第4話 傭兵団の本拠地
翌朝、11人が集まっている部屋に、落ち着いたアースの声が響く。それを聞いている者たちは緊張気味である。。
「今日はこれから傭兵団討伐に行く。森の中に入ったら、ピエトーラとアニマ、レア、トルリは、フェネとヴェーヌ、パシファの傍から離れないように。フェネはいつでも結界を張れるように準備しておくこと。先頭はプレヤとセルク、最後はアイーダと俺の順で進む。ここまでで、質問はあるか?」
誰も質問をしないので、アースは続ける。
「傭兵団に関することを発見したら、その場で臨機応変に指示する、いいな」
それに全員がコクコクする。宿では大きな声が出せないのだ。
「よし、出発だ」
アースの号令で、宿から箱馬車2台に乗り込み出発する。
*
2台目の箱馬車の中で、トルリがフェネに尋ねる。
「魔法を使うためには、魔力が必要なのはわかったわ。そして、魔法を発動するには、集中して念じて、詠唱するのね」
「そうよ、自分の保有魔力量を増やすには、十分な睡眠と栄養のバランスが取れ
た食事とトレーニングが必要なの」
「あのホッペチューは必要ないの?」
「ホッペチューは特別。アイーダ様の許可をもらった者だけが受けることがで
きる特別な儀式なの。毎朝ホッペチューを受けると、保有魔力量が少しずつ増え
るの」
「だったら、私も毎朝受けたいわ。私には使えるようになりたい魔法があるの。
『雷神』って魔法が使えるようになりたいの」
「初めて聞く魔法だわ。どんな魔法なの?」
「わからない。お母さんから言われたの、『あなたには雷神というを使える血が流れている』。でも、それがどんな魔法なのか、教えてもらう前、1年前にお父さんとお母さんは行方不明になったの」
「えっ、行方不明ってどういうこと?」
「私の両親は冒険者だったの。いつも言われていたわ。『冒険者だから、いつ家に帰って来なくなるか、わからない。もし1ヵ月の間、私たちが帰って来なかったら妹を連れて孤児院に行きなさい』って」
「妹さんはどこにいるの?」
「ポラン王国の首都シャルワの孤児院。『マズルカ』って名前の孤児院よ。必ず迎えに来るから、ここから離れたらダメって言ってあるし、まだ6才だから、そこにいるはずよ。迎えに行って、妹と一緒に住みたいけど、ダメかな?」
「きっと大丈夫よ。私たちも一緒にお願いしてあげるわ。それで両親が冒険者だったら、トルリは何か武器の使い方を習っていたの?」
「うん、剣を教えてもらっていたわ、88流剣術よ。両手に剣を持って戦う剣の流派なの」
「88流って、あっ、ひょっとして鍵盤の数が88鍵のピアノだけ弾けるのと関係あるの?」
「それは知らないわ。でも鍵盤数が88鍵のピアノ以外は全然弾けないわ」
トルリが悔しそうに言うと、フェネがトルリの肩をポンポンと叩く。そんな会話を聞いていると、箱馬車が止まった。箱馬車の窓から外を見ると、城壁の門の外に出るための馬車の行列ができていた。
*
城壁の門を出てから、10分ほどして箱馬車を止めた。俺とヴェーヌで先頭の箱馬車の御者の所へ行き、ヴェーヌが詠唱する。
「星魔法 はと座」
青い鳩が現れて、上空で旋回を始めた。俺は御者に指示する。
「あの青い鳩の後を追いかけてくれ。鳩が旋回を始めたら馬車を止めるように」
「わかりました」
ヴェーヌが鳩に指を向けて、クイと手を振ると鳩はゆっくりと前に飛び始めた。俺とヴェーヌが箱馬車に戻ると、箱馬車は進み始めた。しばらくすると、箱馬車は止まった。外に出て空を見上げると、鳩が旋回していた。
俺は、御者2人を呼んで指示をする。
「ここで待っていてくれ。もし、お昼まで、これから3時間待っても俺たちが帰らなかったら、ドウパの街に帰ってくれ」
「馬車のレンタル料金を明後日の分まで、先払いで頂いておりますが?」
「それは構わない。こちらの都合での打ち切りだから」
「わかりました。では、これから3時間ここでお待ちしております」
