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第3話 アクアク傭兵団

それを聞いた座長のトラバルさんは、旅の一座の方へ走って行った。俺たちも後を追う。見ると緑と茶色のまだら模様の戦闘服で揃え、同じデザインの防具を身につけた傭兵10人が剣や槍を手に持ち、旅の一座の人たちの前に立っていた。俺は、途中でヴェーヌとレアを近くに呼び寄せて指示する。


「傭兵が暴力に訴えそうになったら、奴らの前後に高さ3m、厚さ30cmの土壁を俺が作る。そうしたら、ヴェーヌは右に、レアは左に同じ高さで土壁を作れ。傭兵たちを閉じ込めるのだ。できるな?」


「「はい」」


ヴェーヌが続けて質問する。


「お兄様、公園の入り口にもう1人傭兵がいます。あれはどうしますか?」

「放置だ。逃げるようなら、鳩に後をつけさせろ」

「わかりました」


傭兵たちの前に行った座長のトラバルさんの声が聞こえる。


「私たちは、騎士団に公園の使用について申請書を提出して、許可をもらっています。嘘ではありません」

「騎士団は関係ない。ここは俺たちアクアク傭兵団の縄張りだから、俺たちに借地料を払う決まりなんだ。つべこべ言わずに借地料の金貨1枚を払え。そうしないと、痛い目をみることになるぞ」


「お断りします。それが我々旅の一座総本部の決まりですので」

「なにー、痛い目をみないと分からないのか、あー」


傭兵たちが剣を抜き、槍を構えたので、俺は詠唱する。


「土魔法 土壁」


傭兵たちの前後に高さ3mの土壁がせり上がる。すぐに後ろから詠唱の声がする。


「「土魔法 土壁」」


ヴェーヌとレアだ。傭兵たちの前後左右に土壁が現れる。これで傭兵たちは土壁の中に閉じ込められた。呆気にとられている座長のトラバルさんに話しかける。


「誰かを騎士団本部へ走らせてください。アクアク傭兵団の者10名を捕らえたと知らせてください」


トラバルさんは、我に返ると後ろを振り向いて、少年に指示を出す。


「レグ、聞いていたな、騎士団に走れ!」


「はい、座長。急いで行ってきます」


すぐに少年は走り去った。その間も閉じ込められた傭兵団は土壁を、剣で切り付けたり、槍で突いたりしている。しかし、俺たちの土壁はビクともしない。それから20分ほどは、ドスドスと音がしていたが、やがて静かになった。


しばらくは静かにしていた傭兵たちだが、今度は大きな声で怒鳴り始めた。出せーとか、覚えてろー、とか怒鳴っていたが、10分ほどしたら何も聞こえなくなった。たぶん疲れたのだろう。代わりに聞こえて来たのが、多くの馬の蹄の音だ。騎士団が到着したらしい。


30名ほどの騎士団の中から、大柄で屈強そうな男が俺たちの方へやって来て尋ねた。


「私はこの街ナダグラの騎士団団長のタルクです。捕らえたアクアク傭兵団の者はどこでしょうか?」

「この土壁の中に10名ほど捕らえてあります」


俺が答えると、その男は一瞬、驚いた表情をみせたが、すぐに冷静さを取り戻したようで、土壁を触ってから言った。


「この土壁は土魔法で作ったものですね。魔法を解除して崩してもらえますか? そうすれば、我々騎士団がアクアク傭兵団を捕らえますので」

「では、この土壁を崩しますから、捕らえる準備をしてもらえますか?」


俺が土壁の一つの面をポンポンと軽く叩きながら言うと、騎士団長は部下に指示して、準備を整えた。そこで俺は詠唱する。


「土魔法 土壁崩壊」


一つの壁が崩れ落ちて、閉じ込められていた傭兵たちの姿が現れる。傭兵たちは突然なくなった土壁に唖然としていたが、そこに剣や槍を構えた騎士たちがいるのを見て、ガックリとうなだれた。騎士団長の声が響く。


