第5話 ドッミ島沖海戦 航空軍
アースが、時計を見ているアイーダに尋ねる。
「現在時刻は?」
「9時50分ちょうどよ」
続いて羅針盤を見ているレジェラに尋ねる。
「針路は?」
「針路は真南そのままですわ」
続いて望遠鏡を見ているバービレに尋ねる。
「何か発見できたか?」
「海だけニャン。他には何も見えないニャ。退屈ニャン」
天候は快晴。観光飛行ならば快適であるが、今はミッション遂行中だ。集中力も長く持つものではない、退屈にもなる。しかし、敵艦隊が3日くらい前に出航したならば、そろそろ発見してもいい頃だ。更に10分ほど経った頃、バービレが声を上げた。
「20km先に何か見えるニャ。黒い点、いや船ニャ。たくさんの船ニャン。もっと近づくニャ。あっ、あれは戦艦ニャ」
「バービレ、それは確かか。敵艦隊か?」
「確かニャ。戦艦1隻が先頭、重巡洋艦2隻がその後に続いているニャ。それが2列と周りに、軽巡洋艦4隻と駆逐艦が20隻くらい見えるニャン」
敵艦隊発見である。これは戦艦部隊で、空母を中心とする機動部隊は別行動なのだろう。
「アイーダ、時刻は?」
「10時ちょうどです」
アースは計算をした。発進したのが8時、現在時刻は10時。ならば飛行時間は2時間。時速80kmで飛行したから、飛行距離は160kmだ。現在敵艦隊は20kmほど先に見える。敵艦隊はペイン伯爵領の星魔法軍団駐屯地の真南180kmにいることになる。アースがアイーダに尋ねる。
「メモをとる準備はいいか? 連合艦隊司令部へ連絡だ」
「はい、準備できています」
「では、内容は次の通りだ。
発 星魔法軍団軍団長 宛 連合艦隊司令長官
午前10時00分、敵戦艦部隊発見。
位置 ペイン伯爵領の星魔法軍団駐屯地の真南180km
敵艦隊陣容
戦艦1隻、重巡洋艦2隻の単縦陣が2列。周囲に軽巡洋艦4隻と駆逐艦が20隻。機動部隊の艦影は周囲になし。
艦隊針路
時速30kmで真北に進軍中。
これを送ってくれ」
アイーダはメモを書き終えると詠唱する。
「メッセージ イン」
携帯魔法に収納すると、横笛を口にあてて詠唱した。
「音楽魔法 乙女の速達便」
横笛の演奏が始まり、曲が終わるとアイーダは報告した。
「送信完了です。フェネに送りました」
「ありがとう。さて、機動部隊を探しに先に進もう」
その後、白鳥は敵戦艦部隊を無視して、更に南に10kmほど飛んだ時、バービレが敵艦隊を発見した。
「30km先に敵艦隊発見ニャ。航空母艦2隻を中心に軽巡洋艦2隻、駆逐艦10隻が円周上に配置されているニャン。軽巡洋艦は航空母艦の横にいるニャン。」
敵機動部隊は輪形陣をとっている。中心にいる艦を守る陣形である。アースは決断した。
「ここで白鳥を静止させる。工兵はすぐに転移陣の調整に入れ。残りの者は戦闘準備。竜王丸を確認しておくように」
竜王丸は魔力ポーションと同じ効果、魔力の回復、を持つ丸薬である。この白鳥に乗るメンバーは強力な魔法を放つ。心配は魔力切れだけなのだ。
「転移陣の調整が終了しました。いつでも使用可能です」
5分後、工兵から報告があった。転移陣の調整が終わったようだ。俺は次の行動を指示する。
「1名は駐屯地に転移して、戦闘部隊をこちらに転移させるように伝えてくれ。もう1名はそのまま待機してくれ」
1人の工兵がハッと短く返事をして転移すると、ブルーイスカに指示する。
「お前たちは、すぐに白鳥の下で護衛につけ」
ブルーイスカの5人は星魔法のワシを出現させて乗り、飛び立ち、白鳥の下の配置についた。それと同時に転移陣に黒色のスカーフを身につけた空軍兵士3名が現れた。戦闘部隊だ。3名はすぐに詠唱して、ワシに乗り跳び立つ。
