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第6話 おもちゃの交響曲

 打楽器教室の授業を終えて、赤いバラの屋敷の自分の部屋にトルリは帰って来た。まだ幼い妹と一緒に住むのだからと、メイドのいる赤いバラの屋敷に部屋をもらったのだ。トルリは大きいベッドに座ると呟いた。


「こんなに広くて、お風呂のある立派な部屋がもらえるなんて思わなかったわ。それに、この大きいベッドなら妹と一緒に寝ることができる。そうだ、早く妹を迎えに行かなくっちゃ。孤児院の先生たちは優しいし、孤児たちもいい子たちだから大丈夫だと思うけど、一緒に暮らしたいものね」


コンコンコン


ドアからノックの音が聞こえて、セルクが顔を出した。


「相談することがあるので、ヴェーヌさんの部屋に来てください」

「わかったわ。何の相談かしら?」

「妹さんのことらしいです」


トルリがセルクと一緒にヴェーヌの部屋に入ると、プレヤが話しかけて来た。


「トルリ、妹さんを迎えに行く日が決まったよ。アース様は星魔法軍団の仕事がとても忙しくてダメだけど、アイーダ様は明後日なら大丈夫らしい」

「わー、本当? 嬉しいー。ちょうど、その日はお仕事がないの」

「じゃあ、決まりだね。それで、孤児院にお土産を持って行こうと思うけど、孤児院には何人いるの?」


「え~と、孤児が20人と院長先生とお手伝いの人が2人かな」


それを聞いたレアが、少し考えて言う。


「アマルさんにお菓子を作ってもらうのはどうかしら?」

「うん、それはいいね。バラのクッキーはどうかな? 小さい子どもでも食べやすいだろうから」

「「「「「「賛成~~~」」」」」」


ヴェーヌとセルク、レア、アニマ、トルリはまだ食べたことが無かったが、フェネとプレヤから美味しいと聞いていたのだ。だから、お土産を作るついでにバラのクッキーを自分たち用にも作ってもらおうと考えているのだ。


「じゃあ、パシファ、アマルさんに頼んでくれる?」

「はい、わかりました」


みんなが満足そうにしている中、フェネが言った。


「ねえ、私たちはアイドルを目指しているのだから、なにか音楽の演奏もしてあげようよ」


その言葉に驚いたトルリが訊く。


「ねえ、『星とバラの妖精』は冒険者パーティじゃないの?」

「僕たちは冒険者パーティであると同時に、アイドルを目指しているグループでもあるんだ。魔音盤も出しているよ。その曲を聴いてみる?」

「うん、聴いてみたいわ。是非聴かせて」


全員でダンスホールに行ったが、10分後に帰って来た。トルリが興奮して言う。


「凄いわ。いい曲よ。あ~、私もパーティに入れて、お願い」

「トルリが歌も上手いし、太鼓も上手なのは知っているけど、狩りとか魔獣討伐はできる?」

「大丈夫よ。私の両親は冒険者だし、88流剣術も習っていたし、水魔法のトレーニングも頑張るから、お願い」


トルリが懸命に頼むので、プレヤは他のメンバーに聞くことにした。


「トルリを『星とバラの妖精』に入れていいかな?」

「もちろん、いいわ。だってあの小太鼓の演奏は素晴らしかったじゃない」


フェネが言い、他のみんなもコクコクしているので、プレヤは決めた。


「全員一致だね。トルリの『星とバラの妖精』加入を決定します」

「やったー、みんな、ありがとう」


両手を突き上げて喜ぶトルリに、フェネが抱き着く。しばらくして、ヴェーヌが冷静に言った。


「トルリの加入は嬉しいわ。でも、今は話し合うべきことがあるわよ」


ハッとしたプレヤが、あわてて尋ねる。


「どんな曲を演奏すればいいか、誰か提案はあるかな?」

「孤児たちに聴いてもらうのは『恋のキューピットの矢』ともう1曲、幼い子どもにも楽しめる曲がいいと思います」


セルクが提案すると、フェネが同意する。


「いい考えだわ。もう曲は『おもちゃの交響曲』でどうかしら。この曲だったら幼い子どもでも楽しんでもらえると思うわ」

「『おもちゃの交響曲』ってどんな曲?」


プレヤは知らなかったらして、フェネに尋ねる。


「おもちゃも使って演奏する曲よ。メロディは、アニマのヴァイオリンと私の横笛で演奏するわ。アニマ、演奏できるわよね?」

「知らない曲だけど、1回聴くか、楽譜を1回読めば大丈夫よ」


「じゃあ、あとはおもちゃね。使うおもちゃは、おもちゃの太鼓、ラッパ、トライアングルとガラガラ、ナイチンゲール笛、カッコウ笛よ」

「ナイチンゲール笛、カッコウ笛って、どんなおもちゃですか?」


レアが尋ねるとフェネが説明する。


「鳥のカッコウの鳴き声が出るのがカッコウ笛、鳥のナイチンゲールのさえずりが出るのがナイチンゲール笛よ」

「笛ってことは、吹けばいいのね?」

「そうよ。子どもが遊ぶおもちゃだから簡単よ」


それを聞いて全員安心したようだ。


「私は、おもちゃの太鼓をたたくわ」


トルリが言うと、他の者も希望を言って担当が決まった。ヴェーヌがトライアングル、プレヤがガラガラ、セルクがナイチンゲール笛、レアがカッコウ笛、パシファがラッパ。後はフェネが横笛、アニマがヴァイオリンだ。


