに間に合って良かった。我が家の娘はエリーゼ1人だけだからな。間に合わなかったら、今年はケーキを食べられなかった」

「あら、旦那様。昨日エリーゼは魔力切れで帰って来てから、お昼まで寝ていたのですよ。そこは心配ではないのですか?」


「アンリ、ただの魔力切れだ。心配することはない。もう大丈夫のはずだ。そうだろう? エリーゼ」

「はい、お父様。大丈夫です。元気一杯です。ただ、今日のお祭りのコンサートに行けなかったのが残念です」


「あら、お目当てのアイドルグループでもいたのかしら?」

「はい、私の押しはソーミュスタ王国の『星とバラの妖精』です。彼女たちの歌が大好きなのですが、姿を見たことがなかったので、姿を見たかったのです」


エリーゼは自分と同じくらいの年齢の『星とバラの妖精』の曲が好きなのだ。かなり前からお祭りのコンサートに行くことを楽しみにしていたのだが。


「まあ、そうっだったの。またいつの日かチャンスがあるわよ。今日は無理してはいけません」

「は~い。次のチャンスは逃がしません」

「それで、修行の旅の成果はどうだったのだ?」


ロゼリアン伯爵家は代々騎士団長を務める家である。伯爵家の子どもは11才から12才の時に、他国に武者修行の旅に出る決まりがある。その目的は2つあり、1つはC級冒険者になること、もう1つはユニコーンを捕らえること。エリーゼも、その修行の旅に出て、昨日帰ってきたのだ。


「C級冒険者にはなれました。しかし、ユニコーンは見つけることができませんでした。残念です」

「それは上出来だ。これまでユニコーンは誰も見つけられなかったから、仕方あるまい。そもそもユニコーンの実在は疑われておるし」


父親が上機嫌で言うと、エリーゼはホッとする。しかし、表情を引き締めて父親に問う。


「この国の次代の元首は、女王陛下。現在の第一王女殿下です。とすれば、将来女近衛騎士団の団長になる私の責任は重いと思います。大丈夫でしょうか?」


エリーゼの問にロゼリアン伯爵は笑顔で答える。


「お前はまだ12才だ。12才でC級冒険者の実力があれば十分だ。ただ、昨日の魔力切れが気になるが」


エリーゼが俯いて、答えにくそうにしていると、護衛女騎士のジュリアが口を開く。


「マクデン王国のペコンからカワプールに向かう船旅の途中で、海賊船に襲われました。お嬢様は火魔法で戦われましたが、……」

「そうか、海の上では距離感も掴みづらいし、経験不足か。魔力ポーションは持っていなかったのか?」


エリーゼが顔を上げて、小さな声で答える。


「持っていましたが、火魔法を放つのに夢中で、……」

「それも経験不足だ。まあ、焦らずに修行をして、経験を積むことだ」


父親の言葉に、エリーゼは決意して言う。


「明日ストーンヘンジに行こうと思います」


ロゼリアン伯爵は驚いた顔をしたが、すぐに冷静さを取り戻す。


「それはいい考えだが、ストーンヘンジに行くには、B級冒険者のガイドが必要だ。しかし、今B級冒険者はビートルの森に行っているから誰もいないぞ」

「えっ、ビートルの森で何かあったのですか?」


「ああ、カブトムシ型魔獣が大量発生したのだ。ほとんどの冒険者が動員されて討伐にあたっている」

「そうですか」


ガックリと肩を落とすエリーゼである。ストーンヘンジに行くまでには、いろいろな困難を乗り越えなければならないから、いい修行になると思ったのだ。ジュリアでも案内はできるのだが、B級冒険者と一緒に行けば、いろいろと学べると思っていた。それがB級冒険者と一緒に行けないと分かって、残念に思ったのだ。しかし、気を取り直す。


