第7話 マズルカ孤児院
転移陣のある建物から出ると、古い建物が並ぶ町並みが目に入った。この国の歴史は古い。ただ、その国土は一定ではなく、いくつかの小国に分裂したり、統合されたりを繰り返している。現在はいくつかの小国に分裂している状態だ。
トルリの妹がいる孤児院まで歩いて10分くらいとのことだったが、箱馬車で引き取りに行くことにする。理由は箱馬車を借りるだけの経済力があれば、トルリの妹が生活に困らないと判断してもらえて、孤児院側も安心するだろうと思ったからである。箱馬車の待合馬車に行き、箱馬車2台を1日貸切りで借りる。
孤児院に近づくと、子どもたちのワアーワアー、キャキャと遊ぶ声が聞こえて来た。孤児院の前で箱馬車を止めてもらい、トルリを先頭に門から中に入ると、6才くらいの青髪黒目の女の子が、トルリにトコトコ駆け寄って来て抱きつく。
「お姉ちゃん、お帰り~~~」
トルリは女の子を抱きしめて、嬉しそうに言う。
「ラム、ただいま。いい子にしていた? 今日はラムを引き取りに来たよ」
「うん、みんなと仲良くしていたよ。院長先生にも誉められたよ~」
「そうか~、よしよし、ラムはいい子だね。さすが私の妹だわ」
トルリはひとしきり妹成分を補充していたが、ハッとしてアイーダたちに妹を紹介する。
「私の妹のラムです。ほら、ラムもちゃんとご挨拶して」
すると、妹もちゃんと姿勢を正して自己紹介をする。
「名前はラム、6才です。トルリお姉ちゃんの妹です」
そして、ペコリと頭を下げた。フェネが代表して挨拶をする。
「私はフェネ、お姉さんの友だち。これからよろしくね。それで、院長先生はいらっしゃるかしら?」
「う~ん、わからないわ」
そう言うと、ラムはキョロキョロと辺りを見渡す。すると、継ぎ接ぎの多い服を着た1人の若い女性が近づいて来て、挨拶をした。
「私はこの孤児院でお手伝いをしているペルです。何か御用でしょうか?」
「トルリの妹さんを引き取りに来ました。アイーダと申します。院長先生に会いたいのですが、可能でしょうか?」
「はい、院長はおります。案内しますので、こちらへどうぞ。トルリとラムも一緒に来て」
アイーダはフェネたちに、子どもたちと遊んで待っているように言うと、トルリとラムと一緒に院長先生に会いに行く。院長先生は、食堂で昼食の準備中だった。赤髪黄目の老婦人で、継ぎ接ぎだらけの服を着ている。
この孤児院は経済的にかなり困っているようだ。食堂内をよく見ると、壊れたイスを修理して使っているし、窓ガラスの割れた所には板が張ってある。
「院長先生、ラムを引き取りにトルリと一緒にお客様が来られました」
院長先生は作業の準備を止める。トルリを見るとニッコリ微笑んで口を開いた。
「お帰りなさい。トルリ。顔色もいいし、元気そうだね」
「はい。こちらのアイーダ様に雇っていただいて、とても良くしてもらっています。今日はラムを引き取りに来ました」
院長先生はアイーダに挨拶をする。
「初めまして。私はこの孤児院マズルカの院長のメアリーです。トルリがお世話になっているようで、ありがとうございます。」
「初めまして。私はソーミュスタ王国のアイーダ フォン ステラです」
「貴族様でしたか。このような所で何のおもてなしもできず、申し訳ありません。それで、ラムの引き取りの保証人になってもらえるのでしょうか?」
「はい、トリルはよく働いてくれますし、小さい子の世話が得意なメイドもいますから大丈夫です」
「ラムはトルリと一緒に行くんだね?」
「もちろんよ、院長先生。お姉ちゃんと一緒にいたいもん」
「そう、じゃあ書類を書いてもらうから、2人は外で遊んでいなさい。あっ、トルリから預かっていたものを返さなくてはいけないね」
そう言うと院長先生は部屋を出て行き、しばらくして細長い袋を持って帰ってきた。それを受け取ったトルリが嬉しそうにお礼を言う。
「ありがとうございます、院長先生。私のバチを預かってもらって、助かりました。これは両親からもらった大切なバチなのです。それから、今日は子どもたちにお土産を持ってきました。配ってもいいですか?」
「おやおや、それはありがとうね。お土産は何かしら?」
