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第3話 誘拐事件その後 

 女の子たちを助け出してから2日後、コチェ王国トーイス伯爵領のある森の中、多数の騎士たちが古びた屋敷を取り囲んでいる。緊迫した雰囲気の中、1人の騎士が騎士団長に報告する。


「トーマス騎士団長、包囲完成しました。この辺りの転移陣も、一時使用不可に設定してもらいました。蟻一匹逃がしません」

「そうか、まずは魔法部隊、攻撃開始だ」

「はっ、魔法部隊、放てぇぇぇ~」


騎士が大声で命令すると、水、風、土の魔法弾が屋敷周囲の防壁に次々と命中して破壊し尽くす。更に屋敷の建物本体にも襲いかかり、大穴を開ける。屋敷からの反撃の水魔法が1発だけあったが、それが発射された窓に集中的に魔法が撃ち込まれると沈黙する。


誘拐犯である山賊のアジトを騎士団が攻撃しているのだ。誘拐の実行犯である山賊の黒幕は、南の海に面した領地を持つイワル辺境伯であることが判明した。そして、この屋敷はイワル辺境伯の別荘である。


「よし、敵からの魔法攻撃はもう無いな。突撃盾隊を前進させろ」

「はっ、突撃盾隊進軍開始―――」


大声の号令がかかると、最前列の騎士は前方に盾を向け、2列目以降の騎士は上方に盾を向けて方陣を組み進軍する。屋敷からは魔法はおろか矢1本飛んで来ない。方陣は屋敷の壁に空いた大穴まで達し、そこから盾隊の騎士たちが屋敷内に突入していく。それを見た騎士団長が言う。


「うむ、これで終わったな」

「はい、先日ソーミュスタ王国の冒険者が捕らえた、人買い商人や盗賊の自白により、頭目が元C級冒険者の水魔法使いで、魔法使いは彼1人だけということが分かっていましたから楽でした。山賊全員で30名ほどですから、こんなものでしょう。まあ何人かは、すでに逃げている可能性はありますが」


「よし、我が国の誘拐組織の残りは、黒幕のイワル辺境伯だけだな」

「はい。しかし、辺境伯は外国からの侵略に備えて軍備を整えていますから、簡単にはいかないでしょう。あそこの領都は強固な城塞都市ですし」


「そうだな、でも領都を攻略するしかない。イワル辺境伯の背後には、南の大陸のプトーシェ帝国がいる、との情報もあるから、この事件まだまだ奥が深いぞ。まあ、そちらの方はソーミュスタ王国に調査を依頼することになるが。他にこの大陸で残っているのはソーミュスタ王国の組織だが、大丈夫だろうか」


「大丈夫でしょう。ソーミュスタ王国の騎士団に、ワルシャ商会の会頭が人買い商人であることを伝えてありますから」


20分ほどして、建物内を制圧して、山賊を全員捕縛したと報告が来た。騎士団長が命令を出す。


「よし、建物内を徹底的に捜索しろ。イワル辺境伯が黒幕だという証拠を集めろ。証拠はいくらあっても困らないからな。できれば、南の大陸のプトーシェ帝国との関係を示す証拠が欲しい」



同日夜 ソーミュスタ王国アトク子爵領の子爵屋敷近く


「先輩、昨日のワルシャ商会の家宅捜索で領主様が誘拐犯の黒幕だってわかった時にはびっくりしましたね」


「ああ、俺もびっくりしたぜ。しかも山賊どもが、領主様の屋敷を我が国の拠点にしているとはな。まあ、おかげで現行犯逮捕できるチャンスがあるのだが。」

「あっ、先輩来ました。あれじゃないですか」


その男が指さす方から5人の男たちが歩いて来る。その中の1人は肩に麻袋を担いでいる。


「あの麻袋の中身は誘拐してきた子どもかもしれない。あいつらが屋敷に入ったら、打ち合わせ通りなら突入だ。俺たちは、ここで逃げ出そうとする奴を捕まえるだけの役目なのが、物足りないけどな」


5人の男たちが屋敷の中に入ってしばらくすると、騎士30人ほどが屋敷に突入した。その後、剣を打ち合う音、怒声が聞こえくるが、それもすぐに静かになる。


「騎士団長、領主のベッドがまだ暖かいです」

「そうか、屋敷内のどこかに隠れているのだろう。隠し部屋があるはずだ。徹底的に探せ」


30分くらい経った時、子爵発見のホイッスルがピィー ピィー ピィーと3回屋敷内に響き渡る。その後、騎士が1人の男を縛り上げてやって来た」


「騎士団長、領主を捕まえました。食料保管倉庫の隠し部屋に隠れていました。」

「ま、ま、待ってくれ。儂はワルシャ商会の会頭に脅されておったのだ。言われた通りにしないと、もう金を貸さないと」


「すでに逮捕されているワルシャ商会の会頭によると、あなたが絵画や壺、宝飾品、ドレスなどを買うために領民に重税を課した結果、領民が逃げ出して、この子爵領は破産寸前。誘拐した子どもを売って、お金を稼ごうとしたことは明白です。無駄とは思いますが、申し開きは王都で行われる裁判でなさってください」


