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第12話 ピーコックの森②

「ひょっとして、この村は音楽魔法一族の打楽部族の村で、サムシさんは部族長ではありませんか? もし、そうならばサムシさんが、トルリの家族と同じ場所で暮らせる可能性があります」


それを聞いたサムシは大きく目を開いた。そして、ランと顔を見合わせる。そして、2人で頷きあってから口を開く。


「どうして、それが分かるのですか?」

「やはりそうでしたか。アルタイルの森の聖なる響きの館で、トルリが打楽部族の巫女と認定されたのです。そして、そこに座っているアニマは弦楽部族の巫女、私は管楽部族の巫女でもあり、音楽魔法一族の巫女なのです」


アイーダの言葉にサムシとランはまるで石化したように微動さえしない。よほど大きな衝撃だったのだろう。たっぷり3分ほど経ってからサムシが語り始める。


「この村は打楽部族の村で、打楽部族は音楽魔法一族の分家、そのような言い伝えはあるのじゃ。確かに村のものはあらゆる打楽器の演奏も上手く、品質の高い太鼓やモッキンなどを作ることができる。


バチは両手で持つから、剣を両手に持つ88流という独自の剣術も使う。しかも、打楽部族の神殿と言われる神殿まである。でも、その神殿の扉は開かず、誰も中に入った者はいないのじゃ。


だから、打楽部族は言い伝えにすぎないと考えておったのじゃ。まさか打楽部族の言い伝えが本当だったとはのう」


ダメ押しとばかりに、アイーダがトルリに指示する。


「トルリ、銀のバチを見せてあげて」


トルリは腰に差していた袋から銀色のバチを取り出してサムシとランに見せて言う。


「このバチはお母さんにもらったバチなの。聖なる響きの館で奉納演奏をしたら銀色になったのよ」


サムシとランは驚くことばかりで、もう固まることもないようだ。銀色のバチをしげしげと見つめている。アイーダがサムシに頼む。


「扉の開かない神殿に案内してもらえませんか? ひょっとしたら、扉を開けることができるかもしれません」

「いいじゃろう。神殿はすぐそこじゃ」


サムシとランに案内されて、アースとアイーダたちは村の神殿の前に立つ。


「この扉を開けるキーワードは、扉の上の板に書いてある問題を解けばわかるのじゃが、いままで誰も解けなかったのじゃ」


そう言って、サムシが指さす方を見ると、問題が目に入った。


「この扉を開くためのキーワードは下の文の〇〇〇である。

この世に88しかないのは〇〇〇」


その瞬間、アイーダとフェネ、アニマ、パシファ、トルリは首を捻って考えるが、アースとヴェーヌはニッコリと微笑み、プレヤ、セルク、レアは目をパチクリさせる。すぐにプレヤが口を開く。


「僕たち星魔法一族には簡単な問題だよ。さあ、みんなで一緒に答えよう」


ヴェーヌ、プレヤ、セルク、レアが口を揃えて答える。


「「「「セイザ」」」」


セイザ、星座は全天で88しかないのである。星魔法一族なら誰でも知っている常識だ。そして扉がゆっくりと開く。アイーダとフェネがお互いを見て、頷きあってから子神殿の中に入り、詠唱する。


「黄金のクラーフル アウト」

「シルバーコローフル アウト」


2人は横笛を口に当てる。そして、


「「奉納演奏 幻想即興曲」」


2人で声を揃えて曲名を口にしてから、ピアノの音色で演奏を始める。ダーンとやや低音が鳴り響く。速いテンポで曲が流れる。横笛の美しい二重奏が終わると、神殿内が明るくなり、上から男性の声がした。


「おはようございます。私はこの神殿の警備の兵衛佐です。本家の巫女様方、ありがとうございます。おかげさまで長い間の眠りから目覚めることができました。早速ですが、打楽部族の巫女様、統制補助の小納言の覚醒をお願いします」


その言葉にアイーダとフェネが入口付近まで下がる。すると神殿の中央部に虹色に輝く円陣が現れる。その円陣の中にトルリは進み、フェネに頼んだ。


「フェネ、携帯魔法でピアノを出して」


フェネがトルリの横に鍵盤数88のピアノを出す。トルリはピアノの前に座り、曲名を告げる。


「奉納演奏 華麗なる大円舞曲」


ターンタタターン タタタン タタタン 3拍子の演奏が始まる。曲名通り華麗で優雅なワルツだ。演奏が終わると上から女性の声がした。


「おはようございます。私はこの神殿の統制補助の小納言です。巫女様方、ありがとうございます。おかげさまで長い間の眠りから目覚めることができました。本家の神殿との連絡も復旧いたしました。音楽魔法のための曲を知りたいとの伝言を受け取っていますが、間違いないでしょうか」

「はい。是非お願いします」

「承知しました。『行進曲 雷神』」


神殿の奥の空中に多くの打楽器が現れ、スポットライトが当たる。上からの管楽器の演奏に合わせて、打楽器からも音が鳴り響く。トルリとアイーダ、フェネ、アニマも集中して聴いている。やがて演奏が終わると、トルリとフェネが顔を見合わせてコクコクした。どうやら会得できたようだ。トルリが尋ねた。