「とっても美味しいバラのクッキーとおもちゃです」
「それは子どもたちも喜ぶよ。配ってあげておくれ」
「はい、ラム行こう」
トルリは妹とここに案内してくれた女の人と外へ出て行った。アイーダは保証人の書類に書き込むと、院長先生に渡した後に尋ねる。
「トルリの両親は行方不明とのことですが、……」
「はい、この国とコチェ王国との国境付近の『ひばりの森』で、数年前からひばり型魔獣が大量発生しているのです。空を飛ぶ魔獣の討伐は難しいらしくて。それで冒険者を強制的に魔獣討伐させています。トルリの両親はそれに巻き込まれたのでしょう」
「生きているのでしょうか?」
「わかりません。手紙を送ることも許されないそうですから」
「ひどい話です。もう1つ、お聞きしにくい事を聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、なんでもお聞きください」
「この国では、孤児院に国や貴族からの寄付はないのでしょうか?」
「お恥ずかしいかぎりです。以前はあったのですが、魔獣の大量発生に加えて、日照り続きで農作物が不作で、孤児院への寄付どころではないようです」
なるほどと納得したアイーダは、懐から用意していた金貨20枚の入った小袋を取り出して、テーブルの上に置く。
「他国の貴族である私が、寄付をすることには問題があるでしょう。だから、お昼に食べるのに適したこの国の名物料理と、それが食べられるお店を教えていただけませんか? これはそのお礼です」
院長先生は驚いたが、少し考えてから深く頭を下げて答える。
「ありがとうございます。東の丘の上にあるヒルという店のロールキャベツが美味しいと評判です」
「ありがとうございます。この後早速行きたいと思います」
アイーダもお礼を言って、一礼する。
2人が孤児院の庭に出ると、『星とバラの妖精』の歌がちょうど終わった所だった。孤児たちが院長先生へと集まって来て口々に言う。
「先生~、とっても美味しいクッキーだよ」
「これ先生のクッキーよ。食べて~」
「お姉ちゃんたちの歌、とっても良かったの~」
しばらく様子を見ていたトルリが呼びかける。
「みんなー、次は楽しい曲だよー、集まってー」
孤児たちが集まると、アイーダが孤児たちの前で一礼してから虹色のタクトを構える。虹色のタクトを振ると、フェネの横笛とアニマのヴァイオリンが演奏
を始める。
ヴェーヌがトライアングルでリンリンリンと音を出す。プレヤがガラガラを振ってガラガラガラと音を立てる。レアがカッコウ笛を吹いて、カッコー、カッコー、カッコーと響かせる。
パシファがラッパを吹いて、プープープーと、トルリがおもちゃの太鼓を叩いて、トントントンと音を出す。
子どもたちは、目を輝かせたり、笑ったりと大喜びである。演奏が終わると大きな拍手が送られた。アイーダたちが手を振り、それに答える。そして、トルリが前に出て呼びかける。
「みんなにも今使ったおもちゃをプレゼントするよ~~~」
「わーい、ありがとうトルリお姉ちゃん~」
フェネが携帯魔法で取り出したおもちゃを、『星とバラの妖精』全員で配る。孤児たちにおもちゃが配られたことを確認したトルリが、再び呼びかける。
「さあ、今度はみんなも一緒に演奏するよー」
「「「はーい」」」
最初はなかなか揃わなかった演奏だったが、孤児たちの「もう1回」の声に応じて、5回目くらいには演奏らしくなってきた。演奏は、このままではキリがないと思った院長先生が止めるまで続いた。
「じゃあ、みんなバイバーイ。また遊びに来るねー」
「みんな元気でねー。みんなのことは忘れないわわー」
トルリとラムのサヨナラの言葉に、孤児たちも手を振って答える。
「「「また、お菓子を持って遊びに来てねー」」」
別れの挨拶が終わったのを確認して、アイーダが御者に指示する。
「東の丘の上にあるヒルという店に行ってください」
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毎週火・金の午後6時に投稿予定です。
参考
「おもちゃの交響曲」 作曲 モーツァルト・レオポルト
(エトムント・アンゲラー)




