第6話 ドッミ島沖海戦 王国海軍
大戦艦トマヤは青い海に白波を立てて、艦首を真南に向かって進んでいる。重巡洋艦2隻がそれに続く。トマヤの横1kmに駆逐艦ゼカキュが伴走している。それらの艦の2km左右を、軽巡洋艦に率いられた駆逐艦5隻が、白い航跡を残して進軍している。そして、東へ10kmの海上を第二艦隊が同じ陣容で進む。
時刻は午前9時30分。トマヤの応接室にはフェネとアニマのくつろぐ姿がある。艦橋は忙しいらしく、なかなか艦橋に案内されない。
「私、船に乗るのは初めてだけど、船って全然揺れないのね。フェネは船に乗ったことはあるの?」
「何回か乗ったことあるけど、2人しか乗れない小さい船で、すごく揺れたわ。」
「そうかぁ、この船は大きいから揺れないのかな?」
「たぶんね。出航したのに気がつかないくらい揺れないなんて凄いわ」
いやいや、2人がお菓子を食べるのに夢中で、船の出航に気がつかなかった可能性の方が高いのだが。そんな2人の話題は、やはり食べ物に移る。
「今日は金曜日だから、夕食はカレーライスらしいよ。金曜日はカレーライスに決まっているらしいわ。この船のことだから、きっと美味しいわよ」
「私、ニンジンが入っていなければ、カレーライスは好きなんだけど」
アニマの言葉にフェネが首を傾げて言う。
「カレーライスって、ニンジンの形が残らないほど煮込むものでしょう。ニンジンの形が残っているのは、煮込む時間が足りないと思うわ」
「えっ、そうなの? それなら私もニンジンが入っていても食べられるのに。でも、ジャガイモをパクパク食べるのは好きなのよ。ジャガイモだけ形が残る料理法はないのかな」
カレーライスの料理法について、2人が話しているとドアがノックされた。返事をすると、ケリー少尉だった。
「長い間お待たせしました。艦橋へご案内します。こちらへどうぞ」
ケリー少尉の後ろをついて行くと、長い杖を持った魔法使いが部屋から部屋へと移動している姿が目に入った。それを見たフェネがケリー少尉に尋ねる。
「あの人は何をしているのですか?」
「彼は、燃えやすい物を凍らせているのです。戦闘中に敵の攻撃で火事になるのを防ぐためです」
その後10分ほど歩いて、やっと艦橋に着いた。大戦艦は大きくて広いのだ。艦橋に入ると、一番威厳のある人物が挨拶をしてきた。
「巫女様方、ようこそ大戦艦トマヤの艦橋へ。私は連合艦隊司令長官サンブックです。今回の戦いでのご助力感謝いたします」
「フェネ フォン ムジカです。微力ですが、お役に立つことができれば良いのですが。こちらはアニマ、音楽魔法の転移ができます」
フェネとアニマが一礼してから頭を上げると、長官が言った。
「微力などと、とんでもありません。音楽魔法一族はソーミュスタ王国建国以来、国の要です。その音楽魔法一族の、それもムジカ家の方のご助力をいただけることは光栄です」
それからフェネとアニマは用意されたイスに座り、艦橋の中をキョロキョロと見たり、海を眺めたりしていたが10時をわずかに過ぎた頃、フェネのいる辺りでピローン、ピローンと音がした。そして、フェネが詠唱する。
「メッセージ アウト」
フェネの携帯魔法の空間から、フェネの手に移動したアイーダからの手紙が現れる。それをフェネは通信担当参謀に渡す。その手紙はすぐに長官へ渡された。長官はフムフムと言いながら手紙を読むと、参謀長へと渡してフェネたちに向いて感謝の言葉を口にする。
「巫女様、ありがとうございます。敵の艦隊について、星魔法軍軍団長から連絡を頂きました。海戦において、戦艦や重巡洋艦の数、陣形などはとても重要なのです。これでもう戦いは完全勝利です。さあ、早くこの艦から退避してください」
「わかりました。お役に立ててなによりです。では失礼します。」
一礼するとフェネはアニマの横に立つ。アニマはヴァイオリンを用意して詠唱する。
「音楽魔法 Fly Me To Another Land」
『Fly Me to Another Land』の演奏が始まるとすぐに2人の姿はトマヤの艦橋から消え、1km横を並走する駆逐艦ゼカキュの甲板上に現れた。2人が艦内に入ると、ゼカキュはレク軍港へと艦首を向けた。
遠ざかるゼカキュを見送ると、サンブック連合艦隊司令長官は、表情を引き締めて参謀長に言った。
「音楽魔法とは凄まじいな。直接攻撃する魔法ではないが」
「はい、戦艦何隻分の価値があるかわかりません」
「本当にそうだな。さて、航海担当参謀、会敵予想時間の計算は終わったか」
「ハッ、敵味方双方がこのままの速度で進軍すれば、会敵予想時刻は12時00分、場所はドッミ島沖と予想します」
「参謀長、敵艦隊は単縦陣2列、戦艦と重巡洋艦の数は同じだが、どうする?」
「数が同数であれば、我が艦隊が負けることはありません。正々堂々戦いましょう。敵が単縦陣2列ならば、こちらも第一艦隊と第二艦隊で単縦陣2列を組み、正面から挑みましょう」