「この曲はどのような音楽魔法でしょうか?」


小納言が答える。


「打楽部族は音楽魔法一族の剣でもあり、盾でもあるのです。ですから、音楽魔法一族が敵から襲われた時に使う音楽魔法です。お聴きになった通り、管楽器との合奏です。ですから、本家である管楽部族の巫女様との合奏になります。


小太鼓を叩けば、叩いた数だけの雷撃を敵に与えます。威力は人間であれば気絶させる程度、弱い魔獣や魔物であれば煙に変える程度です。

シンバルを鳴らせば、鳴らした数だけの雷撃を敵に与えます。威力は人間であれ、強い魔獣や魔物であれ、その存在を跡形もなく消します。ただし、必要な魔力量も大きくなりますから、魔力切れに注意する必要があります」


「わかったわ。ありがとう」


トルリが感謝すると、次にフェネが少納言に尋ねる。


「奉納演奏はどれくらいの頻度で行えばいいのかしら?」

「月に一度で十分です。打楽部族の巫女様が場合、演奏する楽器はピアノや小太鼓、和太鼓などの打楽器でお願いします。本家や弦楽部族の巫女様の場合は横笛やヴァイオリンでお願いします」


「じゃあ、ピアノはここに置いたままでいいかしら?」

「はい、大きい和太鼓や大太鼓もここに置いたままでかまいません」


フェネがサムシの方を向く。いつの間にか神殿の外に集まっていた村人たちに、サムシが呼びかける。


「皆の者、村で一番良い和太鼓と小太鼓をこの神殿に運んでくるのじゃ」


「「「おー」」」


村人たちは一斉に走り出した。サムシはアースやアイーダたちに感謝する。


「礼を言うのじゃ。神殿が開いただけではなく、この村が打楽部族の村であることもはっきりしたからのう。もう感無量ですのじゃ」


アイーダが代表して答える。


「私は本家の巫女です。当然のことをしただけです。それよりアルタイルの森に引っ越しませんか? 弦楽部族もコチェ王国のアンカアの森から引っ越してきました。アンカアの森の工房や牧場とは2地点間転移陣で行き来しています」


「ふむ、儂たちが行ってお役に立てるかのう?」

「アルタイルの森の隣の土地の『星の輝く赤いバラとコラールの里』は人手不足なのです。打楽部族のみなさんが来て頂き、打楽器やピアノ教室の先生や警備隊職員として、働いてもらえば大変助かります。特にピアノは受講希望者が多くて、先生の数が全く足りず困っているのです」


アイーダの言葉に考え込むサムシ。そこでアイーダは続ける。


「神殿の少納言も言っていたではないですか。『打楽部族は音楽魔法一族の剣でもあり、盾でもある』と。もし、打楽部族がアルタイルの森にいたら、300年前の悲劇は起こらなかったはずです」


その言葉にサムシは頷き、答える。


「わかったのじゃ。でも一度アルタイルの森に行ってみたい。若い者も見てみたいじゃろ。ランと若い者の男女1名ずつに行ってもらおうかのう」

「サムシさんは行かれないのですか?」

「儂はこの杖が無ければ歩けんからのう。足手まといになるだけじゃ」


「大丈夫です。弦楽部族のアニマの転移魔法で移動すればいいのです」

「転移魔法?!」


打楽部族の者たちが驚くが、アイーダは続ける。


「フェネ、あなたは、先に帰ってお父様とお母様にこの村のことを伝えて」

「はい、お姉様。打楽部族のみなさんをお迎えする準備もしておきます」


返事をしたフェネは、携帯魔法でアニマのヴァイオリンを取り出す。それを受け取ったアニマは、フェネの横に並んで詠唱する。


「音楽魔法 Fly Me To Another Land」


2人の姿が消えるが、アニマだけがすぐに姿を現す。


「フェネを村の入口の転移陣まで送ってきました」


アニマがそう言うと、サムシとランは目を丸くする。驚きから立ち直ったサムシがアイーダに提案する。


「1時間待ってくれませんかな。儂もランも一緒に連れて行く若者も。準備が必要ですから」

「わかりました。では、その間村を見学させてください」

「うむ、ではタイ、客人を案内してくれ」


サムシは近くにいた若い女性に指示を出した。その女性に案内してもらって村を見て回る。牧場には牛、馬、豚が飼われていた。太鼓の皮にするらしい。近くの林には、バチの材料にするブナ、ヒバが、胴の材料のカシ、ヒノキ、ケヤキが育っていた。転移陣を設置するための場所も確認できた。


やがて、1時間が経ち、村の入口に転移。アニマの保有魔力量も増えて、短距離なら20人ほどは一緒に転移できるようになっていたので、1回の転移で完了だ。そこから、赤いバラの屋敷へ転移、アルタイルの森へは打楽部族の4人とアイーダ、アニマ、トルリが転移した。


打楽部族の4人は、アルタイルの森で音楽魔法一族族長夫妻との面会後、聖なる響きの館や引っ越し予定地を見学した。次に『星の輝く赤いバラとコラールの里』のアルタイルホールや楽器のレッスン用の建物を見学して帰った。


打楽部族の若い男女は移住に大賛成であり、サムシとランも、娘夫婦や孫と同じ土地に住めるなら仕方ないと、しぶしぶ移住に前向きの様子であった。



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「幻想即興曲」 作曲 ショパン

「華麗なる大円舞曲」 作曲 ショパン

「行進曲 雷神」 作曲 ジョン・フィリップ・スーザ


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