騎士団の突入から1時間後、騎士たちに縄で縛られた、20人ほどの男たちが連行されて行った。そして、女の子3人が無事に救出されたのだった。



その2日後のお昼頃、赤いバラの屋敷の転移陣に、母と娘と思われる2人と護衛1人が現れた。


「お母様、ここはどこでしょうか?」

「ええ、冒険者の方のお宅とは思えないわね。騎士団に教えてもらった転移陣のアドレスを間違えたのかしら。まさかこのお屋敷が冒険者の方のお宅じゃないわよね」


そこに門の警備兵が問いかける。


「失礼ですが、この屋敷に御用でしょうか?」

「はい、プレヤさんがリーダの冒険者パーティ『星とバラの妖精』の方々を訪ねて来たのですが、どうも転移陣のアドレスを間違えたようです」


「いいえ、お間違いではありません。プレヤ様はこちらのお屋敷にお住まいです。ご案内しますので、こちらへどうぞ」


警備杯は門を開けて中へ歩き出す。その後ろを歩きながら会話する2人。


「お母様、これは一体どういう事でしょう」

「よくわからないけど、お父様にも来て頂いた方が良かったかしら。冒険者の方だったら、私だけでいいと思ったのだけど」


「お屋敷の建物もとても大きいですし、両側のバラもとってもきれいですわ。まるで伯爵家か侯爵家のお住まいのようです。それに警備が星魔法軍団の方なのは何故かしら。黒い制服だから北部方面軍の人たちだと思うけど」


応接室

 オレンジ髪、黒目の10代前半の少女と、彼女と顔がそっくりの30代の女性がソファに座り、その後ろには護衛が立っている。その向かいにはプレヤとフェネが座り、後ろに執事のサタールが立っている。


「レア、訪ねて来てくれて僕は嬉しいよ」

「そうよ、とっても嬉しいわ。それでレアはもう大丈夫かしら」


「私もプレヤとフェネにまた会えて、とっても嬉しいわ。それに心配してくれてありがとう。もうすっかり大丈夫よ。今日はお母様と一緒にお礼を言いに来たの。ねえ、お母様」


「はい、レアの母でございます。この度は娘を助けて頂きありがとうございました。昨日までは怖くて外出できなかったのですが、今朝のかわら版に誘拐犯は全員逮捕したと載っていましたから、安心して出かけてきました」


「そうなのよ。私、アトク子爵家で行われたお茶会の帰り道で襲われたの。お茶会の時、子爵が品定めをするような目で、招待された令嬢たちを見ていたのが嫌だったのだけど、誘拐する令嬢を選んでいたのだわ」


それを聞いたプレヤが同意する。


「きっとそうだね。レアほどの美少女を選ばないはずがないからね」

「まあ、プレヤったら。プレヤやフェネほどの美少女じゃないわよ。それに私はもう結婚できないわ。何も乱暴はされていないけど、誘拐された令嬢ですもの」


そう言って下を向くレア。貴族は血筋を大切にするから、誘拐された令嬢は結婚相手が見つからないのだ。


「別に結婚できなくても、幸せになれると僕は思うよ」


プレヤの言葉に顔を上げたレアが頷いて言う。


「そうよね。結婚だけが、女の子の幸せじゃないわ。私は土魔法が得意で星魔法が少し使えるの。だから、それを活かして冒険者になろうと考えているの」

「えっ、レアは星魔法が使えるの?」


「ええ、お父様は星魔法軍団の東部方面軍の工兵部隊所属なの。土魔法で防御壁やトーチカ、道路を作る仕事をしているの」


それを聞いた執事のサタールが右手を上げて言う。


「発言をお許し頂けますか」

「珍しいですね、サタールさん。どうぞご遠慮なく」


フェネの許可を得てサタールが提案する。


「現在、当屋敷ではコムギ畑などの拡張で、土魔法を使える方を必要としております。もし、よろしければ当屋敷で働いて頂けませんか。もう1つ、これは爵位が関係しますので、良かったら、レア様のお父上様の爵位を教えて頂けませんか」


「はい、構いません。夫の爵位は男爵ですが」

「ありがとうございます。それでしたら、住み込みでプレヤ様かヴェーヌ様の護衛になって頂くこともできますが」


プレヤがコクコクしながら言う。


「セルクと同じね。僕は大歓迎だよ」

「左様でございます。この屋敷内にお部屋も用意できます。今でしたらセルク様の隣が空いております」


「それはいいね。レアどうする? 僕のお父様は伯爵だから、護衛でも名目上おかしくないよ。それに護衛は名目だけで、僕たちの友達ってことで、アース様も賛成してくれるよ」