「フム、その通りだな。第二艦隊にも連絡してくれ。それから昼食用の軽食を早めに配るように手配してくれ。腹が減ったら戦さはできないからな」
「ハッ、承知しました」
大戦艦トマヤの乗組員数は3千人を超える。会敵が近い今、食堂で昼食を取ることはない。戦闘食と呼ばれる軽食を配るのだ。調理、配達するだけでもかなりの時間がかかる。水兵たちが昼食を取り終えた頃、真南の方向、距離30kmに敵発見の報告が艦橋に届いた。
「予定通りだな。第二戦速。水雷戦隊突撃」
サンブック連合艦隊司令長官の命令が復唱され、伝達される。大戦艦トマヤの速度が上がる。旗艦である軽巡洋艦を先頭に駆逐艦5隻、これが2つ、2個水雷戦隊が単縦陣で増速して前に出ていく。
目的は敵戦艦か重巡洋艦を魔導具魚雷で攻撃すること。軽巡洋艦や駆逐艦には使わない。魔導具魚雷は敵の大物にだけ使うのだ。
敵艦隊からも2個水雷戦隊が出て来る。軽巡洋艦と駆逐艦の数はこちらと同数。軽巡洋艦と駆逐艦は速い。時速60kmは出る。あっという間に距離が詰まる。軽巡洋艦の船上に20人、駆逐艦の船上には10人の魔法使いが配置についた。魔法使いは盾で囲まれた陣地に入り、そこから魔法を放つのだ。
こちらの水雷戦隊の速度が速かったようだ。2個水雷戦隊とも敵水雷戦隊に対して横一列になるように針路をとった。T字戦法である。1つの水雷戦隊では、T字をとることに成功して、敵水雷戦隊先頭の軽巡洋艦に火魔法が集中した。
敵軽巡洋艦は火災を起こして、みるみる速度を落とす。後続の駆逐艦は、それを避けるように針路をとったため陣形が乱れた。隊列を組んだままの王国水雷戦隊が、敵駆逐艦を各個撃破していく。
もう1つの水雷戦隊では、敵がT字をとらせまいと針路を変更して、2つの水雷戦隊は同じ方向に進む。軽巡洋艦の数、駆逐艦の数が同じなので1対1の魔法戦になる。
こちらでも火魔法が飛び交う。水魔法や風魔法がないのは、火魔法は火災を引き起こすので、破壊力が大きいからだ。お互いに速度が速いためになかなか命中しない。
しかし、火球の大きさ、数ともに連合艦隊側が優る。少しずつ敵水雷戦隊に命中する火球が出始める。命中すると被害が出る。すると、攻撃力や艦の速度が落ちる。時間が経つにつれて、連合艦隊側の優勢が拡大して勝負が決まった。
一方、主力艦同士の戦い。射程距離内であるのに、砲撃開始の命令を出さない司令長官に砲術長が意見具申する。
「長官、主砲の射程距離内です」
「うむ、トマヤの最大射程は40kmだったな。敵イオワ級戦艦の最大射程は30kmだったはず。そろそろ敵も撃ってくる頃か。主砲交互に撃ち方始め。」
「ハッ、主砲交互に撃ち方始め」
艦橋前部の46cm3連装砲2基が鉄の砲弾を発射し始めた。鉄の砲弾の重さは1トンである。これが上空から落ちてくるのだ。命中したときの破壊力はとてつもない。敵戦艦の周囲に大きな水柱が立った。砲弾の落下点についての報告が観測員から入る。
「敵戦艦前方に1発、後方に1発、至近距離に1発着弾」
「1回で挟叉したか。さすが、トマヤの砲撃だ。斉射に移れ」
敵戦艦から発射された砲弾は、トマヤから遠く離れた海上に落ちている。これが普通なのだ。何回も砲撃して、照準を修正していく。1回で挟叉したトマヤの砲撃技術は超1級品なのである。トマヤの主砲弾1発が敵戦艦に命中した。3本の筒のようなものが空中に飛んだ。敵戦艦の主砲の砲身だろう。
海戦が始まってから2時間後、敵戦艦は艦橋や砲塔など上部構造物を破壊しつくされ、甲板の前半分は海水中に没している。重巡洋艦は2隻とも傾いている。水雷戦隊の魔導具魚雷が命中したのだ。
一方、連合艦隊は駆逐艦3隻が少し被害を受けただけだ。連合艦隊の完勝であった。
誰もがそう思った時、敵戦艦の艦橋から何かが飛び立った。トマヤの見張り員が叫ぶ。
「魔物です。グレイキュラドラが本艦へ向かってきます」
その報告を受けて、サンブック司令長官が命令を発する。
「魔法使いは全員甲板に。有効射程距離に入り次第、各自対空魔法を放て。グレイキュラドラの人を操る魔法の有効範囲は50mだ。50m以内に近づけるな」
数十名の魔法使いが甲板に集まる。グレイキュラドラが300mまで近づいた時、1個の火球が放たれた。しかし、命中しない。さらに200mまで近づいた時、10個の火球が放たれた。これも命中しない。
グレイキュラドラが100mまで近づいた時、数十の火球と水球が放たれて、グレイキュラドラは濃い灰色の煙となって、魔石が海に落ちた。
「終わったな。帰港する」
サンブック司令長官が命令を発すると、大戦艦トマヤは真北へと艦首を向けた。
こうしてドッミ島沖海戦は終わった。
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