第4話 お祭りの夜
お祭り出演者の控室近くの転移陣を出ると、波の音が聞こえてくる。海の近くに会場はあるらしい。お祭り会場のコンサートホールは、5万人くらいは収容できる大きな建物だ。かなり盛大に行われるコンサートのようである。
控室に入ると、4組の女の子グループがすでに準備をしている。1グループ1曲の舞台だから、午後3時に開演、日没時間くらいに終了予定のようだ。他のグループの衣装は、ドレスやワンピース、民族衣装など様々だ。どのグループの衣装も華やかなデザインで、装飾品も輝いている。
『星とバラの妖精』の衣装は、ガリレの力作で、それぞれの髪の色と同じ色のドレスとバラの髪飾りである。髪飾りは曲名の『バラのお菓子の歌』に合わせての、バラの髪飾りである。靴はもちろんお揃いの赤い靴。他のグループに負けていない。
どのグループも本番前のダンスの確認などに忙しくしている。その中からドレスを着た4人組のグループが『星とバラの妖精』の方へやって来る。赤髪青目の少女が話しかけてくる。
「私たちは、このテンブリ王国代表の『トルビー』、私はリーダーのポーラですわ。テンブリ王国へようこそ。あなた方はどこの国の代表かしら?」
「丁寧な挨拶ありがとう。僕たちはソーミュスタ王国代表だよ。僕はリーダーのプレヤ、よろしく」
プレヤが答えると、笑顔で言われた。
「まあ、あの『赤いバラ』や『コラール』のいるソーミュスタ王国の代表ですか。期待しています。では、私たちの出番ですから、これで失礼しますわ」
緊張していた『星とバラの妖精』だったが、紳士的、いや、淑女的挨拶で少しリラックスすることができた。
4人組が舞台に上がると、凄い歓声が起こる。『トルビー』はこの国の人気グループらしい。歌は速いテンポの恋の歌。『トルビー』の舞台が終わると、大きな拍手と歓声が聞こえる。そして、次のグループが舞台に上がる。こちらも大歓声に迎えられる。30人の大人数グループで、ダンスが揃っていて上手い。
「みんな上手いわ。出番が最初なら良かったのに。あードキドキする」
レアが弱気なことを言うと、プレヤが諫める。
「みんな魔音盤を出しているグループだから、上手いのは当たり前だよ」
「そうよ、しかも各国代表だわ。でも、私たちも魔音盤を出しているし、国の代表だから、同じよ」
アニマも続くと、フェネがダメを押す。
「お祭り実行委員会が、私たちの出演順を最後にしたのは、私たちの実力を認めているからよ。一番上手いグループが最後に舞台に上がった方が盛り上がるでしょう?」
フェネの意見にメンバーは自信を取り戻す。それを感じたプレヤが声をかける。
「みんな、円陣を組むよ」
円陣を組んだメンバーは中心で手を重ねる。
「『星とバラの妖精』、ファイトー」
「「「「「「「おーーー」」」」」」」
声を揃えたところで、舞台の司会者が紹介する。
「みなさん、お待たせしました。次はソーミュスタ王国からのゲスト、『星とバラの妖精』です。曲は『バラのお菓子の歌』、盛大な拍手でお迎えください」
大歓声と嵐のような拍手の中、舞台上のスタートポジションでポーズを決める『星とバラの妖精』。フェネの横笛ソロから曲が始まる。きれいなバラのお菓子を見て、うっとりする令嬢、バラのお菓子を食べて笑みがこぼれる令嬢の様子を、歌とダンスで表現する。
ミュージカルの歌姫公爵令嬢の舞台であれば、この曲の前に3曲が演奏される。1曲目は『口笛吹きと犬』。令嬢が野原を元気よく散歩する場面の曲。2曲目は『野ばら』。令嬢が野ばらを見つける場面の曲。3曲目は『おもちゃの兵隊のマーチ』。バラのお菓子を作っている場面の曲。
今回の舞台では、与えられた時間の関係でこの3曲はカットしたのだ。曲が終わると大歓声と盛大な拍手が『星とバラの妖精』に送られる。それに彼女たちは、満面の笑顔で手を振りこたえる。大成功の舞台であった。
*
終了後、着替えた『星とバラの妖精』とイスリは海岸に来ている。急いだため少し息を切らせながらプレヤが言う。
「ふ~、なんとか間に合った。海に沈む夕日を見たかったんだ」
全員がコクコクする。『星とバラの妖精』のメンバーは全員、海のない土地で生まれ育っている。海に沈む夕日を見たことのある者は、ほとんどいない。みんなが、無言で夕日を眺めている。
夕日が海にかかる直前に、赤く輝くもう一つの太陽が海面に現れる。それがせり上がり、空の太陽とつながり「だるま」のように見える。思わずセルクが呟く。
