第4話 第五王女ノービレ
ソーミュスタ王国の王家には5人の王女がいる。第一王女、第二王女、第三王女は、すでに結婚して臣籍降下していて、未婚は第四王女と第五王女である。
王家には、王女でも剣や魔法を使って戦うべし、という家訓がある。国が出来た時から、王族は戦いの先頭に立って来たからである。だから、王女たちも幼い時から剣や魔法の厳しい訓練を重ねて来た。
第五王女のノービレもその1人であるが、彼女は剣や魔法と合唱が大好きである。魔法は火魔法と回復魔法が得意であり、剣も騎士と試合をしても負けないくらいの腕前である。
13才の時、王宮内の訓練だけでは物足りなくなり、学友でもあり、合唱仲間でもあるレジェラと相談して、修行のために狩りに出ることにした。王家では、王子や王女が狩りに出る事は、昔から行われていたのである。
専属護衛2人と行動を共にすること、変装の魔導具を使い、名前を変えることを条件に許可され、レジェラ、レジェラの専属護衛2人の合計6人で冒険者パーティ『コラール』を結成した。
また、6人で合唱の練習にも励み、その合唱の美しさは王都でも評判になるほどであり、音楽コンクールの上位入賞者の常連となった。
*
王宮の男性立ち入り禁止区域にある王妃陛下の居住区画の一部屋。部屋は広く、豪華な装飾である。室内には10人の侍女と5人の女性近衛兵が控えている。ソファに対面して座っているのは、王妃陛下と第五王女ノービレ。
ノービレは普段は冒険者としてバービレを名乗っているが、今日は本名である。ソファの間のローテーブルには山盛りのお菓子とお茶が置かれている。ノービレは王妃陛下に呼ばれてこの部屋にいる。王妃陛下が話を切り出す。
「ノービレ、久しぶりね。元気だったかしら?」
「はい。お母様もお元気な様子でなによりです」
「『神秘なる宇宙のスキャット』が大ヒットしているらしいわね」
「はい、美しい曲ですから。さすが、アイーダの作曲した曲です。スキャットですから、歌詞もなくて覚えやすい事もあるでしょう」
「あら、そうなの。アイーダとはすっかり仲良しなのね。それで、各地のお祭りの様子はどうかしら? 国民のみなさんの様子はどう?」
「いつもと変りなく、どの領地でも盛り上がっていますわ」
「それは良かった。国民の皆さんも幸せそうで」
「はい、皆さんニコニコされています。それで、今日は何の御用でしょうか?」
第五王女であるノービレが、バービレの名で冒険者活動をしている事は王妃陛下公認なのである。そして、冒険者パーティ『コラール』として、各領地を巡って国民の様子を調べて報告しているのだ。
「あなたの耳に入れておきたい事があってね。いろいろな場所を飛び回っているあなたには必要な情報よ」
「あら、その情報とは何でしょうか?」
「隣国のコチェ王国でワル辺境伯が反乱を越して大変だったのよ。その反乱は辺境伯が誘拐事件の黒幕であった事を知った辺境伯の弟が、王国側に寝返って治まったのだけど。反乱が制圧された後、ワル辺境伯の執務室を調べたら大変な事が分かったのよ」
ここで王妃陛下は紅茶を口にする。そして、ノービレの目を見て再び話し出す。
「ワル辺境伯は海の向こうの大陸にある国と密約を結んでいたの。その国がこの大陸に侵略して来た時に、味方して戦うという密約をね」
「えっ、侵略、戦争が起こるのですか」
「そうなの。ワル辺境伯が逮捕されたことで、その時期が早くなるかもしれないわ。戦争になると死者や怪我人がたくさん出るし、心を病む人も出るのよ」
「怪我人は回復魔法で治癒できるけど、心の病は治癒できませんから」
「そうなのよ。なにかいい治療法はないものかしら」
ノービレは少し考えた後、それを口にする。
「お母様、ひょっとすると、私の回復魔法とアイーダの音楽魔法を組み合わせれば何とかなるかもしれません」
「う~ん、そうね、難しいだろうけど可能性はあるわ。頑張ってみて」
「はい」とだけ答えたノービレが下を向いてモジモジしている。それを見た王妃陛下が不思議そうに尋ねる。
「ノービレ、何か言いたいことがあるのかしら」
「わ、私はアースの第二夫人になります」
「王女が第二夫人なんて、ありえないけど、第一夫人がムジカ家長女のアイーダならありね。それで、アースや第一夫人のアイーダは同意したの」
その問いにノービレが顔を真っ赤にして答える。
「はい、寝室デビューもすでに終わりました」
「まあ、大丈夫だったの。無事に朝まで寝室にいたの」
「はい、アイーダも一緒でしたから」
それを聞いた王妃陛下はにっこりとする。
「あらあら、それはおめでとう。いつの間にかあなたも大人の女になっていたのね。それにしても、あなたがアイーダと、そんなに仲が良かったなんて知らなかったわ」
「アイーダとは年齢も同じですし、身長も体形も同じですから。最近はお風呂も2人で一緒に入って、お互いの身体を洗いあっているのです」
「それは羨ましいわ。夫人同士の仲が良いってとても大切だからね。他の夫人とはうまくやっていけそうかしら?」
その問いかけにノービレは少し考えてから答える。
「第三夫人予定者はラフスン侯爵家次女のレジェラです。レジェラは小さい頃からの学友ですから気のおけない仲ですの。レジェラの寝室デビューも、すぐですから、正式な第三夫人も同様です」
