第5話 ミュージカル 歌姫公爵令嬢
ペインス公国のアルハンブラ地方から帰ってきて1週間が経った。季節は晩秋になっていて、朝晩は冷え込むようになっている。赤いバラの屋敷の会議室ではアースクイーン会議が始まろうとしている。
「全員揃っているようね。今日から愛人頭のイスリも出席するから、みんなよろしく」
イスリが立ち上がり、頭を下げ、すぐに座る。今更自己紹介は必要ないからだ。
「では、アースクイーン会議を始めるわ。最初の議題は『星の輝く赤いバラとコラールの里』の音楽ホールの名前についてよ。アルタイルホールでどうかしら?」
「「「「「賛成~~~」」」」」
「ありがとう、全員一致で決定とします。次は2週間後に迫ったアルタイルホールのオープン記念コンサートについてよ。来週、アルタイルの森の楽団にも参加してもらって通しのリハーサルをやります。
本番通り『星とバラの妖精』が2曲、『コラール』が5曲、『赤いバラ』が5曲よ。準備は大丈夫かしら?」
フェネが自信満々に答える。
「大丈夫です。一番手として、ちゃんと盛り上げてみせます」
レジェラも続く。
「感動する歌をお客様に届けますわ」
「いいわね。それでアンコールの曲は全員で歌うこともいいわね?」
「何を歌うニャ?」
「いろいろ迷ったけど、『魔法の国の王女様―かわいい魔法少女―』でどうかしら? お客様にも一緒に歌ってもらうの」
「それはいいニャ。絶対盛り上がるニャン」
他の者もコクコクしている。
「それじゃ決まりね。1週間分のチケットは完売しているし、宿の予約も全室完売だから、頑張りましょう。では次の議題は、その後アルタイルホールで公演するものについてよ。もっと詳しく言うと、歌劇とコンサートとミュージカルの3本柱の中で、ミュージカルについてね。
3週間後と少ししたら、旅の一座『流れ星』がやって来てミュージカルの公演をしてくれます。旅先で観たけど、とても素晴らしかったわ」
「どのような内容ニャン?」
バービレの質問にアイーダはニッコリして答える。
「若い男女の悲恋の物語よ。私は少し泣きそうになったわ」
「それは女性客がたくさん観に来そうニャン」
「そうよ、大ヒット間違いなしよ。屋敷商会に頼んで、かわら版に大々的に宣伝を掲載してもらうわ」
アイーダはそこでお茶を飲み、話を続ける。
「本題はここからよ。私たちもミュージカルをやろうと思うの。脚本はレアが書いてくれるわ。レア、あらすじを話してくれる?」
それまで、会議室の隅に控えていたレアが、前に出て来る。
「いろいろと試行錯誤しましたが、やっとあらすじが決まりました。まず、場所ですが、ある王国と王国に隣接する帝国とします。ヒロインは王国の貴族学園に通う16才の公爵令嬢です。公爵令嬢はとても美しくて、聡明な方です。
父である公爵は、長女であるヒロインを次期公爵に、と考えていました。王国では女でも領主になれる制度だったのです。そして公爵には令嬢2人しか子どもがいませんでした。
しかし、王家からの断れない要請で、12才の時に王太子の婚約者にされてしまいます。公爵令嬢はけなげにも王太子妃教育を受ける一方、王家には秘密で、類まれな美しい声を生かしてアイドル歌姫になり、王国で一番の魔音盤の売り上げ枚数を誇る大人気アイドル歌姫になっていました。
順調で穏やかな日々が続いていましたが、ある日ピンク髪で露出の多いドレスを着て、お色気たっぷりの曲を歌う男爵令嬢が現れます。その男爵令嬢はお色気を武器に、王太子に近づきます。そして、王太子は男爵令嬢に夢中になってしまい、貴族学園のパーティーで公爵令嬢との婚約破棄と国外追放を宣言します。
男爵令嬢は勝ち誇って歌い、とりまきの令嬢たちが煽情的に踊ります。王宮内の自室に戻った公爵令嬢は、これで厳しい王太子妃教育を受けなくて済むし、嫌いな王太子と結婚しなくていい。そして、好きな音楽活動に打ち込めると、『喜びの歌』を歌います。
それから、公爵家のタウンハウスに行き、これまでお世話になった使用人たちに別れを告げ、惜別の情と感謝を込めて『感謝とお別れの歌』を歌います。ここまでが第1幕となります。なお、あらすじ中の曲名は仮の曲名ですから、変更可能です」
バービレが質問をする。
「ヒロインの役は誰がやるニャン?」
「私は、アイーダ様とバービレ様のダブルキャストを考えています」
「だったら、猫耳が小さくて、ニャン語自動翻訳機能付きをオフにできる変装用魔導具を買っておくニャン。それで男爵令嬢の役は?」
その質問にはアイーダが答える。
「美少女隊のリリーさんでどうかしら? もう1人は美少女隊のどなたかで」
「美少女隊にピッタリの役ニャ。ビキニ水着を着てもらうニャン」
「そうよね、いい案だわ。じゃあレア、第2幕のあらすじをお願い」
「はい。場面は公爵領のカントリーハウスです。王都から帰って来た公爵令嬢から話を聞いた公爵は、怒り狂います。しかし、公爵令嬢は領地から川を渡るだけの土地、帝国に行くからいつでも会える。
アイドル歌姫活動で稼いだたくさんのお金が商業ギルドに貯金してあるから、生活には困らないと公爵を宥めます。そして、専属侍女と2人で美味しいバラのお菓子を売る生活はきっと楽しい、と『明るい未来の歌』を歌います。ここで場面が変わります」
レジェラが質問する。
「どうしてバラのお菓子なのかしら?」
