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第10話 ひばりの森

 アルタイルホールのオープン記念コンサートは、連日満員の大盛況のうちに終了した。魔音盤売り上げ1位の『赤いバラ』と2位の『コラール』が出演するのだから当然といえば当然である。


意外だったのは『星とバラの妖精』にも大声援が送られたことだ。頑張る孫を応援するような感覚のおじいちゃん、おばあちゃんたちが押し掛けたのだ。弦楽部族のアニマと打楽部族のトルリの加入で音楽の実力がアップしたことも大きい。


自分たちは前座、場を温めるのが役割と思っていた『星とバラの妖精』に大きな自信を与えた。もっと経験積めば、アイドルグループとしてやっていけると確信させたのだ。


コンサートグッズも飛ぶように売れた。品切れのグッズが続出し、嬉しい悲鳴をあげた。特にバラのお菓子は大人気で連日完売。中でもバラのクッキーとバラのケーキは好評で、早い時間に売れ切れるのだ。生産が売れ行きに追いつかない状況である。また、敷地内のバラ庭園も大好評で、連日大勢の人の訪問があった。もっと拡張すれば、王都の新観光名所になるだろう。


『星の輝く赤いバラとコラールの里』の文官たちも、張り切っている。今後の発展に夢を持って、やれ素人音楽大会だとか、素人演劇大会だとか、みんなで知恵を出し合っている。コチェ王国出身のリララもここでの生活と仕事に慣れて、中心的な役割を担っているようだ。


旅の一座『流れ星』は約束通りやって来た。ふつう、旅の一座の公演は公園などの野外で行われる。だから、アルタイルホールでのリハーサルで戸惑うこともあったようだ。舞台の広さ、音響の良さ、スポットライトなどの照明、初めて経験することが多かったからだ。


しかし、そこはプロフェッショナル、すぐに対応した。公演が始まると大好評を得ている。定期的な公演を考えてもいいかもしれない。また、他の実力ある旅の一座招待の可能性も視野に入ってきた。


新規に事業を立ち上げるのは大変である。経験のないことであるから、難題が次から次へと現れる。それらをアイーダとバービレ、レジェラの3人は力を合わせて乗り切った。


アイーダは天性の感覚、直観で進むべき方向を正しく選択し、スタッフを大きな包容力でまとめ上げた。バービレは元王女として、先頭に立ちスタッフを叱咤激励した。ソーミュスタ王国の内政部門トップの貴族家の令嬢として育てられたレジェラは文官を掌握し、必要があれば新たに文官をスカウトした。


とにかく、アルタイルホールの滑り出しは順調である。やっと、アイーダたちに時間に余裕が出来た。




赤いバラの屋敷の会議室で会議が行われている。出席者はアースとアイーダ、『星とバラの妖精』のメンバーの10人である。会議はアイーダの発言で始まる。


「やっと自由に動けるようになったわね。さて、プレヤ、ブルーイスカの3人との連絡はどうなっているかしら?」

「はい、今日の夕方までにはここに到着する予定です。1人はもう来ています。3人とも、久しぶりに暴れられると張り切っているようです」


「そう、今夜はここに泊まるのね。明日は夜明け前に出発予定だから、おしゃべりで盛り上がって夜更かしをしないようにね」

「は~い。努力します」


プレヤの返事からすると、夜遅くまでガールズトークで盛り上がるのは確定だ。アイーダは話を続ける。


「明日は夜明け前に『ひばりの森』に転移するわ。転移陣を出たらすぐにワシに乗って森の奥の上空に飛ぶ。あまり高度を上げないように、森の近くにキャンプしている兵士や冒険者に見つかると騒ぎになるから。


次に、私とフェネが音楽魔法を演奏して、ひばり型魔獣を森から飛び立たせる。そして、それを魔法で煙に変える。なるべく火魔法は使わないように、目立つから。討伐が終わったら、速やかに転移陣に戻る。ブルーイスカの3人は帰還して、残りは『ピーコックの森』へ転移する。以上が計画の概要よ。質問はあるかしら?」


質問が誰からも出ないので、アイーダはアースを見る。


「次は俺からだ。今回は白鳥ではなくワシを使う。白鳥の白は目立つからな。ブルーイスカは5羽編隊を組み、少し離れて俺の後を飛ぶこと。火魔法以外を使える者は、火魔法は使うな。火魔法は目立つから。以上だ」