「レジェラは冒険者パーティでも一緒だったわね。それなら上手にやっていけるでしょう。残りの2人は決まっているのかしら?」
「はい、まだ子どもですけど、すでにお屋敷で暮らしていて婚約済みです。1人はムジカ家のフェネ、もう1人はプラネート伯爵家3女のプレヤです。この2人とは魔獣討伐や歌の練習で仲良くなっています」
「そう、もう何の心配もないわ。それにしても5人の夫人が全員決まっているなんてとっても速いわ。さすがアースね。ああ、アースとはどうやって知り合ったのかしら」
その問いに、恥ずかしそうにしながらもノービレが答える。
「今から3年くらい前だったと思います。王都の北の森で『コラール』のみんなと狩りをしていた時、ゴリラ型魔獣に襲われました。今なら討伐できるのですけど、当時は必死に逃げるしかできませんでした。その時アースが現れてゴリラ型魔獣を剣で、それもたったの一振りで煙に変えてしまったのですわ」
「それは一目惚れするわね」
「そうなのです」
思わず熱を込めて同意したノービレは、語り続ける。
「私もレジェラも一目惚れしました。見事な剣さばき、整った顔立ち、気品のある立ち振る舞い、それを見た女の子は100人中100人が夢中になるでしょう。でも私は王女です。結婚相手は高位の貴族に限られます」
「まあ、ちゃんと王族の義務を忘れなかったのね。偉いわ」
「とても辛かったです。その時はアースがステラ家次期当主だなんて思わなかったのです。平民か下位貴族だと思っていましたから、諦めたのです。
それなのにステラ家次期当主だと分かった時には、すでにアイーダと婚約していて、同じ屋敷に住んでいたのです」
「それは仕方のないことよ。それで、アイーダと仲良くなれた理由は?」
「海の屋敷や各地のお祭り、魔獣討伐で一緒になって、自然と仲良くなりました。特に私は歌うのが大好き、アイーダは横笛が大好き、2人とも音楽が大好きなのが大きかったです。寝室デビューもアイーダの協力でうまくいったのです」
「結果オーライね。夫人同士でうまくやれそうで良かったわ。それで、何か欲しい物はあるかしら」
その王妃陛下の言葉にノービレは思い切って願い事を口にする。
「お母様、ヴィーヴロとリエーロを連れて行っていいでしょうか」
「もちろん、いいわよ。あの2人はあなた専属の護衛兼メイドですから。そうそう結婚相手がステラ家の次期当主だから、王家からの持参金も金貨だけでは足りないわ。何か希望はあるかしら」
ノービレは考え込んでいたが、何がいいか決めきれなかったらしい。
「少し時間をください。アイーダたちと相談してみます」
「そうね、ゆっくり考えてね。決まったら教えて」
「はい、では早速相談したいので今日はこれで失礼します」
ノービレが退出した後、すぐに第四王女のルリーが入室してきた。ルリーはピンク髪で赤い目の可愛らしい顔立ちの、庇護欲を刺激する女の子だ。ルリーは王妃陛下の前に立ち、上目使いで言う。
「お母様、お願いがあります。今進んでいる西の侯爵様との婚約話を止めて、アース様との婚約をしたいのですわ」
「それは無理よ。たった今、ノービレからアースとの結婚が決まったと報告があったわ。それに西の侯爵との結婚は以前から決まっていたことよ」
「いやー、そんなのいやー」
耳に両手を当てて、大声で叫ぶルリー。それを見て、首を横に振り、王妃陛下が苦い顔をして言う。
「あなたがそう言うのを予想していたから、呼んでいた人たちがいるの。さあ、みんな入っていらっしゃい」
部屋の奥の扉から3人の若い女性が入って来る。3人とも笑顔だが、冷たい視線がルリーを貫く。
「ヒィ―、お姉様方、ど、どうしてここに」
「あなたが良からぬ事を考えている事が、耳に入ったから私が呼んだのよ」
王妃陛下の言葉に続いて、元第一王女ララが口を開く。
「ルリー、あなたは王家の娘としての心構えができていないようね。私たちの指導が不十分だったかしら。我が王家の紋章は剣。剣の鍛錬を通じて精神修行をするのだけど、剣の鍛錬がまだまだのようね。その歪んだ精神を鍛え直してあげるわ。覚悟しなさい」
ルリーの顔色がますます青ざめるが、元第二王女リラが続ける。
「私たち4人が東西南北の侯爵様に嫁ぐことで、国内の安定を図る。ノービレは誰かに何かがあった時の予備。それはあなたも了承していたはずよ」
ルリーの顔色はもはやまっ青を通り越して、真っ白だ。元第三王女が締めくくる。
「さあ、剣の鍛錬場にいきましょうか、ルリー」
ルリーは元第二王女リラと元第三王女ルルに右手と左手を掴まれ引きずられて行った。
2時間後、身体が土まみれで、あちこちに青あざのできたルリーが、王妃陛下の前にやって来た。
「お母様、私が悪うございました。どうか、西の侯爵様との婚約話を進めてくださいまし」
「分かればいいのよ、ルリー。今日はもう下がって傷の手当をしなさい。」
ルリーが退出すると、王妃陛下が呟いた。
「これで残りは第三王子だけね。」
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