打合せ通りの順で、プレヤとセルクを先頭に、青い鳩の後に続いて森に入る。木の密度は高くない。アルタイルの森と比べると、葉が広い木が多い。やはり、気温が高い土地なのだろう。
「あれは薬草かしら? 薬草図鑑で見たことがある気がするわ」
「そうね、私も見たことがあるわ」
フェネとアニマの会話が聞こえたので、先頭を行くプレヤに声をかける。
「プレヤ、止まってくれ」
「はいアース様。何でしょうか?」
「珍しい薬草があるらしい。フェネ、アニマ、少しだけ採取していいぞ」
フェネとアニマが嬉しそうに、2,3枚ずつ薬草を採取してから、再び進む。しばらくすると、遠くでガサガサ音がした。そちらの方を見ると黒い影がすばやく動くのが見えた。
「プレヤ、セルク、剣を抜け。フェネ、結界を張れ。アイーダ警戒しろ。魔獣や危険な動物の気配を感じたら、迷わず攻撃しろ」
フェネが詠唱する。
「バリア オン」
結界が張られて、プレヤ、セルクが剣を手にしている。アイーダが詠唱する。
「水魔法 氷針乱舞」
無数の氷の針が草むらに向けて飛んでいく。すると、魔獣が消滅する時の煙が3つ立ち上る。プレヤが叫ぶ。
「アース様、ヤマネコ型魔獣です」
プレヤの方を見ると、プレヤとセルクが6体のヤマネコ型魔獣と向き合っている。ヤマネコ型魔獣の3体が鋭い歯を剥き出しにしてプレヤに、3体が足の鋭い爪をキラリと光らせてセルクに飛びかかる。
プレヤは無造作に剣を振り、セルクは身体を少し斜めに構えて剣を振り、それぞれ3体のヤマネコ型魔獣を煙に変えた。見事な剣の腕だ。
木の上に魔獣の気配を感じたので、俺は詠唱する。
「風魔法 風球乱舞」
木の上で、こちらのスキを伺っていた10体のヤマネコ型魔獣が煙になって魔石を落とした。周囲から魔獣の気配が消えたのを確認して、フェネに言う。
「フェネ、結界を解除していいぞ」
フェネが結界を解除して、プレヤとセルクが剣を鞘に戻す。
「アース様、せっかくですから、魔石を拾わせてください。速くC級冒険者になりたいので」
「ああいいぞ。ただ周囲への警戒は怠るな」
『星とバラの妖精』たちは魔石を拾い始めた。俺とアイーダが、周囲の警戒をしていると、トルリが尋ねてきた。
「さっき、フェネが使った結界は何の魔法ですか?」
「音楽魔法の一種かな? 詳しい事はよくわからない」
「音楽魔法? う~ん、どこかで聞いたことがあるような気がするわ」
それを聞いたアイーダが言う。
「音楽魔法を見せてあげるわ。よく見ていて」
そして、詠唱する。
「黄金のクラーフル アウト」
次に現れた横笛を口に当てて、詠唱する。
「音楽魔法 鳥の歌」
アイーダが横笛の演奏を始めると、たくさんの鳥が森のあちこちから集まって来る。そして、静かに横笛の演奏を聴いていたが、演奏が終わると鳥たちは飛び去った。トルリは、しばらく口を開けてポカーンとしていたが、ハッとして言う。
「凄~い、凄いわ。私も音楽魔法が使えるようになりた~い」
「もし、あなたが音楽魔法一族の者なら、修行すれば音楽魔法を使えるようになるわ。頑張って修行してみて」
アイーダがトルリを励ましていると、ヴェーヌから声がかかった。
「お兄様、魔石集めが終わりました」
「よし、出発だ。これまで通りの順番で進むぞ」
再び歩き出して10分ほどっすると、視界が開けて青い鳩が数回旋回して消えた。100メートルほど先に砦が見える。高さ5mほどの丸太を縦に並べて壁を作っている。しかし、門であったと思われる場所には、大きな穴があいている。
砦の前の地面には、多くの矢と魔石が落ちている。魔獣と傭兵団の間で戦いがあったのだろう。大穴が開いているという事は、魔獣が砦の内部に突入したということだ。砦の中の状況を知りたい。ヴェーヌとプレヤに指示する。
「ワシで砦内部を偵察する。ついて来い」
「「「星魔法 わし座」」」