「アース様ってあの時の男の人よね。う~ん、どうしようかしら」


考え込むレア。それを見てレアの母が口を開く。


「お部屋とか見せてもらったらどうかしら。でもそうなると長くなりそうね。私はお茶会の約束があるから、先に失礼していいかしら?」

「はい、お母様。私はいろいろ見学させて頂くことにします」


母親が帰った後、使用予定の部屋を見せて、もらったレアが呟く。


「広いわ。今の私の部屋の3倍はある。私の好きな本をたくさん置けるわ。それにお風呂もあるし、ベッドも大きくてフカフカだわ」


それを聞いたプレヤが言う。


「気に入ってもらえたようだね。お世話係のメイドさんも付くよ。次はレアの魔法を見せて。さあ、野外訓練場に行こう」


野外訓練場にて


「さあ、レア、土魔法を見せて」


それを受けてレアが、サターンワンド、上部に土星の飾りの付いた短い杖、を右手に持って詠唱する。


「土魔法 土壁」


長さ5m、高さ3mほどの土壁が10m先に盛り上がる。


「うわー、すごい、すごい。じゃあ、次は星魔法を見せて」

「星魔法は子ども用魔法5つの中で、こいぬ座 こうま座 こぎつね座はできるけど、こぐま座、こじし座はもう少しなの」

「それじゃあ、こうま座を見せて」


「星魔法 こうま座」


レアが詠唱すると子馬が現れる。


「うわ~、可愛い~。レア、是非僕たちの仲間になってよ」

「プレヤ、フェネ、何を騒いでいるんだ?」


「あっ、アース様、レアが来てくれたのです。それでレアが働き先を探しているようなので、僕かヴェーヌの護衛になってもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、お前たちがそうしたいなら、いいぞ」


「「「わ~い、やった~」」」


手をとって喜ぶ3人であった。



その頃、星魔法軍団東部方面軍司令官の屋敷では、参加者2人だけのお茶会が開かれていた。東部方面司令官夫人が、娘を誘拐されたテディス男爵夫人を慰めようと、何か力になれる事はないかと、招いたのである。


「この羊羹という倭国のお菓子は美味しいですわ」

「まったくおっしゃる通りですわ。侯爵夫人」

「羊羹の中に栗が入っているものもあるそうですわ。ところで、テディス男爵夫人、レアさんは災難でした」


本題に入る侯爵夫人の心遣いに、一礼して男爵夫人はお礼を述べる。


「お心使いありがとうございます、侯爵夫人。犯人が逮捕されたことで落ち着いたようです。今日は助けて頂いた冒険者の方の所へお礼に行ってきました。そこのお屋敷で、プレヤさんやヴェーヌさんとおっしゃる方の護衛にならないかと誘われまして、その気になっているようです。お屋敷のご主人様のアース様の許可が頂ければ、お屋敷に住み込みで採用されそうです」


テディス男爵夫人の言葉に侯爵夫人の穏やかな表情が一変する。


「そ、そのお屋敷は湖の畔にあったのではありませんか?」

「はい、湖の対岸には広い森がありました」

「あなた、ヴェーヌさんってどういうお方がご存じかしら?」

「えっ、娘を助けてくださった冒険者の女の子ですけど」


侯爵夫人は頭を抱えてしまったが、気を取り直してはっきり言う。


「ヴェーヌさんのお名前は、ヴェーヌ フォン ステラ。つまり、ステラ公爵家のご令嬢が、あなたの言うヴェーヌさんです。その護衛になることの意味はわかりますね」


ピキピキと男爵夫人の固まる音がするけど、侯爵夫人は続ける。


「そして、アース様はアース フォン ステラ。ステラ公爵家次期当主です」


ピキピキピキピキと音がして、男爵夫人の身体は完全に動きを止めた。


「あなたは夜会や茶会にほとんど出席されませんから、ご存じなかったのでしょう。でもお手柄です。今、あの屋敷に住んでいるのは西部方面軍の伯爵家の令嬢だけです。残りの東南北の方面軍ではなんとか、娘をあの屋敷に送り込もうと必死なのです。よくやりましたわ」


夕方、帰宅した娘から、2週間後にお屋敷に引っ越したい、と言われた男爵夫人はその場でヘナヘナと座り込むのであった。更にその後帰宅したテディス男爵は、「それは本当なのか」と何回も確認した。そして、急いで工兵部隊長に報告に行き、レアの引っ越し支度金として、多額の特別ボーナスを支給されたのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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