「お前たちはアクアク傭兵団だな。逃げられないから観念して武器を捨てろ。両手を上げて一人ずつこちらに来い」


傭兵たちは剣や槍を地面に置いて両手を上げた。そして、一人ずつ出て来た。騎士たちは、それを縛り上げる。やがて、傭兵全員が縛られて、連れて行かれた。それを見届けた騎士団長がアースに言う。


「協力に感謝する。あなた方は観光客かな?」

「はい。闘牛などを見物して、旅の一座のミュージカルを楽しんでいたのですが、傭兵団がやって来て、旅の一座を脅したのでビックリしました」


「そうか、以前からアクアク傭兵団は悪事を働いていて、困っていたのだ。本拠地は城壁の外の森にあるらしいのだが、場所が分からなくて、なかなか捕らえられないのだ。今回10名を捕らえることができて助かった、感謝する。では、この街を楽しんでくれ」


そう言うと騎士団長は立ち去った。すると、それまで黙っていた座長のトラバルさんが、話しかけて来た。


「ありがとうございます。あのような者たちはどこの街にもいて、困っているのです。旅の一座総本部から、彼らの要求には決して応じてはならないと、通達も出ているのです」


「旅の一座総本部とは、何でしょうか?」

「コチェ王国の王都にあって、多くの旅の一座が加入している組織です。情報の取りまとめや旅の一座への公演依頼の受付、連絡をしています」


「そうなのですか。知りませんでした。ところで、先ほど話されかけていた、トルリの事情とは何でしょうか?」

「それについては、少しお待ちください」


座長のトラバルさんは、一座の座員たちの方を向いて叫んだ。


「おーい、お前たち、寝る準備を始めろ」


俺は、子どもたちの方を見る。アイーダとピエトーラが見守っている中で、


「さっきの、ドドドッて土が盛り上がって壁が出来たのは魔法なの?」

「そうよ。土魔法の土壁って言うの」


子どもたちはもう仲良くしている。しばらく放置しても大丈夫と判断して、アイーダとピエトーラを手招きする。トルリの世話をしたり、相談相手になるであろう、この2人にも話を聞いて欲しいからだ。周りに誰もいなくなったのを確認して、座長さんが話始めた。


「コチェ王国の東隣にポラン王国という小国があります。そのポラン王国の王都のシャルワで公演していた時です。トルリがこの一座で雇って欲しい、と言ってきたのです。一見して子どもだと、分かるので親の承諾が必要だと言ったら孤児院に案内されました。


孤児院の院長の話では、トルリの両親は冒険者だったのですが、1年前に行方不明になったらしいのです。それで孤児院に預かることになった。15才まで預かる予定だったのだけど、孤児が増えすぎて、年長の者から孤児院を出て行くように自然になってしまった。


トルリも最年長になったので、孤児院を出て行こうとしているのだろう、との事でした。我々もギリギリの経営だったので、1年間の約束で預かることにしました。でもトルリはまだ12才です。どうか、トルリをよろしくお願いします」


