第7話 海戦が終わって (第二章最終話)
プトーシェ帝国の帝都リアビの大通りのレストランの最上階個室。その個室で40代の黒髪緑目の男が1人。そこに30代と思われる赤髪青目の女が入って来る。
「ガイ先輩、お待たせしました」
「おう、そんなに待ってないぞ。気にするな」
「はいはい、注文はどうします?」
「もう済んでいる。ガコウ、お前もビールでいいな?」
「はい、いつものように、ビール。ジョッキでお願いします」
そこに、テンプラが山盛りになった大皿を持った給仕と、ビールの入ったジョッキ2つを持った給仕が入って来てテーブルに置いた。
「これでご注文はすべてでしょうか?」
「ああ、全部揃っている。」
ガイが答えると、給仕たちは一礼して部屋を出て行く。すると、ガイは鞄から盗聴防止の魔導具を取り出して、スイッチを入れた。
「今日は仕事の話をしながら食べようぜ」
「はい、それで、こちらの国の艦隊の様子はどうでした?」
「ひどい有様だ。主力艦の戦艦2隻、空母2隻、重巡洋艦4隻は沈められて、帰って来たのは、駆逐艦12隻だけだ。その半分が損傷している」
「その状況だと帝国海軍は壊滅ですね。それで、2体のグレイキュラドラは海戦で煙になりましたが、残りのブラックキュラドラは?」
「駆逐艦が帰って来た日の夜、北東の方向に飛んで行った。星魔法の鳩で追跡させたが、途中で見失った」
「北東の方向というと、我々の大陸の東部でしょうか?」
「たぶんな。今度はそちら方面の諜報員が大変になる」
「そうですね。我々は楽になりますが」
「そうだな。さあ、どんどん食べようぜ。今日は祝勝会だ」
*
ソーミュスタ王国ペイン伯爵領の海軍病院の一室。
患者がイスに座っている。アイーダとピエトーラ、バービレが少し離れて立ち、横笛とヴァイオリンの演奏準備を整えてから、アイーダとピエトーラが詠唱する。
「「音楽魔法 聖女たちのララバイ」」
横笛とヴァイオリンの二重奏で、子守歌のようなやさしい曲が流れる。次にバービレが両手の手のひらを座っている男にに向けてから詠唱する。
「回復の光」
患者の身体が光に包まれる。曲が終わるまで光続ける。音楽魔法と回復魔法の共鳴だ。横笛を口から離したアイーダが患者に訪ねる。
「気分はどうですか?」
「スッキリしました。これまでの陰鬱な気分がなくなりました。ありがとうございます」
それを聞いていた病院の院長が、感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございました。これで患者は全員完治しました。素晴らしい魔法です。曲名中のララバイとは聴き慣れない言葉ですが、どのような意味でしょうか?」
「子守歌という意味です。語源は古い言葉の呪文『悪霊リリスよ、去れ』です」
アイーダの返答に院長は、目を丸くして驚き、それからコクコクして言う。
「悪霊を追い払う曲だったのですね。なるほど、なるほど」
「はい。でも、それだけではありませんが」
「そうですか。いずれにせよ、患者さんが回復したのは素晴らしい事です」
*
翌日午前10時、雲一つない快晴の下、戦勝祝賀式典が行われる王国立公園内の陸上競技場は、10万人の観客でスタンドは埋め尽くされていた。競技場内に『双頭の鷲の旗の下に』の曲が流れると、東の空から、陸上競技場の上空目指してV字編隊を組んだ5羽のワシが飛んで来る。先頭のヴェーヌは青色の煙を出す煙玉を吊り下げている。
2番機のプレヤは緑色の煙を出す煙玉を、3番機のピエラは赤色の煙を出す煙玉を、4番機のクレモラは茶色の煙を出す煙玉を、5番機 ミュレは白色の煙を出す煙玉を吊り下げている。
5本の平行な直線が、陸上競技場の上空に達すると扇状に分かれる。そして、次は、五角形の頂点の位置に5つのハートマークが描かれる。その後、5羽のワシは垂直上昇をしてから散開した。咲いている花を描いているのだ。
