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第2話 船の旅

 マクデン王国の北の港町、ペコンの転移陣に『星とバラの妖精』の8人とイスリが現れる。全員赤のコート姿だ。コートの左胸には緑色の星、右胸には青色のバラの刺繍がある。コートを選ぶのに3時間かかり、刺繍は別料金を支払って入れてもらったのだ。


「テンブリ王国の王都リンデン行きの転移陣はどこかしら?」


ヴェーヌの呟きにプレヤが異を唱える。


「船に乗っても30分しかかからないから、船で行こうよ。僕は、海で船に乗ったことがないんだ。だから、船に乗りたい」

「今日の海は波が高いから、船は揺れるわよ。大丈夫かしら」


ヴェーヌの視線の先には、白波が立つ冬の海がある。すると、フェネが口を開く。


「大丈夫よ。私とアニマの3人でテンブリ王国の音楽を調べたの。その中に楽団が船の上で演奏するための曲があったから、それを音楽魔法に使えば船は揺れないはずよ」

「そう、じゃあ船に乗りましょう」


一行が乗った船は300人乗りの船で、箱馬車も積み込める船。港から出航すると大きく揺れたが、フェネが横笛を、アニマがヴァイオリンを準備して詠唱する。


「「音楽魔法 水上の音楽 第2組曲」」


演奏が始まると、曲に宥められたかのように船の周囲の波が無くなり、海面が鏡のようになった。船縁から海中を覗き込んだトルリが大声で叫んだ。


「海の中をチョウチョウが飛んでいる~~~」


みんなが驚いて海中を覗き込むが、レアが呆れたように言う。


「トルリ、あれはチョウチョウではありません。チョウチョウにはあんなに長い尾はありません。あれはエイという魚です」

「そうなの、初めて見たわ。チョウチョウは海の中にもいるのかと思ったわ」

「シッポのトゲで刺して毒を出すエイもいるから、気を付けるのよ」

「えっ、怖い。そんな怖い魚もいるのね。私は海の魚のことをあまり知らないの。もっといろいろな魚を見たいわ」


それを聞いたフェネが携帯魔法でピアノを出してトルリに話しかける。


「ねえトルリ、あの曲を演奏すればたくさんの種類の魚が集まって来るかもしれないわ。演奏してみない?」

「わかった。やってみるわ」


フェネとアニマ、トルリが詠唱する。


「「「音楽魔法 水族館」」」


曲の演奏が始まると、船の周囲にたくさんの魚が集まってきた。演奏が終わってもタイやヒラメ、マグロ、タコ、イカたくさんの種類の魚がまだ泳ぎ回っている。その中の1つを指さしてトルリが叫ぶ。


「わあ、あの魚は剣みたいに細長いわ。名前はなあに?」

「あれはサンマね。秋に焼いて食べると美味しいらしいわ」


本好きで物知りのレアが教える。


「向こうから凄く大きい魚が来たわ。あれは?」

「ジンベエザメかしら。あの魚は水族館のスターだけど、寒い海のはいないはずだけど?」


その時、アニマが遠くを指さして、大声を上げる。


「あっ、向こうで大きくて黒いのが噴水を上げたわ」

「あれはクジラよ。あれ? その向こうに見える船はドクロの旗を上げているわ、あれは海賊船! クジラは危険を教えてくれたのね」


レアは船員に駆け寄り、海賊船を発見したことを告げる。すると、船員は慌てて船内に駆け込んで行く。すぐに高級船員が出てきて、海賊船を確認すると、甲板に出ている客たちに叫んだ。


「みなさん、危険ですから船内に避難してください。なお、火魔法が使えるお客様は海賊船の迎撃に協力をお願いします」


その呼びかけに、火魔法が使えるヴェーヌとプレヤは自分の出番と目を輝かせる。しかし、イスリが前に出て来る。


「護衛である私が海賊船を沈めます。みなさんは船内に避難してください」

「え~~~、僕が沈めた~~~い」


プレヤが抵抗する。一方、ヴェーヌは冷静に言う。


「フェネの結界に入っていた方が、船内よりも安全ですよ。それに、もしもの時に、みんなをペガススに乗せて空に飛ぶのにも、ここにいた方が速いです」

「たしかに、そうですね。では結界に入っておとなしく見ていてください」


最近ではフェネの結界の強度も上がり、防御する範囲も広がっている。そして、ヴェーヌとプレヤの星魔法ペガススも20人を乗せて、2時間飛べるほどパワーアップしているのだ。


「エリーゼ様、お待ちください。外に出たら危ないです」

「イヤよ。海賊退治は私がやるのよ、私の役目だから。ジュリアこそ馬車の中でおとなしくしていなさい」


後ろから聞こえた声に振り返ると、高級ドレスを着た金髪青目の貴族令嬢と青髪緑目の騎士服を着た女性騎士が箱馬車からこちらへ歩いてくるのが目に入った。貴族令嬢が船縁に着くと、海賊船が火魔法の火球が1発放たれた。