座長のトラバルさんは深く一礼する。それにアイーダが答える。


「頭を上げてください。トルリは、私たちがしっかり預からせてもらいます。安心してください。それでは、1ヵ月後にお待ちしています」

「ありがとうございます。では、1ヵ月後に必ずお伺いします」


その会話を最後に、俺たちは公園から宿へと帰った。



宿でアイーダと部屋で寛いでいると、セルクがやって来た。


「アース様、少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ああいいぞ。何の話だ?」

「あの傭兵団のことです。着ていた戦闘服と防具に見覚えがあるのですが」


「俺も見覚えがあるぞ。たしか、ギルベ男爵領で捕らえた酒の密輸グループの傭兵たちと同じだな」

「私もそう思います。あの時、父も調べたのですが、対となる転移陣を閉ざされてしまって、結局何も分からなかったのです」


「これは是非とも、傭兵団を捕らえなければならないな」

「はい、お願いします。私も精一杯頑張ります「


トントントン


ノックの音がして、ドアが開きヴェーヌが入って来た。


「お兄様、逃げた傭兵の後を追跡させた鳩が帰ってきました」

「そうか、それで傭兵団の本拠地は分かったのか?」

「はい、城壁の外の森の中にあったようです」


「では、今日はもう遅いから、明日傭兵団討伐に行くとするか」

。「はい、この国に来てから剣を振っていませんでしたから、腕がなります」


その頃、フェネとパシファとレアとトルリの部屋では3人が話をしていた。


「えっ、フェネとパシファとレアも魔法が使えるの?」


トルリが驚いて言う。そして、羨ましそうな表情をする。フェネが尋ねる、


「トルリは魔法が使えないの?」

「使えないわ。水魔法を詠唱しても、手のひらが少し湿るだけなの。お父さんもお母さんも水魔法が使えるのに、私は使えないの。だから、水魔法を使えるようになりたいの」

「手のひらが湿るなら大丈夫。お付メイドのアナンさんたちも、その状態から水魔法が使えるようになったらしいから」


「本当? それで、どうすれば魔法が使えるようになるの?」

「アース様にホッペチューしてもらうの、それだけよ。フフフ……」

「信じられないわ。」

「じゃあ、試してみましょう。さあ、アース様の部屋に行くわよ」


フェネはトルリの手を取り、アースの部屋に向かう。そして、アースにお願いする。


「アース様、トルリにホッペチューしてもらえませんか? トルリが魔法を使えるようにしたいのです」

「アース様、ホッペチューしてあげてください。これは必要なことです」


アイーダにも言われて、俺はトルリにホッペチューしようとして頭を両手で挟む。トルリは黙って目を閉じた。少し微笑んでいるように見える。唇がホッペに触れると、トルリは頬を赤らめてうっとりとした表情になった。少しの間、フェネは待っていたが、すぐにトルリの手を取り、ヴェーヌ、セルクと共に部屋に帰った。


部屋に帰ると、すぐにフェネはトルリを浴室に連れていく。トリルは、まだ夢を見ているような様子だ。フェネが身体を揺さぶると、トリルはハッとして言う。


「あの甘い味は何なの? とても甘くて、気持ち良い味、もっともっと味わいたいわ」

「それが魔力よ。魔力が身体の中にたっぷりあると、魔法が使えるの」


フェネが教えると、トリルは嬉しそうに言った。


「そうなのね。じゃあ、今、私は魔法が使えるのね」

「そうよ、浴槽の上で手のひらを下にして、手のひらから水が出る様子を強く想像して、『水魔法 水流』って詠唱して」


トリルは言われた通りにして、しばらく目を瞑ってから詠唱した。


「水魔法 水流」


すると、浴槽の中に水が流れ落ちて、浴槽の半分ほど溜まった。トリルは目を大きく見開いて固まっていたが、右手で拳を握って上に突き上げて叫んだ。


「やった~~~、水魔法が使えた~~~」


トリルは、フェネに抱きついて喜ぶ。時間が少し経って、落ち着いたトリルがフェネに尋ねた。


「もう1回試してみるわ」


そして、試してみたが今度は水流は出なかった。肩を落としてトリルが呟く。


「さっきのはマグレだったのかしら?」

「いいえ、アース様から頂いた魔力が無くなっただけよ。また、身体に魔力が溜まれば魔法が使えるわ」


フェネが教えると、トリルが慌てて言う。


「じゃあ、もう1回ホッペチューを……」


トリルの言葉をヴェーヌが遮った。


「ダメよ。今日はもう寝るのよ。続きは明日にしなさい」



お読みいただきありがとうございます。

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参考

2作目 『音楽魔法使いの少女は第一夫人の座を目指す』第8話ギルベ男爵領参照。


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