次々に戦闘部隊員が3名ずつ現れ、3分間で48名、48羽が大空に飛び立った。 48羽は16羽ずつ、高度差20m間隔で上中下に3段、幅100mで白鳥の前200mに布陣した。
一方、敵艦隊もこちらを発見したのだろう、2隻の空母から次々とコウモリ型魔獣が空に舞い上がる。情報通りなら、1隻から200体、合計400体のコウモリ型魔獣が向かってくるはずだ。
48対400、数の上では、圧倒的に敵が優勢だ。しかし、個々の性能は味方が圧倒的に上。コウモリ型魔獣の武器は足の鋭いツメとクチバシしか無い。こちらはワシの足の鋭いツメとクチバシに加えて、魔法という飛び道具がある。
しかも敵の指揮官は戦術ミズを犯した。戦力の分散、戦力の逐次投入である。
空母から飛び立ったコウモリ型魔獣は編隊を組むこともなく各個、バラバラにこちらに向かってくるのだ。
コウモリ型魔獣の先頭が、戦闘部隊まで50mの距離に近づいた時、戦闘部隊の上段中央から火魔法の火球乱舞が放たれた。コウモリ型魔獣10体が煙となって消え、魔石が落ちる。
戦闘部隊隊長の魔法攻撃が決まったのだ。それを合図に火魔法が、水魔法が敵
に襲い掛かる。次々とコウモリ型魔獣が消え、魔石が落ちる。それを見た後続の
コウモリ型魔獣の中には、戦闘部隊の上へ、下へ右に、左に回り込むものもある。
しかし、そのコウモリ型魔獣はバービレとレジェラの火魔法、アイーダの水魔法で煙に変えられた。
白鳥の下ではブルーイスカが、警戒飛行をしている。海面を見ていたヴェーヌが1点を指さして大声を出した。
「敵魔獣発見。10体。迎撃準備」
ブルーイスカのメンバーが迎撃態勢を整える中、コウモリ型魔獣10体は急上昇し、白鳥に向かってきた。
「攻撃開始」
ヴェーヌの命令で火球が乱舞し、10体の魔獣がいた場所は、煙が立ち込め10個の魔石が海に落ちていった。
戦闘が開始されて30分、空にコウモリ型魔獣が1体もいなくなった頃、空母から1体の魔物が飛び立った。体長5m、体色はグレイ、グレイキュラドラだ。それを見た戦闘部隊は白鳥の後ろまで後退する。魔物が白鳥へ近づいてくる。その距離が1kmになった時、アースが右手を挙げて詠唱する。
「火魔法 誘導火球5球」
直径5mの火球5個がアースの頭上に現れる。アースが右手を前に振り下ろすと、火球の1個は魔物に向かって真っすぐに飛び、残りは上下左右に1個ずつ飛び、途中から魔物へと向かう。
魔物は正面から飛んできた火球を避けようとしたが、上下左右からも火球が向かってくるので後に下がった。しかし、火球は魔物を追ってくる。5個の火球が魔物に同時に命中して魔物は煙になり、魔石は……、魔石は落ちなかった。あまりの破壊力に魔石も消えてしまったのである。
それまで戦場だった場所に静けさが満ちる中、アースが工兵に命じた。
「爆撃部隊と雷撃部隊を呼んでくれ」
ハッ、と返事をして工兵は転移した。すぐに黄色のスカーフを身につけた兵士たちが転移陣に現れた。その手には直径30cmの火魔法が封入された魔導具爆弾がある。爆撃部隊だ。
彼らはワシを出現させて、空に舞い上がる。40名の爆撃部隊員の転移と飛翔が終わり、白鳥の周囲で編隊を組むと、護衛の戦闘部隊員20名と共に敵機動部隊の攻撃に進軍する。
次に現れたのは水色のスカーフを身につけた雷撃部隊の兵士たち8名。彼らの手には魚の形をした魔導具魚雷がある。これには火魔法が封入されている。雷撃部隊も空中で編隊を組むと、護衛の戦闘部隊員10名に守られて敵機動部隊の攻撃に進軍する。
敵機動部隊の輪形陣の上空に到達した爆撃部隊は、散開して敵艦上に位置する。高度は500m。敵艦に乗る魔法使いの放つ魔法の有効射程距離は300m、と事前の調査で分かっているからだ。