その火球は、こちらの船に全く届かずに海に落下した。しかも、船のかなり後方に。それを見た貴族令嬢が笑う。


「あの海賊は、火魔法の使い方を知らないようですわ。私が見本を見せてさしまげますわ」


そう言うと、杖を手にした貴族令嬢は火球を1発放った。しかし、火球は途中で右へ大きく曲がり、海賊船までの半分までの距離、300mほどで海に落下する。ヴェーヌがイスリにアドバイスする。


「海面に白波がたつほど、風が強いですから狙って当てるのは難しいようです。また、海上では距離感が掴めないですから、海上魔法戦の経験豊富な海賊が有利です。無駄玉を撃って魔力切れにならないようしないと」


1発目を大きく外した貴族令嬢は、頭に血が上ったのか、火球を連発する。しかし、すべての火球は海賊船まで届かない。方向も全然違う方に飛んでいく。他の魔法使いたちの火球も同じ結果だ。そして、貴族令嬢は魔力切れで倒れたようだ。

護衛の女性騎士が箱馬車に運んで行く。


それに対して、海賊船からは最初の1発だけで火球は放たれず、こちらに近づいてくるだけだ。ヴェーヌが呟く。


「敵は戦い慣れているようね。このままではマズイわ」


それを聞いたイスリがニッコリ笑って詠唱する。


「風魔法 トルネード」


船から200mほど先に竜巻が生じて、海賊船に真っ直ぐ進んで行く。そして、海賊船に当たると海賊船は横倒しになり、沈んでいく。風などものともせず直進する突進力、船を横倒しにする威力に『星とバラの妖精』や船の魔法使いたちは驚くばかりであった。


それを見届けたヴァーヌが近くにいた船員に尋ねる。


「海賊船はよく襲ってくるのですか?」

「これまで、この海域に海賊船が現れることはありませんでした。でも、今年はオーロラが頻繁に出現している関係なのか、ここより北の方の海でクジラ型魔獣が大量に発生しているようです。ひょっとしたら、クジラ型魔物が現れたのかもしれません。ですから、北の方の海を縄張りとしている海賊船がこちらへ来ているようです」


「クジラ型魔獣は強いのですか?」

「はい、クジラ型魔獣は海中から船の底に体当たりして、船を沈めてしまうのです」


「もう1つ教えてください。オーロラって何ですか?」

「毎夜現れるわけではありませんが、夜空に現れる揺らめく光のカーテンです。色は赤や青、緑など様々でとてもきれいです」

「ありがとうございます。それは一度見てみたいですね」


それを聞いていたアニマが声を上げる。


「わぁー、私、オーロラを見た~~~い」


他の者もコクコクしている。ヴェーヌが言う。


「次の機会にオーロラを見に行きましょう」



 船はテンブリ王国の港カワプールに到着した。テンブリ王国の玄関口らしく、屋台も多く出ていて、栄えているようだ。船から降りた一行は話し合いをする。


「指定されたヒルホテルまでは歩いても10分らしいから、馬車に乗らないで歩いて行こう」


プレヤの提案に全員コクコクして賛成する。しかし、ヴェーヌが質問する。


「ヒルホテルまでの道順は知っているの?」

「知らないけど、誰かに訊けば大丈夫だよ」


不安はあるが、とりあえず近くにあった屋台で道を尋ねる。


「ヒルホテルに行きたいのです。道を教えて欲しいのですけど」

「ああ、この街一番のいいホテルだね。このペニー通りを5分ほど歩くと、イチゴ園という孤児院があるから、その先の交差点を右に曲がると左手にみえるよ」

「ありがとうございます。あっ、そのイカ焼き串1本ください」

「あいよ、銅貨5枚だよ」


もちろん他の8人も1本ずつ買って、モグモグ食べてから歩き始める。キョロキョロしながら歩いて、交差点着くと楽器店があった。当然のように店に入っていく9人。


「ねえねえ、この鐘に棒が付いているのは楽器なの?」


管楽器でも弦楽器でもなさそうなものに、興味を持ったトルリが尋ねるが、誰も知らないらしく首を傾げるばかりだ。そこに店員が来て説明をしてくれる。


「お客様、この国の伝統楽器でハンドベルという楽器です。ハンドベル1つで1つの音しか出せませんから、みんなで合奏する楽器です」


それを聞いたトルリが、店員に断ってハンドベルを軽く振ると、澄んだ音が店内に響いた。


「きれいな音ね。この音を使って曲が作れそう。ちょうど8人いるから、1人で1音担当すれば1オクターブだわ。違う音の高さのハンドベルを8個買いましょう」


フェネがそう言うと、みんなが賛成する。その後無事にヒルホテルに到着した一行は、一休みした後で外に出ようとしたが、暗くなっていたので大人しく休むのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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