「えっ、あれは何でしょう? 夕日が2つになりました」
レアがコホンと1つ咳払いをして、解説する。
「ガイドブックに書いてありました。蜃気楼の一種です。海の温かい水蒸気と冷たい大気との境目に夕日の光が反射して起こる現象です。でも、夕暮れの神秘ですよね。冬の間に数回しか見ることができないらしいです。見ることができて幸運でした。とても嬉しいです」
一行は、夕日が沈みきるまで海を眺めていた。すると、後ろの方からドーン、ドーンと音が聞こえてきた。振り返ると、夜空に花火が打ち上がっている。そして、
トランペットの音が響き、楽団の演奏する華麗で軽快な曲が流れてくる。『王宮の花火の音楽』だ。
「花火を見ながら、音楽を聴くのもいいわね」
フェネが言うと、全員がコクコクする。
「花火を見ながら聴きたい曲は何かしら?」
フェネの問いかけに、『組曲 惑星の第4曲 木星』、『冬の星座』などいろいろと曲名が上がる。夜空から星や星座の曲について、ワイワイガヤガヤ盛り上がる。そんな他愛もない会話をしていたら、アニマが面白いことを言い出した。
「『剣舞の歌』や『闘牛士の歌』は音楽魔法にすれば、身体能力を高めることができるわ。だったら、火魔法の威力を高める音楽魔法の曲があってもいいと思うのだけど。どうかな?」
「そうね。実験してみる価値はありそうね。例えば、『恋は魔術師』の中の『火祭りの踊り』とか」
フェネが意見を述べると、『火の鳥』や『Firebird』の曲名も上がり、赤いバラの屋敷に帰ってから試してみることになった。
しばらくして、空を見ていたレアが空を指さして、みんなに教える。
「冬の大三角形が現れました。狩人のオリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンの作る三角形の中にある星座を知っていますか?」
「いっかくじゅう座だよね?」
プレヤが答えると、レアがコクコクしながら話す。
「はい、季節的に一角獣座の中にあるクリスマスツリー星雲は注目されていますね。一角獣はユニコーンとも呼ばれます。ガイドブックでユニコーンに関する面白い話を見つけたのでお話したいのですけど、どうでしょうか?」
「面白そうね、聞かせてくれる?」
トルリが頼むとレアが話し出す。
「ユニコーンが狩人と大犬、子犬に守られている理由の話です。
昔、ユニコーンの角には、毒を中和するという価値の高い性質があるので、ユニコーンの角はとても高価で売買されていました。だから、ハンターは全員ユニコーンを捕らえようとします。でもユニコーンは、悪意を持って近づいてくる人間には、とても獰猛で捕らえることは難しいのです。そこで、そこでハンターたちはユニコーンの性質を利用しました。
その性質は、次のような性質です。ユニコーンは、子どもの女の子、少女が大好きなのです。だから、少女を見つけると、ユニコーンは近づいて女の子の膝の上で眠り込んでしまう性質です。
その性質を利用して、隠れていたハンターがユニコーンを捕らえるのです」
「ひどいわ。許せない、そんなひどいこと」
トルリが怒って呟く。ノアはコクコクして続ける。
「そんなことが繰り返されて、ユニコーンの数はどんどん減っていきました。それを悲しく思った神様が、ユニコーンを星座に変えて、狩人のオリオンと大犬と子犬に守らせたのです。だから、今地上にユニコーンはいないのです。これが、ガイドブックに書いてあったお話です」
ノアが話し終えると、全員が悲しそうな顔をして俯いてしまう。しかし、ヴェーヌが元気づける。
「ユニコーンは伝説の生き物よ。実際に生きていた生き物じゃないわ。単なるお話だから、本気で悲しまないで」
その言葉を聞いて、元気を取り戻す『星とバラの妖精』とイスリであった。
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参考
「口笛吹きと犬」 作曲 アーサー プライアー
「野ばら」 作曲 シューベルト
「おもちゃの兵隊のマーチ」 作曲 イエッセル
「王宮の花火の音楽」より序曲 ブーレ 歓喜 ヘンデル
「組曲 惑星」 作曲 ホルスト
「冬の星座」 文部省唱歌 作曲・作詞 ウィリアム・へイス
「火祭りの踊り」 『恋は魔術師』より 作曲・作詞 マヌエル・デ・ファリャ