「明日、冒険者ギルドに行ってみようと思います。ひょっとしたら、1人くらいビートルの森から帰ってきているかもしれません」

「そうか。無理はするな。それから、王女殿下へ帰国の挨拶も忘れるな」

「はい、わかりました」




 翌日、ホテルで朝食を食べた後、『星とバラの妖精』とイスリたちは、ヴェーヌの部屋に集まってお茶を飲んでいる。


「デザートのかぼちゃのクリームプリンは美味しかったね~~~」


プレヤが笑顔だ。アニマも笑顔で同意する。


「うん、給仕さんに訊いたら、この国では冬至にカボチャのお菓子を食べるらしいよ。カボチャのクッキーとか、かぼちゃのスコーンとか」

「えっ、かぼちゃのココナッツマフィンやかぼちゃのティラミスはあるのかな?」


レアも身を乗り出して、会話に加わる。『星とバラの妖精』の少女たちにとって、お菓子はとっても重要な案件なのだ。


「かぼちゃのきんとんやかぼちゃのお汁粉はどうだろう?」


トルリがボソッと呟くと、セルクが反応する。


「かぼちゃのお汁粉はお菓子でしょうか?」


それをキッカケにお菓子論争が始まる。結局、食事以外の美味しい食べ物はお菓子ということで論争は収まった。


「カボチャは夏に採れる野菜ですよね。どうして、冬至に食べるのでしょう?」


パシファが疑問を口にすると、レアが説明してくれる。


「それは、よく分かっていません。冬まで保存すると追熟が進み、甘くなって食べ頃になる、栄養がたっぷり含まるようになるとか、風邪をひきにくくなるからとか、長生きできるからとか言われていますが」

「そうですか。美味しければ何の問題もないです」


美味しいは正義、それ以上は気にしないパシファである。しかし、トルリが質問する。


「追熟ってなあに?」


これにはヴェーヌが答える。


「果物を収穫した後で、成熟させることよ。収穫した緑のバナナは、時間が経つと黄色になって、黒い点が出来始めると甘さが増すでしょう? 他にモモやマンゴーも追熟させるわ。でも、イチゴやブドウは、追熟させないの、甘くならないで腐るから」

「わかったわ。果物によって使い分けるのね。これは重要事項だから、覚えておかないと」


カボチャの話題が落ち着いたところで、プレヤが提案する。


「9時になって、お菓子を売っている店が開店したら、買い物に行こう。その後は観光だね。レア、お勧めはストーンヘンジだったかな?」

「はい。ですが、ストーンヘンジに行くのにはB級冒険者のガイドが必要らしいのです」


「それは何故? ストーンヘンジは危ない場所にあるの?」

「そのようです。ガイドブックには詳しいことが書いてないのですけど」

「そう。じゃあ、冒険者ギルドに行って教えてもらおう」

「その方がいいです。行きたいな~、 ストーンヘンジ」


お菓子を売っている店が開店すると、『星とバラの妖精』たちはカボチャのお菓子を大量に買い込んだ。テンブリ王国での買い物のほとんどはお菓子だろう。そして、冒険者ギルドへ向かう。



エリーゼは護衛女騎士のジュリアと一緒に冒険者ギルドにいる。


「サーシャ王女殿下にも困ったものです」


エリーゼがあきれ顔でこぼすと、ジュリアも同意する。


「全くです。いくらお祭りのコンサートが観たいからと、王宮を抜けだそうとして捕まるなんて。エリーゼ様と同じ12才とは思えません」

「それに、私と一緒にストーンヘンジに行きたいなんて、自分の立場が分かっていないです」


今朝、エリーゼは王宮に行き、王女陛下に帰国の報告をした。修行の旅の話に目を輝かせて、耳を傾けてくれたまでは良かった。王女殿下は、ほとんど王宮の外へ出してもらえないから、少しでも楽しんでもらいたかったから。


しかし、その後の王女殿下からの話に驚くやら呆れるやら。自分の立場を自覚して欲しい。12才という年齢は好奇心が強い盛りなのだろうから、何か対策をする必要があるかもしれない。そんなことを考えながら、冒険者ギルドにいるのは理由がある。


ストーンヘンジへのガイドをしてくれるB級冒険者がいないのだ。B級冒険者どころか、冒険者が1人もいないのだ。E級やD級でも少しは戦力になるだろう、雑用ができるだろう、と全員ビートルの森に駆り出されたのだ。


「ジュリアは冒険者じゃないけど、ストーンヘンジへ案内できるわよね?」

「はい。しかし、2人だけでは危険です。小型魔獣でも数が多いと侮れません」

「そうなのね。誰か来るまで待つしかないわね」


カラーン カラーン カラーン カラーン カラーン 


そんな会話をしていると、ドアのチャイムが鳴り、9人の冒険者が建物に入って来た。


お読みいただきありがとうございます。

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