俺たち3人はワシに乗り、空に舞い上がって砦の上空に達する。砦の中には木造の建物が3つほどあったが、すべて破壊されている。そして、20人ほどが地面に倒れている。動き回っているのは、魔獣だ。ウシ型魔獣だ。体長3メートルのウシ型魔獣が1体、体長2メートルのウシ型魔獣が20体。俺は指示を出す。
「ヴェーヌ、プレヤ、あのデカイ奴以外を討伐するぞ」
「「はい」」
ワシが飛び回り、火魔法が飛び交い、3分ほどで大型以外のウシ型魔獣は煙に変わった。
「アース様、あの大型魔獣はどうするのですか?」
「俺はいったんアイーダの所へ戻る。手を振って合図をしたら、俺の方へ追い出してくれ」
「「はい」」
俺はアイーダの所に戻り、詠唱する。
「星魔法 ペルセウス座の剣」
そして、アイーダに頼む。
「お土産に買った赤い布のムレータを出してくれ」
自分のお土産用に買った赤い布のムレータを、携帯魔法で出してくれたアイーダにもう1回頼む。
「ウシ型魔獣が現れたら、あの曲を演奏してくれ」
「わかりました。あの曲ですね」
次にフェネに指示する。
「念のため、みんなを集めて結界を張ってくれ」
フェネが結界を張ったのを確認して、砦の前に進み、ヴェーヌたちに手を振る。砦の中で火魔法がさく裂する音が聞こえて、少しすると砦の中からウシ型魔獣が現れた。アイーダが『闘牛士の歌』の演奏を始める。
俺は左手に持った赤い布のムレータをヒラヒラ揺らしてウシ型魔獣を挑発する。ウシ型魔獣は前足で地面を削って、突撃準備をする。そして、頭を下げて角で俺を刺そうと、突進してきた。
あわやの所でウシ型魔獣の突進をかわす。身体がいつもより軽い。アイーダの演奏のおかげか? ウシ型魔獣は再び突進してきた。1回目を飼わされた怒りのせいか速い。これも軽やかにかわす。
その後、2回ウシ型魔獣の突進をかわした。次の3回目、かわすと同時に右手に持った剣でウシ型魔獣を刺すと、ウシ型魔獣は煙になって消えた。アイーダたちの歓声があがる。うん、闘牛士気分を十分に堪能した。
「アイーダとセルクは俺について来い。残りの者は、周囲を警戒しながらここで魔石を集めろ」
砦の中に入り、倒れていた20人の傭兵の様子を見て回った。全員気絶しているだけだ。アイーダの携帯魔法でロープを出してもらい、手足を縛る。大きいケガをしている者はセルクの回復魔法で治療する。その処置が終わってから、魔石を集め終わったヴェーヌとプレヤに指示する。
「ワシで騎士団の本部へ行って、この件を知らせて来い。場所は城壁から出た道の途中で待っている箱馬車の御者が知っている、と伝えろ。伝えたらすぐに帰って来い。俺たちは箱馬車の所で待っている」
「「はい」」
2人が飛び去った後、詠唱する。
「星魔法 おおいぬ座5体」
現れた体長3メートルの大犬5体に分乗して、箱馬車の所へ急ぐ。5分ほどで箱馬車の手前に到着したので、大犬を降りて歩いて箱馬車に向かう。
「お帰りなさい、旦那」
「ああ、傭兵団の根拠地を発見して、傭兵団を捕らえたぞ」
「えっ、本当ですか?」
「本当だ。それで頼みがある。城壁への道まで馬車を移動して、騎士団を待っていてくれ。騎士団が来たら、ここまで案内してくれ。傭兵団の根拠地はここから森の中を真っ直ぐ歩いて30分の場所だ」
「わかりました」
「その後はドウパの街に帰ってくれ。残りのレンタル料は口止め料だ。俺たちのことは黙っていてくれ」
御者たちは、ホクホク顔で箱馬車を移動させて行った。すぐにヴェーヌとプレヤが帰ってきた。
「騎士団はすぐに、こちらへ向かうそうです」
「ご苦労だった。さあ、みんな、帰るぞ」
白鳥に乗って、たくさんの思い出とお土産と共にアルハンブラ地方を後にした。
お読みいただきありがとうございます。
いいなと思ったら、評価等お願いします。
毎週火・金の午後6時に投稿予定です。
参考
「鳥の歌」 スペイン・カタルーニャ民謡
「闘牛士の歌」 歌劇カルメン中の歌 作曲 ビゼー