「ミュージカルを観たお土産として、売るためです。メイドスキル『スイーツの恵み』を持つアマルさんにお願いして、いくつか試作品が出来ています。バラのクッキー、バラのケーキ、バラの入ったゼリーなどです。
お菓子以外にもバラのジュース、ローズシロップ、ローズウォーター、バラの入浴剤なども考えています。今日はバラのクッキーとバラのジュースを召し上がってください」
会議室のドアが開き、バラのクッキーが盛られた皿を乗せたワゴンを押すアマルとバラのジュースの入ったコップを乗せたワゴンを押すパシファが入って来て配膳する。フェネが一口クッキーを食べて感想を口にする。
「とても美味しいです。私、このクッキーが好きです」
プレヤが口一杯にクッキーを頬張って言う。
「おいひいよ。もっとたくひゃん食べたひ」
イスリがパクパク食べて、予想する。
「このクッキーは絶対売れます。間違いありません」
それを聞いたレアがニッコリして答える。
「では、食べながら続きを聞いてください。場面は帝都の大通りです。屋台の前で『バラのお菓子の歌』を公爵令嬢が歌い、専属侍女がお菓子を売っています。歌とお菓子の匂いに引き寄せられて、お菓子は飛ぶように売れます。
そこに歌好きの帝国の侯爵令嬢を乗せた箱馬車が通りかかります。侯爵令嬢もお菓子と歌に魅入られてしまい、公爵令嬢に話しかけます。話をしているうちに、公爵令嬢が王国のアイドル歌姫であることに気づきます。
そして、客として侯爵令嬢のタウンハウスに滞在して、帝国の音楽コンクールに出場するように説得します。一方、侯爵令嬢は婚約者の王太子を通じて、第3皇子に、音楽コンクールを観に来るよう進言します。
こうして、帝国の音楽コンクールに出場した公爵令嬢は、当然優勝します。帝国の商会からの魔音盤発売も決定します。コンクールを観た第3皇子は公爵令嬢に一目ぼれして、交際を申し込みます。公爵令嬢は悩みますが、侯爵令嬢のアドバイスもあり、交際をすることに決めます。ここまでが第2幕です」
バービレが質問する。
「侯爵令嬢の役は誰がやるニャ?」
「レジェラ様を考えています。もう1人は未定です」
レジェラが答える。
「お受けしますわ。もう1人も私の友人に心当たりがあります」
「では、お願いします。次に第3幕のあらすじです。場面は帝国、大きなお屋敷の公爵令嬢の部屋です。いくつかの困難があったものの、それを乗り越えて公爵令嬢は第3皇子と結婚します。
第3皇子は臣籍降下して、帝国の公爵となります。もらった領地は公爵令嬢の父の領地と川を挟んだ隣の領地でした。良い領地でしたが、まだ開墾されていない原野も広かったのです。
公爵令嬢は設立したお菓子販売の商会の経営も、魔音盤の売り上げも順調でしたが、この原野のことがもったいないと思っていました。でも開墾するには領民の数が少なかったので、どうしようもありません。
一方、王国では長い間アイドル歌姫の新曲が出ないことに、不満を持っているファンが大勢いました。ある日、そのファンたちの間に噂が流れだします。アイドル歌姫の正体は公爵令嬢で、王太子の婚約者だったけれども、婚約破棄をされて、国外追放になったと。
ファンたちが調べてみると、隣の帝国ではアイドル歌姫の魔音盤が発売されていて、噂は真実であることがわかりました。そして、アイドル歌姫は、現在帝国の公爵の第1夫人として、帝国の公爵領で暮らしていることも明らかになったのです。
ファンたち、特に若い娘たちは、もうこんな国には住めないと帝国公爵領に移住します。すると、その後を追って若い男たちも次々と移住を始めました。その結果、帝国公爵領は開墾が進み、たくさんの農作物が収穫できるようになりました。
王国は、若い労働人口が激減して農作物の収穫量も激減。飢える人たちが増え、各地の領主たちは困ってしまいます。そして、ついに領主たちの反乱が起こり、王家を追放します。公爵令嬢の父、公爵が新しい国王になります。
公爵令嬢は、王国に食料支援をして王国を救います。その後、公爵令嬢は幸福に暮らし、子どもにも恵まれます。これまでの人生を振り返って、公爵令嬢が『私の生きてきた道』を歌って、幕が閉じます。以上が『ミュージカル 歌姫公爵令嬢』のあらすじです」
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全員からレアに拍手が送られた。ミュージカルの脚本として合格点をもらえたようだ。代表してアイーダが誉める。
「いいストーリーだわ。きっとお客様にも満足して頂けるわ。セリフなども考えて脚本を完成させてね。『喜びの歌』と『感謝とお別れの歌』、『明るい未来の歌』は私が作るわ。『バラのお菓子の歌』はフェネにお願いね。『My Way』はお母様方にお願いして、他の曲は、脚本が完成してから考えるわ」
「お姉様、『バラのお菓子の歌』はお任せください。きっとバラのお菓子が食べたくなる曲を作ってみせます」
「頼んだわよ。期待しているからね。さて、誰か他に話し合いたいことはあるかしら?」
誰からも反応がない。アイーダは全員を見回してから宣言した。
「今日のアースクイーン会議を終わります」
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