アースがみんなを見渡すが、誰も口を開かずコクコクしている。


コンコンコン


その時、扉がノックされバービレとレジェラが入って来た。


「私たちも行くニャ。こんな面白そうなこと一緒に行くニャン」

「そうですわ。私たちを置いて行くなんてひどいですわ」


お怒りモードの2人である。この2人は現在忙しい最中なので誘わなかったのだ。アイーダがアチャーという表情で尋ねる。


「どうして面白そうだと思うの?」

「『ブルーイスカ』が来ているニャ。面白そうなことに決まっているニャン」

「そうですわ。私たちはペインス公国にも連れていってもらえませんでしたわ」


どうやら、ペインス公国に一緒に行けなかったことを根に持っているようである。アイーダは、困ったようにアースに尋ねる。


「アース様2人増えても大丈夫でしょうか?」


アースは苦笑いをして答える。アースのワシに乗れる人数に限りがあることを理由にしようと、アイーダが考えていると思ったからだ。


「大丈夫だ、余裕だ。あと10人くらいは増えても大丈夫だ


アイーダは諦めて言った。


「わかったわ。一緒にいきましょう。ただし、ただし、『ひばりの森』までよ。ブルーイスカも『ひばりの森』までだから。『ピーコックの森』には大人数で行きたくないの。あまりたくさんで行くと警戒されるから」

「それでいいニャ。久しぶりに魔法を思いっきり放てるニャン」

「承知しましたわ。腕が鳴りますわ」


こうして、アースとアイーダ、バービレ、レジェラ、『星とバラの妖精』のメンバーの12人にブルーイスカ3人を加えて、15人でひばり型魔獣討伐に行くことになった。



 翌日の夜明け前、『ひばりの森』の転移陣にアースとアイーダたち15人の姿が現れる。夜明け前の薄明りの中、遠くを流れる川の近くのキャンプ地にテントの集団が2グループ見える。1つは同じ大きさのテントのグループ、これはどこかの領地の兵士たちのテントだろう。もう1つは大きさがバラバラのテントのグループ、こちらは冒険者たちのテントだろう。


アースと『ブルーイスカ』は詠唱してワシを出す。『ブルーイスカ』以外の者は、アースのワシに乗り、全員空へ舞い上がる。目指すは『ひばりの森』の南端だ。そこから北端に向けて、ジグザグに飛んでひばり型魔獣を討伐するのだ。


森の南端に達すると、アイーダが金色の横笛を、フェネが銀色の横笛を準備して詠唱する。


「「音楽魔法 おおひばり」」


演奏が始まる。何万ものひばり型魔獣が森から、鳴きながら空高く舞い上がる。まるで『ひばりの森』の上空に漆黒の空間が突然現れたようだ。アースのワシから水魔法が、風魔法、火魔法、土魔法が前、上下左右に乱れ飛ぶ。『ブルーイスカ』からは、後ろ、上下左右に水魔法と風魔法が乱射される。


ひばり型魔獣は弱い魔獣だ。魔法弾がかすっただけでも煙になる。1発の火球や水球で何十体ものひばり型魔獣が煙になり魔石を落とす。トルリとアニマをを除いた13人の魔法攻撃は凄まじい。


漆黒の空間にトンネルを掘るように1羽の大きいワシと5羽の小さいワシが進む。びっしりと空を覆っていたひばり型魔獣の群れにポッカリと穴が開き、広がっていく。穴と穴が合体して大きな穴ができる。漆黒が薄くなり、灰色になる。そして、灰色もだんだん薄くなっていく。



冒険者用のキャンプ地に張られたテントの中、1組の夫婦が目を覚ます。


「なんかひばり型魔獣の鳴き声が騒がしくないか?」

「そうね、こんなに大きい鳴き声は初めてだわ。何事かしら?」

「外に出て確かめてみよう」


外に出た2人の目に映ったのは、昇り始めた太陽。そして、太陽に照らし出される『ひばりの森』上空の無数のひばり型魔獣が、凄まじい速さで煙に変わる景色だ。ひばり型魔獣の群れが作る黒が空の青色に変わっていく。男が呟く。


「何者だ? 我々が2年間くらい討伐できなかったひばり型魔獣を、あんなに簡単に討伐する者は」

「誰でもいいじゃない。ひばり型魔獣さえいなくなれば、他の魔獣の討伐は簡単になるわ。すぐにトルリとラムを引き取りに孤児院へ行けるわ」


「そうだな。あの2人、俺の顔を忘れてないだろうな?」

「大丈夫よ、特にトルリは。トルリはお父さん大好き娘だから」

「そうか、だったら嬉しいのだが」


その頃には他の冒険者たちもテントから出てきて、ひばりの森の上空を見上げていた。森の上空からひばり型魔獣の姿が消え、空が青一色になった。1羽の大きいワシと5羽の小さいワシは、転移陣のある方向に飛び去って行く。


それを見た1人の冒険者が両手を上げて叫ぶ。


「ワシ バンザーイ」


その叫びは次々と伝搬して、「ワシ バンザーイ」の大合唱になった。



『ひばりの森』の南端から北端までを3往復して、ひばり型魔獣をすべて煙に変えたアースたちは、転移陣の前に舞い降りた。アースが指示する。


「ご苦労だった、急ぐぞ。最初はバービレとレジェラ、ブルーイスカの3人が転移しろ」


バービレたちが転移すると、次にアースたち10人も転移して消えた。


お読みいただきありがとうございます。

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毎週火・金の午後6時に投稿予定です。


参考

「おおひばり」 作詞・作曲 メンデルスゾーン 訳詞 緒園 凉子

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