爆撃部隊は魔導具爆弾の投下を始めた。水平爆撃である。水平爆撃の命中率は低い。命中率を上げるには、急降下爆撃をすればの命中率は高いのだが、爆撃の目的は命中ではない。敵輪形陣を乱すことにある。急降下爆撃をすると、敵の放つ魔法の有効射程距離に入ってしまう。無用な危険は避けるのだ。
魔導具爆弾が落ちてくれば、回避行動をせざるをえない。結果、輪形陣は崩れる。39本の水柱と1本の火柱が上がった。1隻の駆逐艦から黒煙が上がっている。1発が命中したようだ。駆逐艦は動きを止め、救命艇が降ろされ、乗組員が海に飛び込む。沈没確実だろう。
輪形陣が乱れたのを見た雷撃部隊が突撃する。標的は軽巡洋艦2隻と空母2隻。軽巡洋艦1隻につきワシ1羽、空母1隻に3羽のワシが突入して行く。海面すれすれの高度で、500mの距離まで近づくと魔導具魚雷に付いているボタンを押す。
スクリューの回転が始まった魚雷を海に投入し、即座に反転する。魚雷は海中を疾走して次々に目標に命中する。航空魚雷1本の破壊力は、駆逐艦用の魚雷ほど大きくないが、それでも1発命中すると、軽巡洋艦は沈没確実、空母も航行不能になった。
航行不能になった艦は自沈処分されることが多い。曳航する間に攻撃され、曳航している艦まで撃沈される可能性が高いからだ。
攻撃の終わった爆撃部隊と雷撃部隊は白鳥に帰り、転移でペイン伯爵領の星魔法軍団駐屯地へ帰還して行く。必要があれば、再攻撃する。その準備のためだ。
戦闘部隊はしばらく待機していたが、軽巡洋艦2隻が沈没し、空母2隻から乗組員が退艦を始めると、駐屯地に転移させた。
ブルーイスカの5人も白鳥の上に戻ってきた。
「ご苦労、見事に敵魔獣10体を討伐していたな」
「あら、お兄様ご覧になっていたのですね」
アースはニッコリして頷くと、会話続ける。
「敵機動部隊に残っているのは駆逐艦9隻、その中の2隻は被害が大きい。魔導具爆弾はすぐ近くに落ちただけでも、衝撃で被害を与えるのだ。敵機動部隊はもう帝国に帰るだろう。
お前たちも駐屯地に帰り、父上に結果を報告してくれ。俺たちは白鳥で帰還する。転移陣を持ち帰らないといけないからな」
「わかりました。では、駐屯地でお待ちしております」
そして、ブルーイスカの5人も転移した。しばらくの間、俺は敵艦の様子を見ていたが、沈没した艦の乗組員の救助や被害が大きい艦の自沈処置が終わると、南へと帰っていった。俺はアイーダ、バービレ、レジェラに言う。
「さあ、お前たちも転移してくれ」
アイーダが答えた。
「いいえ、転移しません。戦いはまだ終わっていません。お屋敷に帰るまではお供します」
バービレも続く。
「そうニャ。戦いでは油断大敵ニャン。護衛は必要ニャン」
レジェラも言う。
「それに白鳥に乗って、海の上を飛ぶなんて滅多にできないことですから、もっと楽しみたいですわ」
それを聞いて、俺は答えた。
「そうか、ではお屋敷まで4人で一緒に帰ろう」
白鳥を真北に向けてその翼を羽ばたかせた。そして、飛びながら考えた。
魔物キュラドラは出現する時は3体がセットで現れる。今回の戦闘でグレイキュラドラ1体は煙にした。残りはブラックキュラドラ1体とグレイキュラドラ1体。敵戦艦部隊に何体が同行しているのだろう。
2体とも同行していれば、この問題は終わりだ。海の上空には、隠れる場所がない。王国海軍が討伐できるだろう。もし、1体でも敵国に残っているとしたら、今後に問題が残る。
この後の事は王国海軍の報告を聞いてから、考える事にしよう。
お読みいただきありがとうございます。
いいなと思ったら、評価等お願いします。




