第11話 ピーコックの森①
ピーコックの森の転移陣を出ると、そこは街道横のキャンプ地だった。旅人や商隊が休憩や宿泊するための土地だ。そこに荷馬車3台くらいは転移できそうな転移陣が設置してあった。辺りを見渡すと、街道沿いの少し離れた場所に小屋がある。そして、その横から森の中へと続く道が伸びている。
その小屋に行き、アースがドアをノックすると、腰に2本の剣を帯びた、屈強そうな若い男が出て来た。
「ここはピーコックの森への入口の関所ですが、何か用ですか?」
どうやらピーコックの森に行くには、ここで許可をもらう必要があるらしい。そう思ったアースは尋ねてみる。
「ピーコックの森に行きたいのですが、この横の道を行けばいいのですか?」
「そうですが、ちょっと待ってください。お客さんですよ~」
若い男が小屋の中に声をかけると、返事があった。
「お客さんとは珍しいな。今行く」
出て来たのはがっしりした体格の壮年の男、この男も腰に2本の剣を帯びている。その男が尋ねて来る。
「ピーコックの森にどのような御用ですかな?」
「この女の子の行方不明になっている両親が、ピーコックの森と縁があるらしくて、それを確かめたいのです」
そして、アースはトルリに視線を向ける。壮年の男はトルリを見て、腰の2本の剣に目を止める。そして、トルリに問う。
「お嬢さん、あなたの剣の流派の名は何という?」
「88流剣術です。お父さんとお母さんに習いました」
トルリの返答を聞いた壮年の男は、頷きながら言う。
「ふむ、88流剣術の名を知っているとは、確かにピーコックの森と縁があるようだな。しかし、2つの問題に正解できなければ、ここを通すことはできない。これは昔からの決まりなのだ。よろしいか?」
「わかりました。問題を出してください」
アースとしては、応じるしかない。事を荒立てたくないからだ。そして、たいていの問題なら正解できる自信がある。
「では最初の問題だ。8に関係する歌を歌うのだ」
アースは壮年の男から出された問題に意表を突かれた。てっきりクイズのような頭を使う問題だと思っていたからだ。しかし、よく考えれば予想できることだった。理由はピーコックの森に住むのは音楽魔法一族の可能性がとても高いからだ。
アースは困った。歌は得意ではないからだ。その窮地を救ったのはアニマであった。
「私が歌っていいですか?」
「ふむ、いいぞ」
壮年の男が承諾するとアニマは『ぶんぶんぶん』を歌い出した。8いや蜂の歌だ。これでいいのか? と思っていたら、歌い終わったアニマを壮年の男が誉めた。
「正解だ。よくわかったな」
「だって、バチが2本でバチバチ、88流剣術ならこれでもいいかな? と思ったのです」
「ふむ、88流剣術の名の由来まで知っていたか。あっぱれじゃ。しかし、次の問題は難しいぞ。よいか、88に関係する歌を歌うのだ」
これを聞いて、すぐにパシファが手を上げた。
「私が歌います」
そしてパシファは歌い出す。
♪なつもちーかづく八十八や のにもやーまにも わーかばがしげるー
『茶摘み』の曲だ。八十八、88が歌詞に含まれている。さすがはパシファである。お茶のことは詳しい。倭国の抹茶の研究もしていたから、倭国のお茶に関する歌を知っていても驚くことはない。壮年の男が目を見開いて言う。
「あっぱれ、あっぱれ、今まで誰も正解できなかった問題によくぞ正解した。通ってもいいぞ。この道を20分ほど歩けば、我が部族の村だ」
部族の村への道を歩きながら、アースがアイーダに尋ねた。
「なあ、音楽魔法一族は鳥が好きなのか?