それを最後にブルーイスカは西の空へ飛び去った。競技場内に『威風堂々第1番』の曲が流れる。国王陛下登場のテーマ曲である。観客は全員起立する。国王陛下が最上階の貴賓席に着席されると、曲も終わり観衆も着席する。この国の慣習である。
続いて競技場内に流れ始めた曲は『無敵の鷲』。競技場入場門から、星魔法軍団長アースを先頭に、星魔法軍団航空軍が行進して来る。全員晴れやかな表情だ。彼らに大きな拍手が送られる。曲が『軍艦行進曲』に変わった。
先頭を行進しているのは、サンブック連合艦隊司令長官。その後に王国海軍の将兵が続く。彼らも誇らしげに胸を張って行進している。こちらにも盛大な拍手が送られる。行進する一団が競技場を一周して、貴賓席前に整列すると、司会者が宣言する。
「これより、ドッミ島沖海戦勝利の戦勝祝賀式典を開会します。第二国歌『二人の英雄』斉唱。歌唱するのは『コラール』のみなさんです」
『コラール』が美しい合唱で『二人の英雄』を歌い上げる。それが終わると、司会者が進行する。
「国王陛下のお言葉」
国王が席を立ち、集音の魔導具の前に進み、話し始める。
「今回、南の海、ウサス海の向こうのプトーシェ帝国が、我が国の侵略を企てた。差し向けた戦力は、空母2隻を中心とする1個艦隊と戦艦2隻を中心とする1個艦隊。我が国は祖国防衛のために、これらをドッミ島沖で戦った。
空母を中心とする敵艦隊は、星魔法軍団航空軍が迎え撃ち、敵空母を2隻とも沈めて勝利した。戦艦2隻を中心とする敵艦隊は、海軍の連合艦隊が応戦して、敵戦艦2隻、重巡洋艦4隻を沈めて、追い払った。国民よ、星魔法軍団航空軍と連合艦隊の勇者たちに惜しみない拍手を」
競技場全体から、いつまでも盛大な拍手が送られる。
「星魔法軍団航空軍を代表してアース軍団長に、連合艦隊を代表して、サンブック連合艦隊司令長官に勲章が授与されます」
拍手が収まるのを待って、司会者が進行する。『見よ、勇者は帰る』の音楽が流れる中、アース軍団長とサンブック連合艦隊司令長官が、階段を登り国王陛下から勲章を授与された。
その後、英雄たちは陸上競技場を出て、沿道を埋め尽くす人々からの紙吹雪や歓声の中を中央転送ステーションまで、音楽隊を先頭にパレードをするのであった。
*
赤いバラの屋敷の玄関前にドレス姿のブルーイスカの5人が揃っていた。
「王都の空を鷲に乗って飛び回るって気持ち良かった~~~」
プレヤの言葉に、ピエラとクレモラが同意する。
「そうよね。きっと王都の人たちみんなが見てくれたと思うわ」
「風が無くて、きれいに絵が描けて良かったですわ」
少し不満そうにミュレが続く。
「でも、私たちも戦勝祝賀式典に出たかったです」
ブルーイスカが式典に出席できなかったのが残念なのだろう。それを聞いたヴェーヌが宥める。
「だから、今日はお茶会に招待されたのよ」
そこに箱馬車がやって来たが、御者は降りてしまう。それを確認して、ヴェーヌが詠唱する。
「星魔法 ぎょしゃ座」
現れた御者を見て、クレモラがヴェーヌに尋ねる。
「一体どこへ行くのでしょうか?」
「行けばわかるわよ」
箱馬車に乗った一同が、転移して現れた場所はステラ家前の転移陣だった。警備隊の隊長が、箱馬車に近づいて来て挨拶をする。
「お帰りなさい、お嬢様。第一夫人がお待ちかねです。どうぞ、お入りください」
それを聞いたピエラとクレモラ、ミュレは、驚きのあまり固まってしまう。固まったままの3人といつも通りのヴェーヌとプレヤを乗せた箱馬車は玄関に到着した。ヴェーヌとプレヤが3人を柔らかくして、ステラ家第一夫人の待つ前庭に案内した。
「お母様、ただいま帰りました」
「おば様、今日はお招きいただきありがとうございます」
ヴェーヌとプレヤは普通に挨拶をするが、残りの3人はピキーンと固まってしまって、ぎこちない。
「は、は、初めまして、な、な、南部方面軍のエンケ伯爵家3女のピエラです」
ピエラは、カーテシーはちゃんとできたが、言葉がスムースに出なかった。