「指揮者はアイーダお姉様ね。じゃあ、おもちゃと『おもちゃの交響曲』の魔音盤を買いに行きましょう」


フェネが言うと、プレヤが待ったをかけた。


「トルリの服や防具、剣、赤い靴、スカーフも買おうよ」

「そうね。じゃあ、執事のサタールさんにお金をもらってくるわ」

「えっ、私の防具とかもお金を出してもらえるの?」

「そうだよ。必要経費ってものらしい。僕たちもみんな出してもらったから気にしなくていいよ」



その後、イスリの護衛で王都に買い物に出かけた『星とバラの妖精』は、まずトルリの服や防具、剣、赤い靴、スカーフを買った。剣は、ヴェーヌたちの剣より少し短い剣を2本。両手で剣を持つので、1本1本は軽い剣にするのだ。スカーフはトルリの髪の色と同じ銀色のスカーフである。


次におもちゃを買うために訪れた魔導具店では、それはもう時間がかかった。おもちゃの音だけではなく、色やデザインまで意見続出だったのだ。結局、自分の担当する楽器は各自で選び、さらにトライアングル、おもちゃの太鼓、ラッパ、ガラガラ、ナイチンゲール笛、カッコウ笛を3セット買って孤児院にプレゼントすることにした。


3時間もかかった買い物だったが、女の子8人の買い物だから無理もない、これくらい時間がかかるのは普通のことなのだ。



 翌日、ダンスホールで練習が始まる。まずは軽く音出しである。これは全員余裕で合格である。ヴェーヌがトライアングルを叩いてリンリンリンと音を出せば、プレヤがガラガラを振ってガラガラガラと音を出す。


セルクがナイチンゲール笛を吹いて、ナイチンゲールのさえずりの音を出せば、レアがカッコウ笛を吹いて、カッコウの鳴き声の音をカッコー、カッコー、カッコーと響かせる。


パシファがラッパを吹いて、プープープーと音を出せば、トルリがおもちゃの太鼓を叩いて、トントントンと音を出す。次に魔音盤の『おもちゃの交響曲』を聴いて、それに合わせて自分の担当するおもちゃの音を出す。


これもできるようになったので、アニマがヴァイオリンで、フェネが横笛で演奏するメロディに合わせて おもちゃの音を出す。最後はアイーダの指揮に合わせて合奏をする。アイーダから合格がもらえたのは夕食前で、その時には全員クタクタであった。



 コチェ王国の東隣、ポラン王国という小国の首都のシャルワの転移陣に、アイーダと『星とバラの妖精』、護衛のイスリが姿を現した。転移陣を出るなり、レアが声を上げた。


「えー、大きな建物の中に転移陣がある~~~」


シャルワの転移陣はとても大きな建物の中にあり、周囲にはいろいろなお店が並んでいる。そして、転移陣前の通りには1台のグランドピアノが置かれている。ストリートピアノ、誰でも自由に弾けるピアノだ。それを見つけたトルリが駆け寄る。


「やったー、鍵盤が88鍵ある。私にも弾けるわ」

「じゃあ、何か1曲弾いてみてよ。トルリのピアノを聴いてみたいわ」


フェネの言葉に、トルリはピアノの前に座り演奏を始めた。流れて来た曲は『英雄ポロネーズ』。ピアノの詩人とも呼ばれた、この国出身の音楽家が作曲した曲だ。トルリの演奏は見事で終わると、いつの間にか集まっていた人たちから大きな拍手が送られた。


観客の中から、赤髪青目の若い女性と青髪緑目の若い男性のカップルが歩み出てきて、女性がトルリにお願いした。


「もう1曲演奏してくれないかしら?」

「いいですよ。『エチュード12番 革命』でいいですか?」

「もちろんよ。ではお願いね」


若い女性が微笑んで答えると、トルリは演奏を始めた。恋人同士の2人が聴くにはピッタリの曲だ。この曲の演奏が終わると、再び大きな拍手がトルリに送られた。トルリは立ち上がって、いろいろな向きに礼をしてから、ピアノの前を離れた。


建物の出口に向かう途中でフェネがトルリに質問する。


「見事なピアノ演奏だったわ。でもなぜ鍵盤数が88鍵のピアノしか演奏できないの?」

「私のお父さんとお母さんが生まれた村の人たちは、打楽器の演奏が得意だけど、特にバチを両手に持って打楽器を演奏するのが得意らしいの。バチを2本持つからバチバチ、数字で書くと88ね。


だから剣術も両手に剣を持つ88流剣術。ピアノには弦があるから、弦楽器と考えることができるわ。でも、鍵盤を弾いて弦を叩くから、打楽器とも考えられるの。だから、鍵盤数が88鍵のピアノだけは演奏できるって、お母さんが言っていたわ」


「そうなのね。バチバチが88って無理がありそうだけど?」

「私もそう思ったわ。でも大昔の偉い人が決めたらしいから、誰も何も言えないらしいわ」

「じゃあ、仕方ないわ。でもさあ、鍵盤数が100鍵とか200鍵のピアノが無いのは何故だろう?」


「小柄な人が無理なく両手を伸ばして、演奏できないからじゃないかな?」

「2人でピアノを演奏、連弾すればいいわ」

「低すぎる音や高すぎる音は、人間には聴こえないらしいわよ」


「なるほどだわ。鍵盤数が88鍵のピアノが一番多いのには理由があったのね」


その会話を聞いていたアイーダが、何か思いついたような表情をしていたけれども、建物の出口に着いてしまった。




お読みいただきありがとうございます。

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毎週火・金の午後6時に投稿予定です。


参考

「おもちゃの交響曲」 作曲 モーツァルト・レオポルト

(エトムント・アンゲラー)

「英雄ポロネーズ(ポロネーズ第6番)」 作曲 ショパン

「エチュード12番」(革命)  作曲 ショパン

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