「えっ、そんなことは無いですよ。何故そう思うのですか?」
「アルタイルはわし座で一番明るい星だ。アンカアはほうおう座で一番明るい星、ピーコックはくじゃく座で一番明るい星だ。3つとも鳥の名を持つ星座の星だ。しかも、族長の住むアルタイルは1等星で、アンカアとピーコックは2等星。なにか意図的なものを感じる」
それを聞いたアイーダは一瞬ポカーンとしたが、すぐに答えた。
「それは知りませんでした。こんど聖なる響きの館の大納言に尋ねてみます」
その時、後ろから、ドーン ドン と大きな太鼓の音が聞こえた。そして、2分くらいすると太鼓の音は聞こえなくなった。
「今の太鼓の音は何だったんだろう?」
プレヤの問にトルリが答える。
「太鼓信号ね。私たちが村へ向かっていると連絡しているわ」
「えっ、そんなことが可能なの?」
「たとえば、『タ』はドーン ドン、『イ』はドン ドーン、『コ』 ドーン ドーン ドーン ドーン って約束しておけば、これを続けて、ドーン ドン ドン ドーン ドーン ドーン ドーン ドーン はタイコ、太鼓になるでしょう?」
「なるほど、便利だ。でも覚えるのが大変だね」
「うん、大変だった。でも1回覚えれば、いろいろ便利だよ。他の人に意味が分からないように話ができるし」
そんな会話をしながら歩いていると、村の入口らしき場所が見えてきた。10代後半の若者が待っている。近くに行くと彼が尋ねた。
「ピーコックの森にどのような御用ですか?」
トルリが前に出て答える。
「私の行方不明の両親がこの森の出身らしくて、それを確かめに来ました」
「両親の名前と特徴を教えてくれ」
「お父さんの名前はタイ、青髪青目です。お母さんの名前はライア、銀髪黒目です」
若者は手を顎に当てて考えていたが、首を横に振り言った。
「俺には心当たりがない。部族長なら知っているかもしれない。ついて来てくれ」
若者に案内されて、村の中へと進む。村の家は、農民や狩人ではなく武人の家のような造りだ。その中でも一番大きな家の敷地へ入ると、若者は扉を叩いた。
「部族長いますかー。客人です。尋ねたいことがあるそうです」
少し待っていると扉が開き、銀髪黒目の老婦人が出て来た。そして、トルリの顔を見ると大きく目を見開いた。次に目から涙が溢れ出し、トルリに近づくと抱きしめた。
「ライア、ライア、やっと帰って来てくれたんだね」
トルリは、しばらく固まっていたが、困った顔をして言った。
「私はライアじゃありません、トルリです。ライアは私のお母さんです」
それを聞いた老婦人は、少し離れて涙を拭き、トルリの顔をまじまじと見る。
「本当だね。ライアと同じ銀髪黒目だけど、少し顔が違うね。ライアの娘ということは私の孫なのかい?」
「えっ、私のお祖母ちゃんですか?」
「そうなるね。ライアは一緒じゃないのかね?」
「はい、お父さんとお母さんは行方不明です」
老婦人はガックリと肩を落とす。しかし、気丈夫にも家の中へ誘ってくれる。
「さあ、家の中へ入って、詳しい話を聞かせておくれ。他の皆さんも一緒にどうぞ」
案内された部屋は会議室らしい部屋だ。客が10人もいるのだ、仕方がない。老婦人はすぐに部屋を出て行ったが、しばらくすると、杖をついて歩く老人とワゴンにお茶セットを乗せた若い女性を伴って帰って来た。
杖をついた老人は、部屋に入るなりトルリに近づき、じっくりとトルリを見る。
「確かにライアにそっくりだ。ライアの娘に間違いない。私たちの孫だ」
「あの~、私のお祖父ちゃんですか?」
「そうだ。会えて嬉しいぞ。おっと、他にもお客様がいらっしゃったの」
そう言って、老人は、アースたちの対面に立って挨拶をする。
「みなさん、ピーコックの森にようこそ。儂はこの村の長の62代サムシ、こちらが第一夫人のランじゃ」
アースも挨拶をして、アイーダも挨拶をする。『星とバラの妖精』はプレヤが代表で挨拶をした。挨拶が終わると、お茶が配膳された。それを一口飲んだ後に老人が口を開いた。
「トルリ、お前はどこに住んでいるんじゃ?」
「王都に住んでいたけど、両親が1ヵ月帰って来なかったから、孤児院に行ったの。両親から、そうしなさいと言われていたから。次に旅の一座に雇ってもらって、今はアース様とアイーダ様に雇われて、赤いバラの屋敷に住んでいるわ。妹のラムも一緒よ」
「そうか、アースさん、アイーダさん、お世話になっています」
そう言って、サムシは頭を下げる。第一夫人のランも一緒に頭を下げる。
「それで、両親の行方は全くわからないのか?」
「2人とも冒険者だから、どこに行っているか分からないの。以前も同じことがあったけど、その時は孤児院に迎えに来てくれたわ」
トルリの返事を聞いたサムシは、提案する。
「どうじゃ、妹も一緒にここに住まないか?」
「いやよ。お父さんもお母さんも一緒じゃないと。お父さんもお母さんも、この村のことは一回も話してくれなかったわ。きっと、この村は嫌いなのよ」
その言葉に、サムシとランの表情が暗くなった。そして、無言の時が過ぎる。しばらくして、ランが口を開いた。
「ゴメンね、トルリ。あなたの両親は15年前に、駆け落ちしてこの村から出て行ったの」
「えっ、なぜ?」
ランの横のサムシが、首を横に振りながら呟いた。
「儂が悪かったのじゃ。可愛い一人娘を、まだ15才の娘を他の男に取られたくなかったのじゃ。許してくれ、トルリ」
その場の雰囲気が一気に重くなる。それを破ったのはアイーダの一言だった。
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毎週火・金の午後6時に投稿予定です。
参考
「ぶんぶんぶん」 ボヘミア民謡 作詞 アウグスト・ハインリヒ・ホフマン
「茶摘み」 文部省唱歌