「初めまして、……東部方面軍のブルック伯爵家4女のクレモラです」
クレモラは、きれにカーテシーができたが、自分の家の所属を一瞬思い出せなかったようだ。
「初めまして、あっ、……北部方面軍のダレス伯爵家5女のミュレでございます」
ミュレは、途中でカーテシーが崩れそうになってしまった。
「初めまして、ステラ家第一夫人のモント フォン ステラよ。みなさん、緊張されているようね。どうぞ、席にお座りになって。気楽になさって頂戴」
そこに、メイドたちがお茶とお菓子を持ってきた。第一夫人が紹介する。
「お茶はロンセイ公国産の茶葉で入れてあります。若い人向けの茶葉ですわ。お菓子は、いろいろなフルーツをゼリーで包んだ美味しい一品よ」
そう言って第一夫人はお菓子を少しスプーンで取って食べ、お茶を一口飲む。それを見て、5人もお菓子をスプーンで食べる。
「美味しい!」「こんなお菓子食べたことないわ」「感動の味よ」
3人が口々に言う。緊張が溶けたようである。第一夫人が話しかける。
「みなさんコンドル型魔獣討伐やドッミ島沖海戦、戦勝祝賀式典での展示飛行など大活躍でしたわ。ご苦労様」
ヴェーヌとプレヤはお菓子を食べるのに夢中なのか、口をモグモグさせて答えない。仕方なくクレモラが答える。
「ヴェーヌさんの訓練に比べれば、たいした事ではありませんでした」
ピエラとミュレがコクコクして同意する。その後、しばらく訓練やコンドル型魔獣討伐などの話題で盛り上がった。次に、話題が好きな歌手に移った。
「3人は好きな歌手は誰かしら?」
クレモラ、ピエラ、ミュレが順に答える。
「『赤いバラ』と『コラール』が好きですわ」
「『赤いバラ』のファンです」
「『コラール』が大好きです」
その返答に第一夫人が言う。
「それは良かったわ。『赤いバラ』と『コラール』のメンバーの中の3人が、長男アースの夫人ですからね」
その事実を知らなかった3人は驚いたが、次に第一夫人が話題にしたのは、ブルーイスカの任期の事だった。
「ところで、ブルーイスカもあと少しで解散ですけど、ピエラさん、クレモラさん、ミュレさんは解散後どうなさるのかしら?」
その問いかけに3人が答える。
「特に何も考えていません。また、魔法学園に通うくらいでしょうか」
「私も何も決まっていません。魔法の訓練や礼儀作法の勉強くらいです」
「同じです。お父様やお母様と相談して決めるつもりでいます」
それを聞いた第一夫人がニッコリして言った。
「それで、この家の次男のレーヴェの夫人を探しているのですが」
ここでクレモラの方を見て、
「クレモラさんには、第一夫人に」
ピエラの方を見て、
「ピエラさんには、第二夫人に」
ミュレの方を見て、
「ミュレさんには第三夫人に」
全員に視線を移して、
「と思うのだけど、どうかしら?」
それを聞いて、3人は完全に石化してしまった。息だけはしているが、ピクリとも動かない。第一夫人は苦笑して、ヴェーヌに言った。
「3人とも12才だったわね。早すぎたかしら? ヴェーヌ、3人が回復したら、両親と相談の上、あなたに返事するように伝えてくれるかしら?」
「わかりました。後はお任せください」
それを聞いて第一夫人は前庭を後にした。その後、回復した3人は急いで自宅へ帰り両親に相談した。クレモラのブルック伯爵夫妻は涙を流して喜び、ピエラのエンケ伯爵夫妻は大騒ぎして喜び、ミュレのダレス伯爵夫妻は気絶したという。
翌日、ヴェーヌが受け取った返答は、3家とも同じだった。
「「「謹んで婚約をお受けします」」」
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参考
「双頭の鷲の旗の下に」 作曲 ヨーゼフ・フランツ・ワーグナー
「威風堂々第1番」(作曲 エドワード・エルガー)
「無敵の鷲」 作曲 ジョン・フィリップ・スーザ
「軍艦行進曲」 作曲瀬戸口 藤吉
「見よ、勇者は帰る」 ヘンデル




